声優・ファイルーズあいインタビュー#2「『期待の新人』でいようとした私。"完璧主義"を手放したら気持ちが楽になった」

声優・ファイルーズあいインタビュー#2「『期待の新人』でいようとした私。"完璧主義"を手放したら気持ちが楽になった」

「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」の空条徐倫役をはじめ、『チェンソーマン』のパワー役、「怪獣8号」の四ノ宮キコル役など、数々の人気作品で圧倒的な存在感を放つキャラクターを演じるファイルーズあいさん。みずから道を切り拓いていくような力強くパワフルな声と、内面に深く潜り込む繊細な表現力は、どこから生まれるのか。このインタビューでは全3回にわたって、出演作品や役に抱く思いとともにファイルーズさんの素顔に迫ります。

■良い思い出だけじゃなく、どんな経験も愛おしい

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――ふだん、どのように役作りをされているのでしょうか。

「ほかの方はどうかわからないですが、私の役作りは、自分の中にある"感情"や、"思い出の引き出し"から、『いま、この子にいちばん寄り添えるエピソードはなんだろう?』と探して、当てはめていくやり方です。たとえば、少し暗いお話になってしまいますが、"キャラクターが大切な人を失ってしまうシーン"があったとして、そういうときは『あのとき、友達ともう会えなくなってしまったな』という記憶を呼び起こして、その感情をお芝居に乗せます」

――近い感情を自分の中から見つけてくることで、感情にリアリティがでますね。

「そうすると、ときには自然と涙がこぼれたりもします。でも辛い記憶さえも今の私の糧になっているんだなって考えると、その辛かった思い出って、けっして『経験しないほうがよかった』ものではなくなっていくんですよね。過去の悲しい出来事すらも、すべて表現の力に変えられる。そう思うと、どんな経験だって愛おしく感じられる気がするんです。それは、このお芝居というお仕事だからこそできることだと思います」

――良い思い出だけじゃなく、"どんな経験も愛おしい"ってすごく素敵です。

「ありがとうございます。その瞬間に『私はいま、世界で一番この子に寄り添えているんだ』って実感できる。その感覚が、演じている私にとってもすごく嬉しいんですよ。

――でも、自分の記憶からその瞬間の感情を鮮明に引き出すのって、難しいんじゃないでしょうか...?

「そうですね、だからじつはもう何年も、毎日欠かさず日記を書いています。日記に書き残しておくことで、やっぱりその瞬間に近い形で感情がよみがえってくる。『わかるよ、いま、すごく悔しいよね』って、そのキャラが抱く感情に寄り添うことができるようになるんです。それだけでなく、日記は誰とどんな会話をしたかを記録しておけば、次にお会いしたときのコミュニケーションにも繋がりますし、本当に日記は大切にしています」

――本当に努力家というか、一つひとつの役に真っ直ぐ向かわれる姿勢が素晴らしいです。

「そもそもの話、オーディションで選んでいただけたり、お声がけいただけるのは、きっと私とそのキャラクターの間に、何かしら"似ている部分"があるからだと思うんです。だから、まずは自分との共通点を徹底的に洗い出して、そこからカチッとピースがハマる部分を探していく。日記はそのためのツールだし、そのやり方が私には一番しっくりきてるような気がします」

――"似ている部分"、たしかに。逆に、自分とは正反対の役柄や、意外性を感じるキャラクターと出会うこともありますよね?

「全然似ていないキャラクターの役をいただくことも、もちろんありますよ!でも、そもそも私はこの仕事を愛していますし、演じることが大好き。自分とはまったく違う人間になれるということに、すごくワクワクしています。たとえば『ヒプノシスマイク』で演じさせていただいている、中王区の邪答院 仄仄(けいとういん ほのぼの)とか、前回のインタビューでお話しした『ラス為』の外道プライドとかね。彼女たちは、本当に性格がよろしくないというか......(笑)」

――性格がよろしくない(笑)。

「そう、本当にひどい人で、実際の私はもちろんそういう性格ではないんですけど(笑)。ただ、いちユーザーとしては、私はそういう振り切ったキャラクターが大好きで...!ぜひ前回のプライドのお芝居のお話しも読んでいただければと思いますけど、そういうキャラは演じていて本当に楽しくて、周りから見ても生き生きしてるみたいです(笑)」

■"期待の新人"は、完璧じゃなきゃいけないのか

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――役作りをするうえで、何かルーティンでしていることなどはありますか?

「うーん、あまりなくて、台本への書き込みは本当に必要最低限なんですよね。ルビは全部に振りますけど、あとは自分のタイミングのタイムコードを拾ったり、パッと見て分かりにくい感情の起伏にマークをつけたり...くらいかな。あとは『ここはゆっくり』『ここは立てる』といった基礎的なチェックだけに留めています」

――それには何か理由があるんですか?

「あえて役を固めすぎないようにしている、って感じですかね。じつは以前の私はかなりの完璧主義者で、そのぶん柔軟性に欠けてたと思うんです。でも、だんだんと仕事に向き合っているうちに、『作品を生み出した方や、ディレクションしてくださる方が現場にいるのに、私一人でガチガチにプランを固めていくのは、ある種のエゴなんじゃないか』って思うようになったんです。キャラクターは私が生み出したものじゃない、って。だから、どんな指示を現場で受けても、対応できなきゃいけないし、それがプロ。そう思うようになってからは、『言われたことをまず受け止める』というスタンスを一番大切にしています」

――なるほど...!でも、"完璧主義"から脱却するって簡単じゃないと思うんですが、なにかきっかけがあったんでしょうか?

「以前は、みんなに好かれようとして、無理に空元気を出したり、『明るくなきゃダメ。だって私は"ファイルーズあい"だから!』という感じで、結構自分に無理をさせていたんですよ。前に、少し心身ともに体調を崩してしまった時期に、メンタルバランスや心理学の本をすごくたくさん読んだんですよね。自分の気持ちに向き合うために、必死になってシャドウワークジャーナルもやりました。『私は本当はどんな人間なのか』『私は何を恐れているのか』って。とにかく自問と自答してノートに書き殴りました」

――そうやって、心の奥にいる"本当の自分"に向き合ったんですね。

「それを続けているうちに、だんだんと自分が完璧主義だってことがわかってきた。『じゃあ、なぜ私は完璧主義なんだろう』という問いを、突き詰めてたら『みんなに"期待の新人"って思われたいからだ!』っていうところが見えてきた。でも、『"期待の新人"は、完璧じゃなきゃいけないのか』って考えたら、けっしてそんなことはないんですよね」

――たしかに...!むしろ、"完璧だから"という理由で期待されているわけじゃないですもんね。

「そうなんですよ。それって"完璧だから"じゃなくて、逆に『伸びしろがすごそう』とか、『個性的』とか、人それぞれいろいろな理由があるじゃないですか。そこに至って、ようやく完璧主義であることを少しずつ手放せるようになった気がしました」

――すごいお話しを聞いている気がします...!

「そうですか?(笑) でも、そうやって自分の心とていねいに向き合う時間をとったおかげで、それまであったつらい出来事も『自分を成長させてくれるものなんだ』という気持ちになりました。起きた出来事は変えられないけれど、それをどう定義するかは自分で決められる。前回お話しした『プライド』というキャラクターの捉え方も、この経験は大きく影響していると思います」

――大きな心境の変化ですよね。

「実際、すごく気持ちは楽になりましたよ...! たとえば私は、爪の形が小さいのがコンプレックスなんですが、『爪の先まで完璧じゃなくちゃ』と思ってたから、ジェルネイルをしていない爪はSNSで載せたくない。スタンプで隠そう、とか思っていたんです。でも、いまなら『私の爪、ちっちゃいでしょ!』ってあえてアピールできちゃう(笑)。そうやってさらけ出したほうが生きやすいなって、思えるようになりました」

