声優・石川界人インタビュー#3「『理想の役者像は、新人』という言葉の意味」
アニメ 見放題インタビュー
2026.07.17
「ハイキュー!!」の影山飛雄役をはじめ、「僕のヒーローアカデミア」の飯田天哉役や「ワンパンマン」のジェノス役など、数々の人気作品で主要なキャラクターを演じる石川界人さん。その端正で芯のある声と、役柄の人間味を極限まで引き出すロジカルかつ熱量あふれる演技で、見る者の心を深く揺さぶります。そんな石川さんの役への向き合い方は、すべての理由が説明できるようになるまでとにかく台本を読むこと。このインタビューでは全3回にわたって、出演作品の役に抱く並々ならぬ思いとともに、つねに内省を忘れない石川さんの表現者としての素顔に迫ります。
■「理想的な生き方」を教えてくれる異世界系の魅力

――最近、異世界転生系の作品が人気ですが、その魅力って石川さんはなんだと思いますか?
「僕は『共感』だと思っています。異世界に転生するということは、自分が生きていた現実から、急に自分の知っている、いわば既知の世界へと行くわけですよね。そこで人の役に立てる世界に行くことが、きっとみんながどこかで望んでいることだと思うんですよ」
――現実の延長線上にありながら、自分の知識を活かして活躍できる。確かにそれは誰もが一度は憧れるシチュエーションですね。
「昨今だと少し悪い印象で捉えられがちですが、いわゆる『承認欲求』が満たされるというのが異世界転生ものの最大の魅力なんじゃないかなって。単に認められるんじゃなくて、役に立ったうえできちんと『自分は必要な人間だ』と思ってもらいたいという欲がどこかにあると思うんです」
――それを異世界転生という形で表現している...?
「そうですね。自分も満足感を得られつつ、周りのみんなもそれを喜んでくれる。これが繰り返されること自体、理想の人生みたいじゃないですか。それが、異世界転生ものの魅力なんじゃないかと僕は思います」
――その理想的な人生に、みんなどこか自分を重ね合わせているんですね。
「いまは"承認欲求"っていうものの捉えられ方が変わってきていて、『ただ自分の存在を認められる』ということだけにフォーカスしがちかなと。でも本来、"承認欲求"っていうのは正しく使えば誰かのためにも、自分のためにもなるもの。精神を安定させるための、良薬にもなるものだと思うんです」
――たしかに。完全に手放すのも、なにか違う気がしますもんね。
「ただ、用法用量を間違えて過剰摂取してしまったり、飲み合わせを間違えたりしてしまうと、自分にとって毒にもなってしまう」
――薬の例え、すごくしっくりきます。
「一方で、『それじゃ現実逃避じゃん』っていう声もあるかもしれないですが、僕はけっしてそうは思わなくて。これは僕個人の思想、捉え方なんですが、異世界ものって、一種の『時代を超えて色あせない、普遍的な生き方のバイブル』のようなものだと思っているんです」
――というのは?
「だれが読んでも素敵で素晴らしいと思える、生き方の指南書。多くの異世界転生ものが、自分の持っているものを無償で世界の人間に提供して、感謝されるけど『いやいや、俺はそんな大したことはやってないよ。君たちも困っている人間がいたら助けてあげなね』っていうことだと思うんですよね」
――見返りを求めない、的な...?
「そうです。でもそういう生き方をすることで、より自分のことも知れて、考えが広がる。それによって周りや世界にいい影響を与えられる。異世界転生ものって、きっとそんな"生き方"っていう普遍的なテーマを現代風にアレンジした表現の仕方なんじゃないでしょうか」
■まるでジャズ!先輩の背中から学ぶこと

