ニューヨーク・ヤンキース、アーロン・ジャッジ選手のプレーだけじゃない人間としての魅力【カーロン・マイア】
スポーツ インタビュー連載コラム
2026.10.20
カーロン・マイアの知ればハマるMLB
第四回:アーロン・ジャッジ選手の握手が変わった日
〜マイナー時代から見てきたキャプテン・アメリカの素顔〜
今やアーロン・ジャッジ選手といえば、MLBを代表するスーパースターです。ニューヨーク・ヤンキースのキャプテンを務め、今年のWBCではアメリカ代表のキャプテンも務めました。身長201センチの大きな体から放たれる豪快なホームランや、これまで残してきた数々の記録については、すでにいろいろなところで紹介されています。
なので、今回は少し違うところから、私が長年取材してきたジャッジ選手について書いてみたいと思います。

ジャッジ選手が背負う背番号「99」
写真:New York Yankees
■マイナー時代に出会った、背番号99
私が初めてジャッジ選手を見たのは、彼がまだマイナーリーグにいた頃でした。場所はフロリダ州タンパにあるニューヨーク・ヤンキースのスプリングトレーニング施設。シーズン開幕前のキャンプを取材していた時のことです。
その時、現地のメディア関係者から、今マイナーにすごい選手がいて、将来ヤンキースを背負うような存在になると思う、と教えてもらいました。
長年ヤンキースのキャプテンを務めた、デレク・ジーターさんの後継者候補ということ?へえ、誰だろう、、、と思ってフィールドを見ていると、ちょうど練習中で、三塁ベースからホームへ向かって走ってくる選手たちの中に、一人だけ明らかに体の大きな選手がいました。
野球選手は体の大きな人が多いですし、MLBの現場に長くいると180センチ台後半の男性を見てもそれほど驚かなくなってくるのですが、そんな中でも背が高く、体の厚みもあって、明らかに一回り大きい。遠くからでもすぐに分かりました。
そしてもう一つ目についたのが、背番号の99です。当時の私には、野球選手が99番という大きな番号をつけていること自体が珍しく見えました。私の中ではスター選手というと比較的小さな番号のイメージもあったので、「へえ、99番!こんな大きな番号をつけている人がいるんだ」と妙に気になったんです。
その選手がアーロン・ジャッジでした。
当時はまだマイナーリーグにいましたが、その後メジャーに昇格すると、あの時メディア関係者から聞いた通り、どんどんヤンキースを代表する存在へと成長していきました。
そしてあの時、妙に気になった99番は、メジャーに昇格してからもそのままでした。今ではジャッジ選手の背番号としてすっかりおなじみになり、球場では99のジャージを着たファンを本当にたくさん見かけます。

201センチの大きな体から生み出される、ジャッジ選手の圧倒的なパワー
写真:New York Yankees
■キャプテンになる前から見ていた姿
メジャーに上がってからは、私も仕事を通して彼と話す機会が増えました。ヤンキースタジアムで会えば握手をしたり、ハグをしたり、元気?と声を掛け合ったり。若い頃からよく笑い、とても優しい人でしたが、その一方で、年齢の割に落ち着いていて、周りの人のことをよく見ている人だなという印象がありました。
そして試合中にも、ずっと覚えている姿があります。
守備が終わってチームが攻撃に移る時、フィールドに出ていた選手たちがダグアウトへ戻ってきます。その時、ジャッジ選手は自分だけ先にベンチの奥へ入っていくのではなく、ダグアウトのところに立って、戻ってくるチームメイトたちを待って迎えているんです。私はこの姿を一度ではなく、何度も見ています。
別に大げさなことをしているわけではないし、テレビ中継ではほとんど映らないような場面です。でも、そういう姿を見るたびに、この人は本当にチームメイトを大切にする人なんだなと思っていました。
だから2022年に、デレク・ジーターさん以来となるヤンキースのキャプテンに選ばれた時も、もちろんすごいことだとは思いましたが、私の中では、「やっぱりジャッジなんだな」という感覚の方が強かったのです。
キャプテンになってから何かが変わったというより、私が知っている彼は、そのずっと前からこういう人でした。

ホームに生還したチームメイトを迎え、一緒に喜ぶジャッジ選手
写真:New York Yankees
■インタビューで聞いた、チームメイトへの思い
これまで何度もインタビューをさせてもらってきましたが、以前、彼らしいなと思った答えがありました。
「チームの雰囲気を作っているのは誰ですか?」と聞いた時のことです。
もちろん自分の名前を挙げることはないだろうと思っていましたが、誰か中心となる選手の名前が出てくるのかなとは思っていました。ところが彼の答えは、一人に絞るのは難しい、というものでした。
「その日の先発投手が持ってくるエネルギーやマウンド上での落ち着き、キャッチャーがホームプレートの後ろでやっている仕事も含めて、全員がお互いに影響し合っている。そしてチームメイトのためなら壁を突き破ってでも、自分を犠牲にしても構わないと思えるくらい、みんながお互いを大切にしている」と話してくれました。
それを聞いて、ジャッジ選手は誰か一人がチームを作っているのではなく、全員でチームを作っていると考えているんだなと思いました。
そして私はその話を聞きながら、ダグアウトでチームメイトたちが戻ってくるのを待っていた彼の姿を思い出していました。話していることと、私がそれまで実際に見てきた姿が同じだったんですよね。

キャンプ地を訪れた子どもに撮影されるジャッジ選手
写真:New York Yankees
■あれ? ジャッジ、握手が変わった?
それから、これは本当に何年も彼と接してきたからこそ気づいたことなのですが、ある時から握手の仕方が変わったんです。
若い頃は、会うとあのものすごく大きな手でガシッと握手をしてくれていました。身長201センチなので当然手も大きいのですが、とにかく厚みもすごい。握手をすると、手の大きい私の手もすっぽり入ってしまうくらいです。これまで私が握手をしてきた人の中でも、間違いなく一番大きくて厚い手だと思います。
ところが、正確にいつ頃からだったのかは覚えていませんが、彼がチームの中でもどんどん中心的な存在になっていった頃から、以前のようにガシッと握るのではなく、こちらの手をあの大きな手でふわっと包むように、とても優しく握ってくれるようになりました。
最初に気づいた時、「あれ?ジャッジ、握手の仕方が変わったな」と思ったことを今でも覚えています。
もちろん、握手一つでその人がどう変わったかなんて分かりません。でも、何年も同じ人と接していると、こういうちょっとした変化に気づくことがあります。もともとの優しさは変わらないのですが、年齢を重ね、チームの中での存在が大きくなっていくにつれて、人への接し方にも以前とはまた違った余裕や柔らかさが出てきたように私には見えました。

MLBを代表するスーパースターのジャッジ選手
写真:New York Yankees
■父から教えられた言葉
ジャッジ選手は、生後間もなく養子として迎えられ、ご両親はともに教師でした。教育を大切にする家庭で育ち、スポーツで成功することだけではなく、人としてきちんと成長することを大切にされていたそうです。
以前、私が162試合もある長いシーズンをどうやって集中して戦い続けているのかを聞いたことがあります。その時に彼が話してくれたのが、お父さんからずっと言われてきたという言葉でした。
"If what you did yesterday still seems big today, then you haven't done anything today."
昨日やったことが今日になってもまだ大きなことに思えるなら、今日はまだ何もやっていない。
例えば前の日に4打数4安打のすばらしい活躍をしたとしても、昨日はもう終わったこと。今日は新しい日なのだから、今日また自分の仕事をして、何かをしなければいけない。そういう考え方でシーズンを戦っていると話していました。
スポーツでは、失敗を次の日まで引きずらないという話はよく聞きます。でも彼の場合は、失敗だけではなく、前の日の成功にも引っ張られないんだということが、この話を聞いてよく分かりました。
162試合という長いシーズンで結果を残し続けている彼が、毎日こういう考え方でグラウンドに立っているということも、この時初めて知りました。

ヤンキースを背負うスーパースターとなったジャッジ選手
写真:New York Yankees
■歯までスターになっていた
そして、長く同じ選手を見ていると、野球とは関係のない変化にもちょっと気づいたりもします。
若い頃のジャッジ選手は、前歯にけっこう目立つ隙間がありました。いわゆるすきっ歯です。笑うとそこが見えて、それも含めて彼らしい顔だったので、私はけっこう好きだったんです。
ところが、ある時久しぶりに近くで見たら、「あれ?ジャッジ、歯が違う!」と。前歯の隙間がなくなっていただけではなく、本当にびっくりするくらい綺麗な歯になっていて、なんというか、まさにザ・スターみたいな歯になっていました。
でも、変わったのは歯だけではありません。メジャーで活躍し、注目度が上がってヤンキースの中心になっていくにつれて、顔つきや雰囲気も少しずつ変わっていきました。若い頃からカッコいい選手ではありましたが、そこに自信や貫禄が加わって、スターらしい存在感を持つようになっていました。
長く接してきた私からすると、「ジャッジ、本当にカッコよくなったなあ」と感じることもありました。

メディアの取材に応じるジャッジ選手
写真:New York Yankees
■「Anytime」 スターになっても変わらないところ
そんな彼に、インタビューをお願いしたある時のことです。その頃にはもう、試合前も試合後もたくさんのメディアに囲まれる存在になっていて、取材の時間を取ってもらうことも簡単ではありませんでした。
ある日、ロッカールームでジャッジ選手を見かけたので、インタビューをしたいから少し時間をもらいたい、とお願いしました。ちょうど練習へ向かうところだったので、歩いている彼について行きながら話せたのは、本当に30秒くらいです。私がインタビューのために時間が欲しいと伝えると、「もちろん、Anytime。君たちのためなら時間作るから」と言いながら、胸のあたりを拳でトントンとして、こっちを見てウインクしてくれました。
その時はさすがに、「おお、ジャッジ!いつの間にこんなカッコよくなったの?」と思いました。
でも、それ以上にありがたかったのは、これだけ忙しくなっても、長い間仕事を通して接してきた私たちに、昔と変わらない感じで接してくれたことでした。しかも言葉だけではなく、その後、本当にインタビューのためにかなりしっかり時間を取ってくれました。それも試合前の忙しい時間にです。
どれだけ有名になって、どれだけ忙しくなっても、こうして時間を作ってくれることには本当にいつも感謝しています。

WBCではアメリカ代表のキャプテンを務めたジャッジ選手
写真:New York Yankees
■ヤンキースから、アメリカ代表のキャプテンへ
そして今年のWBCでは、アメリカ代表のキャプテンも務めました。代表の選手たちに話をした時に、彼が伝えたことの一つが、チームのために自分を犠牲にすること、そして仲間のためにそこにいることだったそうです。それを知った時、やっぱりジャッジだなと思いました。
ヤンキースでキャプテンになる前から私が見てきた彼と、アメリカ代表のキャプテンとして選手たちに話していることが、やっぱり同じだったんです。
私のこれまでのメジャーリーグ取材生活の中でも、ジャッジ選手は特に記憶に残っている選手の一人です。まだマイナーだった頃に初めてその姿を見て、メジャーに上がってからは仕事で何度も話をし、取材もさせてもらいました。これだけ長く接してきたので、私自身、彼にはやっぱり思い入れがありますし、個人的にも好きな選手です。
フロリダで初めて見た時には、まだマイナーリーグで99番をつけていた大きな選手でした。それがメジャーに上がり、ヤンキースを代表する選手になり、キャプテンになって、今度はアメリカ代表のキャプテンにまでなりました。
あの時、将来ヤンキースを背負う選手になると思う、と聞いてから10年以上。本当にその通りになったどころか、今ではそれ以上のところまで来ています。
すでにこれだけの選手になったジャッジ選手ですが、それでもまだまだこの先、さらに上にいくような気がしています。これからもどんな活躍を見せてくれるのか楽しみです!
カーロン・マイア (ライター)
アメリカを拠点に、MLBやNBAなどスポーツ取材16年。TV、ラジオリポーター、スポーツコラムの執筆、ニュース取材、番組コーディネーターとして、NHKをはじめとする国内主要メディアなどで活躍。
カーロン・マイア (ライター)
アメリカを拠点に、MLBやNBAなどスポーツ取材16年。TV、ラジオリポーター、スポーツコラムの執筆、ニュース取材、番組コーディネーターとして、NHKをはじめとする国内主要メディアなどで活躍。