――だれしもコンプレックスは抱えているものだと思うし、簡単なことじゃないけど、その話を聞いて勇気がもらえたような気がします。

「そう言っていただけるなら、嬉しいです。忙しくて時間がなかったり、辛い部分と向き合わなきゃいけなかったりするからしんどいとは思うんですけど、自分と向き合う時間って、本当に大切だなって思います」

■性格が終わってるのに、かわいく見える不思議|『チェンソーマン』パワー

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――TVシリーズ、そして劇場版と大人気作品となった『チェンソーマン』では、パワーを演じられています。パワーは、とにかく強烈で唯一無二のキャラですね。

「パワーって、あんなに性格が"終わっている"のに、どうしようもなくかわいく見えてしまうから不思議(笑)。実際にいたら、絶対に半日も一緒にいられない(笑)。だからこそ、彼女とバディを組んでくれているデンジの懐の深さって本当にすごいんだな、とあらためて感じます。でも、そんな破天荒な部分も含めてまるごと愛おしく見えてしまうのが、パワーの大きな魅力ですよね」

――いや、ほんとに(笑)。パワーを演じるうえでは、どんなことを意識していたのでしょうか?

「彼女は『魔人』という存在ですから、人間だらけの公安対魔特異4課のなかでは、本来異質な存在。パワーは、少し"アニメ的な華やかさ"というか、いい意味での『浮いている感じ』のお芝居が許されるキャラクターでした。そこは私自身の持ち味ともリンクさせやすくて、すごく演じがいがあったと思います」

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――同じ作品のなかでも、ほかのキャラクターとは少しディレクションが違ったんですね。

「そうですね。たとえば、劇場版だと、物語がシリアスで悲しい展開を辿るなか、彼女は本当に空気を読まずに登場します。彼女のテンションだけ、全体から切り離されたかのように明るいんですよね。観てくれた友達は、『パワーちゃんが出てきたから救われた』って言ってくれたりして。TVシリーズ版と劇場版とでも、微妙に違いはあるんですがその違いなんかも注目して観ていただけると、彼女の魅力がより伝わるんじゃないかなと思います。一方で作品全体のトーンを意識してお芝居をしていたので、学びも大きかったです」

――というのは?

「藤本タツキ先生の描く世界観って、"しっとり"とは違う、独特の『湿度の高さ』がある感じがするんです。ほかの作品であれば、『ガハハ!』と大声で笑うようなシーンでも、あえてトーンを落として湿っぽく表現してみたり。明るいキャラクターを、そうやってあえて低い温度感、湿度高めに表現するというアプローチはあまりやったことがなかったので、私にとっては大きな挑戦でした。声優として一段階、成長させてもらえる学びの機会になったと思います」

■予測不可能な前代未聞なエンターテインメント|『チェンソーマン』パワー

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――収録現場の雰囲気はいかがでしたか? 作品のトーンと同じく、やはり独特の空気感が...?

「気持ちのコントロールの面では苦労しましたね。たとえば、休憩時間にみんなで大きな声で笑って盛り上がりすぎちゃうと、本編が始まったときに、つい声に張りが出すぎてしまったりするので。『チェンソーマン』ならではの質感は壊さないように、オンとオフの切り替えにはかなり気を遣っていました」

――そうやって休憩時間の過ごし方もお芝居には影響するんですね。パワーを演じるなかで、ファイルーズさんがとくにお気に入りなセリフはありますか?

「やっぱり、『ワシは総理大臣になる!』です」

――あ、あれ...!そういえば、インタビュー前に撮影した動画で、ファイルーズさんに「声優になっていなかったら?」と聞いたときにも...。

「『総理大臣』って答えました(笑)。いや、じつは原作を読んでいるときから、『私に似てる!』と思っていたんですよ...!たぶん、パワーの思考回路が、『勉強して一番偉い人=総理大臣』っていう、小学3年生の時の私のようなんですよね...。でも、自分と共通点が見つかったみたいで、嬉しかったです(笑)」

――パワーとのその共通点はめちゃくちゃおもしろいですね...!(笑) あらためて、最後に『チェンソーマン』の魅力を教えてもらえますか?

