声優・上田瞳インタビュー#2「『次がダメならアニメは諦めよう』声優2年目、背水の陣でつかんだ転機」
アニメ 見放題インタビューレンタル
2026.06.26
「ウマ娘 プリティーダービー」のゴールドシップ役をはじめ、「来世は他人がいい」の染井吉乃役、「気絶勇者と暗殺姫」のアネモネ役など、力強い声と繊細な表現力を活かした演技力で数々の話題作で鮮烈な印象を残し続ける上田瞳さん。このインタビューでは、全3回にわたってその意外な素顔から役作りまで、出演作品とキャラクターを振り返りながら、その人となりに迫ります。
■「次がダメならアニメは諦めよう」

――声優としての転機になった作品を教えてください。
「基本的には、出会った作品はすべて転機だと思っています。ただ『駆け出し』の頃に限ってお話すると、真っ先に思い浮かぶのは『ワールドトリガー』。じつは元々、私はこの作品の大ファンだったんです」
――ファンである作品に出るってすごいですね...!
「そこで本当にいろんな巡り合わせがあって、最終的には「モブで現場に入れてもらえるっていうお話のお電話をいただきまして...。そのとき、バイト先でちょうど掃除のお仕事の休憩中だったんですけど、嬉しすぎて大号泣してしまって。すぐに親にも泣きながら報告したのは、いまでも鮮明に覚えています。
――それだけ、「ワールドトリガー」に対して思いが強かったんですね。
「そのあと、2年目の頃に自分のキャリアについて、現実的に考えた時期があったんです。当時はアニメーションの現場に対して、『自分の声とお芝居が、あんまり制作陣やマネージャーに刺さっていないんじゃないか』という焦りをすごく感じていて。この世界で生き残っていくためには、いまのうちにある程度の道筋を考えておかないと、と思ったんですよね。それで、『次のオーディションで結果が出なかったら、もうアニメは諦めよう』って心に決めていたんです」
――ええっ!?そうだったんですか?
「はい。もしそれがダメなら、アニメの世界は諦めてナレーションの道に絞ろうと。もちろん、ナレーションは本当に深い技術の世界ですから、やるからにはイチから勉強し直す覚悟で。そんな気持ちで受けた『ウマ娘』のオーディションで、ありがたいことに役をいただくことができたんです」
――まさに背水の陣...!
「本当に。そのときに『私はまだ、お芝居を諦めなくてもいいんだ』って。それからもけっして楽な道ではなくて大変なことばかりだったんですけど、ありがたいことにこの業界で"上田瞳"として認知してくださる方が増えて、『結婚指輪物語』をはじめ、少しずつ指名でオーディションをいただけるようにもなっていきました」
――声優としてのキャラクターや実力が、業界内に浸透していったわけですね。
「あと一歩で土俵際を出ちゃうところだったのが、一つひとつの出来事や作品が数珠繋ぎのようにして今につながっているかと思うと、本当に全部に感謝ですし、『人生ってわからないものだな』と思います」
■好きなものを知ると、行動原理が見えてくる

――上田さんは役を演じるとき、どんなアプローチをしてお芝居を組み立てていくんでしょうか?
「配役をいただいたときに、まず見るのは見た目や年齢感で、そこから声の出し方を想像していきますけど、キャラクターの人物像という意味では、『そのキャラクターがなにを大事にしているか』をいちばんに考えるかもしれません」
――それは例えば、プロフィールにあるような"趣味"や"食べ物"といったことでしょうか?
「それもありますけど、もっと根底にある信念のようなものですね。たとえば『真夜中ぱんチ』の十景(とかげ)というキャラクターはすごくわかりやすくて、とにかく『お金が好き』なんです(笑)」

