映画『本当にあった話(の話)』 水上恒司が語る憑依しない演技論と人間の滑稽さ
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2026.09.25
鴻池留衣による小説「本当にあった話(の話)』(普通のカッコ)が映画化され、2026年10月2日(金)より全国公開される。主演を務めるのは、水上恒司。映画『TOKYO BURST-犯罪都市-』やPrime Original ドラマ「犯罪者」など、話題作に続々と出演中の彼が、今作では数十年前に起きた連続殺人事件をもとにした舞台劇の主演俳優・夛田(ただ)を演じ、人間の闇をブラックかつシニカルに表現する。
黒木華、山下美月、小池栄子、佐々木蔵之介が共演。監督は、2018年の長編デビュー作『赤色彗星倶楽部』で注目を集め、本作が商業デビュー作となる武井佑吏が務める。今回、主演の水上にインタビューを敢行。撮影の様子や見どころを語ってもらった。

■人間は皆"人形師"。無意識の芝居から生まれる滑稽さ
――本作の主人公である夛田という人物をどう解釈して演じましたか? モデルにしたような人はいるんでしょうか?
「いえ、モデルは特になくて......。この役は、ジム・キャリーやホアキン・フェニックスをイメージしましたが、あくまで感想として彼らが思い浮かんだだけで、直接的に演技の参考にしたわけではありません。
僕が芝居をするときは、自分は"人形師"となって、自分の体を人形のように動かしていく感覚なんです。だけど、これは俳優だけじゃなく、誰にでもある感覚だと僕は思います。厳かな場所に行って姿勢を正すときとか、あまり興味のない話を愛想笑いで聞き流すときなど、誰でもある種の"芝居"を無意識にやっていると思うんです。そのときは、皆さん自分の体を人形のように操っているかと思います。
そこで『人形師』と化している人間の"滑稽さ"を描いているのがこの映画であると、僕は解釈したんです。自分が操っている人形と、人形師である自分が一体化してしまうという......。自我とは無関係なことを自分にやらせている、理性が崩壊していく変容こそが、本作の面白さだと感じています。そんな滑稽さを重点的に意識して演じていました」

鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
――かなりの難役だと思うのですが、どんな意気込みを持って演じたのでしょうか?
「この役をやってみたいと思ったのは、"やったことがない"からです。実は99%の役は未経験のものですが、その中でも『やれる』と『やれない』という自分なりのさじ加減があって、今回は『やれる』のほうでした。生意気な自我かもしれませんが、中には『これは自分にはまだ早いな...』と思う役もあります。でも、本作はそうではなかったんです。
本作の後に、NHKの『LIFE!』というコント番組に参加して、演出家の西川さんからいただいた言葉があります。『笑いを生むには2種類ある。1つは"ズレ"であり、もう1つが人間の愚かさを演じることだ』と。本作には、その両方の要素があると思うんです。
意外に思われる方もいるかもしれませんが、僕らにすれば、本作はコメディー映画なんですよ。滑稽な場面にあふれているんです。笑いの難しさ、奥深さを追求したいという思いで、ずっと『LIFE!』に参加しているのですが、実は2年前の本作の撮影時に、自分がそんな視点を持っていたのだと気付かされました。人間の愚かさや滑稽さ。人はそれを"狂気"と呼ぶのでしょうが、自分はそれを強く演じたいと思って、本作に臨んだのだと思います」

鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
――夛田は共感しにくい人物にも思えますが、純粋な人間だという印象もありますね。
「僕は人間の数だけ、信じられるものはあると思うんです。ただし、法治国家においては、当人の思いが少しでも間違った方向へ進んでしまうと、凄惨(せいさん)な事件を招いてしまうことになります。
"自分が正しい"という思い込みは、誰にでもありますよね。それが純粋無垢(むく)だという解釈もできますが、理性を働かせることは常に必要です。だから本作で、夛田が足元をすくわれる展開になっていくのは、必要なことだと感じますね。彼の行動を肯定してはいけない。だけど、『彼のやることは面白いな』と思ってもらえる映画になっていればいいなと思っています」

鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
■"憑依"ではなく"計算"――緻密な準備が生む現場での自由
――本作では、夛田の様子が変化していき、周囲を戸惑わせる様子が印象深いのですが、その「変容」をどう意識して演じられたのでしょうか?
「『この人はこういう人だ』と決めつけてしまうのは楽なんです。でも、それがとても危険なことだということは認識すべきだと思います。人間は元来、底知れぬもので、変わっていくことは自然なはずです。本作では、夛田が"思い込み度"を強くすることで、楽な道を選んでしまったとも取れる。しかし、その分強いエネルギーが生じていきます。夛田の信念が徐々に強くなり、周囲から少し煙たがられていく様子が、演じながらうまく伝わればいいなと思っていました。
僕は、役者が『憑依(ひょうい)する』という表現には少し違和感があるんです。カメラが目の前にある時点で普通ではないし、現場では今でも緊張しっぱなしです。『憑依』という完全に役に入り込む状態になれるわけがないと思っています。緊張状態で自然に演技するには、緻密に計算するしかない。それが僕の方法論です。
この人がこのセリフを言うのはなぜなのか、何が彼を駆り立てているのか。感情、言葉、視覚、感覚、すべての要素を徹底して考える。頭で理解して現場へ持っていき、その場で共演者の芝居から感じたことなどから、自分が用意した引き出しのどれを選ぶかという......。緻密に計算した土台があるからこそ、そこから自由になれるという発想なんですよ。だから、自分には『憑依する』というのは一切あり得ないんです。正直、少し不思議に思ってしまうくらいで(笑)」