――共演者の方々から刺激を受けることも多いと思いますが、最近とくにすごいなと感じたエピソードや、声優仲間の方はいらっしゃいますか。
「けっして距離感が近いわけではないのですが、最近では現場でご一緒したときに、中博史さんの演技に衝撃を受けました。マイクの前に立って、『おお』って言うだけで、現場の空気がガラッと変わるんです」
――ひと言で...!すごい存在感ですね。
「その『おお』というひと言に込められている、そのキャラの人生の深みとか、キャラクターへの理解、空間の把握とか、あらゆるものが圧倒的なのが伝わってくる。しかも、あれだけのキャリアや現場経験を積んでいらっしゃるのに、台本のチェックの仕方がめちゃくちゃ細かいんですよ。現場でご一緒すると、それがすごくよくわかります」
――どんなふうに細かいんですか?
「絶対に読み間違えないように、書いてある文字を上からペンでなぞって太くして、なおかつ単語ごとに色分けして区切ってある。ふつうだったら考えられないような作業量を、すべての台本でやっているんです。見習わなきゃいけないなって思いますし、同時に『自分にはここまでできないかも』とも思わされるくらいすごいです」
――長年の経験があっても、まったくあぐらをかかないんですね...!
「本当に。中さんをはじめ、ベテランの声優さんが発する一言には、いまの僕が持っている理屈と知識だけでは説明できない『説得力』が存在している気がします。大げさではなく、それっていまの自分の理解の範疇を超えているんですよね」
――そこまで...!
「とくに吹き替えの現場なんて、すごくて。さっきまでふつうに雑談をしていたのに、本番が始まってさっとマイク前に入った瞬間、ほぼピッタピタの尺でお芝居を当てていく。テストを1回やっただけで、2回目にはもう完全にその海外の役者さんが日本語で喋っているようにしか聴こえなくなるんです。もはやあれは、ジャズのセッションに近いような...!」
――ジャズのセッション...!
「映画に出演する海外の俳優さんとのセッションでもあるし、一緒に吹き替えの現場にいる声優同士のセッションでもある。いまは吹き替えというジャンルがAIに押されたりしていますが、あのすごさを見たら『絶対に声優がやったほうがいい』ってなると思うので、本当はもっと吹き替え作品もたくさんの人に見てほしいんです」
――吹き替えには、吹き替えにしかない魅力がありますよね。
「そう。吹き替えって単に日本語に訳しているだけでなく、海外の作品を日本人の表現や文化にチューニングした『一つの文学作品』とも捉えられると思うんです。たとえば、有名な一説ですが『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳すのと同じ精神が、吹き替えにはあるなあと。単に"日本語音声版"としてではなく、一つのジャンルとしてもっと認知されてほしい。大先輩方が画面を通して奏でる"セッション"が感じられるようになったら、きっとその沼にハマると思いますよ(笑)」
■理想的な仕事への向き合い方は...

――石川さんご自身が目指す理想の声優像ってありますか?
「20代の頃は、『全部の役ができる役者になりたい』というような目標を話すことが多かったんですが、いつからか『そのつもりで現場に臨むのって当たり前だよな』っていうことに気づいて。じゃあ、いまその先にあるものってなんだろう、というのはちょうど考えているところなんですよね」
――経験を経たことで、また一つ視点が変わったんですね。
「そのうえで、理想の声優像というと『実力で評価される声優』というのは、一つあると思います。要は、SNSのフォロワーが何人だとか、インプレッション数がどうだ、とかで役が決まるのではなく、『このキャラには、この人とこの芝居だろう』という点で評価してもらって、声をかけてもらう。やっぱりそれが本来あるべき形だと思うんです」
――いい作品を作るうえでも、大切なことだと思います。
「そういう意味では、じつは"新人"という存在が理想の声優かもしれない。数字もキャリアもイメージもない、まっさらな状態で業界に入ってきて、オーディションを受けて『君が合ってると思ったんだ。初主演だ』と言われる。それって理想的じゃないですか?『何にでもならなきゃいけない』ことが求められる仕事のなかで、いちばん何にでもなれる存在ですよね」
――言われてみると、たしかにそうですね...!
「それにまだ経験も技術もないから、そのときの全力を出し切ることしかできない。言い換えれば、それは『つねに全力を出し切ることができる』ということでもある。そういう"新人"のように仕事へ向き合う声優の姿が、僕にとっては理想の役者像なんだろうなって思います」
■真逆なタイプだからこその難しさ|「ダンダダン」ジジ(円城寺仁)

