奈緒が映画『死ねばいいのに』の異色の会話劇で気づいた「人を理解する」ことの真髄

奈緒が映画『死ねばいいのに』の異色の会話劇で気づいた「人を理解する」ことの真髄

映画『死ねばいいのに』が7月3日(金)より全国公開される。何者かによって殺された鹿島亜佐美(伊東蒼)のことを知りたいと、彼女の関係者のもとを訪ねていく渡来映子(奈緒)。なぜ、彼女は亜佐美のことを聞いて回るのか。今回、主人公・映子を演じる奈緒にインタビューを行い、スピード感あふれる会話劇の裏側、役柄への思いを聞いた。

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――脚本を読んだときの印象からお聞かせいただけますか。

「想像がつかない本だな、と思いました」

――亜佐美の関係者と対峙(たいじ)するシーンでは現実世界と草原を行き来する演出になっています。脚本の時点で草原の表現はどのようになっていたのでしょうか。

「フォントが変わっている部分が草原に行く想定で書かれているのですが、それも現場に行ってみないとどうなるか分からないという状態でした。草原がなければストレートな会話劇なのですが、草原と現実での撮影を重ねることになるので、どんな映画が完成するのか想像つかない、というのが最初の脚本を読んだときのひとつの楽しみでもありました」

――どちらのシーンも一通り同じセリフを演じるのですか?

「一連で最初から最後までつなげてお芝居を重ねることが多かったです。初日は前原滉さんとの撮影だったのですが、すごく緊張感はありました」

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――草原と現実世界でそれぞれテンション感を合わせていくのは大変そうですね。

「最初は一応合わせようとしていたのですが、草原では強風が吹いていたり、霧がかかった日もありましたし、本当に人間が関与できない力が動くので、『予想できない』ということを私たちも実際に現場に行ってみて実感しました。そこからは無理に現実と近づけようとするのではなく、概念としてつながっている部分を自由に撮影することができて、当初思っていたよりも際限なく撮ることができました」

――対峙(たいじ)する相手がどんどん変わっていきますが、その日によって心持ちみたいなものも変わるのでしょうか。

「そうですね。一対一の撮影だからこそより色濃く、一日一日の気持ちの変化はありましたし、『毎日同じ作品を撮っている』というよりは、『今日は誰と対決するのか』みたいな日々でした」

■前原滉、草川拓弥ら実力派キャストとの会話劇。現場で生まれた化学反応

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――それぞれの対峙のシーンについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

「亜佐美の上司で部長役の前原滉さんとはもともと交友関係があって、共演回数も多いので、すごく安心感がありました。共演は多いのですが、こんなにバチバチと相対するような役は今までやったことがなかったので、滉くんだからこそ思いっきりぶつかれたなという思いがありますし、どんどん、お互い跳ね返していくパワーが上がっていくような、不思議な時間でした。そのため、実際に演じると台本で読んでいたページ数よりもあっという間に感じて。でも、すごく体は疲れていて、すごくパワーを使ったんだなと、終わった後は思っていました。それでも最初のシーンが滉くんとのシーンで本当に良かった、と。助けられたと思います。

亜佐美の先輩役の高橋ひかるさんとのシーンは、唯一リハーサルをやっていなかったので、ぶっつけ本番でした。現場でもすごくわくわくして、お互いその緊張感がありました。最初に会った人たちが探り合うような空気感というのは、リハーサルをやらなかったからこそ2人の中に生まれたのかなと思って、とても刺激的で楽しかったです」

――亜佐美の恋人役の草川拓弥さんはいかがでしたか。

「草川さんとは初対面だったのですが、草川さんのお芝居が本当にすてきで。私は、本を読んだ時に、恋人の役が一番印象に残る役でした。この物語の中で、亜佐美のことを愛したかったけど、その強さを持てなかった人だから、一番亜佐美のことを感じられる人でした。だからこそ、映子自身の感情が動くキーになるシーンだと感じたんですが、本読みで私自身がそこをつかみきれなくて、少し焦りのようなものを感じていました。でも、実際に現場で草川さんとご一緒して、草川さんの亜佐美に対する恋人としての思いや、そこでどうしても亜佐美を大切にするという選択ができなかった葛藤と苦しみと弱さという部分がすごく切に感じられて、勝手に気持ちがぐらぐらと動いていきました。監督とも悩んでいたシーンが、本当に草川さんのおかげで成り立ったので、すごく感謝しています」

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――最後は弁護士役の平原テツさん。

「私、テツさんのお芝居が本当に大好きなんです。尊敬する先輩であるテツさんと、こんなにまっすぐ目を見てお芝居ができるなんて幸せだと思いながらも、交わらない平行線の2人というところがまた面白くて(笑)。それまで他の方とは、映子が投げかけたものを受けていただいてそこから話が始まるものだったのですが、テツさんの場合はどちらかというと構成が逆転するというか。映子がいろんな質問を受けて、それに対して答えていくという関係性だったので、この物語を演じている中でも、他のシーンの時と感覚が違うなと思いました」

――もちろん、亜佐美を演じる伊東蒼さんとのシーンも印象的でした。

「伊東さんのことはスクリーンで見ていて大好きで、ご一緒できると決まった時にうれしくて光栄でした。本読みの時に伊東さんの一言せりふを聞いた時、すごく惹かれる思いがあったのですが、これはきっと映子にもあった思いじゃないかなと感じました。説明できないのですが、声を聞いただけで少し気持ちが動くような、ざわざわするような、そんな気持ちが映子の中にも実は生まれていたのではないかと思ったので、蒼ちゃんがいてくれたら、私は映子になれるという確信を持った本読みでした」

■つかみどころのない主人公・映子。「人を理解する努力は諦めたくない」

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――映子という人物にはどのような印象を持たれましたか。

「本当につかみどころがなくて、どんな人か分からないので、どういうふうに演じるかもすごく選択肢がある役なのかなと思っていました。だからこそ、金井監督との会話がすごく重要になっていくなと思ったので、本番までは連絡を取り合いながら過ごしていました」

――その中でどういったやりとりが印象的だった、あるいは決め手になる言葉はありましたか。

「金井監督から映子や脚本について客観的な意見を聞くために、映画に参加していない方にも読んでもらって、その中で挙がった声として、映子のことを、もう少しだけ好きになりたいという声があったと聞きました。それが私にとっては大きなヒントになりました。『もう少し』という部分が今回の作品を作っていく中で目指すべきところでもあると思いましたし、私自身、映子のことを好きでいていいのだなと感じたので、心持ちがそこで決まったような感覚はありました」

――奈緒さん自身は、最初は映子のことを好きか嫌いかで言うと......。

「演じる時点で好きではあるのですが、どれぐらいその役と距離感を置いた方がいいかはすごく考えました。映子自身はもう少しフラットな人な気がするので、映子を愛しすぎたときに自分の気持ちが入ってしまうなと思って。それに、やはり私は映子が好きだから、映子のこういう好きなところを誰かに分かってほしくなってしまったりすると、それはまた少し違うのかなと思っていました。『好きでいていいんだ』と思えたことで少し安心できたので、ただ自分が思う映子の隣に自分がいられたらいいかな、と」

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――今回、亜佐美を知るための旅のような側面があるかと思うのですが、奈緒さんは誰かを理解することについて、この作品から考えさせられたことはありますか?

「今もすごく考えさせられます。私自身は、誰かの気持ちを本当の意味で分かるということはないと思っているんです。分からなくても人は同じ社会で生きています。でも気持ちは分からないけれど、理解をしようとすることはできると思うんです。ですから、人と話していく中でその人をどうにか理解しようとすることは、やはり諦めたくないなと思いますし、自分には必要なことだと思います」

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――逆に「ご自身を理解してもらおう」ということについてはどうですか?

「自分を誰かに理解してもらおうということについてあまり考えたことがなかったので、この映画を経て、今質問をいただいてはっとしました。理解してもらう努力も人と生きる上で必要なことだと思います。映子は、自分のことを誰かに理解してもらうためのアクションは起こさず生きています。自分のことを理解してもらうときに、そのヒントは自分から出さないと相手に伝わりません。それは言葉なのかもしれないし、行動なのかもしれないし、その人が理解できるヒントを出すということは、コミュニケーションとしてすごく必要なことだったのではないかなと思います。亜佐美はそのヒントをくれる人でした。映子と仲良くなろうと思って、自分のことを理解するヒントを亜佐美はずっと投げかけてくれていて、映子はそれをあまりできなかったのも、彼女にとってはきっと心残りだと思います。この映画の中でも、亡くなってしまえばそれ以上その人を理解することはできないという言葉が、この作品の核心に触れていますよね。やはり、生きていないと理解はできないと思いますし、せっかく今生きているから、私のことを理解したいと言ってくださる方が目の前に現れたら、自分もそのヒントは一生懸命伝えたいと思います」

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PROFILE
1995年2月10日生まれ、福岡県出身。2018年、NHK連続テレビ小説「半分、青い。」でヒロインの親友役に抜擢され注目を集める。近作に映画『傲慢と善良』(24/萩原健太郎監督)、ドラマ『東京サラダボウル』(25/N H K)、舞台『大地の子』(26/演出:栗山民也)など。4月にフォトエッセイ『いつか』を出版。W主演映画『シャドウワーク』が2026年9月25日公開。

※高橋ひかるの「高」は正しくは「はしご高」

取材・文/ふくだりょうこ 撮影/番正しおり
ヘアメーク/竹下あゆみ スタイリスト/岡本純子

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