栗山英樹が三原脩から学んだ究極の選手起用法。「虎は虎のまま使え」【二宮清純】
スポーツ 連載コラム
2026.03.19
2023年の第5回WBCで、日本代表(侍ジャパン)を率いて3大会ぶり3回目の優勝を果たして以降、栗山英樹さんは球界のリーダーに躍り出た感があります。この1月には、指導者としての実績も評価の対象となる競技者エキスパート部門で、野球殿堂入りすることが発表されました。
■信頼感のなせる業
栗山さんは、北海道日本ハムファイターズの監督時代、背番号「80」を付けていました。この「80」という番号は、栗山さんが師と仰ぐ三原脩さんがヤクルトアトムズの監督時代に背負っていたものです。言うまでもなく、栗山さんもヤクルトのOBです。
ローカル球団である西鉄ライオンズで3年連続日本一(1956~58年)、6年連続最下位の大洋ホエールズを初めて日本一に導いた三原さんといえば、合理的な采配と時宜を得た選手起用で「魔術師」の異名をほしいままにした球界きっての知将です。
西鉄3年連続日本一の最大の立役者である稲尾和久さんは、三原さんの采配について、こう述べています。
<三原監督は何事も強制せず、最終決定は選手にゆだねるというスタイルを取った。しかし、この選手任せがくせ者で、任せているようでその実、いつも選択の余地をなくすような布石が敷いてあった。そうして自分の意に添う方向に引っ張り込む。選手は自分の選んだ道だと思っているから、同じことをやるにも気持ちのノリが違ってくる、という次第>(稲尾和久『神様、仏様、稲尾様』日本経済新聞社)
西鉄の日本シリーズ3連覇の相手は、いずれも巨人でした。とりわけ3連敗から4連勝した58年のシリーズは、今も語り草です。
稲尾さんは7試合中、実に6試合に登板し、4連投4連勝(4勝2敗)の活躍で、MVPに選出されました。
普通、これだけ酷使されれば、「監督はオレを殺す気か!?」といきり立つものですが、生前、稲尾さんは、「むしろ、やり甲斐のある仕事を与えてもらって感謝しています」と語っていました。
信頼感のなせる業でしょう。
■「阿吽の呼吸」が可視化
第5回WBCでの、栗山さんと大谷翔平選手の関係についても、同様のことが言えるのではないでしょうか。
決勝の米国戦。3対2と1点リードの9回裏、マウンドに上がった大谷選手は、2死からマイク・トラウト選手を空振り三振に切って取り、名勝負に幕を引きます。
大谷選手は5回終了時に自らの意思で肩をつくり始めたと言います。勝つために、自分は何をすべきか。栗山さんとの「阿吽の呼吸」が可視化されたシーンでした。
そんな栗山さんが大事にしている言葉があります。それは三原さんが常々口にした、「虎は虎のまま使え」というものです。これは非常に味わい深い言葉です。
栗山さんの説明です。
「選手をひとつにまとめようとしても、それは無理。ジャパンに入るような選手なら、なおさらです。皆、実績があるし、プライドも高い。西鉄だって、"野武士軍団"と言われていたくらいですから、監督がああしろ、こうしろと指示したところで、その通りになるわけがない。
僕は日本ハムの監督時代から、常にこのことを意識して采配を振るってきた。ただし、何も目標を示さなかったら、チームの意味がない。だから、"ここに行こう!"という目指す場所だけはきちんと示した。
ジャパンでも、選手たちに"あなた方は野球の伝道師です。結果で示してください"と最初に言いました。それだけ言えば、選手はわかってくれます。あとは(選手の能力を)信じて使うだけです」
あれこれ口出しをして、虎を猫や羊に変えてしまっては元も子もありません。組織のリーダーは肝に銘じる必要があります。
二宮清純 (ライター)
フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。
二宮清純 (ライター)
フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。




