メジャーリーグの魅力を現場から解説、スター選手の素顔も【カーロン・マイア】
スポーツ 連載コラム
2026.08.10
カーロン・マイアの知ればハマるMLB
第一回:メジャーリーグは、あなたに新しい世界を見せてくれる
はじめまして!今回からこのコラムで、メジャーリーグの魅力をお伝えしていきます。
私はメジャーリーグの現場で16年間、試合中継のレポートやニュース取材、コラム執筆、番組制作など、さまざまな仕事に携わってきました。こう書くと、昔から野球一筋だったように思われるかもしれません。でも、実は渡米した当時は、野球をほとんど知らなかったと言ったら驚かれるでしょうか。バットでボールを打って走るスポーツ。そのくらいの知識しかなかったのです。
もともとは報道の仕事を希望してアメリカへ来たのですが、当時はその部署に空きがなく、メジャーリーグの担当となりました。これが人生の転機になるとは、そのときは思ってもいませんでした。野球のルールが分からない私に、上司はコピー用紙の裏にフィールドの図を描きながら、ランナーは反時計回りに走るというところから教えてくれました。
「犠牲フライ」「死球」「併殺」
どうして楽しいスポーツなのに、こんなに物騒な言葉ばかり使うんだろうとそのときは本気で思っていました。
そんな野球超初心者だった私の現場デビューは、なんと伝統ある名門球団、ニューヨーク・ヤンキースだったんです。当時のヤンキースはデレク・ジーターさん、アレックス・ロドリゲスさん、マリアノ・リベラさんら、伝説的スターが活躍していた黄金時代でした。まるでオールスターチームのように、強烈なオーラを放つ選手たちが同じユニフォームを着ている。そんな景色を見ながら野球を覚え、気付けばヤンキースを長年取材することになりました。今思えば、野球を覚えるにはこれ以上ないほど恵まれた一方で、これ以上ないほどハードルの高い現場でした。

■アメリカで知ったスポーツの力
ヤンキースを取材するようになって、アメリカにおけるスポーツの存在の大きさにも驚きました。移民の国アメリカでは、「人々を団結させるのは、戦争かスポーツだ」と言われることがあります。人種も文化も世代も違う人たちが、同じチームを応援し、一緒に喜び、一緒に悔しがる。その光景を見ていると、スポーツが人と人をつなぐ大きな力を持っていることを実感します。
さらに、その影響力は球場の外にも広がっていて、企業が大切な取引先を球場のスイートルームへ招き、試合を観戦しながら商談をすることも珍しくありません。スポーツは街を活気づけ、人々の暮らしやビジネスを支える、社会インフラのような存在なのです。
野球は単なるスポーツではなく、この国の暮らしや文化に深く根付いている。そのこともメジャーリーグにひかれていった理由の一つでした。

■スター選手たちの素顔
メジャーリーグでは、試合前後にメディアがロッカールームへ入り、選手たちを取材することができます。テレビで見ていたスター選手たちが、普通に目の前にいる世界でした。
デレク・ジーターさんは、すれ違うとよく「オハヨウゴザイマス」と声をかけてくれました。その距離の近さには、本当に驚いたことを今でも覚えています。グラウンドでは真剣勝負の厳しい表情を見せていても、選手は話をすると驚くほど気さくな人が多く、特に家族の話になると、その言葉の端々から家族を大切に思う気持ちが自然と伝わってきます。
長年取材を続けていると、若手だった選手がベテランになり、結婚し、やがて子どもの話を聞かせてくれるようになります。そんな人生の節目を見守ることができるのも、この仕事ならではの魅力でした。今思えば、夢中になったのは野球そのものより、野球をしている人たちだったのかもしれません。

Jon SooHoo of the Los Angeles Dodgers
■バットを握って初めて分かったこと
試合中継では、「タイミングがずれた」「詰まった」という言葉が当たり前のように飛び交います。でも、その感覚がどういうものなのか分からず、自分で体験してみたくなってバッティングセンターへ通うようになりました。
最初は遅い球しか打てませんでしたが、やがて一番速い設定の球にも挑戦するようになり、あるスピードを超えたあたりからは、ボールが見えているのに振り遅れてしまう。そんな感覚を味わいました。芯を外した瞬間、手にしびれるような痛みが走る。ああ、これが「詰まる」ということか。その瞬間、それまで何度も耳にしてきた言葉の意味を、初めて体で理解しました。
自打球の痛みにもだえ、手足に青あざができても、なぜか少しうれしかったのを覚えています。野球をほとんど知らなかった私が、気付けば青あざを作るようになっていたのですから、人生は本当に分からないものです。
もちろん、それだけで選手たちの感覚が分かったとは思っていません。それでも自分でバットを握ったことで、それまで何気なく見ていた一球、一打の見え方は確かに変わりました。

■ドジャースが強い本当の理由
これまでさまざまな球団を取材してきました。その中で私がずっと知りたかったのは、勝ち続けるチームは何が違うのかということです。その答えを知りたくて、ワールドシリーズ3連覇を目指すロサンゼルス・ドジャースのテオスカー・ヘルナンデス選手に、強さの理由を尋ねたことがあります。
ドジャースの強さは、大谷翔平選手をはじめとするスター選手の存在にあるのだと思っていましたが、返ってきた答えは意外なものでした。
「このチームは、ハードワーカーの集まりなんだ」
続けて彼はこう話してくれました。
「ここにはスーパースターも、長くプレーしているベテランもいる。でも、みんな今より良くなるために努力を続けている。数字なんて気にしない。その日勝つために何をすればいいかしか考えていない」
「ショウヘイも、ムーキー(ベッツ)も、フレディ(フリーマン)も、スコアボードがどうであろうと関係ない。自分たちのやるべきことをやり続ける。その姿があるから、みんながついていく」
スター選手が背中で示し、その姿勢が自然とチーム全体へ広がっていく。テオスカー選手の話を聞いて、私はドジャースの強さはスター選手の数や選手層の厚さだけではなく、現状に満足せず、より高みを目指し続ける姿勢がチーム全体に根付いていることにもあるのではないかと感じました。

■メジャーリーグは、もっと面白い
野球を通して、私はたくさんの人に出会い、多くのことを教えてもらいました。現場で選手たちを見ていると、心を動かされるのはホームランや勝敗だけではありません。努力や仲間との絆、家族を大切にする姿、そして球場を包む空気や文化まで、この世界から数え切れないほど多くのことを学んできました。
この連載では、試合結果だけでは伝わらない選手たちの素顔や、現場だからこそ感じられるメジャーリーグの魅力、この世界の面白さをお届けしていきたいと思っています。
「メジャーリーグって、こんな世界だったんだ!」。そんな新しい発見を、一つでも多くお届けできたらうれしいです。
【次回予告】
連載第2回 8/20 ブルージェイズ・岡本和真選手インタビュー 公開予定



