令和に受け継ぎたい時代劇!北大路欣也の「銭形平次」は"人情味"あふれる江戸のヒーロー
2025.06.17
「銭形平次」シリーズは、野村胡堂の時代小説『銭形平次捕物控』が原作。江戸・神田明神下の長屋に住む、江戸一番の捕物名人と言われた御用聞き(岡っ引き)の主人公・平次の活躍が描かれている。犯罪人を捕らえる際に、特技の投げ銭を見せることから"銭形"の異名を持つ。数ある時代劇の中でも「銭形平次」は、代表的な人気作品の一つに挙げることができる。
"勧善懲悪"のヒーローに"人情味"をプラス!
大川橋蔵は1966年から1984年までの18年間にわたり銭形平次を演じ、全888回という長期シリーズを築いた。この記録は、1人の俳優が同一の主人公を演じた1時間ドラマとしては世界最多であり、ギネスブックにも認定されている。その後、橋蔵版と同じ水曜夜8時の枠で"二代目・銭形平次"としてバトンを受け継いだのが北大路欣也だ。1990年に時代劇スペシャルとして放送され、翌年には連続ドラマ第1シリーズがスタート。以降1998年までに7シリーズが放送される人気作となった。
北大路はNHK大河ドラマをはじめ多くの時代劇に出演し、侍や武士といった役柄を務める重厚な存在感を持つ俳優として知られていた。そんな彼が庶民の味方として生きる江戸のヒーロー・銭形平次を演じたことは、当時新鮮な驚きをもって受け止められた。大川は投げ銭で悪を討つ"勧善懲悪"のヒーロー像を確立し、銭形平次のイメージを確固たるものにした。一方、北大路版「銭形平次」はその精神を受け継ぎつつ、人間ドラマや心理描写を丁寧に描くことで、"人情味"あふれる新たな魅力を作品に加えた。所作や言葉遣い、衣装の一つひとつにも時代劇ならではの伝統美を大切にしながら、威厳と包容力を兼ね備えた新たな銭形平次像を打ち出した。
普遍的な人間ドラマとして令和の今にも響く!
原作者・野村胡堂は『銭形平次捕物控』を書くにあたり、「侍の肩を持たない」「町人や農民の味方になる」「罰することだけが犯罪の解決ではないという哲学を貫く」「明るく健康な作品にする」という方針を掲げた。この精神は、北大路が演じた平次にもしっかりと息づいている。「人を殺させない」「無実の人を守る」という信念の下、例え犯罪人であっても情をもって接する姿勢が徹底されている。前述の"人情味"が強く打ち出されることで、北大路版「銭形平次」は単なる時代劇にとどまらず、令和の今にも響く普遍的な人間ドラマとしての深みを備えた作品となっている。
「銭形平次」は俳優・北大路欣也にとっても大きなターニングポイントとなった重要な一作。「旗本退屈男」「名奉行 大岡越前」「子連れ狼」など、時代劇のヒーローを演じてきた彼は、「剣客商売」や「三屋清左衛門残日録」といった近年の作品でも、変わらぬ存在感を放ち続けている。そんな北大路が演じた"人間味あふれる銭形平次"は、令和の今こそ改めて見直したい時代劇の名作だ。
文/田中隆信