森保一監督、W杯の後悔から得た教訓 「感じたことは遠慮なく言ってくれ」【二宮清純】
スポーツ 連載コラム
2025.10.30
サッカーW杯北中米大会は、来年6月11日から7月19日にかけて米国、カナダ、メキシコの3カ国16都市で行なわれます。出場枠が「32」から「48」に拡大される今大会の抽選会は、12月5日(現地時間)、米国ワシントンのジョン・F・ケネディセンターで行なわれます。
■大金星のブラジル戦
1998年のフランス大会以来、8大会連続8度目の出場となる日本代表は、多くの選手が「優勝を目指す」と公言していることでも分かるように、日本代表史上最強の評価を得ています。
10月14日のブラジル代表との親善試合(味の素スタジアム)では、2点差を追いかける展開ながら、後半に3点を取り、3対2で逆転勝ちを収めました。
W杯優勝5回、過去2分け11敗のセレソンからの大金星が8カ月後に迫った本大会に向け、大きな自信になったことは間違いないでしょう。
これを受け、日本代表の森保一監督は「ハーフタイムに戻ってきた時も、コーチ陣が選手たちに明確な役割を伝えてくれた。それによりチームは集中力を切らさずに、かつ前半から修正して戦えたことで試合をひっくり返せた」と勝因を振り返りつつ、「この勝利に慢心することなく、さらに高みを目指したい」と冷静に語りました。
ブラジル戦とは逆に、2対0とリードしながら、残り25分を切ってから3つのゴールを決められ、2対3で逆転負けしたのは、2018年ロシアW杯でのベスト8進出をかけたベルギー代表戦。いわゆる"ロストフの14秒"です。監督は西野朗さん、森保さんはコーチでした。
0対2の後半20分、ベルギーのロベルト・マルティネス監督が動きました。身長194センチのマルアン・フェライニ選手と187センチのナセル・シャドリ選手を投入し、パワープレーに舵を切ったのです。
24分、日本のゴール前にフワリと上がったボールを、身長189センチのヤン・フェルトンゲン選手が頭で合わせました。さらに29分、エデン・アザール選手からのクロスをフェライニ選手がピンポイントで叩き込みました。
■「聞く力」の重要性
この時のことを森保監督は「未だに後悔している」と言います。
「2対0とリードした時、選手たちは攻め続けるか、守りに入るかで、少し迷っているように見えました。ベルギーはラフにボールを放り込んできて長身選手の高さをいかすプレーをしてきました。あの時、守備の高さに強い選手を投入するよう、私は監督に進言すべきだったのです」
森保監督が口にした「高さに強い選手」とはDFの植田直通選手のことでした。
「実はW杯直前、親善試合でのパラグアイ戦で、植田はヘディングで相手に勝っていたんです。海外の選手たちにも十分通用していた。代えるのなら、あそこしかありませんでした」
2対2で迎えた後半アディショナルタイム。本田圭佑選手の左コーナーキックをGKティボー・クルトワ選手がキャッチし、ボールを素早く司令塔のケヴィン・デブルイネ選手に向け右手で滑らせます。
デブルイネ選手はドリブルで一気にピッチ中央を駆け上がり、右サイドにいたトーマス・ムニエ選手にパス。これをムニエ選手はゴール正面に向かって走り込んできたロメル・ルカク選手に折り返します。ルカク選手にはキャプテンの長谷部誠選手がついていましたが、なんとスルー。昌子源選手の懸命のスライディングも及ばず、トップスピードで詰めていたノーマークのシャドリ選手に左足で押し込まれてしまいました。2対3。掴みかけていたベスト8の切符がスルリと手から滑り落ちた瞬間でした。
この苦い経験から教訓を得た森保監督は、コーチ陣に常にこう言います。
「感じたことがあれば遠慮なく言ってくれ」
言うまでもなく「聞く力」は指導者にとって重要な資質のひとつです。
二宮清純 (ライター)
フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。
二宮清純 (ライター)
フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。














