山本由伸の苦節9年「こういう試合で投げるために何年も練習してきた」【二宮清純】

山本由伸の苦節9年「こういう試合で投げるために何年も練習してきた」【二宮清純】

相撲の世界に「3年先の稽古」という言葉があります。今日の苦しい稽古が、3年先には実を結ぶ、という意味です。これは、野球の世界にも当てはまるようです。

■初のプロスポーツ大賞

2025年のMLBワールドシリーズで、日本人選手としては松井秀喜さん(当時ニューヨーク・ヤンキース)以来のMVPに輝いた山本由伸投手(ロサンゼルス・ドジャース)は、シーズンオフも表彰ラッシュです。

さる12月17日には、その年、最も活躍した選手や団体に贈られる「内閣総理大臣杯 日本プロスポーツ大賞」の大賞を初受賞しました。

「自分自身、とても成長を感じられるシーズンとなりました。来シーズンは、この賞に恥じぬよう全力を尽くしていきたいと思います」

殊勝な面持ちで、山本投手は、そう語りました。

公益社団法人「日本プロスポーツ協会」が制定する同賞は、1968年から続く由緒ある賞です。

プロ野球選手としては、王貞治さん(74、76、77年)とイチローさん(本名・鈴木一朗)の3回(94、95、2001年)が最多です。大谷翔平選手も既に2回(16、18年)受賞しています。

マイナー競技からも大賞受賞者が出ています。73年にはキックボクサーとして沢村忠さんが栄誉に浴しました。地上波から消えて久しいキックボクシングですが、沢村さんの全盛期、テレビ視聴率は30%を超えていました。私たちの世代で、得意技の真空飛びひざ蹴りを真似しなかった者はいないでしょう。

閑話休題。ドジャースがトロント・ブルージェイズを4勝3敗で下した今年のワールドシリーズでの山本投手の奮闘は、長いMLBの歴史に、その名を刻むものでした。

ワールドシリーズで3勝をあげた投手は、山本投手を含め、過去に14人いますが、全て敵地となると山本投手だけです。

■魂のピッチング

3勝3敗で迎えた第7戦、前日に96球を投げて勝利投手になった山本投手は、4対4の9回裏、1死一、二塁、絶体絶命のピンチでマウンドに上がりました。

先頭のアレハンドロ・カーク捕手に死球を与えて1死満塁としたものの、続くドールトン・バーショ選手をセカンドゴロ、アーニー・クレメント選手をセンターフライに打ち取り、無失点で切り抜けました。

山本投手の"魂のピッチング"に味方も応えます。延長11回表、ウィル・スミス捕手がレフトスタンドに値千金の勝ち越しホームランを放ちます。

その裏、ドジャースは1死一、三塁とあわや同点、逆転サヨナラ負けのピンチを迎えますが、山本投手は渾身のスプリットでカーク捕手をショートゴロ併殺に打ち取り、タイトロープを渡り切りました。

感動すら覚えたのは、延長18回の死闘を制した第3戦直後のコメントです。マウンドにこそ上がりませんでしたが、18回にはブルペンで投球練習をする山本投手の姿がありました。2日前に105球を投げていたにもかかわらず、ブルペンがカラになる事態を想定して、肩をつくり始めたのです。

「こういう試合で投げられるように、これまで何年も練習してきました。19歳の時は、何でもない試合で投げても、そこから10日間くらい投げられなくなったりして。そこから何年も練習して、ワールドシリーズで完投して、中2日で投げられる体になっていたことに、すごく成長を感じました」

冒頭で紹介した相撲界の格言にならって言えば、3年先どころか「9年先の稽古」が、野球の世界最高峰の舞台で、大輪の花を咲かせたのです。

この山本投手、来年3月に行なわれる第6回WBCにも、出場の意向を示しています。

二宮清純

二宮清純 (ライター)

フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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