(C)2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT
――清々しいほどのクズですよね(笑)。
「そうなんです(笑)。オーディション原稿を読んでも、お金にまつわる話だったり、自分最優先の強いセリフが多かったので、『十景にとっての生きがいは、お金なんだな』っていうのは明白でした。だから、オーディション原稿にも目立つところにデカデカと『金』って書いて臨んだんですよ(笑)」
――そんな書き込みを...!(笑)でもつねにそれが目に入ることで、気持ちがブレずに演じられそうです。
「彼女の場合、ギャンブル好きだからこそのお金好きで、すべての行動原理がそこに繋がっているんですよね。人って、自分のやりたいことや欲求のために動くじゃないですか。だからこそ、そのキャラクターの『好きなもの』を掴むのはすごく大事だと思っています」
――なるほど...!好きなものから行動原理を読み解いて、方向性を考えていくんですね。
「そうなんです。あと最近では、それと並行して『このキャラクターは、作品の中で何を求められているのか』という役割についても、深く考えるようになりました。それは『結婚指輪物語』の第1期で、すごく手こずりながらも学んだ部分でもあるんです」
――「結婚指輪物語」では、どんな経験を?
「『結婚指輪物語』にはお姫様たちがたくさん出てきて、それぞれに魅力的でかわいいんです。私はグラナートというキャラクターを演じるにあたって、『こういう魅力があるから、こういう風に見せたい』と考えていたんですけど、現場では『いまのセリフだとかわいすぎるから、もっとかっこよくいきたい』というディレクションをいただいて」
――かわいいお姫様として演じるのではなく、かっこよさを求められた。

(C) めいびい/SQUARE ENIX・「結婚指輪物語」製作委員会
「最初は『なんでだろう?』って感じていたんですけど、途中でハッと気づいて。第1期の物語の軸は、あくまで主人公のサトウと、ヒロインのヒメ。グラナートに求められていたのは、かわいいヒロインとしての役割ではなくて、物語を『かっこよく引っ張っていくポジション』だったんですよね。自分の感情表現として『このキャラクターなら、ふだんはこういう言い方をするだろう』という正解があったとしても、それが映像作品として監督や音響監督が求める表現と、かならずしも合致するとは限らない。それは作品全体の中で、そのキャラが持つ役割もありますし、演出意図として『あえてこういう表現が欲しい』と求められることもありますから」
――キャラクターと向き合えば、そのお芝居の正解は出るかもしれないけど、それはまた作品にとっての"正解"とも違うんですね。
「だからこそ、現場の要求にどれだけ柔軟に応えられるかという能力が、この仕事ではいちばん大事なのかなって、最近はとくに強く感じています。......って、まだまだそんな偉そうなことを言えるほどのキャリアではないんですけど(笑)」
■"不まじめ"な役にまじめに向き合う

――これまでに演じられてきた役のなかで、「性格が自分に似てる」と感じる役はありますか?
「自分で言うのもなんなんですけど、基本的には"まじめ"な性格なほうだと思っているんです。でも、オーディションで受かって演じるのは、圧倒的に『クズ』と言われてしまうタイプの役の方が多いんですよね(笑)」
――先ほど、「真夜中ぱんチ」の十景のお話もお聞きしましたね(笑)。
「そうなんです。ほかにもウェブアニメの『ネガティヴハッピィ』だったり、最近だと『気絶勇者と暗殺姫』のアネモネ役とか、タバコ依存の暗殺者で、それを隠して僧侶として勇者を暗殺するために旅するという...(笑)。根はいい子なんですけどね...!一時期そういう役ばかり受かるので、『じつは、私がクズなのかな?』って思ったこともありました(笑)」
――いやいや、お話してみて、絶対にまじめなタイプだと思います...!(笑) でも、そんな自分と対照的な性格ばかりだと、大変には感じないんですか?
「それが、逆にクズなタイプのキャラの方が、『こういうセリフの言い方をした方が、より性格が見えておもしろいかも』っていう、いろいろなアイデアが湧いてくるんですよ。好き勝手に楽しく遊べる部分が多いので、むしろ演じていてすごく楽しさを感じています」
――ある意味、クズなタイプの役にも"まじめ"に向き合っている感じがしますね(笑)。
「あ~、たしかにそうですね...!自分でも、『まじめに不まじめ』な感じを突き詰めていることが多いかもしれないです(笑)」
――役作りをするときのルーティンなどはありますか?
「私、じつはすごくパニックに陥りやすい性格なんです。だから台本をいただいたら、パッと目に入りやすく、目にもやさしい黄緑色のマーカーで、自分のセリフに線を引くようにしています。あとはふりがなを全部振るのと、自分の出番だけじゃなく、基本的にはほかの全員のタイム(台本上の時間)も振るようにしています」
――ほかの役者さんのタイムまで全部、ですか...?
「はい。これはちょっとしたクセになっている部分でもあるんですけど、新人の頃に、東映さんの作品の見学に入れさせていただいたとき、『見学者は全員のタイムをとるべき。何のために勉強しに来てるの?』と教わったことがあって。たしかにその通りだなと思って以来、ずっと続けているルーティンなんです」
■私の中にある負の感情と似ていた|『SHY』ウツロ

(C)実樹ぶきみ(秋田書店)/SHY製作委員会
――アニメ『SHY』では第2期でシャイたちヒーローの前に立ちはだかる強敵・ウツロを演じられていました。演じるときは、どんなことを意識していましたか?
「ウツロに関しては、彼女が方言を使うキャラクターだったからこそ、私に任せていただけたのかなと感じています。ただ、14歳でめちゃくちゃ線が細い女の子なので、私の本来の声質からすると、じつはけっして得意な領域ではなかったんです。私、地声が結構大きいんですが、本来、ウツロのような体型の子だとそういう響き方をする声は出ないんですよね。だからアフレコでも、まずは『線の細い人が出すような声』を意識して臨んでいました」
――役作りの面では、彼女のバックボーンをどう捉えて演じられたのでしょう。
「オーディションの段階から、彼女が背負っている『負の感情』はものすごく意識するべきポイントだなと感じていました。ただその負の感情って、彼女のやさしさゆえに生まれているものでもあるんですよね。自分がすぐれた忍びであるために、任務で人の命を奪わなければならなかった。それに対して、彼女は深い悲しみや申し訳なさを抱えている。自分がやってしまったことへの強い責任感を感じているんです」
――やさしさという感情の裏返しで、大きな負の感情を抱えることになったんですね。
「その辛さに寄り添ったときに、『あ、私の中にある負の感情と似ているかも』って感じて、すごく感情移入しやすかったんですよね。そう考えると、いちばん自分と似ていた役がウツロだったのかもしれません」
――作中では、姉である天王寺曖(あい)役の小岩井ことりさんと、声を重ねて同時に喋る演出も非常に印象的でした。

(C)実樹ぶきみ(秋田書店)/SHY製作委員会
「ああ、フュージョンですね(笑)。小岩井さんとは、お互いに京都弁なんですけど、微妙に育った地域が違うのでニュアンスのすり合わせをしたり、なにより長い文章を二人同時に録るというのが本当に大変で...! ほかのキャストのみなさんにご迷惑をかけないように、ということであのユニゾンセリフを録るためだけの別日が用意されていたんですよ」
――そうだったんですか...!具体的には、どんなふうに進めていったんでしょうか?
「テストの段階では、まず私が一人で演じてみて、そのお芝居のニュアンスを小岩井さんに細かく聞いてもらう。そうやって方向性を合わせてから、本番でせーので一緒に声を合わせて録る、という形でした。技名の一言を合わせることはあっても、長いセリフをシンクロさせる経験はなかなかないので、冗談じゃなくて記憶が飛ぶくらい、必死でした(笑)」
――役者さん同士の信頼関係がないと成立しない演出ですよね。
「小岩井さんは圧倒的な包容力がある方で、小岩井さんのおかげでなんとかなったな、と感謝しかありません。私が『どうしよう、上手くできるかな』と内心パニックになりがちなところを、なにも言わずにやさしく受け止めてくださって」
――小岩井さんの存在が、大きな支えになっていた。
「『いつでもフォローするから大丈夫だよ』っていう空気感で見守ってくださったので、本当に救われました。一方で、ウツロ役は収録の期間が少し空いてしまうことがあって、そのときの気持ちの維持の仕方や、負の感情の出し方にすごく悩んでいた時期があったんです。そのときは、スピリッツ役の能登麻美子さんが収録の合間に『大丈夫?』ってやさしく声をかけて悩みを聞いてくださいました。先輩方がいつも気にかけてくださる、本当に温かくてやさしい現場でした」
■どう見せるか、ではなくどう感じたか|『SHY』ウツロ

――ウツロと天王寺昧(まい)。それぞれで、演じる上でのアプローチに違いなどはあったのでしょうか?
「ベースとしてはウツロを中心に作っていったんですけど、『昧が行き着いてしまった先がウツロなんだ』ということは、つねに意識していました。だからこそ、最終話あたりでウツロから昧へと戻っていくシーンは、すごく繊細に表現しなきゃいけないなと思って現場に行ったんです」
――物語としても、非常に重要な変化の瞬間ですからね。
「はい。でも、いざ本番になったときに、意外とそのシーンは自然にスッと演じることができたんです。『こうして、ああして』という事前のプランに縛られるのではなく、その場で湧き起こってくる感情に自然に寄り添うことで、思ったよりもスッと役になれたような記憶があります」
――演じているキャラと心が重なった瞬間ですね。『SHY』という作品全体から上田さんが受け取ったメッセージなどはありますか?

(C)実樹ぶきみ(秋田書店)/SHY製作委員会
「あの作品は、本当に『心』をすごく大事にしている作品だと思っています。スタッフのみなさん、そして演者のみなさんも含めて、現場にいる全員がそれを感じながらマイクに向かっていました。現場でのディレクションも『視聴者にこういう風に聞かせたい』という技術的なものではなくて、『こういう感情でやってほしい』という内面を重視するものだったのが、すごく印象的で」
――"感情ファースト"な作品だったんですね。
「そうなんです。でも、それって『ウツロをこういうふうに見せたい』と考えてお芝居していたら、絶対に表現できないんですよ。じつは以前、『神クズ☆アイドル』というコメディー作品に出演させていただいたときに、芝居の考え方がガラッと変わるような経験をしたことがあって。その作品では『ここは笑いのポイントだから、セリフの出力をこれくらいに変えてメリハリをつけよう』って、笑いのためにいろいろ計算して演じてみたんです。そうしたら、ディレクションで『狙ってしゃべっているように聞こえる』と指摘されてしまったんです」
――計算して演じたことが、見抜かれてしまった...!
「そう、頭で考えすぎていたんですよね。『ここは天丼!ここはメリハリ!』みたいにして。推し活するオタクのキャラだったんですけど、オタクは笑わせるためにそうするんじゃなくて、あくまで推しへの愛ゆえにそうしちゃう。だから、そのキャラで笑いを狙いに行くのは不正解で、計算ではなく、ただその場にある純粋な愛や感情を伝えるほうがいいんだ、ということに気づかされて」
――「こういう表現を見せよう」ではなく、自分がキャラクターとしてその場に立つことのほうが大事だった?
「はい。ちょっと遠回りしましたけど、『SHY』では、それと同じ気持ちでお芝居に臨むことがすごく大切だったんです。誰かからの目線や、どう見せたいかという外側を気にするんじゃなくて、あくまでウツロや昧がその瞬間どう感じているか、という主観の目線でセリフをしゃべる。そこに向き合うために必死になって考えましたし、収録期間が空いてしまったときに、その気持ちをどう維持すればいいのか、能登さんにもよく相談させていただいていました」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉




