スピルバーグ監督『ターミナル』を今観て感じるホラーな現実と空港の不気味さ【尾崎世界観】
映画 見放題連載コラム
2026.09.06
今回選んだ『ターミナル』は2004年に公開された、スティーブン・スピルバーグ監督の作品です。ずっと「観たいな」と思いながら観ることができていなくて、今回やっと観てみました。トム・ハンクス演じる主人公がニューヨークの空港に降り立つところから物語は始まるのですが、空港に到着するのと時を同じくして母国でクーデターが起こってしまう。それによってパスポートが無効になり、主人公は空港での生活を余儀なくされます。
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■コメディーではなくホラー? 2026年の現実と重なる怖さ
特殊な状況で不幸になってしまった人を俯瞰で面白おかしく眺めるという点では「コメディー映画」のように最初は思うんですけど、結構、重たい印象を受けました。そして、とても「今っぽいテーマだな」とも思いました。まったく同じとまではいかなくても、この主人公のような状況に陥る人は現状増えているわけですよね。アメリカへの入国もどんどん厳しくなっていて。そんな2026年の状況と、この映画の物語をどうしても重ねてしまいます。
映画が公開された当時は「特殊な状況にいる人」として描かれたのかもしれないけど、今観ると「こういうこと、起こり得るよな」と思えてくる部分がある。観ていて、ずっと怖さを感じたというか......まるでホラーにも感じました。
■22年前から"冷凍保存"された空港という空間の気持ち悪さ
空港というのは特殊な場所で、映画が公開されたのは22年前なのに、『ターミナル』に映し出される空港の姿は今観ても一切古びていない。そこがちょっと気持ち悪いんです。空港って、ずっと清潔で、洗練されていて、外から来た人が最初に見るその国の表紙のような場所ですよね。広くて、天井が高くて、開放感があって、人がいっぱいいて、何がどこにあるのかが大体変わらない。でも人が到着したり出発したり、そういう意味では落ち着かない場所でもある。

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空港にいる自分って、まだ確定していない不安定な状況にいますよね。ただ、この場所にいる人がみんな同じ状況であることや、みんなが同じものを待っていることの安心感も確かにある。そんな空港という場所が、22年前の姿のまま、この映画の中に冷凍保存されている気がして、そこに無性に気持ち悪さを感じました。
登場人物が一斉に動き出すミュージカルのような演出も、ちょっと過剰で怖いんです。限られた空間の中で急に波が立つような怖さがある。登場人物全員、どこか作り物めいている部分があって、それもテーマパークのような印象を与える。こうやって話していても改めて不思議な作品ですよね。
この不思議さを生み出している要因はやっぱり「舞台が空港である」ということなんだろうと思います。空港は、人を不思議な状態にする場所ですよね。この映画を観ていると、空港で働くとどんな感覚になるのかが気になってきます。映画の中では、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ演じるCAのヒロインも、心がかなりCA生活に影響を受けていましたからね。普段気になっていないことが、この映画を観たことでいろいろと気になってくる。

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■一時停止していた時代の"解凍"と、未来への見え方
前回この連載で取り上げた『あ、春』は、映画が撮られた時代の空気をそのまま閉じ込めるタイプの作品だったけれど、『ターミナル』は作品の中で時代が一時停止していて、今観たことによって再び動き出すような感覚がありました。上映されてから22年経って解凍してみたときに、「2026年の物語」としてまた新しい意味を持ち始めたような感覚。これは作り手が意図していなかった部分なのか、作り手による仕掛けなのかはわかりませんが、不思議な体験でしたね。
でも、今こういう作品を作ろうとしたら、もっとメッセージ性を前面に打ち出したものになるかもしれない。だから、結果的にこの2026年に観るのにちょうどいい温度感だったと思います。きっとまた何十年後かに観ると、それはそれで違った見え方がするんでしょうね。観終わった後どんな気持ちになるのか、いろんな人の意見を聞いてみたくなる映画でした。
取材・文/天野史彬
尾崎世界観 (クリープハイプのボーカル・ギター)
ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。 小説『転の声』が第171回芥川賞候補作に選出。小説家としても活躍する尾崎世界観が、好きな映画を語りつくす。
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