声優・阿座上洋平インタビュー#1「自由奔放で社会性のなかった少年が表現者に変わるまで」

声優・阿座上洋平インタビュー#1「自由奔放で社会性のなかった少年が表現者に変わるまで」

「スティール・ボール・ラン ジョジョの奇妙な冒険」のジャイロ・ツェペリ役、「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」のザイロ・フォルバーツ役、「あんさんぶるスターズ!!」の天城燐音役など、その低音で野心的な響きを持つ声で、数々の話題作で存在感を放つ阿座上洋平さん。このインタビューでは3回にわたって、彼の等身大の素顔に迫るべく、出演作品に関するお話とともにこれまでの歩みと表現者としての現在地についてうかがいます。

■自由奔放なお調子者だった幼い頃

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――幼少期は、当時はどんなお子さんだったんですか?

「それが、本当に記憶力がなくて、あまり具体的なことは覚えておらず...。昔のビデオを見返すかぎりは、妹と一緒にずっとはしゃいでる感じだったみたいです。わりと活発で目立ちたがり屋な気質で、反面、周りのことを考えず自由奔放だったので『変なやつ』として捉えられていたんじゃないかと思いますね」

――周りの子とは、わりと違う感じだったんでしょうか?

「そうですね、お調子者ではあるけど、とにかく社会性がなくて。みんなで友達の輪を作って遊ぶより、一人遊びをするほうが気楽だったような気がします。そこから成長するにつれて、だんだん口数が減っていくんですが、妹はあいかわらず騒がしいまま。それがそのまま大人になった感じなので、家族の前だといまだにスカしてます(笑)」

――いまだに...!?(笑) 運動や部活などはしていたんでしょうか?

「元々、中学に入ってから水泳部だったんですが、途中でバスケ部に転向したんです。そもそも水泳部に入ったのも『プールでチャプチャプしたかった』という理由だけで、いざ入部したら、みんながタイムを競い合っていて『これは空気ちげえな』と。速く泳ぎたいわけじゃなかった(笑)」

――その潔さがいいですね(笑)。バスケ部を選んだ理由は?

「ちょうどアニメの『SLAM DUNK』を見ていて、おもしろそうだなと思ったので(笑)。水泳は個人競技だったので、チーム戦がやってみたかったというのも、一つの理由です。あと、僕はいまでも球技がヘタなんですけど、唯一『これができたら格好つくな』と思ったのがバスケだったんですよね」

――自分も「SLAM DUNK」でバスケ部に入ったタイプなので、すごくよくわかります...!チーム競技を経験したからこそ得られたものはありますか?

「水泳部しかり、わりとストイックな努力からは逃げ出すタイプなんですが、あのときの中学のバスケ部だけは、キツい練習でも楽しく乗り切れたんですよね。『何かを学んだ』というほどのものじゃないですけど、友達と一緒に取り組むってだけでこんなに違うんだなって思いました。個人競技から転部したこともあって、余計そう感じたのかもしれません」

■初めて見た深夜アニメは「ひぐらしのなく頃に」

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――声優という職業を意識し始めたのはいつ頃のタイミングだったのでしょうか?

「興味を持ち始めたのは高校生になってからで、周りに比べるとだいぶ遅いんです。じつは高校生になってから一度、がっつりと学校に通えなくなった時期があって...。というのも、高校でもバスケ部に入ったんですけど、厳しすぎて1週間で辞めちゃったんですよね。入って1週間で逃げ出すように辞めてしまったものだから、同じクラスにいるバスケ部に対して、ものすごく後ろめたい気持ちになってしまって」

――クラスでの居心地が悪くなってしまった?

「そうなんだと思います。あとから考えてみれば、バスケ部を辞めた人なんてたくさんいたし、おそらく僕が辞めたことなんて、みんな何とも思っていなかったんですけどね。でも、当時はそのことで『学校に自分の居場所なんてない』って思い込んでしまった。そこから学校へ行かなくなってしまって」

――そうだったんですか。

「そこからアニメやゲーム、ネットの世界にどっぷりと浸かるようになったんです。元々、中学時代に深夜アニメを見始めてはいたんですが、本格的に見るようになったのは高校のとき。その辺りで、声優という存在も知りました」

――当時はどんな作品を見ていたんですか?

「初めて見た深夜アニメが『ひぐらしのなく頃に』だったんですよ。『なんだこれ!』って思いましたね(笑)。正直、当時はいまほどアニメ文化に市民権がなくて、僕も少し冷めた目で見てて『また、萌えキャラが何かやってるわ』くらいに思っていたんです(笑)。そうしたら、ストーリーがめちゃくちゃ重たくて...!そのすさまじいギャップに完全にやられました」

――たしかに、当時のアニメとしては衝撃的でしたよね。

「そこから『らき☆すた』という、アニメ文化のチュートリアルみたいな作品を観て知識を吸収していったり、『けいおん!』や『CLANNAD』といったアニメを見て、どんどんその沼にハマっていくという...(笑)」

――その流れ、わかる気がします...!(笑)

「ネットを通じて出会ったアニメ好きの友人たちの存在も大きくて。そこで、『このアニメが面白い』とか『この声優さんがすごいんだ』って教えてもらい、だいぶ知識が蓄えられましたね。その頃に『自分はアニメが本当に好きなんだ』と気づいたんだと思います」

――先輩たちからの手ほどきを受けて...(笑)。

「ええ、アニメ好きのコミュニティに入っていたんですけど、ほぼ自分より年上の大人ばかりで...(笑)。当時は毎晩、深夜までSkypeを繋ぎっぱなしにして、ずっとしゃべってたんです。そこで学校とかのリアルな周囲ではなく、ネットというもっと別の世界があることが僕にとってはものすごい衝撃だった。思えば、あの頃にいまの声優としての僕の原点があるのかもしれません」

■「お墓参り」のパントマイムで青二塾へ

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――それから、本格的に「声優になろう」と決意したのはいつ頃だったんでしょうか?

「高校2年生のときですね。バイトばかりしていたんですけど、仕事に慣れてきた頃に『そろそろ、本当にやりたいことをやった方がいいのかな』と思い始めて。それで声優の道を調べていくうちに『演劇をやっておいた方がよさそう』という気持ちで、学校の演劇部に入ったんです」

――そこでお芝居を教わった?

「いや、それが顧問の先生のやる気がなくて、全然練習に来ないんです(笑)。でも、誰かに教わるというより、自由にやらせてもらえる環境が、僕らにとっては逆にめちゃくちゃ良かった。脚本を自分たちで書いたり、ネットで調べた発声練習を取り入れてみたり、照明や音響の裏方仕事もイチから自分たちで組み上げていって...。それがとにかく楽しくて、ほとんど独学ながら高校3年生まで演劇にのめり込んでいきました。声優じゃなくて、俳優もおもしろそうだなと思ったくらいです」

――高校卒業してからは?

「一応、進学校だったので担任の先生としては『大学に行ってほしい』という気持ちが強かったみたいで。『お芝居に興味があるなら芸術大学や美大はどうだ』と言うから、それなら頑張ってみようかな、と日芸をはじめ志望校を3つほど受けました。でも高校3年生の夏まで全然勉強をしていなかったし、出席日数も足りていなくて、全部落ちてしまい...(笑)」

――なんと...!

「本当に後がなくて、進路としては『ここしかない』という状態で、並行して受けていたのが青二塾だった。そこになんとか二次審査を経て合格しまして...。本当にギリギリのところで救われた感じです」

――そうだったんですね。当時、どんな審査で合格したのか覚えていますか?

「たしか、二次審査が『パントマイム』だったんですよ。いま考えると『声優なのにパントマイム?』って不思議なんですけど(笑)。そこで、お墓参りのシチュエーションをやって『さっきお墓参りしたはずの亡くなった人が、ふつうにそこにいる』というのを無音で表現して、それがちょっとウケた(笑)」

――おもしろそう...(笑)。単にパントマイムの技術を見せるのではなくて、そこに物語があるのがいいですね。

「そういうストーリーやお芝居の構成を自分で作るのがわりと好きだったんですよね。演劇部でも自分で脚本を書いたりしていたので。ただ、実際に審査員の方から『お墓参りのあのパントマイム、良かったよ』と言われたわけではないので、それが良かったのかどうか、いまでもわからないんですけどね(笑)」

■高座が設置されたアフレコブース|「あかね噺」阿良川享二

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――厳しくもユーモアに満ちた落語の世界を舞台にした大人気作品「あかね噺」では、主人公・朱音の兄弟子である阿良川享二(あらかわ きょうじ)役を演じられています。

「はい、とりあえず『落語家を演じなければいけない』という大きなプレッシャーの話は一旦置いときますね(笑)。享二は、すごくマジメでやさしい人だという印象のキャラですよね。ただ、表現者である以上、つねに飢えていなきゃいけないし、野心的じゃないと掴めないものもきっとある。彼の中にもそういう熱いものはありますが、いまのところ、それ以上に『兄弟子として、師匠から受け継いできた大事なものを、俺が次の世代に引き継ぐ責任があるんだ』という強い意志を持っているのかなと思います」

――たしかに、面倒見がいい志ぐま一門の兄弟子たちのなかでも、人一倍その気持ちが強く見える気がします。

「声優の世界にも先輩、後輩の縦社会はありますけど、あそこまで独特の関係性で育まれる絆って、ほかの業界にはなかなかないと思うんです。だからこそ、すごく素敵だなと思うし、僕自身も憧れがある。『自分もこういう人になりたい』という自分の中の憧れも含めて、演じています」

――一般的な「先輩、後輩」よりも、より強い絆を感じますよね。

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「それこそ『俺たちは家族であり、兄弟だ』というつもりで向き合っているんだと思います。でも、わかってはいても、なかなか体現できないような深い繋がりを、ストレートに出して実践できちゃうところが彼の本当に素敵な部分ですよね」

――実際のアフレコ現場の雰囲気は、どんな感じなんでしょうか?

「『あかね噺』は、とにかくものすごくこだわって作っている現場なんです。落語界という特殊な世界に、女子高生の朱音がどう交わっていくかを描いている作品ですが、その特殊な世界における人間模様の描き方は、監督や音響監督が時間をかけてこだわってくださっています。その中で自分自身が、兄弟子という存在として入るので、毎回緊張もしますし、ビリビリと刺激を受けながら収録しています」

――ふつうの作品とも違う、独特の緊張感がありそうです。

「それはありますよ...!プレッシャーはかなり大きめ。主演の永瀬アンナさんが演じる朱音にも、ちゃんと野心があるじゃないですか。ただでさえ落語のシーンのプレッシャーが大きいのに、その野心的な朱音を兄弟子として落語で感動させなきゃいけないというプレッシャーが、さらに上乗せされてる感じです(笑)」

――そんなプレッシャーもあるんですね(笑)。実際、落語のシーンというのはどうやって収録してるんですか?

「じつは落語のシーンの収録は、本編のアフレコとは完全に分けて、別枠で収録しているんです。ひととおり、本編のセリフのアフレコが終わると、『さぁ、落語シーンをやりましょう』となるんですけど、マイクのセッティングからしてすごい。ブースの中に、わざわざ座布団が用意されていて、その上に正座した状態に合わせてマイクを調整してくれるんです」

――え!ブース内に高座が...!?

「そうなんです。声優さんによっては『僕は声優なので、立ってやります』というアプローチの方もいらっしゃるのですが、僕は『せっかく用意していただけるなら』と思って、その環境にあえて乗っかることにしました(笑)」

――でも、やっぱり普通のアフレコとは違うんですか?

「そうですね。落語って、上下(かみしも)に顔を振るじゃないですか。でも、声優用のマイクって、あまり位置が外れすぎると音を拾わなくなっちゃうんです。なので、そこは意識しつつ『ちょっと落語の動きを取り入れてみようかな』と試行錯誤したりして。やれることがたくさんあって、本当におもしろい現場だなと思います」

――ひと目でいいから見てみたいですね...!

「あと、アフレコ現場に前座や二つ目の落語家さんがブースにいらっしゃっていて、逆に一言セリフを演じたりもされているんですよ。声優とは全然違うアプローチなのに、とにかく味があって...。ふだんは外にあるはずの世界が、ブースの中に入ってくる感覚があって、そこから新しい表現が生まれてくる感じがして、ものすごくおもしろいし、刺激になります」

■ふだんのお芝居とは逆のことをやる劇中落語|「あかね噺」阿良川享二

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――享二兄さんは、作中では「三方一両損」という噺を見事に披露されていましたね。

「いやぁ、これはもう本っっっっ当に!大変でした(笑)。じつは僕、10年くらい前に、声優と落語のコラボ企画のようなもので、実際に高座に3回ほど立たせていただいた経験があるんです。同世代の若手男性声優が何人か高座に上がっていた時期で。その経験があったとはいえ、あらためて今回の役をいただいたときは『だいぶ無茶なことを求められているな』と思いました(笑)」

――まず阿良川享二という人物を演じて、その人が落語家として江戸っ子たちのお芝居をするわけですもんね...!

「そう、しかも彼は生半可じゃない世界で実力を認められている二つ目ですからね。以前、『落語というのはセリフの芝居じゃない。物語を聞かせるストーリーテラーとして、それをどうおもしろく聞かせられるかに重きを置いているんだ』という話を、落語の師匠方から聞いたことがあって。『僕らがふだんやっているお芝居とは、いよいよ逆のことをしているぞ』という感覚すらありましたね(笑)」

――つまり、「お芝居をしない」というお芝居をする...?どうすればいいのかわからなくなってきそうです(笑)

「いや、本当にそう(笑)。でも、そうやってふだんのアフレコブースの内側だけでは得られない、外界からの試練を自分の中に持ってきて、そこに挑戦してフィードバックを得ていかないと、役者としては成長していけないなと思うんですよね。僕らの仕事って、『マイク前だけで済ます』んじゃなくて、外で培ってきた色んな経験を、表現としてみんながブースの中でぶつけ合う世界だと思うんです」

――急に、めちゃくちゃいい言葉ですね...!

「声優仲間の中には、自発的に寄席に通って勉強したり、アーティストデビューをして全然違う場所から表現を持ち込んだりする人がたくさんいるんです。まぁ僕自身は、放っておくとみずから進んでアクティブに動けないタイプなんですけど(笑)」

――えっ(笑)。

「いやぁ本当にサボりがちな性格なんです(笑)。仕事として、こうやって強制的に自分に負荷を与えられないとやれない。だからこそ、今回は自分を成長させる本当にいい機会をいただけたなと思っていますし、全力でぶつかりたいなと思ってやっています」

■表現の"中間地点"を狙う|「あかね噺」阿良川享二

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――実際に「三方一両損」のシーンを演じるにあたっては、どんなアプローチをされたんでしょうか?

「それに関しては、やっぱり一朝一夕で形にするのは絶対に無理ですし、むしろ『できてしまってもダメ』だと思うんです。だから僕は、落語家さんの持つ魅力と、声優としての魅力の"中間地点"を狙おうと考えました。そうじゃないと、僕ら声優がこの役をやる意味がない。もし、完成度の高い落語を演じるほうがよければ、プロの落語家さんが演じればいいという話になってしまうじゃないですか」

――つまり、落語自体を突き詰めるのではなく、「そのシーンですべき表現」のほうを突き詰めていく...?

「そうです。まったく修行もしていないのに、おいしいところだけを取ろうとしても絶対に無理。じつは先輩の関智一さんや山口勝平さんが、もう10年近くにわたって、年に数回ほど落語をやられていて、僕も何度か見に行かせていただいたことがあるんです」

――「昭和元禄落語心中」で、ご共演されたお二人ですね。

「その高座では、お二人が声優・役者として持っている魅力と、落語としての魅力が本当にうまいこと掛け合わさった、極上のエンターテインメントとしてのミックス(融合)があったんですよね。僕が目指すべき場所も、まさにそこなんじゃないかなと感じて」

――なるほど...!

「だから、僕自身は『落語家になろう』とは思わないし、『なれる』とも思っていない。声優だからこそ表現できるラインを狙いに行くほうがいいのかなって」

――聞く前に想像していたアプローチとは違いましたけど、たしかにそうだし、すごくおもしろい考え方ですね。

「というか、『プロの落語を1カ月そこそこでやれ』と言うほうが無理な話じゃないですか(笑)。もちろん同じく『あかね噺』の出演者ごとに、各々で別の考え方やスタイルがあるので、一概に言えることではないと思います。僕にとっては、声優としてアプローチできる最善の道が、きっとその中間地点にあった、ということなんだと思います」

■多様な人間性を全部肯定してくれる|「あかね噺」阿良川享二

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――阿座上さん自身が感じる、「あかね噺」の魅力ってどんなものですか?

「これ、一言で表すのは本当に難しい...(笑)。それくらい、色んな魅力が詰まった作品なんですよ。一見すると、いわゆる『ジャンプ系』の作品らしく、朱音という主人公が成長しつつのし上がっていく物語に見えると思うんですけど、その一歩一歩の中に人間としての気づきがちゃんとありますよね」

――というのは?

「例えば、原作でも良かれと思ってやったことが、ほかの師匠から見たら『落語に対して失礼だ』と厳しく指摘される場面があったりする。物事には、かならず良い悪いの両側面があって、『いいこと』ばかりではないっていうのが、物語の中でしっかりと描かれるし、朱音もそれを身をもって学んでいく。これは一例ですけど、本当に数多くの気付きを与えてくれる作品だなって思います」

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――たしかに。落語という特殊な世界の話でありながら、けっして自分たちの世界とも遠くない感じはします。

「そして、もう一つの魅力は登場人物たちの個性の描き方。真面目であることや、何も考えていないこと、そういういまの社会でうっかりすると"弱点"として捉えられてしまいそうなことが、その人たちの大いなる魅力になっている。それぞれの人間性を全部肯定して、それを『芸』に昇華していくんです。これはきっと、芸事に関わっていない方でもなるほど、と深く頷けるような、すごく熱いテーマが込められているんじゃないかと思います」

――本当にそうですね。作品の中では"仁(にん)"という言葉も出てきましたけど、声優業界で同じように言われることもあるんでしょうか?

「声優業界で、"仁"という言葉自体はほぼ使われないですが、同じような現象はあると思いますね」

――例えばどんなときにそれを感じるんでしょうか?

「若い頃は、自分と同じような声質の人を"ライバル"と見なして、『また役を取られた』なんて悔しがることもたくさんあります。でも、そういう時期を乗り越えてある程度のキャリアを重ねていくと、戦友みたいな感覚になって。そうなってくると、同じ声質であっても『いや、この役は彼だよね』と思えるほど、その人が持つ人間性がお芝居に滲み出てくるような気がするんです」

――ライバル関係を越えた先にある、役者としての変化ですね。

「これまではキャラクターの声と自分の声質だけで選ばれる世界だって、思ってたんです。でも、この仕事を始めて15年ほど経ち、30代中盤を迎えて思うのは『どうしたって自分の本質はお芝居に滲み出てしまうよな』ということ」

――声質という表面的なマッチではなく、役者自身の生き方や人間性が、おのずと役に乗り始めてくる、と。

「そうですね。僕自身、周りからは『声が低くてざらついていて、野心的な役が合うね』と言っていただくことが多くて、それが僕の声質ではなく性格的な本質の一面でもある。もっと言えば、生真面目な一面もあって、きっとそれがほかの役で滲んでるから、享二さんのような役が決まったりもする。キャリアを重ねるうちに、『声がぴったりで本人の性格や本質も最高に合っている』という役に出会える瞬間が、徐々に増えてきているなというのは実感しています」

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取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉

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