コートの女王・杉山愛が説く勝者の呼吸法「臍下丹田に空気をためる」【二宮清純】

コートの女王・杉山愛が説く勝者の呼吸法「臍下丹田に空気をためる」【二宮清純】

WTAランキングで、シングルスとダブルスの双方で同時に世界トップ10入りを果たした日本人テニスプレーヤーは、女子の杉山愛さんだけです。その杉山さんは、2015年にロジャー・フェデラーさん(スイス)に抜かれるまで、グランドスラムシングルス連続出場のギネス記録(62大会)を保持していました。

■苦境を救った一冊の本

杉山さんは4歳でテニスを始め、15歳の時には男女通じて日本人初の世界ジュニアランキング1位の座に就きました。

1992年、17歳でプロ転向後は、得意のバックハンドと持ち前のフットワークに磨きをかけ、着実に力を付けていきました。

4大大会のシングルスでは2000年全豪オープン、04年ウィンブルドンとシングルスで、2度ベスト8に進出。世界ランキングは最高で8位に上りつめました。

また、得意のダブルスでは、4大大会で4度の優勝、7度の準優勝を果たし、00年、03年には世界ランク1位に輝きました。

特筆すべきは、4大大会のシングルス連続出場記録です。冒頭でも紹介したように、94年のウィンブルドンから09年の全米オープンまで積み上げてきた連続出場数は62を数えます。

無事是名馬也を絵に描いたようなテニス人生を送った杉山さんですが、25歳の時、大スランプに陥り、一時は「テニスを諦めよう」と思ったこともあったそうです。

それについて以前、彼女はこう語っていました。
「あの時は本当に追い詰められていました。元々は楽観的な性格ですが、あの時は考えれば考えるほど負のスパイラルに陥り、ネガティブな感じになり、自分らしさを失っていました。大好きだったはずのテニスを大嫌いになり、コートに立つのが苦痛で涙がこぼれるくらいでした」

苦境を救ってくれたのは一冊の本でした。医学博士の塩谷信男さんが書いた『自在力』という本に書かれてある「正心調息法」という呼吸法を試したところ、身も心も軽くなったというのです。

■エネルギーの源泉

以下は本人から聞いた話です。
「1回やると、やはり少し息苦しくなるので、普通の呼吸を1、2回して息を整えます。そしてまた大きな呼吸をする。その繰り返しなんですけど、現役時代は25回やっていました。今では朝、夜、それぞれ10回程度やっています」

 ――回数については?
「体の表面というよりも、ちょうど体の真ん中の臍下丹田を意識して、鼻から息を深く吸い込むんです。普段は浅くしか呼吸していないので、最初はなかなかうまくできないんですけど、何回かやっていくうちに、うまく肺の奥深くまで空気をいきわたらせることができるんです。大きく吸い込んだら、苦しくならない程度に少し息を止めます。ちょっとお尻の穴を閉める感じで、臍下丹田にグッと空気をためるんです」

杉山さんの話を聞いていて、目から鱗が落ちるような気持ちになりました。

というのも、日常生活において、私たちは呼吸という生きる上で最も根源的な作業について、あまりにも無頓着だからです。

チコちゃんに「ボーッと生きてんじゃねぇーよ!」と叱られそうですが、杉山さんに指摘されるまで、呼吸について深く考えることはありませんでした。

敵に勝つには、また自分に克たなければなりません。そのために重要なのは、己の身体を知り、内面と常に対話し続けることです。杉山さんが言うように、呼吸こそはエネルギーの源泉と言えるかもしれません。

二宮清純

二宮清純 (ライター)

フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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二宮清純

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フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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