声優・内山夕実インタビュー#3「完璧じゃない自分も認めながらできることをやり続ける」
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2026.04.24
「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」のルーデウス・グレイラット役をはじめ、「お気楽領主の楽しい領地防衛~生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に~」のヴァン・ネイ・フェルティオ役、「Re:ゼロから始める異世界生活」のパック役など数々の人気作品に出演する内山夕実さん。芯の強い女性から少年、かわいらしいマスコットまでを演じ分ける演技幅と、その人物像に真摯に向き合うことから生まれる圧倒的な表現力で、キャラクターに命を吹き込みます。そんな内山さんの声優の原点には、中学時代に情熱を注いだ朗読劇の部活、そして切磋琢磨し合った「良きライバル」の存在がありました。このインタビューでは、全3回にわたり内山さんの歩みと、お芝居への情熱を、出演作品にまつわるエピソードとともにひもときます。
■次の一歩を後押ししてくれる、異世界ものの魅力

――異世界作品の人気ぶりがすごいですが、内山さんも多くの作品に出演されていますよね。人気の理由は、どんなところにあると思いますか?
「異世界もの、といってもいろいろなパターンがあるんですが、私が携わった作品から感じているのは『非日常の世界に放り込まれた主人公が、否応なしに変化を迫られながら、それでも成長していく』というポイント。主人公が第2の人生を歩み出す姿が、現実で『次の一歩を踏み出したい』と考えている視聴者の方々に勇気を与えているんじゃないかなぁって」
――たしかに。まったく別世界の話でありながら、どこか自分を投影できる部分がある気もします。
「『無職転生』や『Re:ゼロ』などの作品でも、主人公たちは異世界に行ってもなお、泥くさく苦労してるんですよね。でも、こういう描写って、リアリティがありすぎると見ていてしんどくなってしまうと思うんですが。異世界という非日常のフィルターを通すからこそ、自分を投影しつつ、最後まで楽しみながら観られるんじゃないかなと思っています」
――「自分の意志と関係なく、いきなり環境が変わる」という設定も、現実世界では転勤や進学、引っ越しなどにも通じる話ですよね。
「ほとんどの主人公が、自分の意志ではなく召喚や転生される。いきなり置かれた環境下でどう立ち回っていくか。その部分が、現実世界で生きる私たちにとっても、異世界ものと共通するテーマになっているんだと思います」
■役作りは「そのキャラとして生きること」

――役作りをするうえで、内山さんならではのやり方やルーティンはありますか?
「恥ずかしながら、私、自分の気持ちや考えていることを言語化するのがとても苦手でして...。だから、役について『どう演じていますか』って聞かれると、うまく言えないことが多いんです。かっこよく言うなら『そのキャラとして生きています』とかになってしまうんですが...(笑)」
――むしろ、めちゃくちゃかっこいいです(笑)。
「でも、冗談ではなくそれ以上でもそれ以下でもなくて『そのキャラになりきる』としか自分では言いようがないんですよね。その代わり、収録に臨むまでのルーティンは色々あります!台本のすべての漢字にふりがなを振って、自分の役のセリフに赤線を引いて、さらにその上から重ねてマーカーを引いて...。それをすべての台本でやっています。だから事前の台本チェックにかけている時間は、ほかの声優さんよりも長いんじゃないかな」
――そのやり方は、ずっと変わらず?
「変わらないですね。『このルーティンを崩したら、私は機能しなくなる』とすら思い込んでいて...。あんまり自分のことを信用していない節があって、そうじゃないと『セリフを見逃してしまうんじゃないか』とか思っちゃうんです」
――内山さんって、少し心配性なほうですか?
「少しどころじゃなくて、相当な心配性だと思います(笑)。つねに、不安要素を取り除いたうえで臨まないと、できなかったときに『あれをやらなかったからだ』ってなってしまう気がして...。やれるだけのことをやって『それでもできなかったらしょうがない』という気持ちじゃないと、性格的に怖くてのぞめないというか」
――なるほど...!ちなみに、台本の準備をするときには読み方やキャラの感情なども書き込んだりするんでしょうか?
「たとえば、原作からアニメ化するときにやむを得ずカットされちゃうシーンって、あったりするじゃないですか。でも、アニメの中では、その省かれた部分も補ってお芝居をしなきゃいけないときもあるんですよね。そういうときは、自分の中で整理するために、『この場面の裏側ではじつはこういうことが起きていた』ということを書き込んだりはします。
逆に、『会話の流れが大事』だと思う場面では、とくに何も書かないです。相手がどう出てくるかによって自分の言い回しも変わってくるから、言い方を書き込んでしまうとそこに引っ張られてしまう気がしてしまって。あとは、キャラクター同士の距離感や、街の喧騒で喋るシーンだから声を大きめにしなきゃいけないなど、環境や状況の情報は、しっかり書き込むようにしています」
■役に合わせて前日からメンタルを変えていく

