柴咲コウが72万円で赤楚衛二演じるホストを買う女性に!Netflix映画『余命一年、男をかう』が問う人生の価値

「余命一年」を宣告された40歳の独身女性が、72万円でホストの男性を"買う"ことから始まる――。そんな型破りな設定で描かれるのが、Netflixの新作映画『余命一年、男をかう』だ。主人公の男女を演じるのは、柴咲コウと赤楚衛二。『silent』や『海のはじまり』を手掛けた風間太樹監督と、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』や「さよならのつづき」などで知られる脚本家・岡田惠和がタッグを組んだ。恋愛とユーモアを交えながら、お金や人生の価値を問いかける本作の魅力に迫る。

72万円でホストを買う、お金と命に向き合う異色作

物語は、徹底した節約生活を趣味とする片倉唯(柴咲コウ)が、がん検診で余命を宣告されるところから始まる。老後資金を蓄えるため、堅実な日々を送ってきた唯。医師からは「手術をすれば助かる可能性が高い」と告げられるが、彼女は自身の信条から治療を拒否する。そんな唯の前に現れたのが、ピンク髪のイケメンホスト・瀬名吉高(赤楚衛二)だ。「お金、貸してくんない?」と頼まれた唯は、「死ぬのならもう、節約なんて必要ない」と、瀬名の願いを受け入れ、72万円で彼を"買う"ことに。奇妙な出会いを果たした二人の関係は、やがて思いもよらない方向へと進んでいく。

本作は、余命を宣告された主人公の闘病を描く物語とも、ホストとの恋愛を中心に据えた作品とも異なる。お金を貯めることに重きを置いてきた女性が、死を意識したことで自分の人生と向き合い始める。その変化を、恋愛とユーモアを交えて描くところに本作の面白さがある。唯は、恋愛や結婚、出産などを費用や労力に見合わないものと考え、誰にも頼らずに生きる道を選んできた。余命一年を宣告されても淡々と受け止める彼女が、自分とは正反対の世界で生きてきた瀬名と、金銭の貸し借りだけでは説明できない関係を築いていく。

誰にも頼らずに生きることと、誰かとつながることは両立するのか。お金で手に入るものと、そうではないものの違いとは何か。「男を買う」という刺激的なタイトルの裏には、人生の価値を何によって測るのかという問いが隠されている。限られた時間の中で大切なものに気づくというテーマを、経済的な自立や恋愛観、消費に対する考え方と結び付けている点も、本作ならではの魅力だ。

261105_yomei02.webp

豪華制作陣がユーモアを交えて描く、繊細な心の距離

原作は、吉川トリコによる同名小説。2021年に第28回島清恋愛文学賞を受賞した作品だ。吉川は、世間で「普通」とされる常識や制度への違和感を、軽快でユーモラスな語り口の中に織り込みながら、鋭く描き出す作風で知られる。脚本を担当する岡田惠和は、これまで恋愛を軸に登場人物の生活や人間関係まで丁寧に描いてきた。本作では、余命という重いテーマを悲劇一辺倒にせず、瀬名とのやりとりを通じて唯の不器用さや人間味を浮かび上がらせる筆致が生きている。

監督を務める風間太樹も、言葉にできない感情や、人と人との距離が少しずつ変化していく過程を描くことに定評がある。本作でも、金銭契約から始まる唯と瀬名の関係がどう変わっていくのかが見どころだ。相手を利用しようとする気持ちや、他人に踏み込まれたくない思いから始まった関係だからこそ、ふとした反応や視線の変化が、二人の心の距離を伝える。

柴咲コウと赤楚衛二が魅せる、正反対な二人の変化

柴咲コウが演じる唯は、節約を徹底する理屈っぽさが際立つ一方、強い意志を感じさせる表情の奥に、ふと弱さをのぞかせる人物だ。死を意識したことで生まれる解放感と、拭いきれない不安が同居する複雑さを、コミカルな振る舞いや繊細な表情の変化を通して伝えている。対する赤楚衛二も、唯の常識外れな行動に振り回される瀬名を自然体で演じる。ホストとしての軽妙さと、素の人間に戻った時の素朴さを演じ分け、金銭目的で始まった関係が思いがけない感情へと変わっていく様子を丁寧に表現。軽やかな言動の奥にある孤独も伝わってくる。対照的な価値観を持つ二人が、互いに振り回されながら少しずつ変化していく。その掛け合いが、物語にユーモアと温かみをもたらしている。

共演陣にも実力派がそろう。唯の会社の上司で、元不倫相手でもある生山誠実を演じる筒井道隆をはじめ、先輩社員・丸山みずほ役の西田尚美、瀬名の母親役の濱田マリらが物語に厚みを加える。さらに、瀬名の後輩ホスト・霧矢役の宮世琉弥、瀬名の妹・那智役の鳴海唯も、それぞれの立場から登場人物たちの関係を彩っている。

261105_yomei03.webp

将来の備えか今の充実か、現代社会を映す深い余韻

本作が興味深いのは、型破りな設定のラブストーリーを通して、現代社会にも通じる問題を描いている点だ。老後資金への不安、お金を使うことへの罪悪感、独身で生きることに向けられる周囲の視線、そして他人に頼ることへの抵抗。唯の生き方には、将来への備えを優先するあまり、今を楽しむことを後回しにしてしまう現代人の姿も重なる。大切なのは、自分が何を守るためにお金を貯め、何のために時間を使っているのかを問い直すことだろう。唯と瀬名の関係を追ううちに、経済的な自立と人とのつながり、将来への備えと現在の充実をどう両立させるのか、考えさせられる。

『余命一年、男をかう』は、余命を宣告された女性の恋愛を描くだけでなく、お金や他人との関係を通して、人生の価値観を問い直す物語でもある。柴咲コウが演じる唯の不器用さと人間味、赤楚衛二が演じる瀬名の軽やかさの奥にある孤独。そして、正反対の二人が織りなす滑稽さと温かさが、物語に独特の余韻をもたらす。お金で買うことから始まった二人の関係は、やがて何を大切にして生きるのかという問いへとつながっていく。笑いや恋愛のときめきだけでは終わらない、大人のヒューマンドラマとして楽しみたい。

文/渡辺敏樹