(C)龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
――2025年に第2期が放送されて、世界中でも人気となっているアニメ「ダンダダン」では、ジジ(円城寺仁)を演じられています。彼の魅力や印象について教えてください。
「ジジは本当に明るくて爽やかで、スポーツマンだし思いやりもある。正直なことを言えば、もう非の打ち所のないキャラクターですよね。だからこそ、演じるのがとても大変なキャラでもあるんです」
――そうなんですか?
「僕自身はかなり内向的で、何か一つの事象があったら『自分だったらこういう解釈のパターンもあるな』って、頭の中でずっと考え続けちゃうタイプなんです。だから、ジジとは真逆の性格。よくお芝居では、『事前にキャラのことを頭に入れておいて、マイクの前に立ったら逆に考えない』と言われるんですが、彼の場合、お芝居に入るときに『あえて何も考えずに臨む』という行動を取るのが、僕にとってはすごく難しくて」
――ご自身の性格とは180度違うからこその、難しさがあったんですね。
「そうですね。だからこそ、怪異に憑依されて『邪視』になったときのほうが、むしろ演じやすかった(笑)。とにかく一本の感情、一つの衝動だけを持っていれば成立する部分があったので、そこに関しては演じやすかったですね」
――なるほど!邪視の突き抜けた感情のほうが、迷わずに飛び込めたのですね。

(C)龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
「ただ、その邪視もジジと過ごすことによって、徐々に心がほだされていくんですよね。ちょっと『子ども返り』というか、本来子どもの頃にやりたかったことをやるようになってくる。そうなると、またジジの性質からも離れていってしまうような感じがあって。やっぱり変わらず、どちらも難しい役だなと思っています」
――真逆の性格ということですが、ジジと「ここは共感できるな」と思う部分はありますか?
「自分では見つけるのは難しいんですが、じつは周りの人に言われてハッと気づいたのは『自己犠牲』的なところ。そこがジジに似てるって言われたんです。人のためになるんだったら、自分が損するのは別にかまわない。元々、彼にそういう部分があるなとは思っていたんですが、言われてみるとそういう節がたしかに自分にもあるかもしれない。オカルンが少し内気でダークな雰囲気があるからこそ、その対比としてもジジの圧倒的な明るさや彼の中にある、かつての『週刊少年ジャンプ』の主人公の概念のようなものが際立っているのかな、と思います」
■個性派揃いのアフレコ現場|「ダンダダン」ジジ(円城寺仁)

――アフレコ現場の雰囲気や、印象に残っているエピソードはありますか?
「ヒロインのモモを演じている若山詩音さんが、ふだんはすごくおしとやかで、ふんわりされているんですよ。モモとは全然違って、ものすごくやさしい雰囲気を持ってらっしゃる役者さんで。でも、ふだんの笑い声だけが完全にモモそのもので、とんでもない爆音なんですよ(笑)」
――笑った瞬間だけモモになる(笑)
「現場で花江夏樹さんが冗談を飛ばしたりすると、若山さんがすっごい音量で爆笑する。周りは花江さんの声が聞こえてなくて、なににウケてるのかわからなかったりするんですけど、その爆笑している姿に、周りもつられて笑っちゃう。いい笑いの連鎖が起きているんですよね」
――それだけで現場がほっこりしそうですね。
「彼女がいることで現場の雰囲気がとってもやわらかくなりますし、パッと花が咲いたようになる。まさに『これが主役だな』って毎回感じますし、素晴らしいなと思います。本人的には『ごめんなさい、うるさかったですよね...』って、あとから恐縮しているんですが、僕らからすると『いや、それがいいんだよ』って(笑)」

(C)龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
――なんかほんわかとした空気が伝わってくるようです...!
「若山さん以外も、本当に個性的な方が多くて。ターボババア役の田中真弓さんも、大先輩ですが、もうずっと愛おしい存在です。アニメの中のかわいい姿そのままで。しかも、めちゃくちゃやさしいんですよ」
――田中真弓さんが現場にいらっしゃる安心感、すごそうですね...!
「地方で『ダンダダン』のイベントがあったりすると、真弓さんはかならずその会場で手に入れられる作品のグッズを持って帰ってきて、若山さんたちに渡して一緒に楽しんでいたりするんです。本当に素敵な船長です。ただ、真弓さんのマイクの高さだけがずっと低い位置にセットされているので、僕らが同じマイクをシェアするときは、腰がもう終わるんじゃないかっていうくらい深く曲げなきゃいけなくて。ほぼ専用マイク状態になっているので、それだけがちょっと肉体的に大変です(笑)」
■杉田智和さんの、羨むほどのアドリブ|「ダンダダン」ジジ(円城寺仁)

