ワンイーボー(王一博)とジョウシュン(周迅)の「引き算の演技」が静かな余韻を生む『銀幕の友』

ワンイーボー(王一博)とジョウシュン(周迅)の「引き算の演技」が静かな余韻を生む『銀幕の友』

中国の人気俳優、ワン・イーボー(王一博)とジョウ・シュン(周迅)が共演した短編映画『銀幕の友』。上映時間は24分と短いながら、二人の実力が際立つ演技に加え、映像美や構成など映画ならではの表現も凝縮されている。セリフをそぎ落とし、佇まいやしぐさ、視線から人物の心情を浮かび上がらせる、二人の"引き算の演技"に注目だ。

260923_ginmaku_02.jpg

中国最大級のインディペンデント映画祭とシャネルがコラボ

クリエイターの支援など映画界での取り組みも行っているシャネル。本作は、同ブランドと中国最大級のインディペンデント映画祭・西寧 FIRST 青年映画祭がコラボレーションして製作された。物語の舞台は、1990年、北京で開催されたアジア競技大会の閉幕翌日。中国の地方にある映画製作会社では、大会のマスコット「パンパン」の巨大な像を撤去する作業が進められていた。

受付で働くシャオ・ジョウ(ジョウ・シュン)は、夜に行われる映画上映会のチケットを受け取りに来る社員たちの対応をしていた。そこへ、詩人のリー・モー(ワン・イーボー)が友人を訪ねてやって来る――。共にシャネルのブランドアンバサダーを務めるワン・イーボーとジョウ・シュンが、本作では1990年代という時代を反映した装いを披露。シャオ・ジョウは黄色いカットソーに濃いブルーのジャンパー、リー・モーはシャツにベージュのジャンパー、ジーンズという飾らない姿で登場する。

260923_ginmaku_03.jpg

ワン・イーボーとジョウ・シュンの"引き算の演技"が生む余韻

そんな二人が交わす言葉は、限りなく少ない。昼食をとりながら、アジア競技大会の閉会式で披露された歌を口ずさむシャオ・ジョウ。昼休みに一時帰宅している友人を待つリー・モーは「何の歌?」と問い掛ける。大会を見ていないというリー・モーに、シャオ・ジョウは大会について話すが、彼は相槌を打つこともなく、静かに耳を傾けている。シャオ・ジョウの口調は、ジョウ・シュンの持ち味である低音ボイスとも相まって、どこかぶっきらぼう。一方、リー・モーは物静かで内向的な人物だと伝わる。

ワン・イーボーは代表作「陳情令」、ジョウ・シュンは「如懿伝~紫禁城に散る宿命の王妃~」などで、感情を繊細に表現する静かな演技を見せてきた。本作ではさらに説明をそぎ落とし、佇まいやしぐさ、表情によって人物像を立ち上げていく。ワン・イーボーは、リー・モーの内向的な性格を座り方や歩き方で表現する。受付前の椅子で友人を待つ所在なげな姿や、友人に近づく時の少しうつむきがちな歩調。旅の間に作った詩を読ませる時の、哀愁を漂わせた立ち姿も印象的だ。

ジョウ・シュンも、表情や視線でシャオ・ジョウの閉塞感をにじませる。病気がちな母親との暮らしの中で見せる無表情な応答や、アジア競技大会の閉会式を映すテレビを見つめる姿。そして、リー・モーが友人といる様子を離れた受付の部屋から見つめる視線には、言葉では説明されない感情が宿る。抑制された二人の演技は、ラストを一段と印象的なものにする。上映会で後ろの席に座ったシャオ・ジョウに、リー・モーが話し掛ける。二人にとって、この出会いがどのようなものだったのか――。シャオ・ジョウの表情とリー・モーの一言が、短い物語の中に心地よい余韻を残す。

260923_ginmaku_04.jpg

ワン・イーボーとジョウ・シュンを引き立たせる映像美も圧巻

本作のメガホンを取ったチャン・ダーレイ監督は、映画『八月』で金馬奨の作品賞を受賞した実力派。本作では、二人の繊細な演技を引き立てるノスタルジックな映像美も見どころとなっている。人々が熱狂したアジア競技大会が終わる寂しさと、その一方で生まれる出会いの希望。光と影を生かした演出や建物の直線を活用した構図、主人公たちを捉える画角やカメラワークによって、1990年という時代の空気と二人の心情を浮かび上がらせていく。

二人の姿を遠くから捉えたり、後ろ姿や横顔を映したり、時には声だけで感情を伝えたり。すべてを映し出さないからこそ、見る側の想像力がかき立てられる。ラストには「ヌーベルバーグに敬意を表して」というテロップが登場する。ヌーベルバーグとは、1950年代から1960年代初頭にかけてフランス映画界で起きたムーブメント。劇中の上映会では、その代表作の一つであるフランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』が上映される。映画への愛情が込められた『銀幕の友』でワン・イーボー、ジョウ・シュンというトップ俳優が見せる、静かで繊細な"引き算の演技"をじっくりと堪能したい。

文/神野栄子