死に馬を走らせた闘莉王の檄「俺たちは大して強いわけじゃない」【二宮清純】
スポーツ 連載コラム
2026.01.15
サッカー日本代表は、1998年フランス大会以降、7大会連続でW杯に出場し、決勝トーナメントに4度進出していますが、国外大会での決勝トーナメント進出は、2010年南アフリカ大会が初めてでした。下馬評の低かったチームに"喝"を入れたのは、"闘将"の異名を誇るDFの田中マルクス闘莉王さんでした。
■本番前に4連敗
W杯本番を4カ月後に控え、関係者やサポーターを不安にさせたのは、2010年2月に国内で行なわれた東アジア選手権でした。日本はホスト国でありながら1勝1分1敗の3位に終わってしまいました。
本番前の強化試合でもセルビアに0対3、韓国に0対2と連敗。キャプテンの川口能活さんが「悪い流れを変えなくてはいけない」と選手だけのミーティングを提案したのは、キャンプ地のスイス・ザースフェーに到着してからでした。
「チーム勝たせるためには、どうすべきか。まず皆が、同じ方向をむかなければならない」
川口さんの代表選出はサプライズでした。09年9月に右けい骨を骨折して以来、1度も公式戦に出場していなかったからです。
逆に言えば、それだけ彼のリーダーシップと責任感を、代表監督の岡田武史さんが買っていたということでしょう。
川口さんは南アW杯への意気込みを、こう述べました。
<怪我の回復が思ったより時間がかかり、非常に悔しい思いをして、今日のW杯メンバー発表も正直無理だと思いかけた時期もありました。
99.9%無理なのではないかと思っていましたが、ただ、仮にそうなっても日の丸を背負ってきた自分としては、同じ気持ちで戦いたいという思いをずっと持っていました>(ジュビロ磐田HP)
川口さんの先の問いかけに対し、真っ先に口火を切ったのが闘莉王さんでした。
■「泥くさく戦う」
「みんな、自分たちはうまい、やればできるんじゃないかという変な自信があるんじゃないのか? おかしな自信で、自分たちの良さを消しているんじゃないのか?
俺はセルビア戦をテレビで見て、韓国戦はスタンドで上から見た。怪我で迷惑をかけてきたことは申し訳なく思う。でも、そこで見て感じたのは、俺たちはそこそこの技術はあるけど、ずば抜けているような技術はないということ。大して強いわけじゃないんだ」(自著『大和魂』幻冬舎)
果たして、まわりの選手は、どう感じていたのでしょう。MFの阿部勇樹さんはこう語りました。
「ワールドカップで1勝するのは、本当に大変なこと。泥くさく戦わないと絶対に勝てない。本大会前の数試合を通して、皆がうすうす感じていたことを、闘莉王が代弁してくれました」
闘莉王さんは、こうも言ったそうです。
「考えてみろよ。俺らの中で一番うまいのは(中村)俊輔さんだ。でも俊輔さんでも、世界中を見渡してみれば、それほどでもないんじゃないか? これからワールドカップで戦う相手と比べれば、それほどでもないんじゃないか? カメルーンにはエトーがいる。オランダにはファンペルシやスナイデルがいる。あいつらは一発で試合を決める力の持ち主だ。俊輔さんがあいつらと同じレベルで試合を決められるだろうか? そうじゃないだろう? みんなでやらなきゃだめなんだ」(同前)
その後も強化試合でイングランド、コートジボワールに敗れ、先行きが心配されましたが、指揮官は、これまでの4-2-3-1のシステムを、阿部さんを「アンカー」に置く、4-1-4-1に変更し、これに手ごたえを掴んだ選手たちは、初戦のカメルーン戦に勝利し、勢いに乗ったのです。闘莉王さんは闘志あふれるプレーと、情熱的な言葉でチームを牽引しました。
二宮清純 (ライター)
フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。
二宮清純 (ライター)
フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。




