「ふてほど」が流行語に!河合優実の演技も話題となった「不適切にもほどがある!」が与えた衝撃
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2025.02.11
2024年1月に放送開始されたTBS系ドラマ「不適切にもほどがある!」は、「ふてほど」の愛称で話題となり、同年の新語・流行語大賞で年間大賞に選ばれるなど大ヒットした。脚本は宮藤官九郎が手掛け、主演の阿部サダヲが1986年から2024年の現代へタイムスリップしてしまう昭和の中学教師・小川市郎を演じた。プロデューサーの磯山晶は、宮藤とのコンビで過去に「池袋ウエストゲートパーク」(2000年)、「木更津キャッツアイ」(2002年)、「タイガー&ドラゴン」(2005年)をヒットさせている。
主人公の市郎を取り巻く登場人物には、一人娘の不良女子高生・純子(河合優実)、令和の時代に出会うシングルマザー・犬島渚(仲里依紗)、昭和のアイドル・近藤真彦に憧れる"ムッチ先輩"こと秋津睦実(磯村勇斗)、市郎とは逆に2024年から1986年にタイムスリップする社会学者・向坂サカエ(吉田羊)と息子・キヨシ(坂元愛登)、サカエの元夫でかつての市郎の教え子・井上昌和(三宅弘城)らが登場。
昭和のダメおやじが2024年にタイムスリップして巻き起こすドタバタ劇
タイムマシンが登場する物語は珍しくないが、本作の場合は"路線バス型"であるところが特徴的だ。タイムマシンで登場人物たちが1986年と2024年を行き来することで、時代の変化に翻弄(ほんろう)される場面がコミカルに描かれる。例えば、コンプライアンスの概念がなかった昭和のおじさんである市郎は、顧問を務める野球部で"ケツバット"などの暴力制裁が当たり前。所かまわずタバコをスパスパ吸ってしまい、昭和感覚丸だしの行動とコンプライアンス無視の暴言を令和の時代に連発する。しかし、そんな"不適切な"市郎の極論が、コンプライアンスで縛られた令和の人々に考えるキッカケを与えていく展開が見どころだ。宮藤官九郎お得意のパロディー満載で、懐かしのヒット曲やテレビ番組の場面が描かれ、昭和世代には懐かしさで笑える場面の連続。毎回登場するミュージカル仕立ての場面で、登場人物たちが歌い踊るという独特の演出も話題に。
ただし、本作の魅力は笑えるだけではない。昭和から令和へと時代は変わっても、親子の愛情は不変であり、妻を亡くした市郎とその一人娘、そしてタイムスリップしたことで出会う人々との絆を描くヒューマンコメディーでもあることがポイント。物語が後半に進むについて、小川親子にある悲劇が訪れることが分かるなど、むしろ泣かせる場面の方が印象に残る。時空を超えて出会う市郎と渚の関係も大きな軸で、後に登場する純子の結婚相手など、ビックリする仕掛けも数多い。
窮屈な現代人を昭和の視点で痛快に斬る、笑いながらも考えさられるドラマ
本作が大きな話題を呼んだのは、現代に必須となったコンプライアンス意識の高まりが、時に我々を窮屈にさせているという問題意識を内包している点だろう。コンプラでがんじがらめになってしまったテレビ局プロデューサーの栗田(山本耕史)が、意識過剰になり過ぎて何もできなくなってしまう場面などは、笑えるが確かに考えさせられてしまう。令和での市郎がテレビ局のカウンセラーに就任し、どこかおかしくなってしまった現代人の悩み相談に乗るという趣向も面白い。情報番組MCの不倫スキャンダルや、ドラマ撮影での性的シーンの演出を巡って女優のマネージャーが無理難題を突きつける場面など、現代のコンプライアンス社会を鋭く描きつつ、ユーモアを交えて視聴者に問題提起をしている。
阿部サダヲの熱演に加えて本作でブレークした河合優実の魅力がさく裂
俳優陣の演技も素晴らしく、主演の阿部の泣かせる場面でのはかなげな表情が胸を打つ。また、渚役の仲の緩急自在な演技やムッチ先輩を演じた磯村のはじけた怪演ぶりも必見だ。他にも山本耕史をはじめ、古田新太、袴田吉彦、中島歩ら個性豊かなキャストたちが画面を彩ってくれるが、特筆すべきは本作でブレークした、純子役の河合優実の演技だ。"聖子ちゃんカット"にロングスカートの制服を着こなし、乱暴な言葉使いも板についていた。成人時代の場面では、当時流行した"ワンレンボディコン"を身にまとうなど、なんとも言えないかわいらしさに加えて多彩な魅力を振りまき、物憂げな表情など演技の繊細さでも視聴者をとりこにした。2021年以降は毎年、映画賞の常連であり、今後のさらなる飛躍にも期待だ。
時代とともに変えるべきこと、変えずに守るべきことを見つめ直す、本作はまさにそんな作品だ。少し生きにくくなってしまった今だからこそ、見る価値がある。さまざまな意味で衝撃的なドラマと言っていいだろう。
文/渡辺敏樹