栗山千明がドラマ「晩酌の流儀」の飲みっぷりで伝える「頑張った今日の自分をどう幸せにするか」
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2026.07.08
「孤独のグルメ」をはじめ「食」をテーマにしたドラマを得意とするテレビ東京。2022年にスタートした深夜ドラマ「晩酌の流儀」もそんな系譜の作品で人気を博している。「一日の終わりに飲む一杯を、いかに最高のものにするか」を追求し、グルメドラマに"人生哲学"を加味した独特の深みを感じさせるのが本作だ。好評を得て2025年にはシーズン4が放送され、2026年7月にはシーズン5がスタートする。
主演は栗山千明が務め、不動産会社に勤務する伊澤美幸を演じている。「店」や「料理」から一歩進んで、"最高の酒を飲むための準備"に焦点を当てた点が新鮮だ。毎回の筋立ては、ホップハウジング雪谷支店の有能な営業部員である美幸が、「今日の晩酌を最高の状態で迎える」までを描く。美幸の仕事ぶりは完璧で、同僚社員の島村(武田航平)や富川(辻凪子)、支店長の海野(おかやまはじめ)から一目置かれているが、彼女が本当に情熱を注いでいるのは、毎日の「晩酌」に他ならない。美幸が、日々サウナやウォーキングに励み、仕事を定時で終わらせるのも、すべては晩酌のためである。最高の一杯のためにスーパーでは食材を吟味し、酒の肴を作る手間は惜しまない。そして冷えたビールやハイボールを一口...という場面が、クライマックスとなる。
今回は同シリーズの中から、J:COM STREAMで配信される「晩酌の流儀3」、「晩酌の流儀4~夏編~」、「晩酌の流儀4~秋冬編~」について、詳しく触れていきたい。

(C)「晩酌の流儀3」製作委員会
■主人公の内面を描いて人間ドラマを強化したシーズン3
2024年に放送されたシーズン3は、マンネリ化を避けながら、作品の世界観を広げた点で評価されている。単純に料理や酒のレパートリーを増やしただけではなく、主人公・伊澤美幸の「晩酌哲学」が試されるエピソードが追加された。それまでの「最高の晩酌」に向かう過程だけでなく、「晩酌を楽しめなくなるかも...」という、美幸のピンチが描かれるケースが増えた。結果、主人公のこだわりがより可視化され、見ごたえが深まった。
特に第4話「980円うなぎのフルコース」は、ファンの間でも最高傑作と評される人気回。仕事でミスを連発し、午後休を申請した美幸は、思い立って寺を訪問。住職(丘みつ子)から仏教の教えを伝えられて、「大好きな晩酌が嫌いになりそう...」と深刻な悩みを打ち明ける...。番組の根幹を揺るがすようなせりふは視聴者をドキドキさせたが、やがて「高価な食材ではなく、工夫こそが晩酌を豊かにする」という展開に帰結させるのが見事だ。ブレない主人公の美幸が迷いを見せる姿を、誇張することなく、わずかな表情の変化で表現した栗山の演技が光るエピソードだ。ほかにも"我慢の美学"を鮮やかに描き出した第5話「カレーフォンデュ」、"効率とこだわりの対立"をテーマにした第3話「豚肉の味噌すき焼き」も印象深い。圧巻だったのは最終話の「牛肉のカルパッチョ」だ。美幸たちの働く雪谷支店の閉店が発表され、支店の仲間や商店街の人々との絆が描かれる。本作には珍しく、人間ドラマが前面に出た感慨深い一話となった。シーズン3は、頑固で不器用な美幸の一面が強調され、「ちょっと変人だけど魅力的」という人物像が明確化した。主人公の造形が完成されたシーズンだったと言ってもいいだろう。

