新人時代の作品を回顧した永島敏行、俳優業について「こんなにいい仕事はない」
国内ドラマ インタビュー
2025.02.23
数多くの映画やドラマに出演し、第24回ブルーリボン賞主演男優賞や第3回ヨコハマ映画祭主演男優賞、第6回報知映画賞主演男優賞などを受賞してきた俳優・永島敏行。現在は本業だけでなく、農業生産者や経営者としての顔も持ち、全国で米作りを行いながら、東京で生産者と消費者をつなぐ「青空市場」も主宰するなど、さまざまなことを手掛けている。
そんな永島にスポットを当てた東映チャンネルのオリジナル番組「シネマ☆チョップ!」が、3月2日(日)に放送される。デビュー後の新人時代に出演した映画『二百三高地』、ドラマ「二百三高地 愛は死にますか」、映画『人生劇場』の3作品をフィーチャーし、当時の撮影の裏側などをひも解いていく。そこで、収録を終えた永島にインタビューを行い、当時を振り返りながら今の心境を語ってもらった。
――新人時代の作品を見返してみて、今どのようなことを感じますか?
「1つはすごく丁寧に作られているなって。やっぱり好きな人たちが集まっていたから、現場の士気が高いし、タイパで言えばまったく割に合わない現場なんですけど、みんな身を粉にして働いているんですよ。物を作るってこんなに面白いんだなっていうのは感じたし、役者の内面やスタッフの思いが作品に詰まってるから見入っちゃいますね。労働時間なんか考えずに、どれだけ面白いものを作るかっていうのが当時だったのかなと思います」
――デビュー当時は戦争映画への出演が多かったですが、どのようなことが印象に残っていますか?
「今回は『二百三高地』を振り返りましたけど、僕が作品に出演したときは周りの方は戦争を経験した方たちなんですよ。だから戦争のむなしさや愚かさをものすごくわかっていて、映画やドラマの中に自分たちの思いをすごく込められたんだなっていうのは感じてましたね。国のためというより自分の肉親や故郷のために死んでいく、演じながらそのむなしさを教えられました。僕は勉強しないで野球ばっかりしていたので、役が決まってから本を読んで勉強して、そういう意味では芸能界に入ってからものすごく勉強させられました」
――爆破シーンなどハードなシーンが多くありましたが、撮影は大変だったのでしょうか?
「とにかく怖かったですね。CGがなかったので弾着はタイミングが重要で、近くで爆発したり耳なんて聞こえなくなるんじゃないかなと思うようなこともありました。爆発に合わせて自分で飛んだり......そこは戦争映画だったのでどれだけリアルに見せるかという上では時間もかけていましたね。それから特撮のスタッフを見ると指がないんですよ。撮影の事故で指が飛ぶことも多かったようでかなり緊張感はありました。そういう意味では戦争を疑似体験させてもらった気がしていて、だから戦争はむなしいっていうことが分かったし、きちんと伝えなきゃいけないっていうのは思いました」
――監督からは当時、どんな演出をされましたか?
「振り返るといろんな監督に同じようなことを言われましたね。『おまえには技なんかないんだ、でも感じることはできるだろう。台本を読んで心が動くことを表現することが芝居になるんだ。技がないんだから技で何かしようと思うな』って。だから監督からあまり言われたことがないんですよ。そのままの素材として使われていたのかなと思います」
――名だたる方と共演されましたが、思い出に残っていることを教えてください。
「演劇界の重鎮という方々とたくさんお会いしてきたんですけど、当時はテストを何回も重ねてから本番で、テストの時に『本番で緊張するなよ、テストで緊張して、本番のときはリラックスして表現をしろ』って言われたことがあるんですよ。一緒に作品を作っていく上で優しいというか、皆さん結構アドバイスをしてくれたなって思います。あと、森下愛子さんとかヒロインの方とのシーンがあると、当時まだ学生だったので野球部の仲間に嫉妬されましたね。厳しい運動部だったんで色紙100枚くらい渡されて、こんなにサインもらえないよって悩んだ思い出があります(笑)」
――当時を振り返ってみて、自身に根付いている教訓のようなものはありますか?
「皆さんすごく色気があるんですよ。それはガチガチに決まりきったレールを走らず、失敗してもはみ出しても生きていくというか、嫌なこともあったと思うんですけど、いろんな経験を積むことで得たものがあって、そういう経験がその人を作っていくなっていうのは、色気のある役者さんを見ていてすごく思いました。だから僕も農業をやったりしていろんな経験をしてみたかったし、役者だけの価値観では分からないこともあるなって。人間はそれぞれに役割があってそれぞれに繋がっていることも農業をしながら気付いたし、それを表現して皆さんに知ってもらうのが役者という仕事だと思うから。こんな40年以上前の作品を見てくれた方が感慨を持って考えてくれると思うと、こんなにいい仕事はないですね」
取材・文・撮影/永田正雄
※「二百三高地 愛は死にますか」の第1話を3月2日(日)17:00~より東映チャンネルHDで先行放送。