山口百恵×三浦友和 「ゴールデンコンビ」の人気を確立した初期の名作映画『潮騒』『絶唱』

山口百恵×三浦友和 「ゴールデンコンビ」の人気を確立した初期の名作映画『潮騒』『絶唱』

山口百恵と三浦友和は、昭和後期に絶大な人気を誇り「ゴールデンコンビ」と称され、実生活においても夫婦となった。ドラマでの共演もあったが、2人の共演作の中心はやはり映画で、1974年公開の『伊豆の踊子』が第一弾である。同作は三浦の映画デビュー作でもあり、山口百恵の相手役公募によって選ばれている。以降、百恵&友和のゴールデンコンビの映画は全部で12作を数えた。ノーベル賞作家でもある川端康成原作の同作のヒットによって「文芸路線」が確立され、続く第二弾として制作された映画が、日本映画専門チャンネルにて5月14日(木)に放送される三島由紀夫原作の『潮騒』だった。

■伊勢の小島を舞台にした漁師の青年と海女の純愛物語『潮騒』


1975年に公開された本作は、伊勢湾に浮かぶ小島・「歌島」(鳥羽市神島の古名)を舞台に、漁村の生活をリアルに描きながら、若い男女の純愛を丁寧に描いたラブストーリーだ。貧しい漁師の青年・久保新治(三浦)が、島の有力者の娘で海女をしている宮田初江(山口)と出会って、恋に落ちる。だが、貧しい母子家庭に育った新治と、富裕層である宮田家の娘では身分の差があり、孤島の村社会という閉鎖性など2人の恋路には障害があった。引かれ合う2人だが、村中に悪い噂が立って会うこともままならなくなってしまう...。

多くの困難に負けずに強く愛し合う2人の純朴な姿が胸を打つが、本作の名場面として有名なのが、「監的哨(かんてきしょう)跡」で初江と新治が愛を確かめ合うシーンだ。監的哨とは、射撃試験場から発射された砲弾の着弾点を観測する旧陸軍の軍事施設。焚き火を前に2人が裸で抱き合う大胆な描写だが、いわゆる"濡れ場"ではない。むしろ2人の清純さが強調され、だからこそ上品で官能的である。原作小説通りの描写だが、ゴールデンコンビが醸し出す雰囲気が素晴らしく、本作を象徴すると共に映画史に残る名場面に仕上がっている。年齢に似合わぬ独特な色気を有していた山口と、精悍さと誠実さを兼ね備えた男の魅力溢(あふ)れる三浦の相性は抜群で、格調高い文芸路線に見事にハマった。山口の演技は、せりふより「間と視線」が印象的で、表情のわずかな変化で心情を伝える。特に視線の落とし方などは、ベテラン女優のようだ。それが技巧ではなく、天性の持ち味だと思わせるところが魅力でもある。アイドルには珍しく「成熟の気配」が漂うのも評価を高めた。

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一方の三浦は、飾らないリアリズム演技が持ち味。ストレートな感情表現と素朴さが、漁師らしさを際立たせる。終盤に嵐の海で奮闘する姿など、"肉体性"の表現にも説得力がある。「静」の山口と「動」の三浦のコントラストが見事で、それが2人の関係性を際立たせ、対比構造が「純愛」を浮かび上がらせたと言える。

雄大な海や灯台を象徴的に撮った自然描写の美しさに加え、若さのきらめきに満ちた2人のスター性を最大限に映し出した本作は、青春の純度を感じさせる作品として成功した。『潮騒』は、本作を含めて5回も映画化され、1964年公開の吉永小百合&浜田光夫版も有名だ。その中でも本作は「文学×アイドル」の掛け合わせの代表作となり、山口と三浦のゴールデンコンビの人気を決定的なものにした記念碑的作品と言えるだろう。

