声優・石川界人インタビュー#2「『なぜこの言葉なのか』。一文字レベルまで妥協しない石川界人の台本への向き合い方」

声優・石川界人インタビュー#2「『なぜこの言葉なのか』。一文字レベルまで妥協しない石川界人の台本への向き合い方」

「ハイキュー!!」の影山飛雄役をはじめ、「僕のヒーローアカデミア」の飯田天哉役や「ワンパンマン」のジェノス役など、数々の人気作品で主要なキャラクターを演じる石川界人さん。その端正で芯のある声と、役柄の人間味を極限まで引き出すロジカルかつ熱量あふれる演技で、見る者の心を深く揺さぶります。そんな石川さんの役への向き合い方は、すべての理由が説明できるようになるまでとにかく台本を読むこと。このインタビューでは全3回にわたって、出演作品の役に抱く並々ならぬ思いとともに、つねに内省を忘れない石川さんの表現者としての素顔に迫ります。

■安元さんと同じマンションだった時期がある

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――声優としての転機になった作品について教えてください。

「初めてテレビアニメで主演を務めさせていただいた『翠星のガルガンティア』は、かなり大きな転機になったと思っています。いまでも一話一話の収録を鮮明に思い出せるくらい、本当に思い出深い作品ですね。作品に関わるあらゆる資料をいただいたんですが、いまでも自宅で大事に保管しています」

――どんなところが転機になったと?

「当時はとにかく必死でくらいついていくような思いで収録していましたが、いまでも別の現場などで『ガルガンティアすごかったね』と言っていただくことも結構あるんですよ。自分にとってもそうですし、周りの方にとっても自分がどんな声優なのかを知ってもらえるきっかけになった作品なんじゃないかと思います」

――ある意味、名刺代わりになった感じですね。

「そうなんです。あとはもう一つ、僕のなかで共演者の方々との出会いによって人生観が大きく変わったのが、『東京レイヴンズ』という作品。初めて、2クール(半年間)にわたって主演を務めさせていただいたアニメで、このアフレコ期間に出会ったキャストのみなさんの存在は本当に大きくて。みんな、僕にとってはもう"アニキ"みたいな感じなんです。いまでも心の底から慕っていますし、そこでさまざまな役者さんとの出会いがあったからこそ、いまの自分があると思えるくらい」

――そこまで深い絆で結ばれる出会いがあったのですね。

「とくに安元洋貴さんとの出会いは、いま考えてもものすごく濃厚でした。じつは一時期、安元さんと同じマンションに住んでいたこともあったほど...(笑)」

――めちゃ仲良しですね...!(笑)

「いまでも僕の家で一緒にお酒を飲んだりしますし、飲み会終わりに『ふたりで二次会行きましょう!』って誘っちゃうくらい。本当に、実の兄のように甘えさせてもらっちゃっています。だから、『安元さんと出会えていたかわからない』と思うと、本当に『東京レイヴンズ』という作品に関わることができて良かったなと思いますし、感謝してもしきれないです」

■すべてのセリフが説明できるまで台本を読む

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――これまでさまざまなキャラクターを演じてこられましたが、役作りの上で、ご自身と「近いな」と感じる役はありますか?

「演じるにあたって無理をしなくてもいいな、と感じるのは『サクラダリセット』の浅井ケイですね。演じていてどこか楽というか、変に身構えずにマイクの前に立てる心地よさがあるんです」

――石川さんご自身ともどこかリンクしているのでしょうか。

「"似ているか"というと、自分を客観的にとらえなければいけないので難しくて、自分ではわからないんです(笑)。僕自身、あえて『自分をこういうふうに見せよう!』みたいなブランディングの意識はあまりなくて」

――それは何か理由が?

「人ってその時々の状況によって変わるものですし、何事にも全力な時期もあれば、ほどほどにする時期だってあるじゃないですか。そこで無理をしていたら、続けるのが難しくなっちゃう。だから、僕にとっては自然体でいるほうがいいんです。逆に、全然自分とはタイプが違ってかけ離れているなと感じるのは、『ダンダダン』の円城寺仁(ジジ)。たぶん、こうやって話していても、『明らかに違うな』っていうのはわかっていただけると思うんですが...(笑)」

――たしかに...(笑)。

「だから、自分なりに役を作り込んでいって、結構汗をかきながら演じているな、という感覚はあります」

――今後、新しく挑戦してみたいジャンルや、演じてみたいキャラクター像などはありますか?

