王貞治「WBC第1回優勝監督」の称号 「長い時間をかけて野球の魅力伝える」【二宮清純】

王貞治「WBC第1回優勝監督」の称号 「長い時間をかけて野球の魅力伝える」【二宮清純】

2006年にスタートした野球の世界一を決める国・地域別対抗戦WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)も、来年3月の大会で第6回を迎えます。言うまでもなく最多優勝国は3回(06年、09年、23年)の日本(侍ジャパン)です。

■サッカーW杯は13カ国から

大会の名称がWBCに決まった直後の、日本側の反応は、「なに、それ?」というものでした。なかには「WBCと言えばボクシングじゃないの?」と皮肉を口にする向きもありました。メキシコシティに本部を置く「世界ボクシング評議会」のことです。

それまで、メジャーリーグには2つのクラシックが存在していました。ひとつはオールスターゲーム(ミッドサマー・クラシック)、もうひとつはワールドシリーズ(フォール・クラシック)です。"真夏の祭典"と"秋の祭典"に続く、3つめの野球の祭典を、春にも設けようとしたのだとすれば、運営組織のWBCI(ワールド・ベースボール・クラシック・インク)には先見の明があったということでしょう。

第1回大会で監督を務め、日本を初代チャンピオンに導いた王貞治さんは、福岡ソフトバンクホークスの監督も兼務していました。

まだ、山のものとも海のものともわからないWBCについて聞くと、こう語りました。
「サッカーのW杯だって、いまは隆盛を極めていますが、最初は13カ国しか参加していなかったんでしょう。将来的にはWBCもサッカーW杯のようになればいい。

たしかに野球はルールも難しいし、用具代などのおカネもかかる。そういう理由もあって、今は世界的なスポーツとは言いがたい。だけど、こういう大会を通して長い時間をかけて野球の魅力を伝えていけば、いつかは理解されるようになると思うんです」

王さんがいみじくも指摘したように、ウルグアイで開催された第1回サッカーW杯に参加した国は、北中米を中心にわずか13カ国でした。移動の問題もあり、ヨーロッパからはフランス、ベルギー、ルーマニア、ユーゴスラビアの4カ国の参加にとどまりました。

■アジア勢の活躍

英国の4協会(イングランド協会、スコットランド協会、ウェールズ協会、アイルランド協会)は、アマチュア規定の解釈を巡ってFIFAと対立を深めており、第1回大会の2年前にFIFAを脱退していました。

その後、出場国・地域は、回数を重ねるごとに増え、2026年北中米大会は史上最多となる48カ国・地域が出場します。多ければいいというわけではありませんが、FIFAの市場は今も膨張を続けています。

王さんはWBCの未来を、サッカーのW杯に重ねたのかもしれません。ただしサッカーW杯を主催するFIFAが非営利団体であるのに対し、WBCを主催するWBCIは、MLB機構とMLB選手会が共同で出資して立ち上げた民間の運営会社。両大会を同一視することはできません。とはいえ現在のWBCの盛り上がりが、当初の想定を超えていたことは間違いありません。

第1回大会が始まる直前のインタビューで、私は王さんにこう訊ねました。

――大会が実現するにあたり、野茂英雄やイチローがメジャーリーグで活躍したことが追い風になったように思われます。あるいは韓国のパク・チャンホ、台湾の王建民。

「そうそう。彼らがアメリカで活躍したからこそ日本の野球が認められ、こういう大会が誕生した。もし日本や韓国、台湾の選手が海を渡っていなかったら、おそらくWBCはパン・アメリカンだけの大会になっていたでしょうね。アジアの国々が参加することはなかったかもしれない」

現在、王さんは85歳。栄えある第1回大会優勝監督の称号は永遠です。

二宮清純

二宮清純 (ライター)

フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

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