アニメ「氷の城壁」の水槽の世界に共感した理由――小雪に重なったあの日の自分【松井玲奈】

アニメ「氷の城壁」の水槽の世界に共感した理由――小雪に重なったあの日の自分【松井玲奈】

私は今、「氷の城壁」を視聴するのを楽しみにしている。いつも面白い作品を紹介してくれる知り合いが、原作をとても褒めていたのを思い出し、アニメ化した今がこの作品と出会うタイミングかもしれないと、作品に触れることにしてみた。

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恋愛だけではない「氷の城壁」

高校生男女4人の物語と聞くと、よくある恋愛ものだろうなと想像する。高校時代の青春を甘酸っぱく描き、最後はお決まりのように結ばれるのだろうと。けれど、ふたを開けてみると想像していた作品と随分雰囲気が違っていた。この作品は青春や恋愛を描いただけじゃない。過去のトラウマから人と関わることを避けていた主人公・小雪が、仲間たちとの交流を通して自分の過去と向き合い、思春期の人間関係による戸惑い、心の内側を丁寧に描いた作品だ。

小雪は中学時代の経験から人と接するのがとにかく苦手で、感情をあまり面に出さず、他者との間に壁を作ってしまう。静かに高校生活を送っていた彼女は幼なじみの美姫以外とは関わることはなく、同級生たちから「女王」と呼ばれ怖がられていた。そんなに自分の顔は怖いだろうかと、鏡を見つめていたところを湊に見られたことで小雪の日常に変化が訪れる。

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すれ違いが映し出す心の壁

クラスの人気者の美姫は、本来のガサツな自分とのギャップに悩み、本当の自分を知ったら周りにどう思われるかを気にしている。物腰柔らかな陽太は周りにさりげない気遣いができて、穏やかで落ち着いている。誰とでもすぐに距離を詰めることのできる湊は空気を読むのが得意で、人との間に壁を作ることがないけれど、小雪の中にある壁はそう簡単には取り去ることはできない。距離を縮めようとする湊が小雪の中学時代の話題を持ち出したことがきっかけで、過去のトラウマがフラッシュバックした彼女は、自分の心を守るために湊との間に高い壁を作り、キツい一言を放ってしまう。

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誰とでもうまくコミュニケーションが取れると思っていた湊にとって小雪は初めて出会うタイプの人間で、目の前にすると何を話しても間違っている気持ちになってしまう。中学時代の話題を出した瞬間、小雪の表情が曇ったのを見た彼は、「これは触れない方がいい話題だな」と瞬時に判断し、話題を変えようとしたが、小雪は知られたくない過去を不用意に詮索された気持ちになり拒絶してしまう。湊は相手の表面を見て、言ってほしそうな言葉、してほしいことを察し、相手に寄り添うことはできても、心の奥にある問題までは解決することはできない。コミュニケーションは難しい。言葉の端にある相手の思いの全てを理解して受け取れる人は多くはいないだろう。

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少しずつ変わり始める小雪

湊の見た目や軽い発言だけで、相手を"こういう人間だ"と枠にハメて判断してしまう行為は、小雪自身が過去にされてとても傷ついたことだったと気がついた彼女は、湊に謝ることを決意する。相手に思いを伝えようとするとポロポロと涙があふれてしまう不器用な彼女の姿は、決して人が嫌いな人間ではなく誠実さがにじみ出ていて胸をつかまれた。

小雪が相手に心から向き合う時、いつも相手の目を真っすぐに見つめている。それは誠実さの表れであり、相手を思いやり寄り添うことができる人の行動だ。彼女は決して冷たい心を持った女王ではない。放課後に試験勉強をしたり、ショッピングモールで食事をしたり、休みの日に美姫のバイト先を訪れたりと、4人で過ごす中で小雪は中学時代の自分が学校という水槽の中でいつも息苦しく生きていたことを思い出す。自分の居場所はここではないと感じていた彼女は、周りとなじむことができず、うわさ話や一方的な決めつけで自分を見てくる周りにうんざりしていた。しかし、美姫たちと過ごす中で、学校は世界の全てではなくもっと広い世界があると気がつき、水槽から飛び出して外の世界があることを理解する。それでも世界は途方もなく広く、外にはそれぞれが抱える障害や困難が続いている。

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小雪に重なるあの日の自分

私にはこの小雪が想像する"水槽の世界"のイメージがとてもよく分かる。彼女はまるで昔の自分を見ているようで、人と関わることを極力避け、高校生活を静かに過ごしたいと考えていたその姿は、どこか当時の私を思い起こさせる。学校という場所は私にとってまさに水槽のような場所だった。でも外に目を向けてみると世界は本当に広く、自分に合った場所があることを知った。人の表面だけを見て、この人はきっとこんな人だろうと決めつけるように推測してしまうことがあるが、本当は違う。人間の心は複雑で、表面だけでは分からないこともたくさんある。

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小雪は過去の恋愛によるトラウマ、美姫は本当の自分を偽って学校生活を送っていることへの後ろめたさ、湊は感情は自分でコントロールできるものだと信じ、陽太は家庭での悩みを隠しながら、みんなの前ではなんでもない顔をして生きている。思春期の悩みは大人になってしまえば、「そんなこともあったよね」と笑い飛ばせてしまうことかもしれない。でも、彼らにとっては学校、家庭が世界の多くを占めている。氷の城壁は人が心を守るために作る壁と、その壁の向こうへ手を伸ばそうとする勇気を描いた作品だ。小雪たちが水槽の外の世界へ踏み出していくように、私も彼女たちの成長を見守っていきたい。

TVアニメ「氷の城壁」公式HP:https://korinojoheki-pr.com
TVアニメ「氷の城壁」公式X:@korinojoheki_pr

松井玲奈

松井玲奈 (役者、小説家)

役者、小説家。アニメ好きとしても知られる松井玲奈が毎回1つの作品を取り上げて、その魅力を再発見する。

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