「本音を言うと、ジャンルやカテゴリに限定せず『どんな役でもやりたい』がいちばん、自分の感情には近いですかね。というのも、『どんな作品、どの役でも演じられるように自分を磨いておく』というのが役者としての僕の目標でもあるんです。配役というのは、一人の役者に対して一人のキャラクターしかいないですし、その役に誰がハマるか、という話なので、『この役をお願いします』と言われたら、その役に全力でハマりにいくだけです」

――なるほど、だから「どんな役でもやりたい」んですね。役作りは、どのようにされているのでしょうか。

「おそらく、みなさんが想像される役作りって、自分の人生観や経験値、あるいは体格も含めて役に近づけていくような、いわゆる『デニーロ・アプローチ』だと思うんです。でも、じつは僕はそれとは違う方法をしていて。声優の仕事の本質は、台本に書いてある役どころやキャラクターのイメージ、そして演出側の意図をきちんと読み解いて、それを声で表現することだと思っています。そのためには、とにかく『台本を何度も、徹底的に読むこと』。本当にそれだけです」

――台本を読み込む。文字にするとシンプルですが、具体的にはどれほどの深さまで読み解いていくのでしょうか。

「作中にあるそのセリフ、その単語、もっと言えば一文字のレベルにいたるまで、『なぜこの言葉が使われているのか』というすべての理由を、論理的に説明できるようになるまで読み込みます」

――そこまで徹底的に......!セリフの裏にある理屈を、すべて自分の中で腹落ちさせていくのですね。

「そうなんです。自分のなかで、きちんと一本の美しい筋が通って理屈が繋がるまで。もしどこか一箇所でも取りこぼしがあったり、説明がつかない部分があったりしたら、それは最初の前提のロジックが間違っているということでもあるので、そうなったらまた最初からすべてを組み直します。それを繰り返して、自分の中で完全に納得がいくまで、妥協なく台本と向き合うこと。それが、僕にとっての唯一の役作りなんです」

■大人になるにつれ人との距離感も変わっていった|「『青春ブタ野郎』シリーズ」梓川咲太

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――「青春ブタ野郎」シリーズでは、梓川咲太を演じられている石川さん。高校から大学時代にいたる姿を演じるとき、どんなことを意識していましたか?

「高校生の頃の咲太は、対面するキャラクターごとに『どう対応するか』をすごく明確に切り分けて演じていました。麻衣さんに対して、花楓(かえで)に対して、古賀に対して......というように、相手に応じたそれぞれの"ペルソナ"のようなものを考えていて。アイデンティティがまだ固まりきっていない高校生の頃だと、先生の前、友達の前、親の前で、自然と違う顔になるじゃないですか。その思春期特有のリアルさを明確にしつつ、さまざまな経験を経て、物語のなかで大人へと成長していく姿をとらえたかったんです」

――大人への階段を上るにつれて、接し方もまた変わっていくんですね。

「そうですね。一般的には、大人になると『誰に対しても態度があまり変わらないこと』が好まれるようになると思います。咲太がそれを、"意識的に"汲み取っているわけではないと思うけど、彼が年齢を重ねてたどり着いたフラットさの正体は『大切だと思っている人以外にはフラットに接する』ということだと思うんです」

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――本人も言語化できていなさそうな部分ですよね。

「だから、大学で出会う初対面の人たちに対しては、基本的にはみんな同じ、フラットな対応をしているんです。麻衣さんと花楓、その特別な二人以外へのペルソナの細分化を、大人としてやめている。それが彼なりの成長の形なんだという印象を持っています」

■"やさしさ"にたどり着くために|「『青春ブタ野郎』シリーズ」梓川咲太

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――本作の核でもある「思春期症候群」は心の問題を可視化したものだと思うんですが、石川さんのなかで最も心に刺さった、あるいは演じていて苦しかった症候群はなんですか?

「どの症候群も、当事者にとっては本当に思い詰めてしまうほどの深い悩みでしたよね。『どれが重くてどれが軽い』という言葉で表すことはできませんが、エピソードとして圧倒的にしんどかったのは、『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』での牧之原翔子さんをめぐるお話ですね。あのときの『未来予測』の症候群は、本当にしんどかったです」

――石川さんが感じていたのは、どんなしんどさだったんでしょうか?

「あまりにもリアルな『思春期症候群』だったがゆえに、人が死んでしまう感覚や、自分自身が死ぬ感覚のリアリティが、演じていて本当にすさまじかったんです。あの重さと向き合うのは、役者としてもかなり苦しい時間でした」

――そうして痛みを伴いながらも紡がれてきた世界観のなかで、とくに印象的だと感じるテーマやメッセージはありますか?

「第1期の頃からずっと作品の中に登場している『ありがとう。頑張ったね。大好き』という3つの言葉。そして、牧之原翔子ちゃんの『昨日のわたしよりも、今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな』という言葉。これは本当に大切なテーマだなと思っています」

――どちらも、胸にじんわりと染み渡る素敵な言葉です。

「前者の3つの言葉は、誰かに言われたらすごく嬉しいから自分も周りに言うようにしよう、という『他者からの働きかけ』によって循環していくもの。でも、人ってことによったら、その他者から投げかけられるやさしさに気付けないこともあるじゃないですか。だから、じつは"やさしさ"にたどり着くためには、自発的にそうなる必要がある。そこで大事なのが後者の言葉で、僕はこの言葉が『青春ブタ野郎』 のテーマとしてすごく大事だと思っているんです」

――自発的なやさしさ...。

「相手が何を考えているか100%はわからなくても、自分が『やさしい』と思える選択を自発的に取っていこう、ということだと思います。1日のなかで、自分が"やさしい"と思える選択を一つでも多く、増やしていくようにする。例えば、目の前で誰かが転んでしまったとき、スルーすることもできるけれど、手を差し伸べることもできる」

――相手がどう受け取るかではなく、自分がどう行動するか、という視点でやさしさを積み重ねていくんですね。

「そうです。『手助けしたほうが、きっと僕はやさしい人間になれる』と信じて、その選択を日々積み重ねていく。昨日までの人生で100回やさしい選択をしてきたなら、今日の私は101個目のやさしさを、次の日は102個目のやさしさを積み重ねられる。その自発的な積み重ねの総数こそが、『昨日の私より今日の私がやさしい人間になる』ということの正体なんじゃないかと思います。こういったテーマについて考えを巡らせると、『青春ブタ野郎』 シリーズって、本当にどこまでもやさしい物語だな、と感じますよね」

■本来の自分を取り戻していく物語|「盾の勇者の成り上がり」岩谷尚文

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――「盾の勇者の成り上がり」シリーズでは、主人公の岩谷尚文を演じられています。キャラに対する第一印象や、実際に演じていくなかでの変化などはありましたか?

「元の世界では、グレかけた弟を救い出して、家の中ではヒーローみたいな存在で。そこそこ優秀だからこそ、何もしなくても許されるようなモラトリアム期間を過ごしていた、元気な普通の男の子。ファンタジーの世界に憧れていて、いざ召喚されたらワクワクしちゃったりとかして。率直に言うと、"わりとよくいそうなタイプの主人公"というのが第一印象でした。でも、いままで演じてきた役の中でも、この尚文がもっとも人間くさいキャラクターかもしれないなと、同時に思っていて」

――どんなところにそれを感じるんですか?

「一度は心を閉ざしていたところから、悲しみから怒りに感情を持っていって、その怒りを力に変えて突き進んでいくんですよね。その中で、仲間たちに『怒りだけではダメだよ』と諭されて、ようやく周りを見るようになる。ときには衝動的に進んでしまったり、それがゆえに道を間違えてしまったり、というのがとても人間らしいと思うんです。でも、そういう経験があるからこそ、尚文は『自分が今ここにいられるのは周囲の人間のおかげだな』と、どこかでずっと思えている。大人の階段の上り方が、すごいな、って思いますよね」

――たしかに。シーズンを通じての彼の成長も、見どころですよね。

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「Season 1の頃の彼の原動力は、見返してやるという『復讐心』でしたよね。それは、ともすれば歪んだ『承認欲求』のようでもあったと思うんです。でも、Season 2になると、自分が領地として預かった村を発展させて、子どもたちや移住してきた者たちを安全に生活させようとする」

――復讐心に囚われていたSeason 1から、Season 2への変化は大きかった。

「それがひいては、村がある国、さらには他国の人々まで安心させたいというふうに、尚文の中で社会と世界がどんどん広がっていくんですよね。それに伴って、心持ちが『大事なものを絶対に守り、救う』という、本来の彼が持っていた人格へときれいに戻っていっているんだと思います」

――そっか、周囲との出会いによって、本来の自分を取り戻していくんですね...!しっくり来ました。

「本来は、やっぱり『大事なものを守り、救う』という信念が彼の中にあったからこそ、この世界に"盾の勇者"として召喚されたんじゃないかなって思うんです。異世界に来たことで、その本来のやさしさが一度は土に埋もれてしまっただけで、みんなとの出会いで土を払ってあげれば、元々持ち合わせている"盾の勇者"らしい人格がちゃんと出てくる。だから、ただどん底から這い上がる『成り上がり』というよりも、本来の自分に還っていく感覚ですね」

――「盾」という武器そのものが、彼の守る生き方とリンクしてるんですね。

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「そうですね。だから尚文は、自分からは絶対に攻めない。国や組織、そしてラフタリアたちが戦ってくれるなかで、彼はつねに守りに徹しているんです。もうちょっと視野を広げてみると、なにか事柄が起きるときはいつも相手から手を出されて、それに対して『よし、手を出されたからこっちもやるぞ』というスタンスなんです。いわば、自衛権の行使ですよね(笑)。こちらからは絶対に仕掛けない、いわば専守防衛の精神。そういう徹底した守りのイメージこそが、彼の本質であり、魅力にもなっているところだと思います」

――アフレコ現場の全体的な雰囲気や、休憩時間の過ごし方などで、特に印象に残っているエピソードはありますか?

「現場の雰囲気はずっと良くて、休憩時間も、集中する話のときはみんなでグッと集中しています。でも、肩の力を抜ける日常的な回のときは、テストが終わった後に和気あいあいと『最近何食べた?』とか『家で何やってるの?』とか話したりもして」

――いい空気感ですね...!

「この作品とももう10年近い付き合いになりますからね。途中でキャストさんやスタッフさんの入れ替わりもありました。それでも全員が『家族』とはまたちょっと違う、ひとつの同じ『パーティー』って感じがするんです。作中の尚文たちのように、僕たち自身もこの現場で、ひとつのパーティーとして絆を深めながら一緒に歩んでいるんだな、とすごく感じます」

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取材/サトウリョウタ 文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉

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