――先ほど「そのキャラになりきる」というお話をお聞きしましたが、キャラクターに気持ちを乗せていくためにはどんなことが大事になってくるんでしょうか?
「たとえば、この春のクールに放送する『左ききのエレン』という作品で、主人公のエレン役をやらせていただくんですが、エレンで言えば、前日にめちゃくちゃ鬱々とした気持ちを、自分で作っていきます(笑)。たとえば、『私は孤独なんだ、誰も味方なんていないんだ』って思い込むようにしてたり...」
――それを自分に言い聞かせるような?
「『自分に言い聞かせる』というよりも、そういう考え事を続けて、自分をそっちに寄せていく、という感覚に近いです。私、たぶん不器用なんですよ。エレンのような役を、日常生活からいきなり切り替えて演じることができない。だから、前日から一生懸命、その方向に気持ちを持っていって、まず状態をつくってからじゃないとお芝居ができなくて...」
――実際に、その方向で考えごとを続けると、そういう気持ちになれる?
「そうですね。私の場合、そんなふうにするしかできないので、そうしています。こういう仕事をしておいて言うことではないんですが、私って、じつはこの仕事にとても向いているとは思えないメンタルをしていまして...」
――ええと...いま、このお話の中で、ちょっとエレンが入ってきてませんか(笑)。
「たしかに、そうかも(笑)!でも、本当にこんな感じで考えていくんです。オーディションを経て、制作の方々に望まれた形でお仕事ができることに対する感謝はものすごくある。だけど、いざオファーをいただくと『私でまっとうできるのか』『その器に足りるか』『みなさんを後悔させないだろうか』って」
――そこまで徹底してやられてるんですね...!ちょっと暗めの例になってしまいましたが、逆に明るいキャラのときには、明るく振る舞うんですよね?
「そうですね。ただ、前々回のインタビューでもお話ししましたが、たとえば『お気楽領主の楽しい領地防衛』のヴァンのときは、『座長として、しっかりやらねば!』と背負い込みすぎてしまって。盛り上げるつもりが、ちょっと視野が狭くなってしまって、気づいたらみんなに盛り上げてもらう側になっていました。エスパーダ役の堀内賢雄さんをはじめ、先輩方がお茶目な感じで場を作ってくださって。ディー役の小林親弘さんも『みんな、頑張ろう!』とか掛け声をかけてくれたりして、私ももう『みんな、頼む』みたいな気持ちになってましたね(笑)。そんなふうに周りの人たちに支えられる姿が作品内での構図と重なったのか、監督からは『ここに、本当にヴァンがいました』って言われてましたね(笑)」
声優・内山夕実インタビュー#1「声優への道のりはけっしてスムーズな一本道ではなかった」
■いまの仕事も、いまいる場所も、あたり前じゃない

――理想の声優像や今後の目標というとどんなことが思い浮かびますか?
「理想としては、『必要とされ続ける声優』でありたいなと思っています。もっと具体的に言うと、任せていただいた役を『あなたでよかった』と思ってもらえるお仕事ができる人でありたい、という感じです」
――いつ頃からそう思うようになったんですか?
「社会人経験を経て、この世界に戻ってきたときからですかね。私、こうしてお仕事をいただくことも、自分がこの場所にいられることも、まったくあたり前じゃないと思っているんです。前回、前々回とお話した通り、『もしこうなっていたら、声優じゃなかったかもしれない』ということが多い道のりだったので、本当にいろんな人とのご縁のおかげで、いまがあるんだなって...。けっしていまの自分があるのは、自分一人の力だけではないって思っています」
――すごく素敵な考え方ですね。
「お仕事への感謝はもちろんですけど、その作品に携わる人たちに『内山さんでよかった』と思ってもらいたい。ときには、ボロボロになって周りの人に助けてもらってしまうこともあるんですけどね(笑)。だけど、このやり方をすぐに変えることはできそうにないから、みなさんに支えてもらう自分、完璧じゃない自分を認めてあげつつ、いい仕事でお返ししていきたいなと思います」
――きっと、そうして全身全霊で仕事にのぞんだ日のお酒はきっと格別の味ですね(笑)。
「それはもう...!日々、お酒の味わいは全然違いますから(笑)。みんなでわーっと飲むのも楽しいし、孤独を感じながら一人で飲むお酒もまた味がある。どちらもそれぞれ美味しいから、困ったものだなと思います(笑)」
■「俺、3回もやられてるんだけど...」|「Re:ゼロから始める異世界生活」パック

(C)長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会
――「Re:ゼロから始める異世界生活」(以下「Re:ゼロ」)では、エミリアの相棒である精霊・パックを演じられています。まずは、内山さんから見たパックの印象を教えてください!
「......じつは本編ではスバルのことを3回も倒してる、という(笑)」
――いきなりそこ...!?(笑)しかも、スバルを演じる小林裕介さんは、内山さんの旦那さんですよね。そんなに倒されていたとは...!
「じつはそうらしくて、私も言われて初めて気がついたことなんですよ。『俺、3回もやられてるし。なにげに俺が一番パックにやられてるんじゃない?』って(笑)」

(C)長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会
――ご夫婦のあいだで、そんな会話があることがおもしろすぎます(笑)。
「そうなんですよ~!『Re:ゼロ』ってスバルが死ぬたびに時間が戻るから、どこか、つねに違う世界線で話が進んでいく感じがするじゃないですか。その中で、スバルだけが記憶を持ち続けている。そう考えると、『自分のことを3回も倒したパックと仲良くする』って、相当すごいことじゃないですか!?ふつうだったら警戒してあたり前だし、関わりを絶っても不思議じゃない。そういうところから、スバルのいい人っぷりも伝わってくるんだなって、あらためて感じたりもします(笑)」
――なるほど...。っていうかナチュラルにスバルの話になっちゃいましたけど、パックのお話もお願いします!(笑)
「そうでした(笑)。最近のシーズンは登場していないので、本当に序盤の話になってしまうんですけど。本当に最初の頃は、シリアスな空気をうまくやわらげてくれるマスコット的なキャラクターだなという印象でした。掴みどころがなくて、つねに飄々としているんだけど、いざというときはエミリアを守るために一緒に戦ってくれる、すごく頼もしい存在だなって感じていました」
――演じているなかで、パックとの向き合い方に変化があったりもしたんでしょうか?

(C)長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会
「思い浮かぶのは、2019年に劇場公開された『氷結の絆』(OVA第2弾)のときで、パックとエミリアの出会いから、2人が強い絆で結ばれるまでの物語が描かれているんです。そこではいままで演じたことがないくらい、パックが感情的になっていて。エミリアのことをどれだけ本当に大切に思っているのか、その覚悟をあらためて感じることができたので、すごくいい機会になったような気がしています」
■抜群のチームワークとキャラクター同士の絆|「Re:ゼロから始める異世界生活」パック

(C)長月達平・株式会社KADOKAWA刊/Re:ゼロから始める異世界生活製作委員会
――『Re:ゼロ』のアフレコ現場での思い出やエピソードなどがあれば教えてください!
「思い出...といってももう10年近く前の話になってしまうんですけど、キャスト陣が本当にみんな仲が良かったんですよ。作品自体は、重くてシリアスな空気感なこともたくさんあるんですけど、だからこそ、座長がやっぱり毎回魂を削って"死に戻り"をやっていたので、『それをみんなで支えねば...!』っていう一体感が、毎回生まれていたような気がします」
――小林さんのお芝居、本当にすごいですもんね。以前、この企画でお話をおうかがいしたときも、「スバルのおかげで喉が強くなった」とおっしゃっていました(笑)。
「お芝居も毎回、全力投球でしたし、『Re:ゼロ』ってアフレコ以外の稼働も多めの作品だったので、『アフレコ終わりにそのまま取材』みたいな日も結構あったんですよ。だから、全力でやり切った座長にこれ以上無理をさせないように...!って、みんなで一丸となって助け合っていた記憶があります」
――いいチームワークですね...!あらためて、内山さんから見た「Re:ゼロ」の魅力は、どんなところにあると思いますか?
「やっぱりいちばんは、スバルが"死に戻り"の能力を使いながら、過酷な運命や絶望に抗っていく姿じゃないでしょうか。何度死んで、絶望的な状況に追い込まれても、大切な人を守るために再起していく不屈の精神。過去の失敗を嘆くだけじゃなくて、一歩一歩成長して前に進んでいく姿に、みんな勇気をもらえるんじゃないかなって思っていて、そこがすごくこの作品のテーマにもなっているんじゃないかと思うんです。
とくに第3期は、シーズンを重ねて積み上げてきたキャラクターたちの絆が、みんなで共闘するシーンでいよいよ花開く感じもありましたよね。『スバル、いままで頑張ってきてよかったね』って。思わず胸が熱くなるシーンがたくさんあったし、いままでの積み重ねがあったからこそ、これだけのおもしろさが生まれてくる。そういうところも、この作品ならではの部分だと思います」
■それぞれの家族愛に胸を打たれる|「夜桜さんちの大作戦」夜桜七悪

