劇映画公開直前!原作者・久住昌之さんに聞く、「孤独のグルメ」人気の秘密
国内ドラマ インタビュー
2024.12.20
2024年に放送12年目を迎え、10月からは特別編「それぞれの孤独のグルメ」を放送、2025年1月には劇映画上映も決定した人気ドラマ「孤独のグルメ」。年齢や国境を越え、老若男女から愛されるこの作品の飽きられない秘密を、原作者の久住昌之さんへのインタビューからひも解く。
――ドラマ版ではバンド「The Screen Tones」として音楽を担当し、五郎さんの脳内で繰り広げられるセリフの脚本も手がけている久住さん。劇映画ではどのように関わっていらっしゃるのでしょうか。
「今回の劇映画では、松重豊さんが主演・脚本・監督の3役を務めています。テレビ東京が開局60周年だから映画を作ろうってことになって。最初は『監督は誰に依頼しよう』って悩んでいたけれど、最終的に、12年もやっている松重さんにお願いするのが一番自然でいいんじゃない、と。僕は松重さんに頼まれて、音楽の一部と、ある小道具の絵を描きました。その絵は、例えるなら、ラーメンのスープを飲み干したら丼の底に出てくるような存在。だから、見ても気づく人は居ないんじゃないかな。音楽も松重さんがすごく細かくディレクションして。録音したけど使っていない曲もたくさんあります。でもそれはドラマでもそうで、12年間やって来て350曲くらい書いたけど、未使用曲もいっぱいあるんですよ」
――マンガ原作に切り絵にミュージシャン。さまざまな分野で活躍されていますが、そのインスピレーションの源は? ネタ探しはどうやって?
「僕は"ネタ"という考え方が苦手。それにネット検索や店選びのポイントを考え出したりすると、視野が狭くなる。面白さって、もっと意外なところから来るもの。例えば以前、勝浦タンタンメンのことを書くために千葉に行った際に入る店を探していたら、ある店の窓の外に板みたいなものが突き出していて、その下が窪んでて、岡持ちがふたつ入ってたの。『おかもちって懐かしいな』って思って見てたら、店のおじさんが帰ってきて、ヘルメットをその台に置いた。あ、ヘルメット台だったんだ、って。よく見るとちゃんとペンキで塗ってあって、落ちないように枠もついてて、ヘルメットを置くのにちょうどいい。面白いでしょ? そういう、想像していなかったことに出会うのが、面白いってことなんだよね。僕は常に自然体で居たい。街で面白いもの探そうって力んでいると、面白い店の名前には気づくかもしれないけど、そのヘルメットの面白さには気づかなくなってしまう」
――すごい観察眼ですね。
「観察眼じゃなくて、自然体でいれば入ってくるものなんだと思う。世界は面白いものに満ち溢れていて、それに気付くか気付かないか。あえて探そうとすると、重くなっちゃうから。それより僕が大事にしてるのは、そのお店の味や形、作ってる店長。どの街のどの店のどの人が作って、どんな客に食べさせているかって、全部つながっていると思うんです。その街のそこにあるからこのお客さんが来てこの味になった、というのが絶対にある。そういうところに気づかないで、ただ『ウマい』とか言ってたら、それは『孤独のグルメ』じゃなくなっちゃうんですよね。時々、『ドラマの前半の小芝居いらねえんだよ』って言う人がいるんだけど、それなら食べるシーンだけの番組見てればいい話で、僕らはそういうものを作ってるだけじゃない。そういう、店の裏にあるエピソード含めて『孤独のグルメ』だからね」
――『孤独のグルメ』といえば「ふらっとQusumi」コーナーのファンも多いですが、印象に残っている回はありますか?
「全部ですね。毎回いい店だなって思ってます。あと、最近見ていてあのコーナーがあった方がいいなと思ったのは、やっぱり実際の店員や店の様子が出てくると、『こういう店なんだな』ってわかって行ってみたくなりますよね。最後までドラマのままだと、ドラマのために作られた店という感じでフィクション感が強くなるのかなというのは、思いましたね」
――「ふらっとQusumi」は当初3回くらいの予定だったそうですね。そんな風に手探りで作りながらも、このドラマが長く続いている理由とは何だと思いますか?
「丁寧に作っているからだと思います。毎回、店探しはスタッフが3回も4回も通って選ぶんです。だから店の変わったお客さんとか、あそこの店主はつい水を出しっぱなしにして、いつも奥さんに怒られてるな、とか知って。ドラマで出てくるのは、全部本当に起きたエピソード。店員さん役も、実際の店員さんに似ている人をキャスティングするようにしています。あと、五郎は『美味しい』ってセリフをあまり言わないんですが、それは松重さんの表情が美味しそうで、そういうことを言う必要がないから。松重さんはこれが半分ドキュメンタリーだとわかっていて、前日から何も食べないで本当にお腹を空かせて来るんです。そういう、製作陣のこだわりがいっぱい詰まったドラマです」
――ドラマの制作スタッフも原作のおふたりの姿勢を理解しているからこそ、そんな風に丁寧に作っているということなのでしょうか。
「みんな、そうしないと孤独のグルメにはならないってことを知ってるからね。マンガも谷口さんがワンカットに1日かけて描いてたりするけど、ドラマの方もワンシーンずつ、なかなか丁寧に撮っています。だから何度見ても、何らかの面白いことがみつかるはず」
撮影/菊竹規 取材・文/さかいもゆる
<店舗情報>
居酒屋大茂
久住さんが30年もの長きにわたり通う居酒屋。木のぬくもりに溢れた店内の壁には、久住さんが描いた切り絵の数々が飾られている。イカの一夜干し、湯豆腐、チャーハンは久住さんのお気に入りメニュー。
【住】東京都武蔵野市吉祥寺南町1-1-8
【TEL】0422-48-6838
【営】後6:00-深0:00
【定】月曜(祝日の場合は翌日休)