「人間の可能性の祭典」パラリンピック。ともに考える「共生社会」のあるべき姿【二宮清純】

「人間の可能性の祭典」パラリンピック。ともに考える「共生社会」のあるべき姿【二宮清純】

2026年ミラノ・コルティナ冬季パラリンピックは、同冬季五輪閉幕後の 3月6日から15日にかけて開催されます。雪と氷を舞台に、パラアスリートたちが世界を魅了します。

■河合純一の名言

今回の冬季パラリンピックは、五輪同様ミラノとコルティナダンペッツォの2都市を中心に開催されます。ミラノではアイスホッケー、コルティナダンペッツォでは、アルペンスキー、スノーボード、車いすカーリングが行われます。
とりわけコルティナダンペッツォは、日本人にとっては思い出深い地です。1956年のコルティナダンペッツォ冬季五輪で、日本代表の猪谷千春さんがアルペンスキー回転で銀メダルを獲得しました。これは日本人が冬季五輪で初めて胸に飾ったメダルでした。
あれから70年、当時24歳だった猪谷さんは94歳になりました。どんな思いで、この大会を見つめるのでしょう。

「オリンピックが"平和の祭典"なら、パラリンピックは"人間の可能性の祭典"」

そう語ったのは、現スポーツ庁長官の河合純一さんです。パラリピアンの河合さんは、パラリンピックの競泳で5つの金メダルを獲得しています。
その河合さん、この国が目指す「共生社会」には、「ミックスジュース型」と「フルーツポンチ型」がある、というのです。
どういう意味でしょう。
目の前に具材としてりんごとみかん、いちごが置かれたとしましょう。これを一緒くたにしてすり潰してしまえば、個性もかたちもなくなってしまいます。それよりも、互いの個性とかたちを認め合いながら、調和を保つ「フルーツポンチ型」の方が望ましいというのが河合さんの持論です。
冬季パラリンピックも、この文脈で語らなければなりません。

私が過去に取材したパラリンピアンの中から印象に残る2人を紹介しましょう。
ひとりはノルディックスキーの新田佳浩選手です。45歳の新田選手は1998年長野大会を皮切りに過去7度のパラリンピックに出場しています。今回が8度目の出場です。金メダルも既に3つ胸に飾っています。
岡山県出身の新田選手は3歳の時、コンバインに左腕を巻き込まれる事故に遭い、ひじから先を失いました。
長じて全日本中学校スキー大会に出場した新田選手に目を付けたのが荒井秀樹さん(現・日本選手団副団長)でした。

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■パラから学んだ人生観

新田選手はこう語りました。
「人間は未知の世界に対して不安を覚えたり、立ち止まったりしがちですが、新たな世界に飛び込む勇気と覚悟を持てたからこそ、今の自分があると思っています」
過酷な雪上は、新田選手にとっては自己表現の舞台なのです。

2人目は今大会、選手団団長を務める大日方邦子さんです。彼女は98年長野大会(滑降座位)と06年トリノ大会(大回転座位)で金メダルを獲得しています。
私が知る限りにおいて、大日方さんは冬季パラリンピック史上、日本人選手として初めてスポーツ紙の一面を飾ったアスリートです。長野大会で金メダルを獲った翌日のことでした。
パラリンピックに5度出場している大日方さんに「パラリンピックから学んだことは?」と聞くと、こんな答えが返ってきました。
「バンクーバー大会での出来事が印象に残っています。ダウンヒルのスケジュールが悪天候で、いつ再開するかわからなくなった時に、カードゲームをして待つヨーロッパ選手を見て感心しました。スキーではレースが自然に左右されることが多々あります。そのため、いかなる環境にも対応できる能力が必要です。常に自分の力を発揮できる人は自然とうまく調和している。競技においても人生においても、予定通りにいかないことが多い。悪条件になった時に動揺するのではなく、"なるようにしかならない"と思える人生観を、レースから学びました」

2021年東京大会以降、パラリンピックに対する日本人の興味は、格段に増してきたように思われます。冬季大会に限っていえば、認知度は79.4%(電通調べ)に上ります。ところが理解度・関心度は28.6%(同)とまだ低く、メディアが果たすべき役割は少なくなさそうです。今回のミラノ・コルティナ大会はNHK、J:COMで放送されます。
まずはパラリンピックを「見る」こと、次に「知る」こと。そして多くのパラアスリートが訴える「共生社会」のあるべき姿について「考える」こと。

彼らが、自らのパフォーマンスを通じてイタリアの地から送ってくるメッセージを、しっかりと受け止めましょう。

二宮清純

二宮清純 (ライター)

フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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