野茂英雄をド軍に導いたオマリー会長 「キミのような青年が大好きなんだ」【二宮清純】

野茂英雄をド軍に導いたオマリー会長 「キミのような青年が大好きなんだ」【二宮清純】

2025年も暮れようとしていますが、今年は日本人メジャーリーガー野茂英雄さんが海を渡ってちょうど30年の節目の年でした。

■イチローのスピーチ

今年、日本人いやアジア人として初めてMLB殿堂入りを果たしたイチローさん(本名・鈴木一朗)の英語でのスピーチの中に、こういうくだりがありました。

<外から見れば、全て順調に進んでいるように見えたかもしれません。でも、内面では「なぜ自分が結果を出せているのか」が分からず、葛藤していました。
そんな苦しみの最中に、歴史的な出来事が起こります。私が生まれて初めて目の当たりにした、日本人メジャーリーガーが誕生しました。野茂英雄さんです。彼の成功は多くの人を触発し、私もその一人でした。
野茂さんのおかげで、日本では常にMLBの話題が報道されるようになり、試合もテレビで放送されました。野茂さんの勇気のおかげで、私は突然開眼し、自分の想像すらしたことのない場所に挑戦するという考えを持てるようになったのです。
(日本語で)『野茂さん、ありがとうございました』>(スポニチアネックス2025年7月29日配信)

野茂さんは、最初からロサンゼルス・ドジャースでのプレーを望んでいたわけではありません。

1995年1月に渡米した野茂さんは、シアトル・マリナーズ、サンフランシスコ・ジャイアンツ、そしてドジャースと西海岸の球団を、北から順に視察しました。

自らの目でスタジアムや施設などを確認し、球団の責任者から説明を受けました。

当初、最も有力視されたのは、1992年から任天堂の山内溥社長が筆頭オーナーを務めるマリナーズでした。

マリナーズにはマイナー契約のマック鈴木さん(本名・鈴木誠)も所属していました。マックさんの代理人である団野村さんが、野茂さんの代理人を務めている関係で<野茂、マリナーズ入りか!?>といった憶測報道も流れました。

■相思相愛の関係

しかし、野茂さんが選んだ球団はドジャースでした。待遇面が決め手になったのでしょうか。

いや、決してそうではありません。野茂さんの契約金は200万ドル(当時のレートで約1億7000万円)、マイナー契約のため年俸はメジャー昇格時の最低保証額である10万ドル(同・980万円)におさえられました。近鉄バファローズ時代の最後の年俸が1億4000万円(推定)ですから、大幅な減収です。

それでもドジャースを選んだ理由について米国人ジャーナリストから聞かれた野茂さんは「ピーター・オマリー会長がいるから」と答えました。

オマリーさんは、初めての交渉で、野茂さんにこう語りかけたそうです。
「日本での地位を捨ててまでメジャーリーグでやってみたいというキミの勇気を称えたい。僕はキミのような青年が大好きなんだ」

無事、契約がまとまった後、オマリーさんは野茂さんについて、こう述べました。
「彼もまた、夢を抱いていた。そしてドジャースがメジャーリーグで投げる機会を彼に与えた。アメリカの28球団全てが指名してもおかしくなかった。全ての球団が彼と契約するチャンスがあったのだ。だから我々は、彼がドジャースを選んでくれたことを誇りに思っている。世界中が彼に注目するだろう。野茂との契約は、長期間を見込んでいる。私の夢は、野茂が引退するまでずっとドジャースで投げてくれることだ」

愛し、愛され。オマリーさんとの"相思相愛"が野茂さんに、ドジャース入りを決断させたのです。そして、そこから歴史が動き出したのです。

二宮清純

二宮清純 (ライター)

フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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