TVアニメ『あかね噺』永瀬アンナ×江口拓也×高橋李依が語る、1年間の落語稽古と役を背負う覚悟
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2026.04.25
週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画『あかね噺』のTVアニメが、4月より放送されている。本作は、落語家だった父に憧れていた女子高生・桜咲朱音が、学生落語の天才・練磨家からしや人気若手声優・高良木ひかるといったライバルと競いながら、落語界の最高位"真打"を目指す本格落語ものがたりだ。1年近い落語の稽古を経て収録に挑んだという朱音役の永瀬アンナ、からし役の江口拓也、ひかる役の高橋李依に、本作の魅力や落語との向き合い方について語ってもらった。

■キャラクターへの深い洞察と役作り。復讐心から"東京の女"の演技まで
──まず、ご自身が演じるキャラクターについての印象や、役作りで大切にしたことを教えてください。
永瀬アンナ「朱音はまっすぐで熱いものを持っていて、作品内でもとくにエネルギッシュな子だと思っています。一方で、落語にもポジティブな気持ちで向き合っているので、兄弟子や周りの人に指摘された改善点も素直に受け入れるなど、意外とさっぱりした一面もあると感じました。ただ、朱音は父親を破門されたという過去があって、根底には復讐心(ふくしゅうしん)みたいな暗い感情も持っているんです。だから前向きなパワーだけではなく、一つひとつの言葉に対して『これはどんな気持ちから出た言葉なんだろう』と丁寧に出力しようと意識していました」

江口拓也「原作を読んだときの第一印象は『いけ好かないやつ』で(笑)。からしのひょうひょうとして何を考えているかよく分からない感じは、アニメでも出していきたいなと思っていました。読み進めるうちに、どうしてこういう性格になったかが分かるので、原作を読んでいない方はぜひアニメで見ていただきたいところですね。きっと彼は夢中になれるものを探していて、それに出会えて世界に色がついたと感じるような瞬間があったんじゃないかなと思っています」

高橋李依「私は原作からのファンで、表現の世界にフォーカスしたときに、声優の女の子を出そうと思ってくれたことが同業者としてすごくうれしかったのを覚えています。ただ毎週原作を追っている分、私の中にある最新のひかる像は感情をしっかり表に出す、"戦闘民族"みたいな状態なんですよ。でも初期のひかるはそれを隠しているので、アニメではクールさを盛って"東京の女"を演じました(笑)。とにかく負けず嫌いで、他者がいてこそ成り立つ表現への渇望があるのかなと思っています」

■1年間にわたる落語稽古の舞台裏。ストイックな研究から「お酒」を味方にした練習法
──放送の1年以上前から落語の稽古をしていた動画がYouTubeでも公開中です。監修の林家木久彦師匠のお手本を見た後、どのように練習されたのでしょうか。
永瀬「まずはセリフを書き起こして、録音した音声を聞きながら自分でも繰り返すということを30回くらいやりました。覚えたらビデオに撮って、お客さん視点でどう見えるのかを研究しました。お忙しい先輩方が熱心に稽古に参加されているのだから、私は誰より早く覚えてあげてもらわないといけない(できているか見てもらい許可をもらう)と、朱音役としてのプレッシャーとやる気が強すぎたので、ものすごい早さで覚えていたと思います」
江口「自分は怠惰な人間で暗記も苦手なので、ストイックなイメージのある2人に囲まれてどうしようかなと思った結果、怠惰な自分なりのやり方で挑むしかないと思いました。仕事が終わったら毎日酒を飲むというルーティンは変えないまま、覚えたネタを酔ったままでもちゃんとできたら成功だと思って寝るみたいな(笑)。自分のペースを崩したら、終わりだと思ったんです。それに、普段あまり感情が表に出ないタイプなので、酔った状態でやることで『自分の中にこんな感情の扉があったのか』と意外なヒントが得られることもあって。そういう刺激が何かしら、落語をやる中でじわじわにじんでくるんじゃないかなと思っていました」
高橋「私はとにかく書いて覚えるタイプでした。声優の仕事は台本があるので、音声だけでは内容が頭に入ってこなかったんです。『ここでページをめくれば自分の頭が切り替わる』という感じで、自分がやりやすいようにまずは台本作りにこだわりました。腰を据えてやらないと落語モードにならないので、カフェに行ったり、場所を変えたりしてやりました。集中して書きながら覚えるうちに、4時間くらい経っていたこともあります。家の中でも『部屋のこの場所に座ったら落語の時間』と決めてやっていました」

