「ロックは淑女の嗜みでして」お嬢様×ロック!考えてみれば今までなかった組み合わせにグイグイ惹きこまれる【サンキュータツオ】
アニメ 見放題連載コラム
2025.06.30

サンキュータツオ (芸人、日本語学者)
芸人、日本語学者。芸人として活動するかたわら大学教員を務め、アニメなどのサブカルチャーにも造詣が深いサンキュータツオが、今クールのおすすめアニメを紹介する。

サンキュータツオ (芸人、日本語学者)
芸人、日本語学者。芸人として活動するかたわら大学教員を務め、アニメなどのサブカルチャーにも造詣が深いサンキュータツオが、今クールのおすすめアニメを紹介する。
女子高生とロック、あるいはバンドもの、という組み合わせなら、ここ20年だけでも山ほどのアニメ作品が作られた。端緒となったのは2006年、「涼宮ハルヒの憂鬱」の第12話「ライブアライブ」で、主人公のハルヒが学園祭でバンド演奏をするのだが、ギターを弾く指の一本一本の動きが「ぬるぬる」動くと話題に。京都アニメーションの作画力を一躍有名にした一話である。
以降、同じく京都アニメーション制作の「けいおん!」が2009年に放送され、女子高生バンドブームの火付け役ともなった。バンドというと洋楽好きのおじさんがうるさいジャンルと敬遠されていた空気感が、この一作で若者にも人気のジャンルとなったのである。その後、女子高生アイドルものとの掛け合わせ作品などが幾多も制作されたが、その背景には3DCG技術の発達により、ギター、キーボード、ドラム演奏の腕や指の動きなどを、緻密に描くことが可能になったことが挙げられるだろう。
お嬢様とロックという「組み合わせ」の妙
しかし、ここにきてゴリゴリのロックと最も対局にあると言ってもいい存在、「お嬢様」がバンドをやるという作品が登場した。それが「ロックは淑女(レディ)の嗜みでして」である。この「お嬢様」という属性が、普通にバンドに興味がある女子高生がバンドを組み、メンバーを一人ずつ集めていく、という従来のストーリーとは一線を画す味になっていることは特筆すべきだろう。
組み合わせの意外性だけでなく、各登場人物たちが良家の令嬢というだけあって、ロックなどという音楽にのめり込んでいることが分かったら、大変なことになってしまう。つまり、彼女たちにとってロック演奏とは、人前で言うのもはばかられる「秘めたること」であり、決してバレてはいけないことなのだ。このことが、作品にユーモアをもたらし、時としてストーリー展開にも影響する。だから、これまでの女子高生バンドものとは決定的に違うのである!
圧巻の演奏シーン!実在の曲のアレンジもすごい
主人公の鈴ノ宮りりさは、母親の再婚によって不動産王・鈴ノ宮正の娘となり、桜心女学園高等部に入学した。しかし、再婚前まではバンドマンの父親の影響でギターに明け暮れたロック少女であった。ただ、母親想いのりりさは、お嬢様になる以上は徹底的に振る舞いや話し方まで、周囲に恥ずかしくないレベルにならないといけないと思い、ギターとは決別していたのである。
しかし、学園一のお嬢様・黒鉄音羽(くろがねおとは)がある日、誰もいない旧校舎でドラムの演奏をしていたのを目撃したのをキッカケに、音羽にセッションを持ち掛けられるようになる。音羽は、ギターの演奏でできるタコや、落としたピックを「ピック」だと知っていたりりさが、ギター経験者であることを一発で見抜いていたのだった。
セッションではLITEの「Ghost Dance」が選曲される。実際の曲が劇中で使用されることの珍しさもさることながら、動きの多い演奏、音の迫力、何より二人の演奏が好きでたまらない様子が描かれるが、これはアニメ史上でも屈指の名シーンと言っていいだろう。動き、音、エモさといったアニメの醍醐味(だいごみ)全てが詰まっていた!
ギターとは決別したはずのりりさだったが、音羽のロックへの情熱に徐々にほだされていく。決して仲良しグループでのバンド活動といった作品にせず、この二人の緊張関係、周囲に活動がバレてはならないという緊迫感が、グイグイ視聴者を引き付ける。そして、彼女たちは周囲のロック少女たちを少しずつ引き寄せ始めるのである。
魅力あふれる他のメンバーも徐々に登場!
バンドものやロックに興味がないという人でも、ギャグとシリアスの二面性で視聴者を惹きつけるシナリオは秀逸。原作の魅力ももちろんだが、アニメならではの魅力も詰まった「ロックは淑女の嗜みでして」、ぜひご覧いただきたい!
キーボードやベースのメンバーも魅力あるキャラクターで、徐々に登場するので見逃せない。序盤3話までに全キャラ登場させるのではなく、自分の内なる欲求やコンプレックスを丁寧に描いていくので、新キャラ登場も焦らず待ってほしい。そして、この内面を掘り下げていくところにこそ、このアニメのすごさがある。ロック聴きてぇ!ってなるから覚悟しておいて。