声優・石川界人インタビュー#1「じゃんけんに負けて、お芝居の道へ?!石川界人が声優を志すきっかけとなった原点」

声優・石川界人インタビュー#1「じゃんけんに負けて、お芝居の道へ?!石川界人が声優を志すきっかけとなった原点」

「ハイキュー!!」の影山飛雄役をはじめ、「僕のヒーローアカデミア」の飯田天哉役や「ワンパンマン」のジェノス役など、数々の人気作品で主要なキャラクターを演じる石川界人さん。その端正で芯のある声と、役柄の人間味を極限まで引き出すロジカルかつ熱量あふれる演技で、見る者の心を深く揺さぶります。そんな石川さんの役への向き合い方は、すべての理由が説明できるようになるまでとにかく台本を読むこと。このインタビューでは全3回にわたって、出演作品の役に抱く並々ならぬ思いとともに、つねに内省を忘れない石川さんの表現者としての素顔に迫ります。

■"ガキ大将"が一転、おとなしい子に

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――早速なんですが、幼少期はどんな性格のお子さんでしたか?

「小学生の頃は、いわゆる"ガキ大将"的な気質がある子どもでした。威張り散らす、という感じではないと思っているんですが、『今日はあの遊びをやろう!』『どこどこに集まろう!』と言って、先陣を切って周りを巻き込んでいくタイプではありましたね。クラスの中心的なポジションにいるつもりだったんです。自分の中では...」

――「自分の中では...」というと、本当は違ったんでしょうか?

「そうなんですよ。僕が引っ張っていた『つもり』だったというのは、クラスである出来事が起きるまで。あるとき、学校でちょっとした問題が起きて、帰りの会で『問題を解決しよう』という話し合いがあったんです。その問題自体は僕はまったく関係なかったんですが、先生が『ほかにも何かありましたか?』という呼びかけをされたときに、『界人くんが...』って責められてしまったことがあって」

――それは、辛いですね...!

「子どもって、大人からは辛らつに見えるほど無邪気な瞬間があるじゃないですか。僕としては仲良く遊んでいたつもりだったんですが、僕の名前を挙げて『こんなことを言われた』っていう子が何人かいて。その状況を目の当たりにしたときに、『なるほど、みんなにこういう風に思わせてしまっていたんだな』って。そこからはすっかり意気消沈して、一気におとなしい子どもになりましたね」

――中学校に上がってからは、どんな過ごし方だったんでしょうか?

「中学校は地元の地域とはまったく別の学校に進学して完全に新しい人間関係になったんですが、小学生の頃の出来事がトラウマというか、やっぱり心には引っかかっていたので、今度はなるべく人と関わらないようにしようと思って。だから極力、学校でも人とは関わらないようにして、授業が終わるとすぐ家に帰っていましたね。ただ、帰ってもやることもないので、その頃からアニメを見たりするようになっていきました」

■どハマりした「ストライクウィッチーズ」

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――そうして中学生の頃にアニメに夢中になっていかれたとのことですが、見始めたきっかけや、当時好きだった作品について教えていただけますか。

「中学生の頃は友人関係が狭くて社交的なタイプでもなかったので、だんだんと学校も休みがちになっていったんです。そんな時期にたまたま『ゼロの使い魔』という作品を見たのが、僕と深夜アニメとの最初の出会いでした。そのときに『こんなアニメの世界があるんだ!』ということを知って、衝撃を受けて......。そこから、リアルタイムで放送されている作品、過去の人気作品を掘り下げて見始めるようになったんです。その頃出会った作品で、人生を通して一番といっていいくらい好きだと言えるのが『ストライクウィッチーズ』でした」

――「ストライクウィッチーズ」、懐かしいですね!

「当時『パンツじゃないから恥ずかしくないもん』という強烈なキャッチコピーが大々的に出ていて、ちょっとした気恥ずかしさもあったんですが、いざ中身を見てみたら、ものすごく熱い作品で...!世界を守るために少女たちが戦いに駆り出されるなかで、彼女たちの日常や葛藤がリアルに描かれていて、そこにすごく惹かれました。当時は魔法少女ものやいわゆる"萌え系"の作品を見ていると、周囲からは『オタクだよね(蔑称)』という目で見られがちだったんですが、『ストライクウィッチーズ』は中身が本当に面白くて大好きでしたね」

――たしかに当時はそういう空気感がありましたよね。「ストライクウィッチーズ」のなかでも、とくに印象に残っているシーンや胸を打たれた場面はありますか?

