ヨ・ジング主演映画『同感~時が交差する初恋~』時を超えた愛の物語が令和の今、心に響く理由【古家正亨】

ヨ・ジング主演映画『同感~時が交差する初恋~』時を超えた愛の物語が令和の今、心に響く理由【古家正亨】

僕の好きな韓国映画に2000年に公開された『リメンバー・ミー』という作品があります。2000年と言えば、韓国エンタメが日本で大衆化する直前だったため、リアルタイムでこの作品を観た人は少ないかもしれません。

『リメンバー・ミー』の舞台は、1979年と2000年。時を超えてつながった無線機で交信し、心を通わせていく二人を、今やベテラン俳優となったキム・ハヌルさんとユ・ジテさんが演じ、大ヒットしました。その人気を受けて、2001年に山川直人監督によって『時の香り~リメンバー・ミー~』として日本でもリメークされ、2003年にはタン・ファータオ監督により『スカイ・オブ・ラブ』として香港でもリメークされたほどです。無線機を通じて時空を超えたストーリーといえば、2016年に放送されたドラマ「シグナル」もまさにそうですよね。そう、無線機には、単純な郷愁以上のロマンを感じます。

この『リメンバー・ミー』を韓国で再映画化したものが、今回ご紹介する『同感~時が交差する初恋~』。

■1999年の青年と2022年の少女。ヨ・ジングとチョ・イヒョンが紡ぐ新たな愛の形

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ミレニアム前夜。アジア経済危機から少しずつ脱しようとしていた1999年の韓国に暮らす男子大学生と、新型コロナの広がりがまだ落ち着きを見せず、梨泰院の雑踏事故もまだ記憶に新しい2022年に生きる女子大学生。この2人が、時を超えてつながった無線機で交信し、心を通わせ、そして互いを意識するようになっていく...。

「太陽を抱く月」や「ホテルデルーナ~月明かりの恋人~」など数多くのヒット作に出演し、名子役から大人気俳優の地位を確立したヨ・ジングさんが男子大学生のキム・ヨン役を、そして「賢い医師生活」や「今、私たちの学校は...」を通じて日本の韓流ファンにも知られるチョ・イヒョンさんが女子大学生のソ・ハンソル役を、清涼感たっぷりに、でも、過去と現在が交錯するその世界に苦悩する2人をそれぞれ演じ切っています。

興味深い点は、『リメンバー・ミー』の舞台が1979年と2000年であったのに対し、そして本作の舞台となるのが1999年と2022年。もうお分かりかと思いますが、『リメンバー・ミー』における現代が、本作における過去になっているんですね。僕はちょうど両作品の舞台となっている1990年代後半から2000年初めに韓国に留学していたこともあり、当時の韓国の情景がしっかりと心に焼き付いているせいか、この2作品を郷愁と現実感をもって楽しむことができました。監督と脚本を務めたソ・ウニョンさんの意図かどうかわかりませんが、オリジナルと本作の時代をクロスオーバーさせたことには、深い意味があったように感じます。

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■ポケベルの時代が象徴する「もどかしさ」。SNS時代にない究極のコミュニケーション

この1990年代後半から2000年代前半の韓国は、1997年に起こったアジア通貨危機を発端とする韓国の国家破綻とも言える経済危機を克服し、ミレニアムを迎え、2002年の日韓共催のサッカーワールドカップに向けて国全体が熱気を帯びていた時代。そして、インターネット時代の幕が開き、韓国が世界最先端の高速通信網を敷きはじめ、ポケットベルから国民総携帯電話時代を迎える、通信のビックバンが起こった時代でもあります。今考えてみるとこの時代は、私たちの生活に、産業革命に匹敵するほどの大きな変化のあった時代とも言えるわけです。

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ですが...当時はもちろん、今のようにSNSなどは存在せず、韓国では当時"ピピ"と呼ばれていたポケベルにメッセージを残すために公衆電話に長い列を作って並び、普及し始めの携帯電話の料金は今のように決して安くはなく、手軽に持てない時代だったため、意外かもしれませんが、誰もが話したい時に話せず、会いたい時にいつでも会えるという時代ではなかったんです。もちろん、1970年代、1980年代と比較すると、格段に便利にはなったのですが、その"微妙な便利さ"のせいで、当時のカップルたちは、喧嘩をした際に仲直りをするのも、むしろ、もどかしい時間を過ごさざるを得なかった...。今の若者たちにとっては信じられないかもしれませんが、通信を介したコミュニケーションの過渡期だったわけです。もし、主人公の2人、キム・ヨンとソ・ハンソルが、今のようにSNSを介したコミュニケーションが取れていたなら、おそらくこの映画で描かれているような互いの不安や疑いを晴らすことが出来たと思います。そんな1990年代から2000年代初めの若者たちのカルチャーが、「Y2K(Year2000)」、「ニュートロ(New+Retro)」ブームとして、今再評価されているというのは、偶然なのか必然なのか。そのもどかしいコミュニケーションの時代が生んだ何かに、今の若者たちは惹かれているのかもしれません。

■Roller Coasterの楽曲が彩るノスタルジー。未来への希望を感じる新しい『同感』の魅力

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オリジナルの『リメンバー・ミー』では、音楽を介しても時代の違いを意識できるようにされていたのが印象に残っています。ユ・ジテさんにはチェロ、そしてキム・ハヌルさんにはピアノの曲をあてがった演出は本作においても健在。K-POPという言葉すらなく、アイドルも第一世代と呼ばれるH.O.Tがデビューしたばかりだった2000年前後。ただ、ちょうどこの頃から韓国の音楽界では、日本の大衆文化の解放も相まって、一気に音楽の多様化が進んだ時代でした。アシッドジャズの感性を持ち込んだ、当時の新世代バンド「Roller Coaster」のデビュー曲「Bye Bye」を、さりげなく、キャンパスの風景になじませていたところに、個人的に監督のセンスを感じずにはいられませんでした。

また『リメンバー・ミー』には、(主演の2人が醸し出す空気のせいかも知れませんが)どこか心悲しさが漂っていますが、本作に関しては、時代背景のせいもあって、清涼感のある、悲しさもありながら前を向き、未来を感じる雰囲気があるのも特徴です。

2人の"思い"は、無線機を介して、時代を超え、果たして交錯するのか。この映画を観た後、きっと、自分の昔のアルバムを広げたり、昔懐かしい友達たちに、"SNS"で連絡を取りたくなるに違いありません。

古家正亨

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)

ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

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