「孤独のグルメ」ファンに捧ぐ、ひとりメシの魅力を独自の視点で描くおすすめグルメ作品3選
国内ドラマ 見放題
2026.04.30
松重豊主演の人気ドラマ「孤独のグルメ」が開拓したリアルな"ひとりメシ"の世界。その後も魅力的な派生作品が続々と誕生している。そこで、「孤独のグルメ」好きな人に向けて、同作と共通するひとりメシをテーマにしながらも、独自の魅力を放つオススメ作品3作を厳選してご紹介したい。どれも単なる"二番煎じ"にはない、コンセプトや設定の妙、出演者の個性を感じさせる、魅力抜群の斬新なグルメ作品である。

(C)新久千映/コアミックス (C)2025「ワカコ酒8」製作委員会
■ワカコ酒Season8
BSテレ東の人気ドラマ「ワカコ酒」。原作は漫画家・新久千映によるグルメコミックで、2015年にドラマ化され、シーズン9まで続くロングランだ。"ひとり飲み"というテーマを定着させた稀有な作品で、主演は武田梨奈。「酒呑みの舌」を持つ26歳のOL・村崎ワカコ(武田)が、仕事終わりや休日に一人で酒場を巡る内容だ。女性の"ひとり飲み"を肯定する世界観で、誰にも気を使わない時間の豊かさをテーマとする。ワカコの心の内が吐露されるモノローグが中心で、"女性版孤独のグルメ"的な装いも感じるが、本作は「飲み」の要素で差別化しており、酒と料理が合った瞬間にワカコが漏らす吐息「ぷしゅー」がその象徴だ。社会人の日常からの"小さな解放"を描き、視聴者の共感を得た。実在の飲食店が多数登場するのは、「孤独のグルメ」同様。こちらは酒と料理のマリアージュを主眼として、丁寧に描写する。深夜枠の癒やし系ドラマとして、いい意味の"緩さ"と食事シーンの没入感が魅力。武田梨奈の自然体の演技とも相まって、ゆったり気軽に楽しめるドラマとして人気が定着した。番組開始から10年目を迎えたシーズン8は、ワカコ像がより自然体で円熟期に入った趣を感じさせる。シリーズ初期は「可愛らしい酒好き女性」という印象だったが、この頃から「落ち着いた大人の飲み手」へと進化した感がある。登場する料理の幅が一段と広がったシーズンでもあり、鰻や寿司、焼肉といった定番分野から、モンゴル料理など異文化系も登場したことが印象深い。朝飲み、初めての"町寿司"体験やご褒美グルメ回など、飽きさせない工夫も感じさせた。行きつけの居酒屋「逢楽」の店員・山ちゃん(門間航)など新メンバーも登場。「一人飲みのバリエーション」を拡張し、完成されたフォーマットを保ちつつも、進化させようというスタッフの意気込みを見た。酒と料理を素材に、"孤独の楽しみ"を描いた大人のドラマとして楽しめる作品だ。

(C)臼井儀人・塚原洋一/「野原ひろし 昼メシの流儀」製作委員会
■野原ひろし 昼メシの流儀
「クレヨンしんちゃん」の公式スピンオフとして誕生したグルメ漫画で、野原ひろしを主役に据えた異色作のアニメ版。35歳で妻子あり。秋田県出身、埼玉県在住のひろしは、双葉商事で営業職をしている。そんな彼が「良い仕事は良い昼メシから」をモットーに、定番料理や流行の料理、海外の料理、日本の郷土料理、B級グルメまでさまざまな昼メシを求めて歩くという趣向だ。コンセプトは、「サラリーマンの昼メシの美学」。営業マンである主人公・ひろしが外回り中に限られた時間・予算の中でランチの最適解を探求し、ささやかな満足を得ようとする。そのため、登場する食事は手軽な回転寿司やハンバーガー、カレー、老舗蕎麦屋のカツ丼といったラインで、誰でも再現できるリアルさが最大の魅力だ。上司や部下との距離感や昼休みの短さ、財布事情といった「課題」をクリアするべく、食事が「戦略」として描かれるところが面白い。本作もモノローグが主軸の構成だが、ひろしの場合は論理的かつ分析的で、「ランチ戦術」を大真面目に考察する語り口が特徴的だ。声優には、本家「クレヨンしんちゃん」でもひろし役を務める森川智之が起用され、渋さや疲労感、幸福感の演じ分けを見事にこなしている。ギャグ担当的な「クレヨンしんちゃん」でのひろし像とは異なり、頭脳的なキャラクターに見える感じも楽しめるところ。"サラリーマンあるある"を毎回盛り込みつつ、社会人の昼メシ問題を論理的に描いた本作は、地味ながらも強い共感性をもたらし、「刺さる人には深く刺さる」作品として愛されている。

(c)「絶メシロード 2025」製作委員会
■絶メシロード
2020年にスタートしたテレビ東京系のドラマで、主演は地上波ドラマ初主演となる濱津隆之が務める。平凡なサラリーマン・須田民夫(濱津)が、絶滅してしまいそうな"絶メシ"を求めて日本中を巡る「車中泊×グルメ」がコンセプトのドラマだ。「誰も誘わない」、「誰も巻き込まない」、「予算はお小遣いの範囲内」をモットーに、妻と娘がアイドルコンサートに出かける金曜夜から土曜夕方までの民夫による「小さな大冒険」を描いている。店主が高齢だったり、後継者不足や客減少に悩み、いつ消えてもおかしくない名店に目を向け、グルメに「旅」の要素を加味して、移動と発見、食事、余韻と流れる毎回の構成が特徴だ。派手な事件が起きることはないものの、中年男性の孤独と自由を淡く描く「物語性」により、類似番組との差別化を図っている。会話は最小限で、感情も抑制しているが、全編に静かなリアリズムが漂う。実在の店をモデルにした"絶滅食堂"のドキュメンタリー性により、店主の人生や背景が浮かび上がるのも魅力である。「車中泊」という設定もユニークで、完全な一人空間の狭い車内が、家庭や会社からの"逃避装置"になっている点も興味深い。この小さな逃避のリアリズムに中年男性の視聴者が共感し、番組を支持したのだろう。映画『カメラを止めるな!』で知られる濱津の演技力も本作のキモであり、表情の変化を抑えて、微細な感情をにじませる高度な演技は、まさにリアル志向の芝居で評価される濱津の真骨頂だ。特に食事シーンでの無言の咀嚼と小さな満足の表現は、派手さはないものの"本当に美味しそうに見える"芝居なのである。本作の視聴者は、民夫のちいさな幸福を共有し、癒しを得られる。「ドラマに登場した店に行きたくなる」という視聴者が後を絶たない所以だ。グルメ要素こそ抑えめだが、「時間の流れ」を味わう大人のドラマとして、大いに推したい作品である。
文/渡辺敏樹