――撮影中、楽しいと感じたことはありますか?
「撮影中に楽しかったのは、夛田が朗々としゃべる場面ですかね。本来の僕は長ゼリフがあまり得意ではないのですが、本作の脚本はすごくしゃべりやすいんです。鴻池さんの原作小説から言葉を抽出しているのも理由かもしれませんが、夛田の思考回路が理解しやすく、とても呼吸しやすかったです。
あと、相手のセリフを聞く場面。実は聞き手側の聞き方によっても、相手の人間性を表現できるというのが僕の持論なんです。しゃべっている人間を映さずに、聞いているほうの表情や態度を見せることで、観る人の想像力を刺激する効果も出てくると思うんです。だから、僕は相手がしゃべっているときに夛田が何か言葉を出そうとしてやめる......という芝居を途中から取り入れたんですけど、それはかなり楽しかったですね。相手にとっては少しやりづらかったかもしれないのですが、本当に楽しかった。ほぼ2週間で撮り切るタイトなスケジュールの撮影でしたが、とても充実した現場でした。切迫した状況でも、非常にエネルギーにあふれた現場だったんです。大変さもありましたけど、救われた現場でもありましたね」

■実力派俳優たちの"脱力"と、信頼できる監督の存在
――黒木華さん、小池栄子さん、佐々木蔵之介さんといった実力のある共演者が多かったと思いますが、本作での彼らの印象はいかがでしたか?
「黒木さん、小池さん、佐々木さん。本作では、皆さんがそれぞれ人の滑稽さというものを見事に表現されていて、さすがの一言ですよね。『こういう演出家っているよなぁ』と思わせつつ、人の道を完全に外れたような人物を演じた佐々木さん、自らの思想が強過ぎる脚本家をリアルに演じた小池さん。黒木さんも含めて、本当に皆さん力が抜けていたことが印象的です。力みをなくして演じることは、実は役者にとって一番難しいんですよね。皆さん、本当にさすがの演技だったと思います」

――本作が商業映画デビュー作である、武井佑吏監督の印象については?
「武井監督は、一番夛田っぽかったですね。撮影中、武井さんがずっと僕にそれを見せてくれたので、とても信頼できました。監督は『これでOK出していいのか......』と、ちゃんと迷っているので、余計に信じられたんです。撮影現場では、監督は絶対的な存在だから、監督の一言で現場の全員が動いていく。その分、責任やプレッシャーも半端ではないですが、武井監督は常にしっかり考えて、迷われて、工夫を重ねていました。
自分がやってほしいことを役者に押し付けるのは簡単だけど、武井さんはそれを絶対にしない。役者によって、立ち方や話し方、態度を変えるという、いわば人として当たり前のことを、悩みながら、戦いながらやっている武井さんは、本当に頼りになる監督だと感じました。一緒に物語をつくっていける方だと、心から思います」

■「分かりにくさ」が持つ芸術の力。全力で作る滑稽な映画の価値
――公式コメントで「こんな映画がこの世からなくならないでほしいです」とおっしゃっていましたが、その言葉の真意をお聞かせください。
「映画に限らず、『分かりやすいもの』が求められることが多い世の中ですが、それは観客の皆さんが安心して楽しめるものを求めているからだと思うんです。しかし、映画という芸術において『分かりやすさ』だけが最優先されるのは少し違うのかなと。分かりやすいことだけがいい作品の証だとは思えないんです。古典芸能だって、分かりやすいものばかりじゃないですよね。
本作のように『分かりにくい』部分のある作品を作ることは、ある種、商業的ではないのかもしれませんが、だからこそ、それが時に大きなムーブメントを起こすこともあると思うんです。『カメラを止めるな!』などもそんな作品でしたよね。映画という奥深い芸術の世界に、本作のような滑稽なものを全力で作る大人たちが、いなくならないでほしいなと、心から思っています。だからこそ、本作を多くの方に見ていただきたいですね」

PROFILE
1999年5月12日生まれ、福岡県出身。2018年に「中学聖日記」でデビュー、第99回ドラマアカデミー賞で助演男優賞を受賞。20年に出演したTVドラマ「MIU404」で注目を集め、21年には映画『弥生、三月-君を愛した30年-』、『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』、『望み』の演技で 第44回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。22年には『死刑にいたる病』で映画初主演(W主演)を務めた。
取材・文/渡辺敏樹 撮影/梁瀬玉実
ヘアメーク/Rina Kajiwara スタイリスト/藤長祥平
衣装/ジャケット¥92,400(シュタイン/エンケル03-6812-9897)、パンツ¥49,500(イレニサ irenisa.com)、その他はスタイリスト私物




