三浦璃来から木原龍一へ「今日は龍一君のために滑るよ」【二宮清純】

三浦璃来から木原龍一へ「今日は龍一君のために滑るよ」【二宮清純】

ミラノ・コルティナ冬季五輪が幕を閉じても、フィギュアスケートペアで日本初の金メダルを獲得した三浦璃来選手と木原龍一選手の"りくりゅう"フィーバーは、まだ続いています。さる2月26日には、所属先の木下グループの木下直哉社長から、2人にそれぞれ2000万円の報奨金が贈られました。

■流行語大賞!?

気の早いメディアの中には、「今年の流行語大賞は"りくりゅう"で決まり!」という者もいます。

そこで調べてみると、過去、スポーツ界からは「Jリーグ」(1993年)「イチロー(効果)」(94年)「がんばろうKOBE」「NOMO」(95年)「自分で自分をほめたい」「メークドラマ」(96年)「ハマの大魔神」(98年)「雑草魂」「リベンジ」(99年)「W杯(中津江村)」(02年)「チョー気持ちいい」(04年)「イナバウアー」(06年)「ハニカミ王子」(07年)「なでしこジャパン」(11年)「トリプルスリー」(15年)「そだねー」(18年)「ONE TEAM」(19年)「リアル二刀流/ショータイム」(21年)「村神様」(22年)「アレ(A.R.E)」(23年)といった言葉が選ばれています。

これらは大きく①個人名・チーム名・組織名・大会名、②ニックネーム・代名詞・標語、③技や記録の名称、④実際のコメント、の4つに分類することができます。

①は「Jリーグ」「イチロー(効果)」「NOMO」「W杯(中津江村)」「なでしこジャパン」、②は「がんばろうKOBE」「ハマの大魔神」「ハニカミ王子」「ONE TEAM」「リアル二刀流/ショータイム」「村神様」「アレ(A.R.E)」、③は「イナバウアー」「トリプルスリー」、④は「自分で自分をほめたい」「リベンジ」「雑草魂」「チョー気持ちいい」「そだねー」が該当します。

ちなみに④に関していえば「自分で自分をほめたい」は、96年アトランタ五輪女子マラソン銅メダルに輝いた有森裕子さん、「リベンジ」は99年のパ・リーグ新人王・松坂大輔さん、「雑草魂」は同じく99年のセ・リーグ新人王・上原浩治さん、「チョー気持ちいい」は04年のアテネ五輪男子平泳ぎ100メートルで金メダルを獲得した際の北島康介さん、そして「そだねー」は18年平昌冬季五輪の女子カーリングで銅メダルに輝いたロコ・ソラーレの選手たちが口にした言葉です。

■奇跡の大逆転劇

仮に"りくりゅう"での大賞受賞となると②になるわけですが、④も可能性があるのではないでしょうか。

私のイチ推しは、三浦選手が木原選手にかけた「今日は龍一君のために滑るよ」という言葉です。すぐに木原選手は「僕も璃来ちゃんのために」と返しました。

フリー前日のショートプログラム(SP)で、りくりゅうは中盤の見せ場となるグループ5アクセルラッソーリフトの場面でミスを犯し、大きくスコアを落としました。5位という順位に木原選手は「もう全てが終わってしまった」と絶望的な気分に陥ったと言います。

無理もありません。首位に立ったドイツのハーゼ/ボロディンペア組の得点は80.01。現行の採点方式になってからの五輪で、6.90ポイントもの大差を引っくり返して頂点に立った例はありません。

よりによって最も得意とするリフトで失敗するとは......。そのショックは大きく、三浦選手によると、木原選手は「朝ごはんを食べる時にもポロポロ泣いていた」と言います。

一方で9歳年下の三浦選手は冷静でした。
「ノーミスすれば(逆転の)可能性もあると思っていました」

だから、木原選手をこう励ましたのです。
「まだまだ今日があるでしょ。昨日は昨日、今日は今日と切り替えて」

三浦選手の言葉通り、フリーをノーミスで終えたりくりゅうは世界歴代最高となる158.13点をマークし、奇跡の大逆転劇を演じたのです。

それにしても「龍一君のために」「璃来のために」――。互いを思いやる率直にして誠実な言葉は、多くの日本人、いや世界中の人々の心をとらえたはずです。

と、ここまで書いてきて、考え直しました。この素晴らしい言葉を「流行語」の範疇にとどめるのは、ちょっともったいない気もしないではありません。

二宮清純

二宮清純 (ライター)

フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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