「最高の自分であり続けたい。僕のプレーを見れば、このクラブへの想いが伝わるはず」【リッチー・モウンガ/東芝ブレイブルーパス東京SO(スタンドオフ)】ラグビーが教えてくれたこと~楕円球に魅せられた人々の熱い思い~

「最高の自分であり続けたい。僕のプレーを見れば、このクラブへの想いが伝わるはず」【リッチー・モウンガ/東芝ブレイブルーパス東京SO(スタンドオフ)】ラグビーが教えてくれたこと~楕円球に魅せられた人々の熱い思い~

東芝ブレイブルーパス東京を2連覇に導き、2年連続でリーグワンMVPを獲得したSOリッチー・モウンガ。これまでオールブラックス選抜への道を断ち切って日本でのプレーを選び続けてきたが、今季で日本での最後のシーズンを迎えることになった。東芝の絶対的司令塔が、クラブへの深い愛情とオールブラックスへの思いを語る。

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――昨季、チームがリーグワン2連覇を成し遂げる上で最も大きかったことは何でしたか?

「まずは全員がハードワークし、毎日トレーニングを心から楽しめるという、非常に良いチーム文化があったことです。加えて、チームを心から信頼してくれるコーチ陣とマネジメント陣がいました。私たちが取り組んだプレースタイルは、チームにマッチしていたことも成功の大きな理由でした。つまり、チーム文化、コーチ陣、マネジメント陣、そしてゲームプランが2連覇の鍵になったと思います」

――チームの成功のために個人としてどのようなことを心がけましたか?

「自分自身に集中し、常に良い状態でプレーできるよう、最高のコンディションを整えることに努めました。ラグビーを楽しむこと、試合に臨んで勝利すること、それをブレイブルーパスのチームメイトとともに分かち合うことが非常に重要でした」

――昨季で印象に残っている試合、あるいは対戦して強い印象を受けた選手がいれば教えてください。

「3月に秩父宮ラグビー場で対戦した埼玉パナソニックワイルドナイツ戦(○42-31)は、観客の熱気と興奮が忘れられません。CTBダミアン・デアレンデ選手(南アフリカ代表)は世界トップクラスのスキルを持つ選手で、非常に強い印象を受けましたね。また東京サントリーサンゴリアスWTBチェスリン・コルビ選手(南アフリカ代表)もそう。世界クラスの選手たち対戦するのも、彼らのプレーを見るのもいつも楽しいです」

――チームメイトの中で、特に印象に残っている選手はいますか?

「常に努力を惜しまず、毎週確実に結果を出すのに、非常に謙虚なFL佐々木剛選手です。もう一人、CTB眞野泰地(まのたいち)選手も同様で、目立たない仕事を多くこなしていますが、ブレイブルーパスの成功に欠かせない存在です。チームには、2人のように自分の仕事を黙々とこなし、あまり評価を期待しない、献身的な選手が多数います」

――キャプテンのFLリーチ マイケル選手のリーダーシップをどのように評価されますか?

「リーチ選手は、私が出会った中でも最も特別な人物の一人です。それはラグビー選手としてというよりも、一人の人間としてという意味です。思いやりがあり、人を迎え入れる姿勢を持ち、人々が進んで従いたいと思う素晴らしいリーダーです。もちろん、チームへの影響力は抜群です。ピッチ外でもほとんど性格は変わりませんが、彼は自己研鑽を怠らず、社交的で、笑いを楽しむ一面もあり、試合後やオフに仲間とビールを飲んでお祭り騒ぎするのを心から楽しむところは、他の選手たちと何ら変わりありませんね」

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――(改めてお聞きしますが)来日し、ブレイブルーパスでプレーすることを選んだ理由と、その決断についてどのように振り返っていますか?

「(ニュージーランドの)クルセイダーズ時代に指導を受けたトッド・ブラックアダーHC、CTBセタ・タマニバル選手、SOトム・テイラー選手、FLマット・トッド選手などなじみのある顔ぶれがブレイブルーパスに在籍していて、それが決断の助けとなりました。彼らからブレイブルーパスはクルセイダーズと似た文化を持ち、優勝チームへと成長する可能性を秘めていると聞きました。当時こそ成績は芳しくありませんでしたが、成功への明確な道筋がありました。私はその可能性を見出し、ブレイブルーパスの人々やクラブのビジョンに惹かれました」

――ブレイブルーパスでプレーするのは今季でラストシーズンとなります。来季から、ニュージーランドに戻ることを決めた理由は?

「これまで私は長いキャリアを積んできましたが、まだ目標があります。その中には、オールブラックスとして再びワールドカップに出場したいということも含まれています。現行の規定では、ニュージーランド国内でプレーする場合に限って、オールブラックス代表に選ばれる可能性があります。ニュージーランドに帰れば、十分に時間を過ごせていなかった家族とより近くにいられる上、ワールドカップ出場という夢を追いかけられます。ワールドカップ優勝は、自分のキャリアの成功のために『必ず達成しなければならない』、という類のものではありません。ただ、それがラグビー選手としての頂点であり、私にとって欠けているものなのです。途方もないプレッシャーの中、8万人もの観客の前で母国を代表してプレーすること、世界最高の選手たちと対戦すること、それらを心から恋しく思っています。ですからニュージーランドに戻ることは私にとって大きなプラス要素なのです。もちろん将来的に日本やブレイブルーパスに戻る可能性もありますが、今はワールドカップを目指したいと考えています」

――もしかしたら、 2027年ワールドカップで日本代表と対戦する可能性もありますね!

「そうなったら楽しみですね!多くの知り合いがいるので、特別な試合になると思います。ただし、まずは自分がオールブラックスに選ばれなければ始まらないので、まずは代表に再び選ばれることが今の目標です」

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――モウンガ選手のこれまでのラグビーキャリアの中で、最も記憶に残っている試合を教えていただけますか?

「ニュージーランド代表(オールブラックス)やこれまで在籍したクラブチームでの試合も数多く思い出しますが、特に記憶に残っている一つは、手を骨折した状態で出場した昨季(2024-25)のリーグワン決勝戦です。精神的な戦いを乗り越え、重要な試合で良いパフォーマンスを発揮できたことは特別な経験でした。私が示した精神的な強さと勝利という点で特に印象に残っています。もう一つは幼い頃の記憶で、7歳の時にU-7の試合で6トライを決めたことです!」

――SOモウンガ選手は、昨季の優勝後のカンファレンスで長渕剛さんの「マイセルフ」を歌っていましたよね?

「特別に覚えたのではなく、いつもみんなが歌っている曲なんです。チームで人気がある曲で、カラオケで盛り上がります。歌詞は完璧ではないですが、お酒を飲むと日本語が流暢になるので、飲みながら徐々に覚えています(笑)。他にも島唄 (THE BOOM)などお気に入りの歌があります」

――ニュージーランドのクラブチームで連覇してきた経験を踏まえて、3連覇を目指す今季のチームにとって大事なことは?

「メンタリティは非常に重要ですね。今季は過去2シーズンとは全く異なり、過去の成果は全く通用しません。ですからチームとして、そして個人として常に成長する方法を見つけて、スキルを高め、チームにより多くの貢献をしなければなりません。大切なことは、地に足をつけて、一歩ずつ着実に前に進んで、ブレずに一貫性を保つことにあると思っています」

――今季、チームで特に期待している若手選手はいますか?

「FWではPRヴェア・タモエフォラウ選手が元気で、多くの試合に出て活躍してほしいですね。BKではWTB/FB金秀隆選手、CTB池永玄太郎選手、FBステファーナス・デュトイ選手に大きなポテンシャルを感じています」

――日本で印象に残った同じポジション(SO)の若手はいますか?

「東京サントリーサンゴリアスのSO高本幹也選手はスキルが高いですね。またPNC(パシフィックネーションズカップ)を見ましたが、日本代表のSO李承信選手(コベルコ神戸スティーラーズ)は、今後の成長が楽しみです。最近は特に日本人選手の中でも才能ある選手が増えてきていると思います」

――最後にラグビーファン、ブレイブルーパスのファンの皆さんへメッセージをお願いします。

「ブレイブルーパスのファンには、私がこのクラブをどれほど大切に思っているか、その想いが伝わることを願っています。ブレイブルーパスは常に競争力を持ち、必死のディフェンスを試みながら、素晴らしいスタイルのラグビーを追求しています。私がブレイブルーパスでプレーしたこと、チームを心から大切に思い、出場した全ての試合、全ての局面で全力を尽くしていることを皆さんに感じてほしいです。そして、一人でも、私のプレーに勇気や希望を感じていただければ、この上ない喜びです。私は今でも子どもの頃、憧れのラグビー選手たちのプレーを見て希望や刺激を受けたことを覚えています。その想いを、私のプレーを通じて皆さんにお返しできれば嬉しい限りです」

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Personal Words
子どもの頃、始めてすぐに
ラグビーの虜になりました

ラグビーをしていた父と2人の兄の影響で始めましたが、すぐにプレーも観戦することも夢中になり、これまでラグビーは私の人生に多くの喜びをもたらしてくれました。来日して、たまごサンドやブリカマなど日本の食べ物が大好きになりましたし、カラオケも楽しんでいます。また家族とも日本のいろんなところを旅してみたいですね!

PROFILE
'94年5月25日生まれ。ニュージーランド出身。セントアンドリュースカレッジ→クルセイダーズ→東芝ブレイブルーパス東京。身長176cm /体重 83kg。ポジションはSO。ニュージーランド代表56キャップ。2019、2023年ワールドカップ出場。

取材・文/斉藤健仁 撮影/佐野美樹 

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