(C)権平ひつじ/集英社・夜桜さんちの大作戦製作委員会・MBS
――「夜桜さんちの大作戦」では、夜桜家の四男である七悪を演じています。
「そう、いきなり物理的な話から始まってしまうんですけど、七悪くんの場合、体が大きい状態のときはバケツをかぶっているので、音声を加工しなきゃいけないんですよ。だから、家族みんなで一緒にわーっとしゃべっているシーンでも、じつはつねに別録をしていたりして。みんなで和気あいあいとやっているところに『七悪くんだけ1人でやってください』ってなるのが『ちょっと寂しいな』と思う瞬間もあります(笑)」

(C)権平ひつじ/集英社・夜桜さんちの大作戦製作委員会・MBS
――たしかに...(笑)。逆に体が小さくなってバケツが取れると、ようやくみんなと一緒に収録できる。
「そうなんです。アニメを見ていただいているとおり、体がちっちゃくなるとバケツも取れるので、そうなるとみんなと一緒に和気あいあいできて、それはすごく楽しいです(笑)」
――キャラクターとしての魅力はどんなところだと思いますか?
「大人しくて控えめ、穏やかな性格ではあるんですけど、本当にひたむきな男の子なんですよね。『家族のためなら、ときには命がけで戦う!』っていう、見た目のイメージとは裏腹にしっかりと強い意志を持っている。そのギャップがすごく魅力的だなって思います」
――こちらも、アフレコ現場での思い出やエピソードがあれば教えてください。
「じつは、これまで共演したことがなくて、『夜桜さんちの大作戦』で初めてがっつりレギュラーでご一緒します、という方もいらっしゃる現場だったんです。だから、現場に入るまでは『ちゃんと仲良くなれるだろうか』っていうドキドキ感も結構ありました。でも、いざ入ってみたら、太陽役の川島零士くんが、もうカンッペキな潤滑剤!(笑)みなさんの間を繋げつつ、場を盛り上げてくださる方なので、もう最初の段階でそういう緊張はあっという間になくなりました。夜桜家のグループLINEも作ったりして、アフレコがない日でもつねにやりとりするくらい、仲良しでした(笑)」
――そんなに...!
「作品のLINEスタンプも出ているので、それをみんなで利用しているんですけど、なかでも四怨姉ちゃん役の悠木碧ちゃんが七悪を溺愛してくれていて...!私が七悪のスタンプを送ると、会話の流れに関係なく『七悪かわいい』って秒で返してくれる、みたいな(笑)。あんなに忙しい人なのに、いつ打ってるんだろうっていう速さだったので、途中『Botなんじゃないか』と疑われてました(笑)」
――そのエピソードだけでも、仲良しぶりが伝わってきます(笑)。
「アフレコ終わりとかに『みんなでご飯行きたいね』ってなると、長男・凶一郎役の小西克幸さんが『焼肉行くぞ!』ってみんなを引っ張ってくれて、一緒にご飯を食べに行ったりもしてましたし。まさに家族のような居心地の良さでした」
――でも、それだけ仲良しだからこそ、あの兄妹の空気感が作品からも伝わってくるんだな、と思いました。あらためて、作品としての魅力もお伺いできますか?
「『夜桜さんちの大作戦』の魅力は、なんといっても家族の絆と、家族の成長。そしてそれが大きなテーマだと思っています。スパイという風変わりな家族の中に、お婿さんとして飛び込んできた太陽くんが、愛する奥さんの六美、そして家族を守るために強くなっていって、どんどん本当の家族になっていく。その様子が、すごく温かく描かれているところが、本当に素敵ですよね。それぞれ形は違うけど、兄妹みんなが家族のことを大切に思っているからこそ行動や言動に、心打たれることがたくさんありました。普遍的なテーマでありながら、バトル漫画ではあまり扱われてこなかったジャンルでもあるので、幅広い層の方に刺さる作品なんじゃないでしょうか」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉




