黒川想矢×キム・ジアン「心の距離は、タイトルと同じ3ミリ」――映画『3ミリの恋』で二人が越えた言葉と文化の壁
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2026.11.03
地図の上で測ると、わずか3ミリ。それは、佐賀県唐津市と韓国・釜山の間の距離だ。近くて遠い二つの街を舞台に、日本と韓国の高校生の恋と成長を描く映画『3ミリの恋』。
在日韓国人3世の全辰隆(チョン・ジニュン)監督が手がけた本作で、主人公のタツヒコを演じるのは、『怪物』『国宝』などで注目を集める黒川想矢。韓国からの留学生・ユンスル役には、『破墓/パミョ』で鮮烈な印象を残したキム・ジアンが扮する。
育った国も話す言葉も異なる二人が出会い、互いにひかれ合いながら、それまで知らなかった歴史や文化に向き合っていく物語。日本と韓国のスタッフが参加し、唐津と釜山で撮影された本作では、二人の俳優もまた、言葉や文化の違いを越えて心を通わせていったという。登場人物と同世代の二人に、役作りや撮影中のエピソード、お互いの国のカルチャーへの関心などを聞いた。

左からキム・ジアン、黒川想矢
■日韓の違いを越えてつながる心。『3ミリの恋』出演への思い
――最初に脚本を読んだとき、どのような印象を受けましたか? 出演を決めた理由も教えてください。
黒川想矢(以下、黒川)「日本と韓国では、文化や言語が結構違いますよね。その中で二人が、そういう違いに関係なく海を越えてつながっていく。離れていても心はつながれるんだ、というテーマにすごく感動しました」
キム・ジアン(以下、キム)「もともと日本の作品がとても好きだったので、日本の皆さんとぜひご一緒したいと思いました。初めて脚本を読んだときは、いくつものメッセージが込められた作品なので、自分にうまく表現できるだろうかという緊張や不安もありました。でも、挑戦してみたいと思ったんです」

■「点を置いて線を引く」タツヒコと、「お母さんを気遣う」ユンスル
――お二人は、それぞれタツヒコとユンスルをどんな人物だと捉えていましたか? 演じる上で意識したことを教えてください。
黒川「僕自身、あまり役作りみたいなことはしなくて。『こういう人』という決まりを作らずに、そのときに感じたことや起こったことをお互いに共有していく中で、自分の感情が生まれてくる。あまり自分を縛らないようにしているんです。
ただ、最初に監督とお話ししたときに、『タツヒコは、先に点を一つ置いて、そこに向かって線を引いていくタイプ』とおっしゃっていて。僕はどちらかというと、点を一つずつ置いていって、それがつながって線になって、たどり着いたところで『僕はここに行きたかったのかもしれない』と気付くタイプなんです。でもタツヒコは、例えば『韓国にユンスルに会いに行く』と決めたら、道のりなんて考えずに、自分で歩いていく。そう言われて、『ああ、そうなんだ』と思って。それは意識していました」
――黒川さんご自身とは、少し違うタイプなのですね。
黒川「そうなんです。タツヒコは『点はここだ』と決めたら、どんな道を通ってでもやり遂げる。僕は、本当にやりたいことや演じたい役を聞かれても、すぐには出てこなくて。だから一つ一つ積み重ねていった先に、きっと自分のやりたいことが見つかっていくのかな、というタイプなんです」
キム「私はユンスルを演じる上で、お母さんとの関係と、おばあちゃんとの絆をとても大切に考えました。ユンスルには本当はやりたいことがあるのですが、お母さんのために、自分の夢をいったん脇に置いているところがあるんです。
母親との関係がこじれないように、少し気遣って、深い話をすることをしばらく控えていたのだと思います。でも、私は将来に関わることはとても大切だと思っているので、もう少しお母さんと腹を割って話し合い、説得できたらいいのに、と考えながら演じていました」