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「いやぁ......ひと言で定義するのが、これほど難しい作品はないかも。逆に、みなさんだったらどうやって紹介するんだろう。もしこの作品をまったく知らない人に『どんなお話?』と聞かれたら、どう説明すればいいのか頭を抱えちゃいませんか?」

――質問しておいてなんですけど......ですよね。

「(笑)。でも、本当にそのくらい、王道の展開をすべてぶっ壊していくような、先がまったく読めないストーリー。まさに『藤本タツキ先生という天才の頭の中』を覗き見しているような作品...。これまでの『ジャンル』という枠組みにはハマらない、前代未聞のエンターテインメントだと思ってます」

――いや、言語化すごすぎませんか(笑)。でも本当、ストーリー展開もバトルの決着も、驚きの連続ですよね。

「そうなんですよ!ほかの作品でも見たことがないような方法で決着がついたり。あと、いわゆる『必殺技がない』っていうのもすごいなと思うんです。派手な技名を叫ぶのではなく、ただデンジが血まみれになりながら、がむしゃらにチェンソーを振り回す。その泥臭くて、従来の型にハマらないような戦い方も含めて、すごく革命的な作品だと感じています。私自身も一人のファンとして、その唯一無二の世界観にどっぷりと魅了されていますね」

■自信たっぷりなのに愛される理由|「怪獣8号」四ノ宮キコル

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――こちらも大人気作品、「怪獣8号」では四ノ宮キコルを演じられています。まずはファイルーズさんから見た、彼女の魅力を教えてください。

「キコルのいちばんの魅力は『圧倒的な努力家』なところですね。彼女のセリフには、一見すると高飛車な人間性とも受け取れるようなセリフも多いんですが、それは『そこまで自分を追い込んで、誇れるほどの努力を積み重ねてきた』という、確固たる裏付けがあってこそなんですよね。そこまで努力できることも、自分に自信を持てることも、純粋に女性としても、そして人間としても心から尊敬しています」

――たしかに。キコルのセリフって、自信満々だけどイヤな感じがちょっともしないですよね。それは、しっかりとその背景があるからだったんですね。

「だと思います。彼女のご両親の立場や実力を考えると、その名声に甘えて戦わずに暮らす、という選択肢だってあったはずじゃないですか。それでも彼女は、自分の意志で強くなろうと決意したわけです。人が何か行動を起こすときには"外発的動機付け"と"内発的動機付け"があって、もし周りから『親がすごいんだから頑張りなよ』と言われて動いていたら、それは外発的なもの。でも、それだと結局は長続きしないんですよね」

――じゃあ、キコルにとっての"内発的動機"というと?

「それはやっぱり、『母の死』と『父の姿』ですよね。大好きだったお母さんの死を乗り越えて、戦うお父さんの背中を見たことで、『今度は私がみんなを守るんだ』という思いが自分の内側から湧き上がってくる。その強い気持ちがあるからこそ、彼女はあそこまでストイックになれるんだと思います」

――「怪獣8号」に限った話ではないんですけど、ファイルーズさんの演じるキャラクターって、そういう強い気持ちの"内発的動機"を持つキャラクターが多いですよね。

「そうかもしれません。周りに流されず、自分の意志で選択し、判断していく...。けっして彼女たちほどの立派なものではないですけど、私自身も努力家な部分はあると思っているので、そういう共通点を感じていただいて、役をお任せいただいていることもあるかもしれません。あとは、ある意味、ギフトと呼べるようなこの"芯のある声"を持っていた自分の特性にも感謝ですね。そういった要素が重なり合って、素敵な役とのご縁を繋いでくれているのかなと感じます」

――なるほど...!キコルを演じるうえでは、とくに意識されているポイントはありますか?

