福本莉子が映画『時給三〇〇円の死神』で見せた新境地と、西畑大吾と生み出した関西人同士の化学反応

福本莉子が映画『時給三〇〇円の死神』で見せた新境地と、西畑大吾と生み出した関西人同士の化学反応

藤まるによる大ヒット小説を実写化した映画『時給三〇〇円の死神』が、10月2日より全国公開される。本作で福本莉子が演じたのは、なんと"死神のアルバイト"の花森雪希。時給300円で「死神」という謎のアルバイトをしている大学生、「見たことのない福本莉子を見たい」という酒井麻衣監督の言葉......福本にとってさまざまな挑戦となった本作について、またダブル主演・西畑大吾との化学反応、そして日常の"小さな心残り"まで、たっぷりと語ってもらった。

260927_fukumotoriko02.jpg

■明るさの裏にある悲しみ。天真らんまんな役柄の作り方

──福本さんが演じたのは花森雪希という、未練を残して亡くなった人たちの「心残り」に耳を傾け、それを解決してあの世へ見送る手伝いをしている役です。最初に話を聞いたときは全く想像がつかなかったとコメントされていますが、演じるにあたって花森というキャラクターをどのようなキャラクターだと捉えましたか?

「原作や脚本を読んでまず思ったのは『天真らんまんで明るくて、つかみどころがない』ということ。あとは、佐倉くんとの掛け合いがとってもかわいらしいので、その2人の会話感はどうなるのだろうという、わくわくした気持ちもありました」

──演じる上では、どのように花森というキャラクターを組み立てていったのでしょうか?

「彼女の明るさの裏にあるものが後半で描かれますが、そこが彼女の一番の軸になる部分だと思ったので、どうして彼女が明るくならざるを得なかったのか、そこから彼女がどう過ごしてきたのかを想像することで花森という人物を作り上げていきました」

──メガホンを取ったのは酒井麻衣監督。酒井監督の演出はいかがでしたか? 印象的な言葉や指示があったら教えてください。

「作品に入る前に、監督と2人でお話しする面談のような時間があって。そこでパーソナルなお話をさせていただきました。現場に入ってからも、後半の大事なシーンのときは、監督と車の中で2人きりでお話をさせてもらったり、すごく向き合ってくださる監督だったので心強かったです」

260927_fukumotoriko03.jpg

──酒井監督が「今回、福本さんにさまざまな挑戦をしていただきました」とコメントされています。どのような挑戦があったのでしょうか?

「最初に監督がおっしゃってくださったのは『見たことのない福本莉子を見たい』ということでした。それを見せるということも一つの挑戦でしたし、花森という役自体もそう。佐倉くんを引っ張っていくような存在だけれど、つかみどころがない。でも求心力があって、ちょっと小悪魔っぽい。いろいろな要素があるキャラクターだったので、現場に入っても『使える小道具はないかな』と探したり、アドリブも考えながら演じていました。ピアノで『猫踏んじゃった』を弾くシーンがあるんですが、そこもアドリブです」

──それは福本さんのアイデアで?

「はい。講堂で探し物をする場面なのですが、花森さんはあまのじゃくなところがあるから"探しているけど探していない"ような雰囲気を出したかったんです。それなら、途中でピアノを弾いてみても面白いかなと思い、弾いてみました」

──酒井監督に「見たことのない福本さんを見たい」と言われたからこそ、そういう部分が引き出されたのでしょうか?それとも花森という役がそうさせたのでしょうか?

「役柄的にそうしたほうが面白そうだと思い、やってみました。今回の撮影では結構アドリブが多かったのですが、監督が『こういう感じでやってみたら?』とやって見せてくださる動きがすごく花森さんっぽくて。監督が一番花森さんに近いんじゃないかと思うくらい(笑)。監督がさらっとやる動きが良いヒントになりました」

■西畑大吾との絶妙なテンポ感とすべてを受け止めてくれる安心感

260927_fukumotoriko04.jpg

──ダブル主演を務めたのは、西畑大吾さん。共演してみていかがでしたか?

