愛おしくて生々しいふたりの恋「初恋、ざらり」【フルーツポンチ・村上健志】

よしもとドラマ部

よしもとドラマ部 (吉本興業所属のお笑い芸人)

吉本興業所属のテレビドラマ好きを公言しているお笑い芸人からなる。 現在は宮地ケンスケ・福田恵悟(LLR)・村上健志(フルーツポンチ)・大貫さん(夫婦のじかん)・りょう(小虎)らが所属。

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愛おしくて生々しいふたりの恋「初恋、ざらり」【フルーツポンチ・村上健志】

<プロフィール>
村上健志(フルーツポンチ)
1980年12月8日生まれ、茨城県牛久市出身。2004年にNSC東京校10期として入学。在学中に、同期の亘健太郎とともにフルーツポンチを結成。特技の俳句で、MBS「プレバト!!」にて日常の風景を切り取る独自の才能を発揮し、永世名人の称号を獲得。2021年には「フルーツポンチ村上健志の俳句修行」と題し、句会での様子を書籍にして出版している。よしもとドラマ部に所属。ドラマ好きが高じて、多数ドラマ出演経験あり。


今回、コラムを書かせていただくドラマは「初恋、ざらり」。正直、この作品について書こうかどうか迷いました。見てみてイマイチだったけれど、無理矢理良いことを書かなくてはいけないからではありません。理由は他にありました。ここから前置きが長くなりますので、先に言っておくと、このドラマを見て本当に良かったです。ぜひ見てください。
 
このコラムで扱うドラマは、J:COMの担当者の方が用意してくださった作品の中から選びます。選び方は、会議室にこのコラムを担当している僕を含めた5人の芸人が集まり、候補のドラマについて雑談しながら決めていきます。ただ担当のドラマを決めるだけなので候補の一覧をスマホに送ってもらっても決められるのですが、集まります。そして、J:COMの担当者の方がパソコンの画面に一つずつ候補のドラマを出していきます。その度に「懐かしい〜」「この役者さん好きなんです」「時代劇全然見たことないけど、この機会に見ようかな」などとどこに流れるわけでもないのですが、ドラマ好きの芸人たちが、ドラマ雑学や好きなセリフをまねてみたりして、盛り上がりながら自分の担当を決めていくのです。そして「初恋、ざらり」がパソコン画面に登場した時に「うわ〜これは面白い」と僕以外の皆が言いました。ドラマ好きと自称しておきながら僕だけがこのドラマを見ていませんでした。「だったら絶対見た方がいいよ」と言われたこと、そしてこのドラマの主演である小野花梨さんを別の作品で注目していたこともあり、このドラマを見たいと思いました。けれど、コラムを書くのはどうかと迷いました。なぜなら、「初恋、ざらり」は軽度知的障害のある女性によるラブストーリーだったからです。

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どのドラマを見るかの参考にしていただくためのコラムで、なかなかドラマの内容に入らない文章に退屈さを覚えるかもしれませんが、もう少しお付き合い下さい。障がいというテーマを扱ったドラマについて書いていいのか?書けるのか?というモヤモヤがあったことを正直に話さなければいけない気がしたのです。

障がいという言葉を口に出すこと、こうして文章にすることもなぜだか心がざわつきます。その障がいがテーマのドラマ。見る前から、さまざまな感情がうっすらと出ては消え、また現れては消えを繰り返します。社会派のテーマに自分がどう感じるか、試されているんじゃないか。作品をあんまりと言えば冷たいと言われ、良かったと言っても分かった気になるなと叱られるんじゃないかという思い。他とは違うドラマを作るために、こういったテーマを扱っているだけなんじゃないか。ずるい。そもそも軽度知的障害とは何だ?生きづらさに胸を打たれ、優しさがやっぱり大事、難しい役を立派に演じた、考えさせられる。見る前からそんな感想を決められているような気分になりました。いや誰からも非難されないように当たり障りのない感想を無意識に用意していました。見る前から余計なことを考えたあまりよろしくない視聴者のままドラマを見始めました。

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軽度知的障害と自閉症のある女性上戸有紗(小野花梨)。見た目からは分からないが、身の回りのことがうまくこなせないなどのハンデを抱えた有紗は、普通に憧れている。誰かに必要とされたくて、求められると体を許してしまう。そんな彼女が障がいを隠し働き始めたバイト先で出会ったひたすらに優しい岡村龍二(風間俊介)と出会い恋をする物語。

ドラマを見る前に製作陣を疑った自分をとっちめたいです。浅はかで生意気な意見を持ってしまったことをお許しください。全然メッセージ性のためのドラマじゃありませんでした。軽度知的障害のある女性と付き合うということはこういうことだ。少し暮らすのが下手でも他の人よりもよっぽど純粋で綺麗な心を持っている、というような内容ではありませんでした。そこには有紗と岡村という人間の心の葛藤が、本音が、分からなさが、恋が、生活がありました。二人の物語でした。ラブストーリーでした。見る前に抱いていたざわつきが岡村の中にもあった気がします。岡村も軽度知的障害とは何なのか分からず交際をします。好きという気持ちだけではうまくいかないこと、優しく受け入れるだけでは届かないこと、周りの人たちとの関わり、自分に自信が持てない、こうだからこうと言えない曖昧なざらりとした感情が丁寧に描かれます。回が進むごとにどんどん愛おしくなる二人だからこそ、このざらりとした感情に心を揺さぶられます。

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人を好きになって弱くなった瞬間がある人。自分に自信が持てず悩んだことがある人。多くの人の心をこのドラマは抱きしめてくれるはずです。どうか愛しくてたまらない二人の恋を見てください。

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