ラグビーが教えてくれたこと~楕円球に魅せられた人々の熱い思い~「悔しかったら一流になれ。」 【俳優・高橋光臣】
スポーツ インタビュー
2025.02.20
俳優としてドラマや舞台などで活躍する高橋光臣さん。中学からラグビーを始めた経緯や、高校ラグビーでの思い出、心に残る言葉について聞いた。
――ラグビーを始めたきっかけは?
「中学の時は2年生までバスケ部でしたが、顧問の転任をきっかけに廃部になってしまったんです。次の部活を探している時に、まだ創部して間もなかったラグビー部の顧問に『一緒にラグビーをやらないか』と誘われたのがきっかけです。その先生は、陸上部やサッカー部の運動神経のいい生徒に声を掛けて、ドリームチームのようなものを作ろうとしていました。最初は試合でボロ負けするようなチームでしたけど、その後すごく強くなって、中学最後の大会では決勝まで行ったんです。まさに先生の思惑通りのストーリーで、あの名作ドラマ『スクール☆ウォーズ』みたいでしたね」
――中学卒業後、ラグビーの名門・啓光学園(現・常翔啓光学園)に入学されました。
「実は入学当初はそこまで強豪校だとは知りませんでした。ラグビー部に入部してみたら、近畿全域から集まった部員たちが120人もいて『えらいとこにきてしまった』と思いましたね(笑)。ベンチプレスで40㎏も上げられない僕の隣で、先輩が笑いながら120㎏を上げているという...。まるで別世界でした」
――強豪校での練習は?
「通称『ロード・タイトラ・ピン・ピン』という練習があって、ロードランを6㎞くらい全速で走った後、鉄アレイを持って400mを何周も走って競うタイムトライアル。これだけでもきついのに、さらにその後、1対1になって本気でぶち当たるアタックと、それを止めるディフェンスを行うんです。体格差に関係なく組み合わせが決まるので、とてもキツかったです。当時から『鉄壁のディフェンス』と呼ばれていた啓光ならではのかなりハードな練習でしたね」
――高校ラグビー部で心に残っていることは?
「高校3年の最後の大阪大会では決勝で負けてしまったんですけど、試合後、メンバーと談笑していたら、顧問の先生から『おまえら悔しくないんか。悔しかったら一流になれ』と言われたんです。その言葉は強烈に覚えていて、今も俳優の仕事をする上で、心の中にある大切な言葉です」
【ラグビーの思い出】
ディフェンスにとりつかれていた高校ラグビー時代
とにかく僕は、ディフェンスが好きで、中でも前線で戦うフランカーをやっている時が一番楽しかったです。相手選手との1対1の勝負はまさに命がけ。相手に2m級の外国人選手がいると、恐怖と興奮で涙が出てくるくらいでした(笑)。タックルで自分が相手を倒し切れなった時に、他のチームメートがすぐにフォローに来てくれてお互いを助け合う、そんなラグビーの精神も大好きです。
――大学生活はいかがでしたか?
「寮生活で、先輩の洗濯物を洗ったり、大変なところもありましたが、共同生活は楽しかったです。大学でラグビー部を引退して大阪に帰るタイミングで、僕の人生を大きく変える出来事がありました。2つ下の後輩が試合中の事故で亡くなってしまったんです。その時『明日、自分も死ぬかもしれない』ということを強く意識し、『何か新しいことにチャレンジして、そこで思いっきり恥をかけばこの心が収まるんじゃないか』と思ったんです。どうせ恥をかくなら面白いことをやろうと飛び込んだのが俳優でした。映画『ラストサムライ』を見た時に、渡辺謙さんの姿がめちゃくちゃかっこよくて鳥肌が立ったことがきっかけです。養成所のオーディションを受けて歌ったり踊ったり...経験したことがないことの連続で恥をかいていましたが、それを1年ほど続けていたら恥もかけなくなってきて。そこから、ラグビーのドラマに出演して主要メンバーを演じられるように頑張ろうと将来の目標を新たに設定したら『不惑のスクラム』('18)に続き『ノーサイド・ゲーム』('19)の出演が決まりました」
――「ノーサイド・ゲーム」では、チームの主将を演じられました。
「出演者は元日本代表クラスのラガーマンたちという錚々(そうそう)たるメンバーでした。その中で自分がキャプテン役を指名され『ちょっと待ってくれ』と (笑)。本作が俳優デビューだったラグビー元日本代表キャプテンの廣瀬俊朗さんにはリーダー論についていろいろ聞いて芝居の参考にしました。出演者間で日々LINEでもやり取りし、本当に『ワンチーム』だったな...と。皆、全力であたって、全力で走って、本物の迫力ある映像が撮れたと思います」
――撮影を通して学んだことは?
「一緒に出演していた元選手たちから『どんなパスでも取るので安心して投げてください』と言われたことがとても心に残っています。僕の時代は投げる方が受け手に合わせるのが当たり前でしたので。これは社会生活においても大切なことで、人間関係も物事も円滑に進む考えなんじゃないかと、とても勉強になりました」
【私が応援しているラグビー選手】
TJ・ペレナラがリードするハカが最高!
リコーブラックラムズ東京のTJ・ペレナラ選手を応援しています。僕と同じスクラムハーフなのでよく見るんですが、プレーだけでなく、彼がオールブラックスでリードする時のハカが好きなんです。ハカって気分が落ち込んでいても見るだけで幸せな気持ちになれるんですが、彼がリードする時は別格です。是非、皆さんにも見ていただき、この感覚を共有したいです。
(PROFILE)
高橋光臣
'82年3月10日生まれ。啓光学園高校(現・常翔啓光学園高校)、東洋大学でラグビー部に所属。「轟轟(ゴーゴー)戦隊ボウケンジャー」('06)で主演を務め、NHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」('12)で注目を集める。「ノーサイド・ゲーム」('19)出演。
取材・文/水本晶子
撮影/菊竹規