(C)末永裕樹・馬上鷹将/集英社・「あかね噺」製作委員会
■演目への誠意とアフレコ現場の職人芸。落語を通じて深まったキャストの信頼関係
──キャラクターを演じながら落語をやる楽しさや、難しさについても教えてください。
永瀬「落語シーンは、本編とは別に時間をとって収録するんです。まずは自分が思うままに落語をやってみて、木久彦師匠や音響監督と、物語の流れやこのシーンで何を伝えたいのかなどをディスカッションするという流れでした。そうやって毎回、丁寧に朱音としての落語シーンを完成させていったので、悩むこともありましたが、総じて楽しかったですね。とくに苦戦したのは『寿限無』です。『寿限無寿限無五劫のすり切れず〜』という言い立てよりも、その前の会話シーンが苦手でした。悩みすぎた結果、収録当日までしばらく『寿限無』をやらずにいたんです。そうしたら、いつもは1時間半かかる落語シーンの収録が、その日だけ15分で終わって(笑)」
高橋「えっ、早い!」
永瀬「あえてちょっと時間を置くことで、気楽にできたのかもしれないという発見がありました」
江口「古典落語は、いろいろな噺家(はなしか)さんがやっていますが、からしは『転失気(てんしき)』を現代風にアレンジした改作落語をやるので、お手本がないのが大変でした。そもそも、アフレコ現場でからしというキャラクターを作ったと思ったら、次の収録ではからしとして落語をやらなきゃいけないという状態で。ただ、1年以上落語の稽古をしてきた自負もあったので『なるようになるだろう』という気持ちで挑みました。収録前に、三遊亭ごはんつぶさんが時間をとってくださったので、『転失気』について解説してもらう座学の時間もありました。そこからディスカッションして、どう楽しんでもらおうかと考えて創作していったので、からしらしいアプローチで作れたんじゃないかなと思っています。1時間の収録が終わったときは『この落語シーンを収録するための1年間の稽古だったんだな』という感慨深さがありましたね」

(C)末永裕樹・馬上鷹将/集英社・「あかね噺」製作委員会
高橋「私の場合は、アフレコ前までは『ひかるの声で落語をやる』という認識でしたが、実際にアフレコが始まったら考えが変わりました。『芝浜』をやる彼女が『できん!むずい!』と言うシーンについて、音響監督から『2人の登場人物が掛け合いをしているけれど、切り替えがうまくできず男の雰囲気のまま女のセリフを言っちゃった』と明確に苦戦しているポイントの説明があったんです。"ひかるが挑んでいるもの"がすごく分かりやすくなったこともあって、私も『芝浜』という演目に本気で挑めばいいんじゃないかと思うようになりました。ひかるというフィルターを意識しすぎず、『芝浜』という演目に全力をそそぐことが、声優でありながら真剣に落語に取り組む彼女への最大の誠意かもしれないなと。それで、とにかく『芝浜』を全力で表現しようという考えになりました」

(C)末永裕樹・馬上鷹将/集英社・「あかね噺」製作委員会
──アフレコ現場の雰囲気や、印象的だったディレクションについて教えてください。
永瀬「4話くらいのときに『あまり考え過ぎずにやってください』と言われたのは、記憶に残っていますね。朱音は一生との因縁があり、ただ前向きなだけではないキャラクターですが、『女子高生でまだ若いのでどういう芝居にしようと考え過ぎず、永瀬の持つパワーを前面に出してください』と言われたんです」
江口「アフレコは基本的に10時〜15時または16時〜21時という限られた時間の中で、最適解を模索する職人芸だと思っているのですが、その時間ギリギリまで使って最大限こだわっていることをひしひし感じました。『今のよかったな』と思う1つの正解が出ても、『こういうアプローチだったらどうだろう』といろいろなパターンを試していくんです。細かく作り込んでいく、挑戦的な現場でしたね」
高橋「私は声優役なので、作中でアフレコシーンがあったんです。でも普段と同じようにやったら、他のシーンとの違いが出ないので『アフレコの演技だとはっきり伝わるように誇張してほしい』というディレクションが入りました。相方役のキャストさんと一緒に芝居をするうちに、どんどん大仰になっていくのが楽しかったです(笑)」

──朱音、からし、ひかるは切磋琢磨するライバルですが、落語の稽古なども経た今、キャスト同士のお互いの印象や関係性についてはどう感じていますか?
永瀬「お二人ともキャラクターに似ていると感じます。江口さんは落語をする姿とか、声を出しただけでもちょっと面白いというか(笑)。李依さんは真面目にとことん落語と向き合う姿勢が、ひかるとすごく似ています。自分ももっと頑張らなきゃと思わせてもらえる存在でしたね」
江口「事務所の後輩なので、仕事ぶりへの信頼はもともとありました。自分は積極的に周りと仲良くなろうとするタイプじゃないのですが、一緒に稽古するうちにそれぞれのストイックさが見えてきて、より信頼が強くなったなと思います」
高橋「原作が大好きなので、キャストの顔ぶれを知ったときは、同じ事務所に『あかね噺』への情熱を持った人がいるんだとすごくうれしくて。お互い『やるじゃん!』みたいな、グータッチしたい気持ちでした(笑)。落語の稽古に入ったら、それぞれに熱さを持っていて頼もしいし、皆がいてくれるおかげで私もとことん突き詰めようと思えましたね。関係性も含めて皆キャラクターとすごくリンクしていて、だからこそ選ばれたんだろうなと感じています」

──落語といえば師匠に弟子入りして腕を磨いていきますが、声優として師匠のような存在はいらっしゃいますか?
永瀬「篠原恵美さんにはものすごくお世話になりました。養成所時代の先生ですし、初めてアフレコ現場に入ったときもずっと隣にいてくださって。いつも『アンナなら大丈夫だよ』と元気づけてもらいました。心から尊敬する存在ですね」
江口「特定の師匠というのは、あまり思い浮かばないです。アドバイスをいただいた際に『これは大切なものだけれど、これは今の自分には必要ない』というふうに取捨選択をすることも大事だと思っているので、誰に言われたというより、何を自分が選択するかだと考えている気がしますね」
高橋「師匠と言われて最初に浮かぶのは、養成所の先生だった中尾隆聖さんですね。でも各方面にいろいろな師匠がいてくれるというか......。例えば、よく飲みに行って愚痴を聞いてくれて、私の流した悔し涙を知っているのは、福島潤さんですね(笑)」

──本作で初めて落語に触れる方もいらっしゃると思いますが、落語と『あかね噺』の楽しみ方についてメッセージをお願いします。
永瀬「気楽に見てほしいです。というのも、初めて寄席(よせ)に行ったとき、最前列で眠っている人がいたり(笑)、ごはんを食べることができたり、家にいるみたいにリラックスして楽しんでいるお客さんが多くて、びっくりしたんです。落語って敷居が高いものだと思っていたのに、実際に行ってみると全然そんなことはなくて、素敵な娯楽だなと感じました。このアニメは、音楽や演出が加わって、落語に触れたことがない方でも見やすくなっていると思うので、難しいことは考えずに映像や芝居にただただ見惚(みと)れてほしいです。劇伴もかっこよくて大好きなので、そこにも注目してください!」
江口「『あかね噺』を見ていただくと、彼らが夢中になっている落語に対して、もっと興味が湧くと思います。寄席に行ってみたり、音声を聞いてみたり、今はいろいろなところで聞けますから。聞けば聞くほど、触れれば触れるほど、味わい深いものなので『あかね噺』から落語の世界に入ってみてほしいですね」
高橋「『あかね噺』のファンとして、TVアニメという媒体でもお届けできることがまずうれしいです。主題歌から入っていただいてもいいですし、落語が好きな方、好きなキャストがいる方、演出が好きという方など、いろいろな視点があると思います。『あかね噺』はどこを切り取っても強い、いい作品になっていますので、ぜひ自分なりの鑑賞法で楽しんでほしいです」

取材・文/中島文華 撮影/中川容邦