――「ここは絶対に見てほしい」という、個人的に最もお好きなシーンを教えてください。
「うわあ、悩みますね...。でも、やっぱり『ダンダダン』を語るうえでアクロバティックさらさら(アクさら)のお話はどうしても外せないかな。アイラのやさしさもあふれているシーンですし、なにより涙なしには見られないエピソードなので、すごく印象に残っています」
――わかります、アクさら回は本当に切ないですよね...!
「あと、僕が個人的にすっごく見てほしいのは、オカルンたちが初めて人体模型の太郎と出会うシーン。あそこは作画の素晴らしさはもちろんなんですが、太郎を演じられている杉田智和さんの叫びのお芝居が、もう全力かつおもしろすぎて最高なんですよ!(笑) 『これ、演じるのはこれ絶対大変だろうな』とは思いつつ、『めちゃくちゃ楽しんで現場で叫んでいるんだろうな』っていうのも、声からひしひしと感じ取れるんです。あのシーンは、ぜひ何度も見てほしいなと思っています」
――そのときのアフレコ現場の雰囲気も気になりますね...!
「もう、マイクの後ろにいる僕らはみんな、笑いをこらえるのが本当に大変で!(笑) ふつうだったら、走りながら何度も叫ぶシーンがあれば『何回かある"叫び"の中で、全部ニュアンスを変えてみよう』とか計算して演じる役者さんが多いと思うんです。でも、杉田さんはあえてそれをしないんですよね」
――あえてニュアンスを変えずに、ストレートな叫びを貫き通す、と。
「そうなんです。もう直球で『うわー!うわー!うわー!』って突っ切る。それがおもしろすぎて、どうやったらその引き出しが開くんだろうって(笑)。杉田さんのスタミナや肝の座り方もさることながら、実際にオンエアを見たときも腹を抱えて笑うくらいおもしろくて、この先輩は本当にアニメの完成形が見えて、その中でお芝居をしているんだなと圧倒されました」
――それを聞くと、一度見ていてもまた見返したくなりますね...!石川さん自身も、そんな先輩のアプローチから学ぶことはありますか?
「僕も、挑戦してみたりすることはありますよ。でも、僕の場合はうまくハマらないことの方が多くて...(笑)。現場全体を、一発で味方に付けて、それでオッケーを出させてしまう杉田さんは、本当にすごい。正直、『ずるい!』と思ってしまうくらい羨ましいです(笑)」
■作品をきっかけに、オカルト好きに...|「ダンダダン」ジジ(円城寺仁)

(C)龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
――アニメ「ダンダダン」の物語や世界観の中で、石川さんがとくに印象的だと感じるテーマがあれば教えていただけますでしょうか。
「作品全体のテーマという意味では、まだ物語も佳境までいっていなくて最後が見えているわけではないので、正直まだ測りかねている部分があります。ただ、僕が個人的にすごく好きなのは、都市伝説や怪談のオマージュが作中にふんだんに盛り込まれているところですね」
――元々、オカルト系のジャンルも好きだったんですか?
「いえ、むしろあまり興味がなかった側です(笑)。でも『ダンダダン』に関わったことで一気に興味が湧いてきて。気がつくとそういった系の動画ばかり見るようになって、そっちの知識にもずいぶん明るくなり...。最近はYouTubeで、都市ボーイズさんや、怪談師の田中俊行さん、たっくーTVれいでぃおさんを見ています」
――オカルトもですけど、ホラーも行ってるんですね(笑)。
「ええもう(笑)。それこそ、ラジオをご一緒している斉藤壮馬くんが、オカルト好きで有名な羽多野渉さんの同じ事務所の後輩ということもあって、そういうオカルト系のラジオに出演したりしているんですよ。彼も都市伝説などが大好きなので、共通の話題で盛り上がれるのはすごく嬉しいですね」
――声優業界にもオカルトの波が...!
「僕自身はまだそこまで深く語れるほどの知識は持っていないので、これから知識を集めて、蓄えていって、もっと詳しくなって、いつかみなさんの前で堂々と語れるようになりたいですね(笑)」
――そのときは、またインタビューにきます(笑)。

取材/サトウリョウタ 文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉




