声優・阿座上洋平さんインタビュー#3「エゴを捨てた先にある、作品への覚悟」
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2026.08.07
「スティール・ボール・ラン ジョジョの奇妙な冒険」のジャイロ・ツェペリ役、「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」のザイロ・フォルバーツ役、「あんさんぶるスターズ!!」の天城燐音役など、その低音で野心的な響きを持つ声で、数々の話題作で存在感を放つ阿座上洋平さん。このインタビューでは3回にわたって、彼の等身大の素顔に迫るべく、出演作品に関するお話とともにこれまでの歩みと表現者としての現在地についてうかがいます。
■3周回ってキングギドラ

――阿座上さんは、「ゴジラ」シリーズの怪獣が大好きだそうで...!
「大好きです!幼い頃から恐竜が好きで、そのまま怪獣ファンに...。家には「ウルトラマン」よりも「ゴジラ」とか、怪獣系のおもちゃばっかりでしたよ」
――世代的に、どのあたりの「ゴジラ」を見て?
「『平成VSシリーズ』(平成ゴジラシリーズ)かな。ビオランテやキングギドラ、メカゴジラが出ていたシリーズで、ビオランテが公開された1989年頃はまだ僕生まれていないんですけど、何度も繰り返し見ていました。ビデオが擦り切れるくらい(笑)」
――そんなに...!え、一番好きな怪獣、聞いてもいいですか? アンギラス好き、というのはほかの記事でも拝見したんですが...。
「時期によって旬の怪獣も変わるんで、いまは一番...ではないかな(笑)。アンギラスは光線も出さないし、裸一貫で泥くさく戦うところが愛しい。背中にトゲトゲがあるから、自分から突撃できなくて背中からいかないといけない。あのすごく生きにくそうな感じがかわいらしくて(笑)。アンギラスももちろん好きなんですけど、いまは33周くらい回って『キングギドラ』が一番かもしれないですね」
――まさかの王道!ちなみに、キングギドラの魅力は?
「もう、デザインとして完璧じゃないですか...!金色で首が3つある姿は、みんな憧れるし、僕も子どもの頃はギドラのフィギュアを敵役にして、いろいろなヒーローと戦わせていました。怪獣の造形物がとにかく好きなので、7万円くらいするキングギドラのフィギュアを買っちゃったり(笑)」
――7万円...!? 相当なコレクターですね!フィギュアは小さいときからずっと集めてるんですか?
「いや、じつは中学の頃に一度、『ゴジラ集めてるのってダサくね?』って急に尖っちゃって、11回全部処分しちゃったんですよ。後になって『なんてことしちまったんだ...!』ってめちゃくちゃ後悔したんですけど(笑)。あんなに集めてたのにって」
――それは悔しいですね...! 逆に、苦手な怪獣とかちょい嫌いな怪獣もいたりするんですか?
「苦手な怪獣か...うーん。嫌いな怪獣っていないんですよね。ヘドラは当時怖かったけど、今は最高にカッコいいなと思っちゃう。みんなそれぞれに魅力がありますしね。正直、怪獣にとって『気持ち悪い』とか『怖い』って最高の褒め言葉になっちゃうから、僕がそう言うと、それは"怪獣として最高"ってことになっちゃうじゃないですか(笑)」
――たしかに、不思議...!(笑)
「しいて言えば、2000年頃に公開されたハリウッド版のゴジラを見たときは『ただのでかい恐竜じゃねえか!』ってツッコみましたけど(笑)。でも、そこも含めていまでは愛されていますからね。結果、どの怪獣もみんな大好きでオールOKです!」
■圧倒的なお芝居で空気を飲み込む大先輩

――ここ最近、とくに刺激や衝撃を受けた共演者の方はいらっしゃいますか?
「最近ご一緒する機会が多かった、三木眞一郎さんですね。いまも現場でご一緒しているのですが、とにかく謙虚に作品に向き合われていて、言葉の一つひとつが真摯。何気ない返事すら言葉選びが丁寧で、まとう雰囲気が僕らとはまったく違います。そして、お芝居になると、現場の空気を完全に飲み込んでしまうほどの存在感...」

――「空気を飲み込む」ってどんな感覚なんでしょう?
「現場全体をその役の主観に変えてしまう、という感覚に近いかもしれません。だから、作中で三木さんが敵役として対峙しているときは、ものすごい緊張感が走ります。ふだんはすごくやさしい先輩なのに、お芝居が始まった途端、敵役に『こちらが負けて物語が覆ってしまうんじゃないか』と思わされるくらい、空気が持っていかれる。そうなると、僕はもう必死に声を出して、気迫で戦うしかなくなるんです」
――後ほど作品のお話もお聞きしますが、例えば「勇者刑に処す」のブージャムは、三木さんがやられていますよね。
「そうですね。ブージャムはとくにその感じが強いから、きっとアニメを見ている方にも伝わるんじゃないかな...?だからこそ僕も、『これまでの色々なものを積み重ねて戦う...!』という気持ちで臨まないと、引き分けにすらならない。声を張り上げる必要もなくて、ボソッと言ったセリフだけでも、背筋がゾクゾクッとさせられてしまう。そんな現場を肌で感じるたびに、本当にすごいなって」
――それって単に「お芝居の技術」だけでもないですよね...!
「そうなんですよ。その後、三木さんとお酒を飲む機会もあったのでお話もたくさん聞かせていただいて。内容は、僕の企業秘密にしたいので言えないんですけど(笑)。でも、とにかく作品に対する向き合い方、周りの役者への気の配り方、そしてやさしさと厳しさ。それらがもう『極まってるな...!』と。僕がいまからどう頑張っても、逆立ちしてもマネできないくらいストイックなんです」
――間近で見ていて、背筋が伸びるような感じでしょうか?
「若い頃は『いつかはこの人に手が届く』とか『いつか追い越すんだ』って思っていたはずなんですけど、もはや、一つ極まった到達点を見せられている気がして。個人的には『三木さんは、三木さんにしか創り出せない世界を極めて、その到達点にいる。いまさら僕がどう頑張っても絶対に届かない』と思っちゃうんですよ。そのことに最近、切なさすら感じていて。そんなことを、お芝居を見るだけで感じちゃう」
――ある種、阿座上さん自身が「もう到達できない」と感じてしまう地点に、三木さんがいる...。
「そうなんです。でもその会の最後に、三木さんが『頑張れよ』って言って、握手してくれたんですね。それはもう、めちゃくちゃ感動しました。役者それぞれできることは違うし、目指すべき頂も違うけど頑張んなきゃな、と。ありがたくもあり、気持ちが引き締まる瞬間でもありました」
■なにより大切にすべきものは...

――今後の声優としての目標ってありますか?
「じつは、三木さんからお話を伺っていて、『僕自身はなにか特定の極地を目指しているわけじゃないな』とあらためて感じたんです。もちろん、声優として大成するのも大事だし、目指すべきことなんだろうけど。それよりもまず、作品の一助になれることをいちばん大切にしなきゃいけないと思うようになったんですよね」
――"作品ファースト"の精神ですね...!
「そうですね。いまって、『ワンクールに何作品あるんだよ』っていうくらい作品の種類があるし、いろんな人が関わっているじゃないですか。そういう状況に身を置いていると、『俺が、俺が...』なんて考えは薄まっていくんですよ。現場では、その作品を良くするために考えなきゃいけないことがたくさんあるし、そうやって過ごしてるうちに『やっぱり作品を何よりも大切にすべきだよな』って改めて気づいて」
――なるほど...!一方で、作品の中でもフロントに出る機会が多いのが声優でもあるじゃないですか? その辺りのバランスってどんなふうに考えているんでしょうか?
「たしかにフロントに出ることは多いかもしれないですけど、でもアニメという現場において、作品を一番理解しているのって僕はやっぱり監督だと思うんです。その監督の思いのもと、声優は作品づくりに携わらせてもらう立場。新人の頃は『爪痕残すぞ』とか、『セリフ量が多い役がいい』『人気キャラやりたい』なんてことばかり考えていました。もちろん若い頃はそういった"青さ"も大切ですけど、監督のもとで『自分にできることってなんだろう?』っていうことを、ちゃんと自分の頭でイチから考えなきゃいけない、と今は思うようになりました」
――あくまで"良い作品"をつくるためのいち役割でしかない、と?
「そうですね。漠然とそんなことを考えているときに、ちょうど先ほど言った三木さんとお話する機会があって、そのときに三木さんが、『作品にとって自分ができることが何かを、いちばん謙虚に考えなきゃいけない』というふうにおっしゃっていて。けっして僕が三木さんのようになれるわけじゃないけど、作品に対する根底の思いが、もしかしたら近づいているのかな、って思って、すごく嬉しかったです」
――めちゃくちゃ熱い話...!その部分で、お互いに共感したり?
「いや、恐れ多すぎて『一緒です!』なんて口が裂けても言えないです(笑)。三木さんの深さには、まだ全然たどりついてないですし。でも、少しでも近いことが嬉しかったと同時に、僕自身の考えが間違ってないんじゃないか、と思えたのは大きかったです」
■代わりはいる。けど自分しかいない

――「作品が何よりも大事」というのは、どんな場面でそれを感じますか?
「最近、思うんですけど、よくスタッフの方が『魂を吹き込んでもらってありがとうございます』なんてことを言ってくださるんですけど、僕からすると『いや、先立つ"器"がなきゃ』って。まず、器が先。もちろんありがたい賛辞のお言葉なのは理解しつつも、キャラクターデザイン、人物像、セリフなどを、監督はじめさまざまなプロが一丸となって作り上げてくれた器があるから声優という仕事が成り立つんですよって」
――それだけの人たちの仕事が積み重なって作品ができていく...。
「その器に対して、声優があれこれ考えて臨まなきゃいけないのって、ある意味、当然じゃないですか。多くの人の手によって大切に作り上げた器に対して『この役は僕が魂を吹き込みました』なんて言えないですよ」
――そこで、自分のエゴばかりを前に出してはいられない、と。
「そうですね。もちろんエゴを出すことが大事な場面もあるけど、やっぱり役より前に役者が立つのは違うだろって思います。だからこそ、『自分以外にも代わりはいくらでもいる』という現実も受け止めなきゃいけないけど」
――「代わりになる人なんていない!」と言ってくれるファンも多いと思いますが...?
「ありがたいことに声優として『あなたの代わりはいません』と言っていただくこともあるんですが、やっぱりね、いくらでも代わりはいるんですよ。現実として。諸般の事情により役の降板もあれば、収録期間中に無念にも亡くなってしまう人もいる。でも、作品が続く限りそこで物語を終わらせる訳にはいかない」
――それは、たしかにそうです...。
「ドライですけど役者ってそういうものだと思います。ただそんな前提は理解した上で、役に向かうときの気持ちが『俺の代わりはいる』じゃいけない、とは思うんです。役に向き合う以上『自分以外に代わりはいない』という相反する思いを、つねに持って臨まなきゃいけない」
――相反する気持ちが同時にあるんですか?
「そうですね。現実主義と理想主義の自分を使い分けていつも戦ってます。ただいずれにせよ『作品のためにできることをするしかない』という意識は変わりません。むしろそれが僕の本質なのかも」
――そのなかで、阿座上さんができること、というのは?
「自分なんて役者としてまだまだだし、どこかに到達できるとも思ってないです。アーティストっていうタイプでもないですし。じゃあ『自分ができることはなんだろう』って考えたときに、『この作品にとっていちばん、いいアプローチってなんだろう?』という問いを、ひたすら突き詰めて考え抜くこと。それが僕のやれることなのかなって思っています。そんな日々を積み重ねた先に見えてくる景色があったらいいなとも思いますがね」
■人間くささとフェチが詰まったやさしい世界|「透明男と人間女〜そのうち夫婦になるふたり〜」透乃眼あきら

――2026年1月クールの「透明男と人間女~そのうち夫婦になるふたり~」では、透明人間の男性・透乃眼あきらを演じられていました。
「以前漫画作品を紹介する番組に出演し、原作のワンシーンを演じるコーナーがあったのですが、それが透乃眼あきらとの出会いでした。その後アニメ化にあたりオーディションのお話も頂いて。『こんなキャラです』って送られてきた資料が、ただのスーツ姿というか、服装のイメージしかなかった...。『これは服の資料?』っていう(笑)」

(C)岩飛猫/双葉社・「透明男と人間女」製作委員会
――顔とか、表情って役作りをする上でも大事な部分じゃないですか?それはどうやってアプローチしたんですか?
「そこは開き直って、逆に『自分が思ったようにやってやろう』って自由に演じられましたよ(笑)。今作は、セリフを先に収録してから絵作りをしてくれる、という手法だったので、自分たちの思うように演じて、後からそれに対して絵を作ってくれるという安心感もありましたし、結構伸び伸びと表現はできた気はします」
――難しかったポイントでいうと?
「僕の中には、1ミリも備わっていない『紳士』という要素を、大きく広げてぎゅっと凝縮させて演じなきゃいけない難しさはあったかな(笑)。でも、そんな普段は完璧で紳士な透乃眼さんが、夜香しずかさんだけに対しては、ちょっとスケベじゃないか!ってところを大事にしたかったんですよね」
――スケベなところ...。
「そうなんですよ。好きな人には触れたいし、キスしたいでしょっていう。そこを原作がちゃんとピックアップして描いてくれてるから。人が人を好きになったら、そりゃフェチも出てくるし、スケベなところも出てくる。それを二人がお互いに確かめ合う過程が、すごく愛おしいなと思えるんですよね」
――その、ある意味人間くささみたいな部分って最初からそういうアプローチだったんですか?
「そうですね、オーディションの段階から結構意識していました。役が決まったあとにプロデューサーからも『彼はね、夜香さんにだけはちょっとスケベじゃなきゃいけないと思うんですよ』と伝えられて。僕の考える方向性もそうだったしお芝居にその要素をちゃんと乗せていたから、答え合わせができたみたいで嬉しかったですね」
――作中では、「姿が見えないから怖い」という透明人間ならでは(?)のリアリティある葛藤も描かれていて、ドキッとしました。
「見ている側としては『そんなことないだろ』って一瞬、思っちゃうけど、作中の彼らの姿を見ていると、リアルに納得させられちゃうんですよね。そこから一段深く考えてみると、たしかに見えない怖さってある。そこまで深く踏み込むからこそ、本人たちの葛藤にリアリティが出てくるし、ちゃんと生々しい人間らしさも出てくる。それが素敵さにも繋がっていると思うんです」
――物語全体を通して、阿座上さんが感じている魅力ってどこにありますか?
「透明人間という設定がフックになっている一方で、けっして無理に感動させようとして作られていないところ、ですかね。あくまでそこに人と人がいて、関わるなかで自然と感情が動いて、物語が展開していくんですよね」
――たしかに。キャラが物語の都合で動くのではなく、一人の人としてそこに生きている感じの作品ですよね。
「そうなんです。第一話のアフレコでも監督は『都合よく人を感動させるような作品にしたくない』と仰っていました。本当にそれがわかるし、それがいい空気感を出してるんです。透乃眼さんたちも、単に『紳士』だとか、そういう記号としての装置ではなく、過去のトラウマがあったり、夜香さんと過ごす出来事をきっかけに成長していったり」
――ちゃんと一人ひとりに、人生の背景や心の機微がある。
「逆に夜香さんも、透乃眼さんのそういう部分に嫉妬しちゃったりとか。透明人間だけど、人として綿密に描かれている。役割のためだけに存在する登場人物がいなくて、みんなが関わり合っていく物語を見ているだけで、心がすごく癒やされる。このやさしい世界をただ見つめているだけで十分だと思えるような、深いテーマがある作品だなと感じます」
――なんか、ずっとその世界に浸っていたくなりますよね。

(C)岩飛猫/双葉社・「透明男と人間女」製作委員会
「そうですね。まさにそういう世界観だと思います。それはやっぱり、他者との違いを、それぞれが認め合って互いに尊重し合ってる世界だからなんじゃないかな。現実を生きる僕たちにとっても、こうやって他者を認め合うことってすごく大切だなと、見るたびに気付かされる部分がたくさんあります」
■胸の奥底に眠る諦めない気持ち|「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」ザイロ・フォルバーツ

――鮮烈な第1期が話題となった「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」(以下、「勇者刑に処す」)では主人公・ザイロを演じられていました。演じるときにはどんなことを意識していましたか?
「ザイロは『スカしている』というか、ずっと突っ張ってるキャラクターなんですよね。必要最低限なことしか言わない性分なので、その言葉数でキャラクターの内面を拾い上げていくのが、最初はとても難しい印象でした」
――寡黙なキャラって、人間性が少し見えづらかったりするんですね。
「そうなんです。それにザイロのような役って、ただ表面的なかっこよさだけが注目されちゃうのも、違うなと思うんですよ。だからこそ、なぜ彼があそこまで頑なになってしまったのかという過去をすごく意識していました。復讐と戦うことだけが、自分を生かす原動力になってしまっている。それってすごく皮肉めいたところだし、傍から見たらかわいそうじゃないですか。なので、あえてかっこよすぎないようにしようとは考えていました」

(C)2024 ロケット商会/KADOKAWA/勇者刑に処す製作委員会
――ただ純粋なヒーローではなく、ザイロにも、どこか人間くさい一面も持たせようとしたわけですね。
「ええ、わりと救いのないダークファンタジー、というのもありましたし。この世界自体が最初から絶望に満ち溢れていて、周りでもたくさんの人間が悪意によって容赦なく殺されていく。そんな環境のなかで、彼自身がどこまでその絶望に浸って生きているかだと思うんです」
――周りの環境すべてが過酷だからこそ、彼の背負う絶望の深さもより際立ちます。
「みんなが幸せななかで自分だけが絶望しているならまだしも、世界ごと沈んでいる。その中で、ザイロはいい意味で言えば開き直ってる。かといって、希望に満ち溢れた存在というわけでもなく、泥水をすするような戦いを続けることでしか命を繋げていない。そういう意味でも、あえて少し『汚れたキャラクター』にしたいなと思って、汚れのニュアンスは意識して演じていました」
――そんな絶望感のあるなかで、テオリッタの存在がちょっとした希望の光のようにも描かれていますよね。
「第1期の中盤頃に差し掛かってようやく、テオリッタは彼にとってそういう一筋の光のような存在になっていきましたよね。ただ、ザイロの中では、テオリッタを見るたびに、どうしても昔の女性(女神)を思い出しちゃうという...(笑)」
――それだけ聞くとダメンズっぽい...(笑)。
「現場でも『また昔の女を重ねてる!!』ってよくツッコまれてた気がします(笑)。でも、そうやってテオリッタという存在と向き合うことで、彼がすべてに絶望しているわけではないという部分も見えやすくなってきた」

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――そのザイロの中にある希望ってどんなものでしょうか?
「すべてを諦めたように見えて、根底では人間に対してまだ諦めきっていないというか。目の前で救える命があるなら救いたい、と思っている。そういうひと筋縄ではいかないややこしさを持っているところが、彼の人間らしさであり、魅力なのかなと思います」
■一面的には語り尽くせない重厚なダークファンタジー|「勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録」ザイロ・フォルバーツ

――第1期からかなり重厚で、シビアな展開も多かったですが、実際のアフレコ現場の雰囲気はどのような感じだったのでしょうか。
「作品の空気感どおり、最初はとにかく重かったですよ(笑)。現場に入るたびにものすごい緊張感がありました。アフレコも飛び飛びだったので、1年くらいかけてじっくり録っていたかな。現場の空気に加えて、期間が長かったこともあって、最初はなかなかみんなとゆっくり話す機会もなく、とにかく自分の芝居に全力で集中していました」
――1年がかりの収録だったとは。過酷な世界観なだけに、精神的にもエネルギーを使いそうですね。
「そういう部分はあるかも。ふと気づいたら、作品の重さに引っ張られて毎話だれかが『ずーん...』って沈んでいるような、ちょっと怖い現場でしたからね(笑)。でも、物語が進むにつれてチームのメインメンバーがどんどん増えていったので、終盤になってようやく、みんなで和気あいあいと話せるようになっていきました」
――重かった空気が、だんだん明るく...!
「でも、空気が重かったことも良く作用したところもあって。ザイロはもともと、ずっと独りよがりで戦ってきた男なので、収録初期の孤立したリアルな環境が、結果的に彼の孤独なキャラクター性にもうまく作用してくれたのかな、と思いながら演じていました」
――ありがとうございます。阿座上さんが、とくに心に残っている作品のテーマやメッセージはありますか?
「『勇者刑に処す』に関しては、一つのメッセージというか『これだ!』というテーマは、あえて用意されていないんじゃないかなって僕は思っているんです。ただ、あえて見どころとして、一つ挙げるとすれば、やっぱり『ザイロがどうやって復讐を成し遂げていくか』という部分になるのかな。第1期の終盤は、チームも賑やかになってきて、テオリッタという光のような存在も近くにいる。でも、そういう風に周りの環境に心が満たされれば満たされるほど、彼の復讐心ってどんどん揺らいでいくと思うんですよね」

(C)2024 ロケット商会/KADOKAWA/勇者刑に処す製作委員会
――復讐心が揺らぐ、とは...?
「いまの環境に満足すれば、そこまでして復讐を遂げる必要があるのかを考え始めるし、逆にそこに満足して復讐をおろそかにしていいのか、という葛藤も生まれるのではないかと。でも、そんな一つの物事ですら、考え始めると尽きないくらい深いドラマが詰まっているのが、この作品の奥深い魅力の一つですよね。そういう繊細な変化も含めて、一つのテーマに縛られず、アニメを見てみなさんが感じるままに楽しんでもらえたら、それがいちばん嬉しいなと思います」
■天才的な推理とどうしようもない日常のギャップ|「鴨乃橋ロンの禁断推理」鴨乃橋ロン

(C)天野明/集英社・鴨乃橋ロンの禁断推理製作委員会
――大人気シリーズの「鴨乃橋ロンの禁断推理」では、圧倒的な天才でありながら変人でもある主人公・鴨乃橋ロンを演じられています。役作りでは、どんなことを意識されましたか?
「ロンは、だいぶ突飛な役なので、アプローチとしてはすごく難しいタイプのキャラでした。『いま、これを言ったらおもしろいだろうな』っていうことを、日常的に思いつきでしゃべっているようなキャラクターなんですよね。頭のなか垂れ流しというか...(笑)」
――垂れ流し(笑)。
「そこに役者としてマジメに向き合って『なぜ、こんなことを言ったんだろう?何か深い理由があるはずだ』とか、裏の意図を考えすぎると逆にドツボにはまってしまうタイプというか...(笑)。彼の場合、本当にただその瞬間の思いつきでしゃべるのが日常なんだろうと思います」
――深追いは禁物なタイプなんですね(笑)。
「ただ、そんなふうに思いつきでしゃべってしまう一面がある一方で、いざ事件となると、鮮やかに推理を組み立てていく。推理をしていないと本当にダメになってしまう人なので、彼が生きる道としての『推理』と『日常』のギャップは、しっかり見せられたらいいなと思っていました」
――実際に演じてみてからはどんな印象でしたか?
「一見すると奇天烈で、いろいろとアドリブを入れて自由にできそうなキャラに見えるんですけど、実際は意外と遊びづらいんだな、とは思いました。変にアドリブを入れようと思っても、ロンが『ただ思いつきでやってるだけ』に見えてしまうと、そこで表現が終わるというか、広がらなくなる。ただ、おもしろいだけで、キャラとしての幅や深みは果たして広がっているんだろうか、と悩んだりもしました」

(C)天野明/集英社・鴨乃橋ロンの禁断推理製作委員会
――そのキャラのイメージと、アドリブがハマるかどうかって一致するわけじゃないんですね。実際演じてみて、ご自身とロンが似ている、と感じた部分はありましたか?
「いや、基本的には全然、違うんじゃないですかね(笑)。ロンって、本人は大マジメにまっすぐ生きているからこそ、周りから見たときに『変なやつ』になっているタイプだと思うんです。当然のように黒蜜を舐めていて、『おい何やってんだよ!』って周りに突っ込まれてようやく気づく、みたいな」
――あれ、全部本気なんですね(笑)。
「本気ですよ(笑)。対して僕の場合は、どちらかというと『変なことを言って周りを和ませたいな』と思って、意図的にふざけちゃうタイプなので、そこはちょっと違うのかなと。ただ、たまに突飛な行動で周りの人を『えっ!?』と困惑させたり、驚かせたりする部分は、もしかしたら少しだけ似ているかもしれません(笑)」
■最高の相棒・トトの存在|「鴨乃橋ロンの禁断推理」鴨乃橋ロン

(C)天野明/集英社・鴨乃橋ロンの禁断推理製作委員会
――トト(一色都々丸)との、相性抜群のバディ感も大きな見どころの一つだと思いますが、トト役の榎木淳弥さんとのアフレコ現場での思い出などはありますか?
「榎木くんとの掛け合いはすごく印象深かったですよ...!作中だとトトがロンに振り回されるツッコミ役ですけど、榎木くん自身はめちゃくちゃおかしくて、いい意味で頭のネジが飛んでるタイプ。現場でも、変なアドリブを入れながら、ツッコんできたり(笑)。昔からの知り合いではあるけど、今回こうして深く関わってみて、あらためて衝撃を受けましたね」
――なんだか、ロンとトトが逆転してる感じですね(笑)。阿座上さんがツッコミに回る感じですか?
「そうです。僕がそれに反応しなきゃいけないくらい。榎木くん、ツッコミもすごくうまいんですけど、物事の芯が通っている部分がみんなとちょっとズレていて、それが最高におもしろくなっちゃう(笑)。頭もいいのに、ここぞというときには全力でふざけるんです。『この人には絶対になれないな...』と思っちゃいましたね」
――聞けば聞くほど、榎木さんとのやりとりが気になります(笑)。これまでのエピソードで、阿座上さんがお気に入りのシーンはありますか?
「2nd Seasonの終盤ですね。ロンが敵にだいぶ追い詰められて、自分の父親の存在も思い出して精神的に空っぽになってしまう、ピンチのシーン。そこで、これまで頼りなかったトトが、ロンの代わりに全力で奮闘する姿がすごく印象に残っています」
――それまではロンがトトを助けるシーンが多かったですが、あそこだけは逆転する。胸が熱くなる場面ですね。
「そうなんです。ロン自身だけではもうどうにもならないというときに、トトが助けてくれる。トトの成長や、彼がじつは物語にとってどれだけ重要な存在だったんだ、ということがわかるエピソードで、ロンを演じている僕にとってもすごく胸にくるものがありました」

(C)天野明/集英社・鴨乃橋ロンの禁断推理製作委員会
――物語全体を通して、阿座上さんが感じる本作ならではの魅力はどんなところでしょうか。
「オムニバス的にエピソードが分かれているので、見やすい推理物だなと思います。ロン自身が、時としてシリアスとコメディーのスイッチを、ガラッと切り替えるので、その落差のあるギャップを楽しんでいた方も多いんじゃないでしょうか。『推理ものだし、頭を使いそう...』と身構えるのではなく、一瞬一瞬のおもしろさを拾っていくだけで、十分楽しめるようになっている作品だと思います。まだ見ていない方は、さまざまな怪事件にロンとトトのコンビがどうやって立ち向かっていくのか、ハラハラドキドキしながらぜひ楽しんでみてください」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉