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「彼女は、"ツンデレ"な一面がありますよね。ただ、とはいっても、いわゆる『女を出す』ような色っぽいニュアンスのものではないと思ったので、そういう"ツンデレ"には絶対にしたくないなとは考えていました」

――たしかに好きな人に顔を赤らめるような感じというよりは、カフカを"認めていく"という感じに近いですね。

「そう。だから、あくまでカフカとは対等な友情だし、『認めてあげてもいいわよ』という、ちょっと先輩風を吹かせるような、爽やかなデレにしたかったんです。あとは、彼女は言葉選びが結構きついときもありますが、声までトゲトゲしくしてしまうと、ただの嫌な子に見えてしまうから、じつは声はカラッとした爽やかさを意識していました。そうすることで、『ありのままだけど愛される』人として表現できればいいなって」

■どんなことにも"遅すぎる"ことはない|「怪獣8号」四ノ宮キコル

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――先ほど、キコルとの共通点で"努力家"という話もありましたが、逆に「ここは自分とは違うな」と感じる部分はありますか?

「そうですね。いまの私と比べるとすれば、『完璧主義を手放す』ことができているので、そこは違いかもしれません。昔の私だったら、キコルの葛藤が分かりすぎて、100%同化して苦しくなるくらい、共感しすぎていたかもしれない。人から『何か絵を描いて』と言われるだけでパニックになっていたくらいですから(笑)」

――え、絵を描くだけで、ですか?

「そうなんです。『まず下絵を描いて、その後ペン入れをする。完璧な手順を踏まなきゃ絵が伝わらないし、私の魅力も出ない』というふうに考えちゃって、結果として何もできなくなる。いまならそれがいかに"もったいないことをしていた"かがわかります。キコルもいま、仲間に頼ることを覚えて成長している最中だと思いますけど、いまの私はそんな彼女を少し離れたところから『わかるよ、頑張れ』と俯瞰で見守れているような気がしているんです」

――道の、少しだけ先のほうでキコルを待っている、みたいな。

「そう。だから、これから彼女がどんなふうに成長していくのか、ちょっとだけ先にいる先輩としてそれを見るのが楽しみな気持ちです」

――演じるキャラとの、そんな関係性も素敵ですね。あらためて、「怪獣8号」の作品の魅力を教えていただけますか?

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「主人公のカフカは30代。それでも『自分の夢を叶えるために行動を起こす』というストーリーがすごく素敵だな、と思います。たとえば、どうしても年齢的に体力面で周りに劣るハンデは出てしまう。だけど、それまでに培ってきた『モンスタースイーパーとしての知識』が大きな武器となって戦うこともできたりするじゃないですか。カフカが、そうやって怪獣と戦っているところを観ていると、『どんな経験も無駄にならないんだな』と教えてくれているような気がします」

――たしかに。本当そうですね。

「だから、いまからじゃ遅すぎると悩んでいる人がいたら、まずは少しでも興味を持ったことに触れてみてほしい。この世界は、行動がすべてなんです。じつは私も、最近になって、ずっとやってみたかったミシンを始めました」

――素敵ですね...!

「最初は『高いミシンを買っても、使わなかったら無駄じゃん』『私には向いてないかも』って、思うんです。でもそれって自分のなかで安全地帯を作って、そこにい続けようとしているだけなんですよね。人間は、きっと現状を維持しようとする、心のブレーキが元々備わっているんだと思います。でもね、『私の人生、誰も代わりに生きてくれない。ミシンを使えないまま死んでもいいの?』って自分に問いかけたら、答えは『ノー』なんですよ。いざやってみたら、もう楽しくてしょうがなかった...!今日のバッグも、じつは手作りなんです」

――ええ、すごい...!

「やってみるまでは、毎日自作のバッグで現場に行くなんて想像もできなかった。だけど、いざできるようになったらそれだけですごく幸せが感じられます。周りから『いまさら遅い』とバカにされようとも、泥臭く挑戦し続けてほしい。カフカのように。一見、無関係に見える経験がいつか必ず自分を救う力になってくれるはずですよ。自分の行動の責任を取れるのは、自分だけ。だったら、自分の心の本音にしたがって動いたほうがいいじゃないですか」

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取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉

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