「とにかく優しい方でした。役柄としても、花森さんが佐倉くんを振り回すというか、花森さんがバーッとしゃべって、佐倉くんが受け止めてくれるという構図ですが、実際に、私がどんなお芝居をしても西畑さんは受け止めてくれて。頼りがいのある方だなと思いました。西畑さんが演じる佐倉くんだからこそ、花森さんも思いを伝えられたのかなと思います」

──福本さんと西畑さんは関西出身同士という共通点がありますが、ノリが合うとか、シンパシーを感じるようなところはありましたか?

「今作のテーマは少し重たいのですが、2人の絶妙な掛け合いなど、クスッと笑えるようなコメディーシーンもあります。関西人同士ならではのテンポの良さは、うまく花森さんと佐倉くんに投影できたかなと思います」

──花森を演じる上で特に難しかったシーンや苦労したシーンを一つ挙げるとしたら?

「後半の積もり積もった思いが出るシーンは、『花森さんはずっとこの思いを抱えながら生きてきたんだ』と思うと、本当につらかったです。演じる私としては、花森さんのその重荷を一緒に背負う気持ちでいました。花森さんの一番の味方で、理解者でありたいと常々思いながら演じていました」

260927_fukumotoriko05.jpg

──"壁ドン"のシーンもあります。普段は壁ドンされる役のほうが多いと思いますが、やる側はいかがでしたか?

「すごく楽しかったです!かわいらしいシーンに仕上がったんじゃないかなと思います。四宮夕(泉谷星奈)ちゃんと雨野(小澤征悦)さんと一緒のシーンだったのですが、2人が野次馬みたいな感じで見ているのもかわいらしくて。つかの間のシーンですが、すごく印象に残るシーンですよね」

──そのほか共演者でお芝居や現場の居方が印象的だった方がいらっしゃったら教えてください。

「西畑さん以外は、だいたい2〜3日しか撮影をご一緒していないのですが、その数日で役を掘り下げていらっしゃるところが皆さんすごいなと思いましたし、皆さんととても良い時間を過ごさせていただきました。一番印象に残っているのは、広岡さん(佐津川愛美)のシーンです。佐津川さんがすごく集中されているのが分かったので、積極的に話しかけにいったりはしなかったのですが、それでもみんなが同じ空気を大切にしていることが伝わるような現場でした。もちろんカメラテストやリハーサルもしますが、佐津川さんの本番のスイッチの入り方が、とてもかっこよかったんです。セリフを知っていても引き込まれるお芝居で、本当にすてきでした。あとは小澤さん。私も西畑さんも共演したことがあったのですが、小澤さんが『2人が出ている作品だから受けたんだよ』と言ってくださって、とてもうれしかったです」

──映像美も酒井作品の魅力の一つですが、カメラワークや光の使い方など、映像面で福本さんが好きなシーンを教えてください。

「最初の佐倉くんが花森さんと出会うまでの点描のシーンです。点描なのに深みがあって、時間の移り変わりや、佐倉くんの孤独な感じが伝わってきます。自分は出ていないシーンですが、『酒井監督が撮る画ってすてきだな』と改めて思いました」

260927_fukumotoriko06.jpg

■日常の「小さな心残り」と睡眠への切実な願い

──花森と佐倉が行うのは"死者の心残り"に寄り添うアルバイトです。福本さんご自身は、これまでにそういう未練や心残りを抱いたことはありますか?

「もちろん『あのときこうすればよかった』と思うことはありますが、そのときはすごく落ち込んでも、長い目でみると『逆にそうなってよかったな』と思えることもあると思うんです。そのおかげで今の自分があると思うし、一概に『良い出来事』『悪い出来事』って言えないなと思っていて。マイナスな出来事って、マイナスだと思うとマイナスだけど1ミリくらいは良いことがあるはず。そうやって捉えたほうが、この映画の死者たちのように"ロスタイム"を過ごさずに済むんじゃないかなとも思います」

──では、福本さんが最近体験した"小さな心残り"を教えてください。

「先日、友達と遊ぶ日に、普段着ない服を着て行こうと思って、いつもとはテイストの違うひらひらしたブラウスを着て行ったんです。そしたら友達から『目的地を間違えて少し遅刻するかも』という連絡が来て。その連絡を立ち止まって見ていたら、ちょうど風が吹いてきて、ブラウスの襟がふわっとなって口について、リップがブラウスについてしまって......。友達も遅れるならと思って、結局家に帰って着替えて、仕切り直して出かけたことが、ちょっと心残りでした(笑)」

──では結局いつものテイストのお洋服に?

「はい、結局動きやすい服にしました。暑かったので結果オーライではあったんですけどね(笑)」

──死神のアルバイトの特別賞与は「願いが一つ叶えられる」ことですが、これにちなんで今の福本さんの願いを一つ教えてください。

「どこでもいつでも眠れるようになりたいです」

──ということは、場所によって全然眠れなくなるタイプですか?

「そうなんです。地方とかへ行くと、あまり眠れなくて。旅行用の小さな枕とパジャマは必ず持っていくのですが、それでもあまり眠れないタイプです。あとは、飛行機もあまり眠れません。海外に行く時も飛行機でしっかりと眠れなくて大変なので、どこでもいつでも眠れるようになりたいです」

──「今、思い切り寝たい」とかじゃなくて、恒久的に使える技なんですね。

「はい。どこでも眠れる身体って、強いじゃないですか。だからうらやましいなと思います」

260927_fukumotoriko07.jpg

■俳優という仕事への思いと、作品から受け取る勇気

──福本さんが俳優としての活動を行ううえで原動力になっているものは何ですか?

「作品を見て『すごく良かったよ』と言ってくれるファンの皆さんはもちろん、近いところでいうと、応援してくれる友達や家族の存在も『頑張ろう』と思えるきっかけになります」

──ご自身として、俳優という仕事やお芝居の面白さはどういったところに感じていますか?

「毎作品、違う監督、違うキャストの皆さんとお仕事ができること。同じことが二度とないというのは楽しいし、刺激にもなるし、役と一緒に成長するきっかけにもなります。この間、ドラマで90歳近い方とご一緒させていただいたのですが、その姿にすごく勇気をもらって『いくつになっても追求し続けられる仕事なんだな』という魅力にも改めて気づきました」

──本作に出演したことは、俳優としてはどのような経験になりましたか?

「まずは何より酒井監督とご一緒できたのがうれしかったですし、役との向き合い方も改めて勉強になりました。特に、こんなに事情を抱えている役はこれまであまりなかったので、自分としても挑戦でしたし、大変でしたが、良い作品に仕上げることができてすごくうれしいです」

──最後に、公開を楽しみにしている読者の皆さんへメッセージをお願いします。

「『時給三〇〇円の死神』は、誰にでも訪れる死をテーマにした作品です。どんな自分も肯定してくれて、身近な人に優しくしたいと思えて、今ある日常を大切にしたいと思える作品です。酒井監督が作り出すすてきな映像と共に、ぜひ大きなスクリーンでご覧ください」

260927_fukumotoriko08.jpg

PROFILE
2000年11月25日生まれ、大阪府出身。2016年開催の第8回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリと集英社賞(セブンティーン賞)を併せて受賞して芸能界デビュー。2018年に『のみとり侍』で映画初出演。その後『思い、思われ、ふり、ふられ』(20)では、カルテット主演のひとりを務め、『しあわせのマスカット』(21)で映画単独初主演を果たす。『今夜、世界からこの恋が消えても』(22)では第46回日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。その他の映画出演作品には『ディア・ファミリー』(24)、『室井慎次』シリーズ2部作(24)、『劇場版トリリオンゲーム』(25)、主演を務めた『お嬢と番犬くん』(25)、『隣のステラ』(25)などがある。2026年には「ラムネモンキー」に出演、主演を務めるNHK BS「勿忘草の咲く町で 〜安曇野診療記〜」などのテレビドラマでも活躍している。

取材・文/小林千絵 撮影/曽我美芽

チャンネル:J:COM STREAM

映画 見放題

※放送スケジュールは変更になる場合がございます