清原和博 バット投げ事件を振り返り「野球場は戦いの場や」【二宮清純】

清原和博 バット投げ事件を振り返り「野球場は戦いの場や」【二宮清純】

その昔、「乱闘はプロ野球の華」と言われていました。「火事と喧嘩は江戸の華」をもじったものだと思われます。ただ取っ組み合いや殴り合いならまだしも、モノを投げてしまっては興醒めです。プロ野球ファンの間で、今でも語り草になっているのが37年前に清原和博さん(当時・西武ライオンズ)が起こした"バット投げ事件"です。

■蛮行のツケ

事件を振り返りましょう。1989年9月23日、西武球場。ライオンズ対ロッテオリオンズの23回戦。ライオンズが7対0と大量リードして迎えた4回裏2死一、二塁の場面で、4番の清原さんが打席に入りました。

マウンドには2番手の平沼定晴さん。清原さんは前の打席で、平沼さんから満塁ホームランを放っていました。平沼さんが打たれたのは初球のカーブでした。ベンチに戻った平沼さんを待っていたのは、有藤通世監督の説教でした。

「初球から狙われるってことは配球のミスだ。清原は踏み込んで打ってくる。もっと厳しいコースを突かんと抑えられんぞ」

この説教が頭に残っていたのでしょう。平沼さんは、清原さんの踏み込みを阻止するため、初球インハイにブラッシュボールを投じます。これが左ヒジを直撃。怒った清原さんはマウンドに向かって猛然とダッシュし、手にしたバットを平沼さん目がけて投げつけ、飛び蹴りを見舞ったのです。ブーメランのようにスピンしたバットは、バウンドして平沼さんの左ヒザに命中しました。

この蛮行は高くつきました。ペナルティとしての出場停止こそ2試合でしたが、プロ1年目の4月から続けていた連続試合出場が490で止まってしまったのです。

翌シーズンの開幕前、清原さんにインタビューする機会があり、この件について質したところ、次のような答えが返ってきました。

「もちろん、バットを投げたことは僕自身もすごく反省しているし、まわりから受けた批判に何ひとつ反論できないと思っています。でも、ひとつ言わせてもらえば、僕はそれまで"野球場は戦いの場や"と思っていた。人間がやるかやられるかといった時に、わざわざ武器(バット)を置いて立ち向かったりはしないでしょう。ボールが頭を直撃したら死ぬことだってあるわけですから」

■土井正博の擁護論

以下に歴代通算死球数5傑を記します。
1位=清原和博  196 2338試合
2位=竹之内雅史 166 1371試合
3位=衣笠祥雄  161 2677試合
4位=阿部慎之助 152 2282試合
5位=村田修一  150 1953試合

清原さんはライオンズの先輩にあたる竹之内さんを30も引き離し、ダントツのトップです。これは内角の厳しいコースに逃げることなく立ち向かっていった証左と言っていいでしょう。その意味では"名誉の勲章"といっても過言ではありません。

「バットを投げつけたという事件の性格はともかく、デッドボールを投げてきたピッチャーに向かっていったあの態度は立派やったと思いますよ」

こう言って清原さんを擁護したのが、ライオンズ入団時から打撃コーチとして指導にあたっていた土井正博さんです。89年5月にマージャン賭博が発覚し、清原さんがバット投げ事件を起こした時には、既に球団を解雇されていました。

「というのも、普通、プロ野球のピッチャーいうたら、140キロのスピードボールを投げることができるわけです。皆さん、普通の車が140キロのスピードで突っ込んできたらよけられますか。よけられるわけありませんよ。もし清原があれで大きなケガでもしていたら1カ月か2カ月は戦列を離れないといけない。その間の保障は誰もしてくれんわけですよ」

自分の身は自分で守るしかない――。土井さんは、そう言いたかったようです。

個人的にひとつ残念だったのは、清原さんが自分の分身のように大事にしていたバットを投げつけたこと。飛び蹴りだけなら、あそこまでの大事(おおごと)にはなっていなかったような気がしています。

二宮清純

二宮清純 (ライター)

フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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