千の顔を持つ男、チョ・ジョンソクの真骨頂!「賢い医師生活」でのイメージを覆す、変幻自在な演技力

2004年のミュージカル「くるみ割り人形」でのデビューから芸歴は20年以上、今年12月には46歳を迎える名優チョ・ジョンソク。20周年の節目には念願だった歌手デビューまで実現させた彼を表すなら、とにかく"芸達者"の一言に尽きる。

■「賢い医師生活」の陽気な外科医役だけじゃない!"ヒット請負人"ともいえる映画スターとしての側面

日本にも熱烈なファンが多いNetflixシリーズ「賢い医師生活」での陽気な肝胆膵外科医イ・イクジュン役のイメージが根強いと思うが、"千の顔を持つ男"とまで称される韓国屈指の実力は、多彩なキャリアが証明している。そんなジョンソクのジャンルレスな出演歴の中でも、近年目覚ましい実績を挙げているのが、映画スターとしての側面だ。

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韓国で観客動員数940万人を突破する大ヒットを飛ばしたサバイバル・パニック『EXIT イグジット』(2019年)をはじめ、抜群のコメディセンスを発揮し悲願の第61回百想芸術大賞 最優秀男性演技賞を受賞した『PILOT ー人生のリフライトー』(2024年)、2025年の韓国映画No.1ヒットを叩き出した『世界で最後の愛しい娘!』(2026年11月13日より日本公開)と、名実ともにその年の韓国映画界を代表する人気作に立て続けに主演してきた。

名優イ・ソンギュンの遺作としても話題となった『大統領暗殺裁判 16日間の真実』も、『PILOT』と同時期に韓国公開され、真逆ともいえる役へのアプローチが称賛を浴びた秀逸なサスペンスだ。

■イ・ソンギュンとの魂のぶつかり合いも!怒れる弁護士を熱演した『大統領暗殺裁判 16日間の真実』

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その不当さから"韓国史上最悪の政治裁判"と言われた、1979年の"10.26大統領暗殺事件"にまつわる裁判の裏側を描いた『大統領暗殺裁判 16日間の真実』。

韓国中を震撼させたこの暗殺事件は、これまでにも『KCIA 南山の部長たち』(2020年)で描かれ、その後に起きた"12.12軍事クーデター"は『ソウルの春』(2023年)でフォーカスが当てられるなど、多くの傑作映画を生み出してきたが、本作はこの韓国近代史を揺るがす一連の事件を繋ぐ作品という点でも興味深い。

大統領を暗殺したKCIA(韓国中央情報部)部長キム・ジェギュの随行秘書官パク・フンジュ大佐――本作に登場する、愚直な軍人パク・テジュ(イ・ソンギュン)は彼がモデルになっている。そしてチョ・ジョンソクが演じた主人公チョン・インフは、上官の命令に従い暗殺の罪で逮捕されたテジュの弁護を引き受け、正当な裁判を求めて孤軍奮闘する、映画オリジナルのキャラクターだ。

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ジョンソクは、持ち前のコメディセンスで、同業者たちからも"ヤマ師"と例えられるインフの軽妙さを体現。その一方で、巨大権力の中心である合同捜査団長チョン・サンドゥ(ユ・ジェミョン)により、不正に操作された裁判に怒りをたぎらせていく姿も覗かせる。忙しい合間を縫って飯をかき込む泥臭い姿から、公正を訴える魂の叫びまで、血の通ったキャラクターとして圧倒的な存在感を放っている。

テジュのため奔走する"動"のインフに対し、必要最低限の言葉しか発しない愚直な軍人・テジュは"静"の役どころだが、イ・ソンギュンは重みのある口調やまなざしで、軍人としての矜持(きょうじ)を滲ませる。インフがテジュを説得しようとする取調べ室での対話では、男と男の信念がぶつかり合い、その迫力には思わず息を呑む。この共演が最初で最後だと思うと本当に残念だ。

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■荒々しさと優しさ――チョ・ジョンソクの演技の幅が光る骨太時代劇「緑豆の花」

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さらに、映画からドラマまで範囲を広げてみると、ジョンソクの豊かなキャリアがより浮き彫りに。朝鮮王朝を舞台にしたNetflixシリーズ「魅惑の人」(2024年)での、残酷な宿命に翻弄されるチナン大君役も印象深いが、後に日清戦争へと繋がる1894年の東学の乱(甲午農民戦争)を背景にした時代劇「緑豆の花」(2019年)で見せる、変貌ぶりも鮮烈だった。

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腐敗した政治により民が苦しめられていた19世紀末の朝鮮。主人公となるのは、悪徳役人を父に持つペク家の異母兄弟、イガン(チョ・ジョンソク)とイヒョン(ユン・シユン)。国を変えたいという同じ信念を抱きながらも、民乱の勃発により道を分かち、互いに苛烈な運命へと身を投じていく。

ジョンソク演じるイガンは、庶子として蔑まれながら育ち、民を虐げてきた荒くれ者。だが、家が没落したことをきっかけに、それまでの過ちを悔い改め、民を救うべく反乱軍の大将へと転身するという複雑なキャラクターだ。敵対し、次第に闇に堕ちていく腹違いの弟イヒョンにも手を差し伸べるなど、根っこの部分では情の深い男で、心情の機微をセリフに頼らずに体現する彼の細やかな表現力が光るハマり役だった。

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作品ごとに変幻自在の演技で、多彩なキャラクターに息吹を吹き込んできたチョ・ジョンソク。その確かな演技力は、20年以上のキャリアを重ねた今も進化を続け、観るたびに新たな一面を見せてくれる。そんな"千の顔を持つ男"の次なる一手にも、期待せずにはいられない。

文/武山奏戸