キム・ドヨン監督の繊細な心理描写が胸を打つ!『サヨナラの引力』『82年生まれ、キム・ジヨン』に誰もが「自分の物語」として共感する理由

キム・ドヨン監督の繊細な心理描写が胸を打つ!『サヨナラの引力』『82年生まれ、キム・ジヨン』に誰もが「自分の物語」として共感する理由

長編デビュー作『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019)に始まり、『サヨナラの引力』(2025)、『マイ・インターン(韓国版)』(2026)と立て続けにヒット作を生んで注目を集めるキム・ドヨン監督。感情を細やかに演出し、観客が「自分の物語」として心揺さぶられるキム・ドヨン監督の作品の魅力に迫る。

■ごく平凡な女性の生きづらさ、『82年生まれ、キム・ジヨン』

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』の原作は、日韓でベストセラーとなったチョ・ナムジュの同名小説。2016年に刊行され、2018年に韓国で「#MeToo運動」が広がるきっかけとなった作品と言われている。「ジヨン」という名前は1982年に生まれた女性で最も多い名前であり、韓国で最も多い姓であるキムと組み合わせた。特定の誰かでなく、同時代を生きる一般的な女性の生きづらさを描いた小説が、日韓で多くの共感を呼んだ。

映画では、主人公のジヨンをチョン・ユミが演じ、ジヨンの夫はコン・ユが演じた。「かっこよくて優しいコン・ユが夫で、ジヨンがうらやましい」という観客の声もあったが、ポイントはそこではない。かっこよくて優しい夫が隣にいても、ジヨンが苦しいのはなぜか?

その一つは、出産・育児を経て、キャリアが断絶してしまったことだ。韓国は合計特殊出生率が世界最低水準になっているが、その背景の一つが、女性のキャリア断絶にある。学生時代を勉強に捧げ、良い大学を卒業し、社会で活躍する女性たち。出産・育児で働けなくなるくらいなら子どもは生まない、という選択をする女性が増えたのだ。現代を生きる世界中の女性に共通する悩みである。

一方で韓国らしいと感じたのは、ソルラル(旧正月)の場面だ。韓国では名節と呼ばれるソルラルとチュソク(日本のお盆に当たる)に家族や親戚が集まり、先祖へのお供えも含め、大量の料理を作るのが女性の役割だ。特に嫁にとっては精神的にも肉体的にも大きな負担となる。

ジヨンは夫の実家の台所に立ち続け、憑依のスイッチが入ってしまった。夫の一家は座って家族だんらんの時間を過ごす中、ジヨンだけが家政婦のように働き続け、自分の母に成り代わって「ジヨンを実家に行かせてやりなさい」と言い放つ。ジヨンに時々現れる誰かに憑依したような症状に、夫は一人で孤独に悩んでいたが、この出来事が家族に知られるきっかけとなった。

ジヨンの不幸は、ジヨンだけの不幸ではない。ジヨンを傷つけまいと、症状のことをジヨンに打ち明けられない夫、ジヨンの症状を知って号泣する母。それぞれの立場で「自分の物語」と感じられる作品だった。

■戻りたくても戻れない過去、『サヨナラの引力』

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別れた恋人との再会を描いた『サヨナラの引力』では、ウノをク・ギョファン、ジョンウォンをムン・ガヨンが演じ、多くの観客が大人の恋に心を揺さぶられた。

現在がモノクロで、過去がカラーで展開する。再会は2024年、飛行機の機内だった。たまたま同じ飛行機に乗り合わせ、互いの存在に気付いて顔を見合わせる二人。うれしさだけでなく、戸惑い、懐かしさ、会いたかった歳月......さまざまな思いが交錯する表情だった。二人はどんな過去を共にしたのだろう?

初めての出会いは2008年、二人とも大学生の時だった。ウノがジョンウォンに一目ぼれ。高速バスの隣の席に座り、さらに土砂崩れで道路が塞がれ、初対面の二人の距離は一気に縮まる。

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友達から恋人へ。互いに将来の夢を応援しながら、小さな部屋で共に過ごした、キラキラ輝く青春。だが、社会に出て働き始めると、純粋なままではいられない。「一緒にいることで、相手の人生を台無しにしているのでは?」と思うのは、何よりつらい。愛する気持ちは変わらなくても、すれ違いを重ね、別れを迎えることもある。

偶然の再会をきっかけに、過去を懐かしく語り合う二人。口にせずとも今も互いにひかれ合っているのは手に取るようにわかる。「あの時別れていなかったら......」と想像してみても、現実にはもう戻れない。誰もがそんな戻りたくても戻れない過去を抱えて生きている。

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■世代・性別を超えた友情、『マイ・インターン』

ハリウッド映画『マイ・インターン』(2015)をリメークした韓国版『マイ・インターン』は、韓国映画界のレジェンド、チェ・ミンシクとファッションアイコン、ハン・ソヒの共演で話題となった。

世界的人気作のリメークは監督にとっても俳優にとってもプレッシャーだが、できるだけ原作を意識せず、現代の韓国らしい作品を目指したという。

設立からわずか3年で急成長を遂げたファッション系企業に、37年の経歴を持つギホ(チェ・ミンシク)がシニアインターンとして入社する。会社を率いるCEOは30代のソヌ(ハン・ソヒ)。ソヌは当初、「年上は苦手」と壁を作っていたが、穏やかなギホと一緒にいれば、心が落ち着くのを感じ、徐々に心を開く。やがて二人は年の差も性別の違いも超えた名コンビとなっていく。

急成長の影で、実は孤独を感じていたソヌ。取引先には若い女性CEOとして軽く扱われ、信じていた同僚に裏切られ、多忙な毎日で夫との関係も疎遠に......。外向けには強がっていても、中身は傷だらけのソヌを、人生経験豊富なギホが温かくサポートする。

世代間、男女間の葛藤が深刻な韓国において、ギホは韓国の若者たちにとって「理想の大人」を体現したキャラクターだった。こんなにチャーミングなチェ・ミンシクの姿は初めてだ。ソヌと共に観客まで癒やしてくれた。

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キム・ドヨン監督は、なぜこんなに細やかな感情の演出に長けているのか。実は、キム監督は俳優出身だ。出産・育児を経て俳優のキャリアが断絶したもどかしさをそのまま短編映画『自由演技』(2018)として発表し、これが高く評価され、『82年生まれ、キム・ジヨン』の監督として抜てきされた。まさに「自分の物語」だったのだ。俳優としてはキャリアが断絶したものの、その経験を大いに生かし、監督として花を咲かせたキム・ドヨン。今後の活躍から目が離せない。

文/成川彩