渋野日向子、笑顔の全英女子制覇。「驚きすぎて涙も出てこない」【二宮清純】
スポーツ 連載コラム
2026.10.29
ゴルフ界にシンデレラが誕生したのは、2019年8月4日(現地時間)のことです。英国のミルトンキーンズ・ウォバーンGCで行なわれた全英女子オープンで、日本の渋野日向子選手が通算18アンダーで優勝しました。1年前にプロテストに合格したばかりの20歳の優勝は、世界を驚かせました。
■「ここまできたら狙いたい」
2位と2打差の単独首位で迎えた最終日、「優勝を狙うのか?」との質問に、渋野選手は「ここまできたら狙いたい」とはっきり口にしました。
しかし、フロントナインは精彩を欠きました。1番、2番とバーディーパットを外し、連続パーで迎えたパー4の3番。2オンしたものの下りのバーディーパットがカップをオーバーし、折り返しのパットも決まらず、なんと6打目でやっと沈める痛恨の4パットダブルボギー。首位の座を譲ります。
さしもの渋野選手も「前半はすこし緊張していた」ようです。
それでも渋野選手は踏みとどまります。5番と7番でバーディーを奪い、スコアを戻します。8番はボギーとしましたが、前半を首位リゼット・サラス選手(米国)から2打差の3位タイで折り返しました。
この大会のみならず、今後のゴルファー人生をも左右しそうな運命のサンデーバックナイン。渋野選手はティーグラウンドで大きく息を吐きました。
「気持ちを切り替えるには、ここでバーディーをとらないと......」
後半のスタートホールの10番。渋野選手の第2打は、わずかにカラーにこぼれたものの、難しいフックラインを読み切り、約8メートルのロングパットを沈めてバーディーを奪取しました。11番も手堅くパー。渋野選手にトレードマークの笑顔が戻ってきました。
迎えた12番はワンオンも狙えるショートパー4。だがグリーン手前に池が配置された難コース。しかも、この最終日はピンプレースメントが右側で、ピンデッドを狙ったボールが右に跳ねれば"池ポチャ"の危険性もあります。
■スマイリング・シンデレラ
リスクを避けるには、手堅くアイアンで刻み、レイアップからバーディーを狙うという手もありましたが、渋野選手はドライバーを振り抜きました。グリーン脇のカラーを狙いすましたようなショットは、まっすぐ転がり、ギリギリで止まりました。
渋野選手はイーグルパットこそ外したもののバーディーを奪い、スコアを15アンダーとします。さらに13番でもバーディーを奪い、通算16アンダーで首位に2打差に迫ります。
14番はパー。ロングホールの15番は第3打をウェッジでピンそば約1.5メートルの位置にピタリと付け、これを沈めてバーディー。17アンダーでトップに並びます。16番と17番はパー。サラス選手と首位タイで最終18番ホールを迎えます。
1組前を回るサラス選手が18番のバーディーパットをわずかに外し、通算17アンダーでホールアウト。同じく17アンダーの渋野選手はバーディーを奪えば優勝、パーならサラス選手とプレーオフ、というしびれるような最終局面です。
渋野選手は7番アイアンで第2打をピン手前約6メートルに乗せ、ギャラリーの歓声と拍手に迎えられてグリーンに入ります。ここで渋野選手は、こう考えたそうです。
「外してプレーオフに行くくらいなら、オーバーした方が後悔しない」
強めのタッチでカップに向かったボールは、勢いを殺すことなく壁の奥をとらえます。1打差で激闘を制した渋野選手は、咲き誇るような笑顔でキャディーの青木翔コーチとハグしました。
快挙達成後、印象に残ったのは次の言葉です。
「驚きすぎて涙も出てこない。それほどびっくりしました」
スマイリング・シンデレラ。渋野選手は、一夜にして世界のヒロインとなりました。
二宮清純 (ライター)
フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。
二宮清純 (ライター)
フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。



