TVアニメ「とんがり帽子のアトリエ」文房具好きも心奪われる美しく描かれる魔法の世界【松井玲奈】
アニメ 見放題連載コラム
2026.06.03
子どもの頃、どんな力が手に入ったらうれしいだろうかと考えた時、真っ先に頭に浮かぶのはいつだって「魔法が使えるようになりたい」でした。空を飛んだり、何かを作ったり、魔法が自分の手の中にあれば日常がより良いものになるのではないか、どんな魔法が使えるようになりたいかと空想にふける。そんな幼少期を過ごしていました。
「とんがり帽子のアトリエ」の放送が始まってすぐ、文房具や道具類の描写が非常に細かいアニメ作品があると話題になりました。文房具好きの私はどんな物語か気になって調べてみました。すると、魔法使いに憧れる女の子が主人公の物語と知り、幼い頃の自分と主人公のココを重ねて惹かれるように、作品に触れることになりました。

(C)白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会
魔法使いに憧れる少女が足を踏み入れた世界
小さな村で母親の仕事を手伝う少女ココ。彼女は幼い頃に出かけた町のお祭りで、ペンと魔法の絵本を手に入れます。これがあれば魔法使いになれるかもしれない。それ以来ずっと、彼女は魔法使いへの憧れを抱きながら生活をしていました。でも、この世界では魔法をかけることができるのは魔法使いだけ。どんなに憧れていても彼女が魔法使いになることは難しい。

(C)白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会
魔法をかける瞬間を見てはならないのがこの世界のおきて――ある日、ココは好奇心に負け、魔法使いキーフリーが魔法を使う場面を目撃してしまいます。なんと魔法使いにしか使えないと思っていた魔法は、呪文や特別な力でかけるものではなく、特別なインクと決められた魔法陣があれば、誰にでも「描ける」ものだったのです。重大な秘密を知ってしまった彼女はキーフリーの元で魔法使いの見習いとして、アトリエの仲間と共に謎に包まれた魔法の世界に足を踏み入れていきます。

(C)白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会
文具好きの心を揺さぶる、緻密で美しい描写
第1話から作品の世界観や、出てくる文房具や道具、それを使う手さばきの美しさに心惹かれていた私。とにかく手元の表現が美しく、手になじんだ道具を使い布地に線を引くココのまなざしや、体の動きに引き込まれていきました。そして画面の描き込み量がとんでもなく細かい。時折出てくる昔の話を説明するおとぎ話テイストの一枚絵は、あまりの美しさにじっくりと眺めてみたいと思うほどでした。おそらく、魔法、西洋的なものが好きな方には心にグッと刺さるものがあるのではないかと思います。

(C)白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会
魔法を描く時に使う万年筆、インクを浸すペン先、紙にインクが触れる瞬間など、本当に細かなところまで丁寧に描かれています。魔法を使うためのインクが、特別な木から抽出する木の血液「樹血」から作られているという設定にも心躍るものがあります。でもこのグッとくる感覚は一体なんなのだろうかと考えた時、海外の児童文学に似たものを感じたのです。ドラゴンが出てきたり、魔法の力があったり、普通に暮らしていたら知ることのできない世界のコミュニティーがあること、そしてそれが世界の平和を担うのに大きな役割を持っていること。幼い頃に寝る時間を削ってかじりつくように触れていた、空想の世界の物語。そこに通じる空気がこの作品にはあふれていました。

(C)白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会
アトリエの仲間たちと切磋琢磨する成長物語
物語の中で、ココやアトリエに集う魔法使いの弟子である、優秀でプライドの高いアガット、明るく元気なテティア、マイペースなリチェたちはぶつかり合いながらも互いを高め合っていきます。その関係性も成長物語として素晴らしく、誰かが苦手なことは得意な誰かが補う。全員で知恵を出し合いピンチも切り抜けていく。特に第5話「巨鱗竜の迷宮」は、不思議な空間に閉じ込められてしまった4人が脱出方法を探すため互いに助け合い、少女たちが大きく成長をするきっかけとなる回でした。

(C)白浜鴎/講談社/「とんがり帽子のアトリエ」製作委員会
描くことで使える魔法は、誰でも使えてしまうからこそ危険を伴う危ういもの。だからこそこの世界では魔法は秘密に閉ざされ、決められた人物しか使えないようになっている。その中でココは誰かを傷つける魔法ではなく、人を幸せにできる魔法を使いたいと気づいていきます。しかし、その彼女には暗い影が付きまといます。それはココに絵本を渡した、つばあり帽のイグイーン。まるで暗がりへ誘い込むようにふっと現れ、ココに試練を与えていくのです。
アニメから「とんがり帽子のアトリエ」に出会った私はこの物語の行く末をまだ知りません。ココはどうなってしまうのか。禁忌魔法を跳ね除け、正しい魔法を学び、人を幸せにする魔法使いになることができるのか? ココたちの成長を見守りながら、物語の行末を本のページをめくるように楽しもうと思います。