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■山陰の自然美を背景にした悲恋の物語『絶唱』


続いて、同じく1975年に公開された百恵&友和コンビの映画第三弾が、日本映画専門チャンネルにて5月21日(木)に放送される『絶唱』だ。同じく文芸路線の純愛映画だが、本作の大きな特徴は「悲恋」の物語である点だろう。前2作のヒットにより、山口と三浦は、既に理想のカップル像として広く認知されていた。そのイメージを生かしつつ、「幸福」ではなく「喪失」を描く挑戦的作品として作られたのが『絶唱』である。山に閉ざされた山陰地方を舞台に、戦前から戦中期の階級差や戦争を背景に、社会に押し潰されようとする2人の愛の健気さを描いている。

昭和17年、山陰の大地主「山園田」こと園田家の跡継ぎ・順吉(三浦)は、見合いを断り、山番の娘で奉公人の小雪(山口)と結婚すると宣言。身分の差を乗り越えて愛を育む2人だったが、権力に任せて順吉の父・惣兵衛(辰巳柳太郎)は2人の仲を引き裂こうとする。やがて2人は駆け落ちして、鳥取砂丘に近い町で暮らし始める。順吉は勘当されるも、読書会の仲間たちに励まされ、2人は貧しくもつつましく生きる。しかし世は太平洋戦争のさなかで、順吉にも召集令状が届く。小雪のささやかな楽しみは、順吉からの手紙と"木挽唄"を歌うことだった。やがて順吉からの便りが途絶え、小雪は病床に伏してしまう...。

本作は1976年度の興行成績第5位の大ヒットを記録。「百恵&友和コンビの頂点」と評するファンも少なくなく、特に当時若い女性層から強い支持を得た。山口の演技は、前作以上に高く評価され、抑制された感情表現や不幸な境遇を受け入れる静かな芝居で、悲劇を背負う女性の哀しみを的確に表現した。監督の西河克己は、『伊豆の踊子』、『潮騒』に続きメガホンをとり、山口の撮り方を熟知しているようで、彼女の魅力を一層引き出している。特に『絶唱』は、1966年版(舟木一夫&和泉雅子主演)でも西河が監督を務めており、西河にとって思い入れのある作品だ。

三浦が演じる順吉は、誠実だが無力な青年で、時代に翻弄される存在として描かれる。父に逆らう強さこそあるが、前作の漁師とは一変し、本作ではナイーブさを秘めた「文学青年」を演じて、「強い男」ではなく弱さを見せる演技が印象的だ。

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俳優としての成長を見せた2人を生かし、感情を揺さぶる純愛悲劇として完成させた本作は、山陰の自然美を存分に絡めた映像美とも相まって、日本的情緒の美しさを感じさせる。詳細は省くが、悲劇的なクライマックスにより、「泣ける純愛映画」の代表格にも位置付けられている。「純愛の完成形」ではなく「破綻」を描いた重厚な作品であり、昭和メロドラマの到達点の一つである。本作により、山口は悲劇のヒロイン像を確立し、後のTVドラマ「赤いシリーズ」の系譜にも繋がっている。三浦も時代に翻弄される誠実な男を好演し、役柄の幅広さを提示。2人は単なる純愛スター映画から飛躍し、より社会性を帯びた成熟した関係性の作品へと移行していく。倒錯的な愛を描いた『春琴抄』(1976年)、チンピラと外交官令嬢の純愛物語『泥だらけの純情』、松本清張原作のミステリー『霧の旗』(共に1977年)、東京とスペインを舞台にした恋愛ドラマ『ホワイト・ラブ』(1979年)といった一連の作品によって、テーマは現実的かつ社会的になっていった。

山口と三浦は、1970年代の「理想の男女像」を更新し続けたコンビだったのかもしれない。スクリーン上の理想だった2人は、1980年に現実の結婚を迎え、山口が芸能界を引退。ゴールデンコンビの映画は終結を迎えた。

『潮騒』と『絶唱』の2作は日本映画専門チャンネルにて放送。時代を象徴した2人が銀幕に輝きを放った記念すべき作品であり、今なおその魅力は色褪せていない。

文/渡辺敏樹

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