あの人にもこの人にも、孤独のグルメがある。それでもやっぱり最高なゴローさんがいる。「それぞれの孤独のグルメ」【フルーツポンチ・村上健志】

孤独のグルメ

大人気ドラマ、松重豊主演の「孤独のグルメ」。輸入雑貨商を営む主人公・井之頭五郎が、営業先で見つけたご飯屋さんで好きなものを食べる。ただそれだけのグルメドラマ。実在する店のうまそうなメニュー、ひたすら食べる五郎さん、心の声はもはや文芸で、しみじみと静かなドラマがクセになる。何を食べようかと迷い、食べて、うまいなあと思う。周りの席の料理が気になったり、少し残した白飯に目玉焼きをのせちゃったりもして、じっくりと"食べること"を味わう。言わずと知れた、「孤独のグルメ」。

それぞれの孤独のグルメ

"孤高"じゃなかったっけ？"孤独"だったっけ？と勘違いしていたのは、随分と昔の話。「孤独のグルメ」が始まって10年以上が経ち、大晦日の定番にもなった「孤独のグルメ」の特別編となる「それぞれの孤独のグルメ」。とにかく食と向き合う五郎さんに焦点を当てるドラマだが、今シリーズは五郎さんだけではなく毎話ゲストが登場し、さまざまな職業の彼・彼女らの物語と、食の様子を描いたオムニバスなドラマ。一話では、中華屋さんの主人を爆笑問題の太田さんが演じている。豪華でサプライズなキャスティングだが、「孤独のグルメ」の良い地味さを損なっておらず、とても味がある。個人的には10話で、ベテラン神主の父の代わりに急遽、地鎮祭(家を建てる前にするあれ)を行うことになった、若き神主・裕太(結木滉星)が色々とピンチを乗り越え、南インドカレーで空腹を満たす話が好きでした。神主、地鎮祭、インドカレーというミスマッチはこれまでの「孤独のグルメ」にはない物語だった気がします。他にも、一人前の熱波師を目指す女性(玉井詩織)、長距離トラック運転手(黒木華)などなど、毎話さまざまなゲストが登場します。

皆さん、一度は「孤独のグルメ」ごっこを試みたことはないでしょうか？夜道を歩くとき、脳内にBGMを流し颯爽と街を歩く。夜露に濡れた葉っぱを軽く叩き、少しの飛沫を立てる。そうやって主人公になる夜のように、食事のとき、脳内にマイ五郎さんを召喚する。「チャーハンのグリーンピース好きなんだよなぁ。さまざまな手続きは苦手なんだけど、チャーハンのグリーンピースをバランスよく減らす段取りだけは自信があるんだよな」「今、私がスプーンで運んでいるのはプリン。いやプリンの揺れを運んでいる」。僕もけっこう「食」に向き合っているので、僕の「孤独のグルメ」も映像化したほうがいいですよ？と思ってみたりする。色んな人の「孤独のグルメ」を見たくはありませんか？とそれらしい説得材料まで考えて。そんな願いがほんの少しだけ届いたのか、五郎さん以外の「食」をこのシリーズは見せてくれる。

(C)２０２４久住昌之・谷口ジロー・ｆｕｓｏｓｈａ／テレビ東京

やっぱり五郎さん

これまでの「孤独のグルメ」ファンの方にとって、いやいや五郎さん以外のシーンはいらない――そう思う方もいるでしょう。「孤独のグルメ」は、良い意味で変化しないことが魅力。だからこそ、これだけ多くのシリーズを続けてこられたのだと思う人も少なくないはずです。確かに「孤独のグルメ」の魅力は圧倒的に五郎さんだし、徹底して「食」が主役なことです。それでも、確固たるグルメドラマの地位を築いた「孤独のグルメ」の新たな挑戦は、お祭り感があって楽しかった。ゲストの心の声を聞いて、みんな食べるの好きだなとうれしくなった。そして、やはり五郎さんは別格だった。「それぞれの孤独のグルメ」も実に美味しそうだった。

【プロフィール】
村上健志(フルーツポンチ)
1980年12月8日生まれ、茨城県牛久市出身。
2004年にNSC東京校10期として入学。在学中に、同期の亘健太郎とともにフルーツポンチを結成。特技の俳句で、MBS「プレバト!!」にて日常の風景を切り取る独自の才能を発揮し、永世名人の称号を獲得。2021年には「フルーツポンチ村上健志の俳句修行」と題し、句会での様子を書籍にして出版している。よしもとドラマ部に所属。ドラマ好きが高じて、多数ドラマ出演経験あり。