「第1期の最終話です。主人公の宮藤芳佳というキャラクターが、自分の魔力のすべてを賭して強大な敵に立ち向かっていって、結果的に魔力を失ってしまうシーンがあるんです。あそこはもう、いま思い出しても涙なしには見られないですね」

――どんなところに、心揺さぶられたんでしょうか?

「『諦めない』ということの大切さが一番感じられるシーンだからだと思います。作中で芳佳がよく口にするのも『諦めない、絶対に諦めない』という言葉なんです。彼女はそれを身をもって体現して、自己犠牲の末ではあるけれど『多くの人々を救う』という目的を絶対に諦めなかった。その結果として目標を達成した姿が、ものすごくカッコいいなと思ったんです」

■裏方志望で演劇部に入部したが......

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――その後、声優の道に進もうと決めたきっかけはなんだったんでしょうか?

「中学3年生のときに、全校集会があったんです。そこで校長先生が『中学3年生のこの1年間で、今後の将来が決まる』というお話をしてくださったんです。たしかに義務教育が終わるタイミングですし、高校に行くのか行かないのかも含めて、自分が社会に関わっていく上で大きな決断が必要な時期じゃないですか。続けて、校長先生から『1学期の間に、将来の"夢"ではなく"目標"を決めてください』と言われたときに、ハッとしたんです。あ、自分もちゃんと職業について考えなきゃいけないんだな、って」

――中学3年生の段階で、早くも現実的な「目標」として職業を意識されたんですね。

「そうですね。とはいえ、その時点ではお芝居に触れたこともまったくないし、ただただアニメが好きなだけの中学生。ですが、ちょうどそのタイミングで演劇部に入部したんです。といってもただのオタクだったから、人前に出るなんて選択肢はまったくなくて。最初は裏方志望でした。でも、あるときの舞台で役者側で急な欠員が出てしまって、1年生の中から誰か1人代役を立てなければ、という状況になりました。そのときに部員同士でじゃんけんをして、僕がボロ負けしまして...(笑)」

――え、まさかのじゃんけん負けがきっかけで、お芝居をやることに!?(笑)

「そうなんですよ(笑)。それでしぶしぶ舞台の上に立つことになったんですが、それが思いのほか、ものすごく楽しくて...!当時は男性の役者も少なかったので、毎ステージ立たせてもらううちに、一気にお芝居にのめり込みました。『これを職業にしたいな』と思うようになったんです。ただ、部活を転々としていて"飽き性"なところがあったので、『何かもう一つ好きなものを掛け合わせないと、多分自分は飽きちゃうだろうな』と思ったので、好きだったアニメを掛け合わせて『声優を目指してみようかな』と考えたのがきっかけでした」

■気づかないくらい少しずつ表現の幅を広げていった|「ワンパンマン」ジェノス

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――昨年、2025年に6年ぶりに新作シリーズが放送された「ワンパンマン」。シリーズを通じて、石川さんはジェノスを演じられています。

「そうですね。第3期に限っていうとジェノス自身はほとんど戦っていなくて、バトルシーンは周りのキャラクターたちがものすごく切羽詰まった状態で繰り広げていた印象です。基本的にはコミカルなシーンでの登場が多かったので、ジェノスの根底にある『クールで圧が強い』というベースを崩さないまま、どうコミカルに落とし込んでいくか。そこはかなり考えながら演じていました」

――ジェノスといえば、主人公・サイタマへのリスペクトが限界突破しているような姿が印象的ですが、演じる上ではどんなところに苦労されるんでしょうか。

「第1期のときは『感情の起伏が薄く、ボソボソと淡々と喋るキャラクター』を意識して演じていましたが、第2期になってからはコミカルなシーンが増えて、ジェノスがボケ担当のような役割を担うことも多くなってきました。そこから『どこまでこのジェノスという役の表現の幅を広げていっていいのか』を、現場の空気を測りながら徐々に拡張していく必要があったんです。その"徐々に"という加減が、本当に大変でしたね」

――急にガラッと変えるのではなく、少しずつ探りながら変えていった?

「そうなんです。やりすぎると確実に怒られてしまうので(笑)。人間の持つ"慣れ"という習性を活かして、『ここまでのニュアンスだったら許されるだろう』という幅のギリギリを毎回攻めつつ、だんだんと周りがそのジェノスに"慣れ"てもらって、徐々に徐々に広げていくようなイメージです」

――気づかないうちに、少しずつジェノスのキャラが広がっていく...。最初と最後で見比べたら、おもしろそうですね(笑)。この作品において、石川さんがとくに印象的だと感じるテーマやメッセージはありますか?

「やっぱり、サイタマの言葉ですね。ものすごくパワーワードが多いなと感じています。『圧倒的な力ってのはつまらないもんだ』 というセリフだったり、まさに『過ぎたるは及ばざるがごとし』という状況が描かれていたりするのが印象的。この作品が描きたい『本当の強さ』って、単純な武力の強さではけっしてないんだな、と思います。自分が属しているコミュニティや人間関係、そして周りとの信頼関係。そうしたものの中にこそ、本当に大切な『強さ』があるのではないかということを、僕は『ワンパンマン』から強く感じています」

■物語に合わせてだんだんと現場もシリアスな空気に|「僕のヒーローアカデミア」飯田天哉

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――こちらも大人気作品「僕のヒーローアカデミア」(以下、「ヒロアカ」)では、1年A組の学級委員長であり、「エンジン」の"個性"を持つ飯田天哉を演じられています。まずは、キャラクターの第一印象や魅力について教えていただけますか。

「僕は飯田くんのことがめちゃめちゃ好きなんです。とくに『規律を重んじる』というところが、第1期の頃から『本当にいいな』と思っていました。本来、ルールというのは遵守するためにあるものですから、それを頑なに守ろうとする彼の姿勢はすごく素敵だな、と」

――生真面目で堅物なところが、彼の最大の魅力でもありますよね。

「ただ、第1期の頃の飯田くんは、規律を破るものに対してかなり強く追及するような一面が目立っていましたよね。それが、第2期のいわゆる"路地裏組"の戦いや、ヒーロー殺し・ステインとの一戦を経てからは大きく変わっていったと思います。『ルールを破る側にもそれなりの理由や事情があるんだ』という、相手に寄り添う姿勢ができるようになった」

――たしかに、だんだんと接し方も柔らかくなっていきましたよね

「他者に寄り添いつつも、自分の過ちや気持ちにもきちんと向き合えるようになりましたよね。動きこそ相変わらずロボットみたいですが(笑)。『規律を重んじるのはあくまで自分の価値観であって、他人がかならずしもそうではない可能性もある』ということを理解できた時点で、彼はもう立派な大人ですよね。すごく理想的な人格者だなと思っています」

――そんな魅力あふれる飯田くんを演じる上で、石川さんが特に意識されてきたアプローチはどのようなものですか?

「彼は何事に対しても、つねに『真剣に取り組んでいる』んだということ。意識しているのは、本当にそこだけです」

――ただひたすらに、すべての物事に真っ直ぐ向き合うと。

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「クラスメイトの緑谷くんや轟くんに対してもそうですし、授業に対してもそう。とにかくいま、自分が持ちうるすべての力を尽くして取り組む、という姿勢をずっと大切にしています。だからこそ、ちょっとしたコミカルなシーンであっても、本人は大真面目にそう思っているから圧も強くなるし、声も張る。一生懸命になりすぎるあまり、動きに力が入ってロボットみたいになってしまう、という解釈をしています。彼は決して『周りを笑わせようとしてやっていない』んですよね」

――ウケを狙っているわけじゃなく、本人が100%本気だからこそ、あの愛すべき人物像が生まれるわけですね。これまで10年間続いてきたアフレコ現場の雰囲気で、とくに印象に残っている変化やエピソードはありますか?

「第1期や第2期のように、まだ作中の彼らが『学生気分』でいられた頃は、アフレコが終わったあとにみんなでご飯に行くことも多くて、本当に1年A組の生徒たちみたいに和気あいあいと過ごしていました。でも、物語が大きな戦いの渦中へと突入してからは、現場の空気もガラリと変わりましたね」

――やはり、作中のシリアスな展開とリンクしていったのでしょうか。

「そうですね。それまでは賑やかだった休憩時間も、大声で全体を巻き込んで会話をするようなことも基本的にはなくなっていって。ご飯にも行かなくなりました。役者全員が、どんどん作品の過酷な雰囲気に引っ張られていったんです。これは10年間を通して、一番大きな変化だったと思います」

――現場の空気感まで、自然とストイックになっていったのですね。

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「はい。ただ、これは音響監督の現場作りのやり方がすごく上手だったというのもあります。最初の頃は学生たちの楽しいシーンも多いので、僕らをリラックスさせてくれるようなジョークやユーモアのある言葉をたくさん飛ばしてくれていたんです。でも、大きな戦いになってからは、あえてその数をグッと減らしたり、ディレクションをするときの声のトーンを少し変化させて、すごく真剣で熱い空気を作ってくれていました。その姿勢を、僕ら役者陣も敏感に感じ取って、徐々に、おのおのの中で緊張感ができあがっていったような感覚です」

■本当は特別なヒーローなんて必要ない|「僕のヒーローアカデミア」飯田天哉

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――石川さん自身が、「ヒロアカ」という作品から受け取ったのはどんなものだと思いますか?

「僕が、作品を通して強く感じたのは、『誰か困っている人がいたときに、そっと手を差し伸べられる勇気を、誰もが持つべきだよね』ということでした。これはすごく難しい理想論かもしれないのですが、作中には『オールマイト』というすべてを救ってくれる平和の象徴がいましたよね。彼は、いわば全人類の親切心や『助けたい』という心の集合体のような存在だったと思うんです。だからこそ、彼がいなくなったことで、世界はあれだけ一気に崩壊へと向かってしまったんじゃないかと思います」

――というのは?

「主人公のデク(緑谷出久)たちの活躍によって世界の破滅は免れましたが、本当の意味での世界の崩壊って、じつは『オールマイトが健在だったとき』から始まっていたんじゃないかって思うんです。作中でホークスも似たようなことを言っていましたが、一人ひとりのちょっとした親切心や思いやりが、きちんと世界中の人々に分散されていれば、あそこまでの悲劇的な事態にはならなかったはずだなと。誰もが自分の心の中に『手を差し伸べる心』を持っていれば、本当は特別なヒーローなんて必要ないんじゃないか。そんなことを、僕は深く考えさせられたと思っています」

――たしかに、本当にそうですね...!石川さんが「絶対に見てほしい、最も好きなシーン」と言われたらどこを挙げますか?

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「全話となると100話以上ありますし、名場面も多いので本当に難しいですね...!でも、第1期の最序盤で、かっちゃん(爆豪勝己)がヘドロの"個性"を持つ敵<ヴィラン>に捕まってしまったとき、無個性のデクが真っ先に駆け出すシーン。あそこは胸が熱くなりますね。『気づいたら体が勝手に動いていた』というあの瞬間は、物語の最終話までを見届けたいまになって振り返っても、絶対に涙なしには見られないと思います。連載時に、原作を読んだときにも『なんて素敵なんだろう』って、ものすごく感動したのをいまでも鮮明に覚えています。僕にとっては、全話のなかでも一番印象的な、すべての原点だと思います」

――あのときの"無個性"だったデクが持っていた純粋な衝動こそが、先ほど石川さんがおっしゃっていた「誰もが持つべき親切心」そのものですよね。

「本当にそうですね。もし全員があの瞬間のデクと同じ心を持っていたら、あんなに大きな事件にまで発展することはなかったと思います。『人を助ける気持ち』『他者への思いやり』を、一人のヒーローに委ねて人任せにしてはいけないんだなと。それは他人に任せるものではなく、一人ひとりが自分自身のなかに責任を持って、ちゃんと留めておかなければいけないものなんだということを、あの原点のシーンから改めて強く感じさせられます」

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取材/サトウリョウタ 文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉

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