黒川想矢
――それぞれの役と、ご自身に共通するところはありますか?
黒川「共通点......。あまり思いつかないんですけど(笑)。でも、その場で感じながら演じていたというか、自分の中にあるタツヒコっぽいところを膨らませたような意識なので、似ているところは結構あるのかな。僕は僕で、タツヒコではないんですけど、でもやっぱり僕なので......。本当につまらない回答ですみません(笑)。あ、でも、泳げるところは似ています(笑)」
キム「私は撮影を通じて、ユンスルと自分に共通する部分を発見しました。ユンスルは日本に関心を持って留学を決めたけれど、一方で緊張や不安も抱えていたと思うんです。でも、日本で素敵な友人や人々と出会い、自然に打ち解けていきます。
私自身も、日本での撮影に臨むときは『うまくできるだろうか』と不安でした。でも、本当に素晴らしい俳優の皆さんや監督と一緒に撮影できて、撮影を重ねるにつれて安心し、みんなの中に自然と溶け込めるようになりました。そういうところがユンスルと重なっていたと思います」

キム・ジアン
■リアルな高校生の距離感と、ときめきにあふれた撮影現場
――タツヒコとユンスルは17歳。お二人も実際に登場人物と年齢が近いですが、「今の高校生だったらこうするのでは」と、監督にアイデアを提案することはありましたか?
黒川「基本的に、その場その場で感じたものが大事だと思っていて。監督も、台本に書いてあることがすべてではなく、その場で生まれるものをすごく大切にしてくださいました。
唐津の高校で撮影したときには、クラスメート役には地元の高校生が多かったんです。僕はまだ方言をそれほど習得できていなかったんですけど、方言の中にも『がばい』みたいな若者言葉が結構あって。それを教えてもらって、『劇中でちょっと使ってみようよ』という話をしました。台本から作り上げていくというより、4人の実際の関係性の中で会話をして、そこで生まれる距離感が、そのまま演技に出てくるような現場でした。貴重な時間だったなと思います」
キム「監督は、最初から『こういう演技をしてほしい』と指示するのではなく、まずは私たちの自然な姿を撮りたいと考えていらっしゃいました。だから私も、『ユンスルだったらどう考えるだろう』『高校生だったらどうするだろう』と、常に問いかけながら演じていました。例えば、ユンスルは日本語が完璧に話せるわけではないという設定なので、ひらがなをそのまま読んでしまったり、初歩的な間違いをしたりするのはどうだろう、と自分から提案したこともあります」

(C)2026「3ミリの恋」製作委員会
――ジアンさんご自身は、もともと日本語がお上手だったのでしょうか?
キム「いいえ、全然できないんですけど(笑)。今回の作品のために一生懸命勉強しました」
黒川「韓国の高校では第二外国語で日本語を選択できるそうなんです。ジアンさんの方が日本語を話せるのに、僕は韓国語が全然話せないから、もう勉強しなきゃと思って......(笑)」
――本作では、タツヒコとユンスルが少しずつひかれ合う様子が丁寧に描かれています。演じていて、特にドキドキしたシーンはどこですか?
黒川「うーん......僕は船のシーンですね。船の上で『チョアへ(好きだ)』と叫ぶ場面があるんですけど、実際に船が動くなかでの撮影で、何度もトライできなかったんです。『これ、一回でできるのかな』と、すごくドキドキしました。
あと、撮影は唐津から始まって、その後に釜山へ行くという、映画の物語とほぼ同じ順番で進んだんです。釜山に行ったら韓国のスタッフの方々と一緒に撮影するので、撮影の進め方も違うだろうなという不安もありました。監督は『その不安も全部、タツヒコの不安と重なるよ』と言ってくださったので、少し安心したんですけど、やっぱり僕自身は緊張していましたね」

(C)2026「3ミリの恋」製作委員会
――恋愛のときめきではなく、緊張のドキドキだったんですね(笑)。
キム「そうなんだ(笑)。私は、ユンスルの気持ちがタツヒコに動かされた瞬間に、自分も同じような気持ちになった気がします。例えば、水族館でタツヒコを見つめるシーンでは、私もちょっとときめいてしまったり(笑)。そういう微妙な心の変化を感じました。それから、黒川さんと同じように、船の上で愛を伝えるシーンも印象に残っています」
黒川「ときめきました(笑)」
――黒川さんは『怪物』『国宝』など、さまざまな作品に出演されていますが、本格的なラブロマンスは今回が初めてですか?
黒川「そうですね。『からかい上手の高木さん』という作品もラブコメディーのような感じだったんですけど、純粋な恋愛ものは初めてかもしれません。
最後のハグのシーンは、すごく緊張しました。実は唐津と釜山で2回撮影して、どちらか良い方を使うということだったんです。僕はハグなんてしたことがなかったので、もうガチガチに緊張して。しかも大勢の人が見ている前で(笑)。でも、監督はその緊張した感じがよかったと話してくださいました。
それから、韓国で再会したときに花火が上がるシーンがあるんですけど、あそこで二人が見つめ合う瞬間は、なんだか特別な感じがして、ドキドキしましたね」
――映画ではユンスルの方が少し大胆で、タツヒコをリードするようなところがありますね。実際の撮影現場でも、ジアンさんがお姉さんのような存在だったのでしょうか?
黒川「ジアンさんの方が年上なので、僕は基本的に『ヌナ(韓国語でお姉さん)』と呼んでいました。いろいろ教えてもらうこともありました」

(C)2026「3ミリの恋」製作委員会
■日韓のカルチャーの違いと、言葉の壁を越えたコミュニケーション
――唐津と釜山、それぞれの美しい風景も映画の見どころです。黒川さんは釜山、ジアンさんは唐津で、特に印象に残っていることを教えてください。
黒川「日本の撮影現場って、お弁当の文化が強いと思うんです。移動中にお弁当を食べたり、撮影の合間に食べたりしますよね。でも、韓国ではいったん撮影を止めて、みんなで一緒にご飯を食べに行くんです。そうすると、現地の方々とも交流できるし、温かいご飯も食べられる。何より照明のスタッフさんをはじめ、いろいろな部署の方と同じ時間を共有できるのが、すごく素敵だなと思いました。ご飯もおいしかったです(笑)」
キム「浴衣を着てお祭りに行くシーンでは、唐津の伝統行事で、山車を引いている光景を目にしました。お年寄りも子どもも、みんなが伝統的な衣装を着て、一緒に山車を引いていたんです。その姿がとても印象的で、今でもよく覚えています。釜山は、実は私も初めて訪れたので、何もかもが新鮮でした。唐津も釜山も、とにかく景色がどこも美しかったことが心に残っています」

――日本語と韓国語という異なる言語で一緒に演じることに、不安はありませんでしたか? 実際に撮影して、言葉や文化が違っても心が通じると感じた瞬間があれば教えてください。
黒川「最初は、言葉が違うことに不安がありました。お互いの言語を話せるわけではないので、セリフを録音して覚えたりするんですけど、そうすると音だけで会話しているようになってしまうんじゃないかと思ったんです。例えば、ソフトボールを投げたのに、バレーボールが返ってくるみたいな(笑)。そんな違和感が生まれるんじゃないかなと。でも実際に演じてみると、むしろ言葉が違うからこそ、相手の細かな感情の動きを感じ取ることができたんです。
会話って、言葉と言葉でするだけじゃなくて、目と目、心と心でもできるんだなって。お互いにうそのない気持ちで演じられたというか。言葉の壁があっても、気持ちで演技ができるし、ちゃんと相手に伝わる。それがすごくうれしかったですね」
キム「もともと、心が通じ合う上で、文化や言葉の違いは障害にはならないと思っていましたし、撮影を通じて、そのことを改めて強く実感しました。最初の頃は、コミュニケーションに少し難しさを感じることもありました。でも、撮影を重ねるうちに、同じ話を聞いて一緒に笑ったり、共に演技をしたりする中で、言葉が通じなくても、文化が違っていても、心は通じ合っているんだということを、はっきりと感じることができました」

■お互いの国への関心と、これから挑戦したいこと
――黒川さんは、2023年と2025年に国際映画祭で釜山を訪れていますね。この作品に出演する前、韓国にはどんなイメージを持っていましたか?
黒川「『シュリ』や『ペパーミント・キャンディー』、『ソウルメイト』など、韓国映画は結構見ています。韓国の作品は映像が綺麗で、感情を言葉や行動だけでなく、情景や情況で描かれているところに惹かれます。韓国の曲も聴いていて、『비처럼 음악처럼(雨のように、音楽のように)』という曲が好きです。
映画『怪物』で釜山国際映画祭に行ったときも、空港を出た瞬間にもう何百人ものファンの方々がいらっしゃって、出られないくらいで。それでも、すごく温かく迎え入れてもらって。日本ではあまりないことなので、うれしかったです。それと、撮影の終盤に、ジアンさんがケーキを用意してくださったんです。青いケーキを。日本ではあまり見かけないものだったので、感動しました」
――ジアンさんは、以前から日本の文化がお好きだったそうですね。
キム「はい。以前から日本の文化も映画も大好きです。『ちいかわ』も好きです。韓国でもすごく人気があるんですよ。大学入試が終わったので、友達と映画を見に行こうと思っています。俳優さんでいうと、宮崎あおいさんが大好きです。音楽ではback numberのファンで、いつも聴いています」

――今回の撮影を通じて、お互いの国への印象が変わったり、もっと知りたいと思ったことはありますか?
黒川「ジアンさんと一緒に演技をしていると、『今、何を考えているんだろう』と思う瞬間がすごくあって。そういうところが素晴らしいなと思います。実は、ジアンさんが普段どういうふうに台本を読んでいるのか、まだ聞いたことがないので、聞いてみたいですね。それから、普段どんな学生生活を送っているのかもあまり話していなかったので、気になります」
キム「私はもともと日本にとてもいい印象を持っていましたし、日本の文化も大好きでした。今回、日本で撮影しながら、私が日本映画の魅力だと思っていた映像の美しさや、自然の風景の美しさを、実際に感じることができました。日本の学校生活についても、もっと知りたいと思っています。YouTubeなどで動画を探して見たり、日本語の勉強をしたりもしています。これからは日本での活動にも挑戦していきたいと思っています」
黒川「おお、日本進出!」
キム「(笑)」
■共演を通して縮まった心の距離は、タイトルと同じ「3ミリ」
――最後に、今回の共演を通して、お二人の心の距離はどのくらいになりましたか?
黒川「最初は物理的な距離が200キロぐらいあったとしたら、今は35センチぐらいに縮まったのでしょうか」
キム「私は......」
黒川「ドゥルドゥルドゥルドゥル......(ドラムロールのまね)」
キム「映画のタイトルと同じ、3ミリ。現実には距離がありますから。それに、まだ知りたいことが残っているので、3ミリです」

黒川想矢 PROFILE
2009年12月5日生まれ、埼玉県出身。5歳から芸能活動をスタートし、映画『怪物』(23)で第66回ブルーリボン賞新人賞、第47回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。映画『国宝』、『この夏の星を見る』でTAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞する。近作に「からかい上手の高木さん」(2024)、『アフター・ザ・クエイク』(2025)、『免許返納!?』(2026)など。映画『FLY!/フライ!』(2024)、『ARCO/アルコ』(2026)では日本語吹き替え版を担当するなど、活動の場を広げている。
キム・ジアン PROFILE
2008年12月4日生まれ、韓国・京畿道平沢市出身。2016年に子役としてTVドラマ「町の弁護士チョ・ドゥルホ」でデビュー。以降、『三姉妹』(2021)でムン・ソリの幼少期、「ハイエナ -弁護士たちの生存ゲーム-」でキム・ヘスの幼少期、「紙の月」でキム・ソヒョンの幼少期を演じるなど重要なポジションを務める。高校生のムーダン(巫堂)を演じた『破墓/パミョ』(2024)で第23回ディレクターズ・カット賞新人女優賞にノミネート。近作に「Sweet Home -俺と世界の絶望-」(2023、2024)、「アイショッピング~返品された子どもたち~」など。
※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」
取材・文/桑畑優香 撮影/中川容邦



