声優・鈴代紗弓インタビュー#3「"こなす仕事"はしたくない。一つひとつに意味を込める私なりの声優マインド」
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2026.05.08
「ぼっち・ざ・ろっく!」の伊地知虹夏役をはじめ、「ハイスコアガール」の大野晶役、「正反対な君と僕」の鈴木役など、数々の人気作品で主要キャラを演じる鈴代紗弓さん。持ち前の明るさと元気さを武器に、経験を積むごとに演技の幅を広げつつ、これまで数多くのヒロインたちに命を吹き込んできました。このインタビューでは全3回にわたって、2026年4月クールやこれまでの出演作品の役に抱く思いとともに、鈴代さんの素顔に迫ります。
■仕事は"こなさない"でいたい

――声優としての目標はありますか?
「目標についてはよく考えるのですが、ずっと変わらないのは『声優でい続けること』。そのためには"お芝居が大事"っていうのは、ある意味当たり前なので、いかに現場に『いてほしい!』と思われ続けられる人、役者でいるか、ということが大事だと思っているんです」
――どうしてそう思うようになったんでしょうか?
「アニメにしても吹き替えにしても、作品作りは決して一人でできるものじゃないじゃないですか。多くのクリエイターさんやスタッフさんがいて、一緒に演じるキャストがいて、みんなで一つの作品を作り上げる。そんな環境で仕事をしているので、お芝居と同じくらい"人間力"も大事になるものなんだと、しぜんと思うようになりました」
――技術面だけじゃなくて、一人の人間としての信頼も大事ということですか?
「そうですね。それはきっと『お芝居はもちろん、あらゆる意味でこの人がいてくれたら安心だよね』『現場の雰囲気が良くなるよね』と感じてもらえるような存在なんだと思うんです。だから、そんな存在になるのが一つの大きな目標。お芝居でも現場の空気作りでも、周りにポジティブな影響を与えられる人でいたいですね...!」
――そんな存在になるために、どんなことを大事にしているんでしょうか?
「やっぱりまずは、目の前にある一つひとつの仕事に誠心誠意向き合っていくのが大事だと思っています。もちろん、この業界にいる誰もが『長く続けたい』という気持ちで挑んでると思うんですけど、一方で、それが『ただ続ける』だけになってしまうと、無意識にどんどん"仕事をこなす感覚"が出てきちゃうんじゃないかという危機感があって...」
――なるほど...!それは声優以外のお仕事をしている方にも、通じるお話ですね。
「もちろんプロとして仕事を完遂することは素晴らしいことだと思います。ただ、いまの私が仕事を"こなし"てしまったら、きっとこの先声優として歩み続けるのは厳しいと思うんです。だから、当たり前だとは思うのですが、すべての仕事に意味をもって取り組んでいきたい。私がその現場に呼ばれたことも、そのキャラクターを演じさせてもらうことも、一つひとつのセリフやお芝居も。それぞれに意味があるはずだし、それを考え抜いてやるのが、声優として素敵な姿だと思うんです」
――たしかに...!
「だから『いま自分に与えられた仕事も、当たり前じゃない』と思ってやること。本当にそれに尽きると思います。この場にいられる感謝を忘れないようにして、一つひとつを丁寧に積み重ねていくことが大事だと思っています」
――きっと、その「やり抜く力」と「真摯な姿勢」こそが、鈴代さんが多くの現場で愛される理由なんですね。
「ありがとうございます!そう言っていただけると励みになります。実際、そのマインドで仕事にのぞんだほうが、私自身もやりがいを強く感じられるし、それで周りの方々が少しでもポジティブに感じていただけるなら、こんなに嬉しいことはないな、って思います」
■「必要とされる」が目標であり、やりがい

――先ほど「やりがい」という言葉も出てきましたが、鈴代さん的には「仕事を楽しむ」という感覚も強いほうですか?
「それはかなり強いほうだと思いますね...!声優のお仕事って、心から好きだと思えなければ、むしろ続けていくのは結構しんどい職業だと思うんですよ。日々の忙しさのなかで、たまに自分を見失いそうになったりもしますし...。でも、やっぱり『楽しい!』と思えるときの"破壊力"が、何物にも代えがたいほど強いんですよね」
――なるほど...!ちなみに「自分を見失いそうになるとき」って、どんなときでしょうか?
「先ほどお答えした『仕事をこなす』みたいな感覚が出てきちゃいそうなときは、多分見失ってるときなんだと思います。いかに『こなす』状態にならず、全力で向き合える環境を自分で整えられるか。その環境づくりも含めて、プロの仕事なんだって、この1~2年ですごく感じるようになりました。自分のキャパを把握して『ここまでの仕事量なら、つねに最高のコンディションで取り組める!』というラインを自分で見極めないと。私自身が一つの『商品』だと思っているので、自分自身の品質管理をすることの大切さはすごく実感するようになりました」
――すごいマインドですね...!先ほど「楽しいときの破壊力」というお話しがありましたが、具体的にはどのような瞬間にそれだけ大きな喜びを感じるのでしょうか?
「いくつかあるんですが、まずはお芝居をしていて『役を演じ切れた!』と手応えを自分自身で感じられた瞬間。それから、作品がオンエアされて、スタッフさんたちと一緒に『本当にいい作品が作れたね』と反響を喜び合えたとき。そういうときは、やっぱりこの仕事をやっていてよかったな、と心から思えます。あとは、作品ファンの方々からの『鈴代さんに演じてもらえてよかったです』という声や、原作者の先生から直接そう言っていただけたときも、言葉にできないほど嬉しいです!」
――鈴代さんの「いつまでも必要とされる人になる」という目標は、そのまま鈴代さんの声優としての、やりがいや喜びにもなっているんですね。
「全然気づかなかったけど、言われてみるとたしかにそこは繋がってますね!(笑)声優の場合、やっぱり誰かに必要とされなければ、そもそも仕事ができないので、そこがいちばん大事だって、感じているのかもしれません。これからも誰かに必要としてもらえるように、お芝居を磨いてご縁を大切にしながら歩んで行きたいですね」
■いろいろなご縁を生んでくれた作品|「ぼっち・ざ・ろっく!」伊地知虹夏

(C)はまじあき/芳文社・アニプレックス
――世界中で大きな旋風を巻き起こした「ぼっち・ざ・ろっく!」。鈴代さんは伊地知虹夏を演じられました。彼女の魅力について、どんなふうに捉えていますか?
「虹夏ちゃんは『結束バンド』のまとめ役として、個性豊かなメンバーをまとめるしっかり者。彼女の魅力は、なんといっても自分の夢や気持ちに対してどこまでもまっすぐなところですよね。幼いころに母を亡くすというバックボーンがあるからこそ、『自分がしっかりしなきゃ』という強い責任感を持っている。みんなを先導したり、するどいツッコミを入れたりして場をまとめつつも、どこかほわっとしたやわらかさもあわせ持っている、本当に素敵ないい子だなと感じています」
――虹夏ちゃんとは、どんな共通点があると思っていますか?
「なんだろう...。わりと、どんな子に対しても寄り添えるところ、かな。私自身も、自分と正反対でも似ているでも関係なく、どんなタイプの人でも興味があるほうなんです。困っている人がいると放っておけなくて、つい気にかけてしまう...。そんな少し『世話焼き』な部分が、虹夏ちゃんと似ているかもしれません」

(C)はまじあき/芳文社・アニプレックス
――海外でも爆発的な人気を博していますが、その反響ってどう感じていますか?
「海外の方からの熱いコメントはもちろん、『ぼっち・ざ・ろっく!』をきっかけに私のことを知ってくださった方が本当に多くて、その広がりはキャストの一人として肌で感じていました!前回のインタビューではデビュー時の大きな転機として『ハイスコアガール』のお話をしましたけど、そこから歩んできた先にある、もう一つの大きなターニングポイントが間違いなく『ぼっち・ざ・ろっく!』なんだろうなぁと思います」
――それだけ、鈴代さんの声優人生にとっても大きな影響のある作品だったんですね。
「それはもう...間違いなく!この作品を通じて繋がったご縁や、新しく生まれたチャンスがたくさんありました。そのチャンスを掴み取れるかどうかは本当に実力なので、日々奮闘しております。でも、それ以前に『ご縁』をいただくことのありがたみは、あらためて痛感しました。出演するイベントや、現場でかけていただく言葉の数だけ、この作品が持つパワーと、そこに関われた幸せを実感していたと思います」
■「中2のドラムスティック」と一緒にステージへ|「ぼっち・ざ・ろっく!」伊地知虹夏

――実際にドラムの生演奏も披露。練習を含め、相当な苦労があったのではないでしょうか。
「私、中学生のころに観ていた『けいおん!』が大好きで、声優を目指す大きなきっかけの一つでもあったんです。しかも、その影響で当時はドラマーに憧れていて、じつは中学2年生のクリスマスにはドラムスティックを、親からプレゼントしてもらったこともあるんですよ(笑)」
――なんと!そんな鈴代さんが、時を経て虹夏を演じるって感慨深いですね...!
「そうなんですよ...!実際にキャスト4人で『ライブで1曲演奏します!』っていうのが決まってからも、そのドラムスティックを使って練習したり。叩き心地的に、ライブ当日も使う...とはいかなかったんですけど(笑)。でも、思い出のものだったのでどうしても一緒にステージに立ちたくて、お守りのようにステージの上に置いて本番に臨んだりもしました。中2の頃の自分に『あのときにもらったスティック、こんなに最高の使い方できたよ!』って教えてあげたいくらい、本当に嬉しかったです!」

(C)はまじあき/芳文社・アニプレックス
――すごい素敵なお話だ...!実際の演奏では、どんなことが思い出に残っていますか?
「一人で練習しているときと、みんなで合わせるときのグルーヴ感が想像以上に違っていて、バンドで演奏することの難しさを肌で感じました。一人なら叩けていたリズムも、ほかの楽器が合わさると速くなってしまったり、迷いが出てしまったり...。でもその分、ピタッと音が合ったときの楽しさは格別で、『バンドって楽しい!』と心から思いましたね」
――虹夏たちが作中で体感している景色を、鈴代さんご自身も体験できましたか?
「少しはできたんじゃないかと思います...!彼女たちがバンドや音楽を通じて感じている喜びを、少しでも共有できた嬉しさだったり、貴重な経験なんだなっていうのはすごく感じました。それと同時に、結束バンドのメンバーがこの4人で本当によかったな、って。プライベートでも本当にみんな仲良しなので、その絆があったからこそ、あの演奏が成立したんだと思います」
■悩み事があったらまっさきに相談したいのが虹夏|「ぼっち・ざ・ろっく!」伊地知虹夏

――鈴代さんお気に入りのエピソードや、忘れられない場面があれば教えてください!
「本当にたくさんあって、絞るのが難しいんだよなぁ...(笑)。まず、みんなも好きだと思うんですけどタイトル回収もする8話は、やっぱり忘れられませんね...!あの回は、作画の書き込み量や、アニメーションの細かさにも圧倒された記憶があります。あと、個人的にどうしても忘れられないシーンがあって。最終話の、本当に何気ない、一瞬だけのカットなんですけど...」
――最終話、文化祭が終わってみんなで新しいギターを買いに行くエピソードでしたよね?
「そうそう、そのギターを買いに行くシーンです!あの場面で、ぼっちちゃんが新しいギターを選んでいるときに、虹夏が『ドラマー孤独問題』について話し出すんですけど、『私もギターとベース、買っちゃおうかな』って言うんですよ。それに対して、リョウと喜多ちゃんが、虹夏がギターを持ってドラムを叩いている映像を思い浮かべてるんですけど、その想像してる映像が、もう本当におかしくて(笑)」
――あぁ...!カラフルムキムキな虹夏が、千手観音みたいになってるやつ(笑)。
「そうですそうです!それまで、12話の文化祭ライブを感動する気持ちで観てたのに、あの一瞬の、奇妙なイメージ映像のせいで涙が引っ込んじゃって...(笑)。あの緩急の付け方、制作のCloverWorksさんの遊び心が詰まった演出は、最高でした!大好きです(笑)」
――たしかに、そのシーンも含めて随所に遊び心を感じる作品でしたよね!あらためて、いまの鈴代さんにとっては虹夏ってどんな存在になっていますか?
「作品の影響がどんどん大きくなるにつれて、プロモーションの活動なども増えていったことで、お芝居の時間だけでなく彼女と付き合う時間はとても長くなりました。単なる役を超えて、一緒に頑張って、歩んできた昔からの友達のような...もし自分に悩み事があったらまっさきに相談したいなと思える大親友のような、本当に自分に近い存在だなって思っています」
――「まっさきに相談したい」。結束バンドのメンバーを思い浮かべると、その気持ちはすっごくよくわかります(笑)。
「...ですよね(笑)。いまでも、『こんなとき、虹夏ちゃんならなんて言ってくれるんだろう』って、ふと考えてしまうこともあります。『あなたの声にしてくれてありがとう』という感謝の気持ちはこれまで演じてきたすべてのキャラクターに対して持ってはいるんですけど、虹夏に対しては、それにプラスした、日頃の感謝のような思いがある気がしています」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉




