東京ヤクルト「村神様」完全復活 「ええー、人間の村上宗隆です」【二宮清純】

東京ヤクルト「村神様」完全復活 「ええー、人間の村上宗隆です」【二宮清純】

スポーツ選手にとって「神様」は最高の称号といっていいでしょう。サッカーの「神様」はペレ、バスケットボールはマイケル・ジョーダン、プロレスはカール・ゴッチ、そして日本のプロ野球は......。

■2人の"先代"神様

NPBには若くして"神様"になった選手がいます。プロ野球・東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手です。

スワローズファンが村上選手のことを「村上様」と呼ぶようになったのは2019年頃からだと言われています。入団2年目のこの年、村上選手は36本塁打をマークし、大ブレークしました。
2年後の21年に村上選手は39本塁打で初のホームラン王を獲得。この頃には「村神様」の愛称が定着しました。
そして翌22年、村上選手は打率3割1分8厘、56本塁打、134打点の好成績をあげ、史上最年少の22歳で三冠王に輝きました。その年の12月には「村神様」が「ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれました。

周知のように「ユーキャン新語・流行語大賞」は『現代用語の基礎知識』を発行する自由国民社が、その年1年間に発生した「ことば」の中から選考し、その「ことば」に関わった人物、団体を顕彰する賞で、最も社会に影響力のあった「ことば」に贈られるのが「大賞」です。
スーツ姿で授賞式に出席した村上選手は、「本当に僕でいいのかな。"村神様"という言葉をつくっていただいたファンの皆様、そして、それを取り上げていただいたメディアの皆様に大変感謝しております」と述べました。

ところで、日本球界には先代の"神様"がふたりいます。ひとりは"神様・仏様・稲尾様"で知られる通算276勝の稲尾和久(西鉄ライオンズ)さん、もうひとりは、通算2351安打の"打撃の神様"川上哲治(読売ジャイアンツ)さんです。

■復活への狼煙

稲尾さんと言えば、1958年の巨人との日本シリーズでの鉄腕ぶりが、今も語り草です。7試合中6試合に登板し、4勝2敗でMVP。3連敗4連勝という離れ業の立役者となりました。
もうひとりの「神様」である川上さんは、現役時代に次のような名言を残しています。
「ボールが止まって見えた」
川上さんが不思議な体験をしたのは、50年のシーズン中です。スランプに見舞われた川上さんが、多摩川グラウンドで2軍のピッチャー相手に一心不乱にバットを振り続けていたところ「ボールと一体となる」感覚を味わったというのです。今でいう「ゾーンに入った」ということなのでしょう。翌51年のシーズン、川上さんは自己最高の3割7分7厘という高打率で自身3度目の首位打者となりました。

村上選手に話を戻しましょう。今シーズンは「上半身のコンディション不良」で長期離脱を余儀なくされ、第1号は7月29日、敵地での横浜DeNAベイスターズ戦でした。
しかし、さすがは「村神様」です。そこから一気に量産体制に入り、8月30日の広島カープ戦では、12号、13号、14号をまとめ打ちしました。22年7月31日の阪神タイガース戦以来、3年1カ月ぶりの1試合3本塁打でした。
しかも3本すべてバックスクリーン。ポスティングシステムを利用して、来シーズンからはメジャーリーグでプレーすることが濃厚な村上選手。神宮のファンに最高の置き土産となりました。
試合後、お立ち台に立った村上選手にマイクが向けられました。

――まさに神様です。主砲、4番の村上宗隆選手です。
「ええー、人間の村上宗隆です」

ちょっとした受け答えに、彼のユーモラスな性格が垣間見えました。今の勢いを持続すれば、海の向こうでも「ゴッド」の称号に手が届きそうです。

二宮清純

二宮清純 (ライター)

フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

連載一覧はこちら

二宮清純

二宮清純 (ライター)

フリーのスポーツジャーナリストとして五輪・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。スポーツ選手や指導者への取材の第一人者・二宮清純が、彼らの「あの日、あの時」の言葉の意味を探ります。

連載一覧はこちら

スポーツ 連載コラム

もっとみる

スポーツ インタビュー

もっとみる