(C)「晩酌の流儀4」製作委員会
■主人公の世界観を拡張して見ごたえを増したシーズン4
続いて2025年に放送された「晩酌の流儀4」は、シリーズにとって大きな転換点となった。本シリーズ初となる2クール連続放送として、「夏編」と「秋・冬編」が制作されたことも特筆すべきだ。テレビ東京の深夜ドラマとしては異例のことで、「晩酌の流儀」が同局の看板シリーズとなったことの証明だろう。前シーズンまでは、基本的に美幸の個人的なこだわりが中心だったが、シーズン4は、周囲の環境が拡張。ライバル不動産会社や新たなコンビニ店、商店街の新メンバーなどが一斉に登場し、「最高の晩酌を追求する個人の物語」から「晩酌を中心にしたコミュニティの物語」へと進化。外部から主人公に刺激を与えることで、美幸のこだわりや哲学を改めて浮き彫りにしようという制作側の意欲が感じ取れた。シーズン4で特に興味深いのは、栗山千明自身が「美幸は私で、私は美幸」と語っているように、栗山千明自身が美幸というキャラクターに色濃く投影され、境界線がかなり曖昧になった感がある。
また、ストーリー面でもライバル会社の登場により、「仕事はできるが、それを誇示しない」人物だった美幸が、営業力や交渉力という仕事面での能力が発揮される場面が増えた。結果的に、「仕事で成果を出した後の晩酌の価値」がさらに高まる構造になった点が秀逸だ。さらに、コンビニ店の登場が、限られた時間で最高の一杯を作るという、面白さを引き出した。これまでは商店街やスーパーが美幸の主戦場だったが、独身社会人の実生活に不可欠であるコンビニを活用した点でリアリティが増した。「夏編」では、汗をかいたり、サウナに入った後に冷えたビールを飲むという本シリーズの基本構造が重視され、原点回帰的な魅力が強調されている。大量に発汗するさまや、炎天下の移動という暑苦しい場面の後に登場する冷えたグラスに注がれるビールの泡。それを飲み干す主人公という黄金パターンにより、毎回ビールが飲みたくてたまらなくなる視聴者が続出した。
一方、秋・冬編では、夏の爽快感に対してグルメ要素が満載だ。鍋料理をはじめ、煮込みや熱燗、酒に合いそうな濃い味付けの料理が登場。充実感を意識した「旨そうな」料理の映像が中心となっている。美幸という人間を掘り下げる物語が描かれたシーズン3に対し、シーズン4は、美幸の世界が拡張していく展開になっている。主人公の内面描写の濃密さがシーズン3の特色だったが、シーズン4の魅力はドラマとしてのスケール感と完成度の高さだと言えるかもしれない。2クール連続という大きな挑戦も作品への期待と信頼の証であり、「晩酌の流儀」が単なる深夜ドラマから、テレビ東京を代表する長寿シリーズへと昇華したということだろう。

(C)「晩酌の流儀4」製作委員会
■「晩酌を愛する人間の幸福感」を伝える栗山千明に感嘆!
本シリーズを通して、素晴らしいと感じさせるのは、栗山千明の「飲みっぷり」である。シーズン1では、基本的に感情を表に出さないクールな美幸が、ビールを飲んだ瞬間に顔の筋肉を一気に緩ませる。この落差の表現が際立っていた。シーズン2になると、飲み方のバリエーションが増え、飲む酒によって反応を変えて、「ビールは喉越し」、「日本酒は香り」、「ハイボールは爽快感」という演じ分けの工夫も見事。料理を口にする場面でも酒を飲む時の満足感とは異なる表情を演じ分けている。シーズン3では、美幸の精神状態が飲み方に現れるようになり、先述した第4話「980円うなぎのフルコース」において、晩酌への情熱を失いかけた美幸が、酒を飲んでも「満足感を得られない」場面が描かれる。その時の違和感に対して、「立ち直った後の一杯」を飲む場面の美幸の表情は格別だ。シーズン4においては、もはや「演技」ではなくなった感がある。つまり、長く本作に出演したことで、栗山自身も日常的にグラスを冷やして晩酌を楽しむようになるなど、作中の美幸の習慣が本人の生活へ逆流してしまったのだ。グラスを持って香りを感じ、口元へ運ぶ。そんな一連の動きには、もはや「芝居をしている感」がなくなっている。シーズン1とシーズン4を見比べてみると、酒を飲む場面での「眼」がまったく違う。冷蔵庫を開ける段階でもすでに期待感が眼に示されているのだ。間の使い方も進化し、初期よりも少しだけ間を長くしている。飲んだ時に「余韻を感じて、満足する」という一瞬を入れていることがわかる。年齢を重ねた大人の晩酌らしい表現だと言えるだろう。料理を味わう場面でも表情に工夫が見られることで、視聴者は「酒が飲みたい」だけでなく、「この組み合わせは最高だな」と感じるようになる。シーズン4の栗山千明は、「晩酌を演じる女優」の域を超え、「晩酌を愛する人間の幸福感」を視聴者に届けている気がする。
「孤独のグルメ」が「一人飯」の文化を育んだ作品だとすれば、「晩酌の流儀」は「一人晩酌」の意義を提示した画期的なドラマかもしれない。「頑張った今日の自分をどう幸せにするか」という、現代人の小さな幸福を描いた作品として、もっと評価されるべきだろう。
文/渡辺敏樹




