声優・小林千晃インタビュー#3「その時々で出会うものに刺激を受けて自由気ままに変化していきたい」

声優・小林千晃インタビュー#3「その時々で出会うものに刺激を受けて自由気ままに変化していきたい」

「マッシュル-MASHLE-」のマッシュ・バーンデッド役、「葬送のフリーレン」のシュタルク役など、数々の話題作・人気作で重要キャラクターを演じる声優・小林千晃さん。クールで透明感のある声と、その奥にすっと通った芯を感じさせる表現力で多くのファンを魅了しています。このインタビューでは全3回にわたって、小林さんの"いま"を形作るルーツと、役者としての静かなる情熱に、出演作品に対する思いとともに迫ります。

■自分に嘘をつかずに生きていきたい

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――数多くの作品に出演されていますが、小林さんの中でとくに思い入れがあるキャラを挙げるとすればだれでしょうか?

「印象深いキャラクターでいえば、やはり初めて主演を任せていただいた『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』のクガ・ヒロトですね。初主演だったことに加えて、2クールという長い時間をかけて人の成長をがっつり描いていく作品だったので、演じている僕自身にとっても強く印象に残ってる作品です」

――共演者の方々からの刺激も多いと思いますが、最近、現場で刺激を受けた共演者の方はいらっしゃいますか?

「たくさんいらっしゃいますけど、ごく最近でいえば『葬送のフリーレン』で南の勇者を演じられていた井上和彦さん。和彦さんは70歳を超えて、いまなお最前線で戦っていらっしゃっていて本当にエネルギッシュなんです。年齢って、本人が気にしない限りはまったく関係がない部分だとは思うんですけど、和彦さんがまさにそう。まったくお歳を感じさせないから、本当にすごい...」

――以前、このインタビューにもご登場いただいたんですが若々しいですよね。気持ちも行動も。

「そうなんですよ。明るいし朗らかだし、そして生活感のなかにみなぎる若々しさ。そこから生まれる新鮮なお芝居と、年齢を積み重ねてきたからこそ出てくる"渋み"のようなものいいは、和彦さんの人柄があってこそ。最近、それを肌で感じました。何より、人柄が素晴らしいからこそ、これほど長く第一線で活躍し続けられるんだなとも思いますし。和彦さんもそうですし、あと高木渉さんなんかも本当にエネルギッシュで、あらためて尊敬が強くなりましたね」

――やっぱり、小林さんもそんな大先輩のような将来像を目指されているのでしょうか。

「目指したい...とは思いますけど、正直『そこまで先のことは考えられない』という気持ちに近いです。なろうと思ってなれるものでもないような気がするし、そういう先輩方の背中を見ながら、自分なりの在り方をいろいろ模索している最中なのかもしれません」

――自分なりの将来像を模索するなかで「こういう声優でありたい」と思うこともありますか?

「自分が将来どういう声優でありたいか、というのも時折考えはします。でも、結局1年の中でもどんどん自分が変化し続けていくし、その答えもどんどん変わっていっちゃうことが多いんですよ」

――なるほど。でも、それが周りから刺激を受けているなによりの証拠でもありますよね。

「それだったら嬉しいですね。自分の中で『こうなる』『こうしなきゃ』とあまり堅苦しく考えるのも違う気がしているので。人生、何に出会うかだってわからないし、その時々に受け取ったもののなかから、良い方向へ導いてくれそうなものに影響されつつ、自由気ままに変化していけたら。なんか、のらりくらり、って感じですけど(笑)。そんなスタンスで、これからも楽しく声優の仕事ができたらな、と思っています」

――いまの目標などはありますか?

「なんだろうな...でも、自分に嘘をつかずに生きていきたい、とは強く思っています。結構難しいんですけど。自分の感情に従いすぎても角が立つ場面はあるし、逆に感情を殺してニコニコしているだけだと、家に帰ってから『自分、何やってんだろう』という気持ちに陥ってしまうこともあるし。そのバランスをどう取るかは、自分の中での一つのテーマですね。そのバランスを見極めて、できるだけフラットな生き方を見つけることが、いまの僕にとってはいちばん大事なことのような気がしています」

■「あの役は絶対に千晃くんだと思った」|「マッシュル-MASHLE-」マッシュ・バーンデッド

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――世界中で人気の「マッシュル-MASHLE-」では魔法が使えない主人公、マッシュ・バーンデッド役を演じられています。まずは役が決まったときの心境を教えてください。

「マッシュに関しては、オーディションの段階から、自分の中で"気負う"という感じがほとんどなくて、『演じるぞ』と身構えなくても、フラットに自然体で向き合える役でした。手応えがあった、とはまた少し違うんですが、自分自身も楽しみながら演じられたという感覚が大きかったキャラでした」

――その小林さんの自然体な感じが、あのマッシュの独特な雰囲気を醸し出していたんですね。

「そうかもしれないです。合格したあともオーディションを受けていた同業の方々から『あの役は絶対に千晃くんだと思ったよ』と言っていただくことが、これまでの声優人生のなかでも断トツで多くて...。自分だけでなく、周囲の方にとってもマッシュと僕の印象が重なっていたんだなと感じ、本当に稀有な役に出会えたんだ、と実感しました」

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――お芝居というより、小林さんの"素"に近い感覚だったのでしょうか。

「それこそオーディションを含めて、最初の頃はそうですね。もちろん実際のアフレコ現場に行けば調整はありますけど、基本的には素に近かった。『肩の力が抜けている感じがキャラクターに合っている』という制作陣の方々の評価があってこそのキャスティングだったので、素に近い状態でのぞんだのが、結果的には良かったなという感じです」

――なるほど...!実際、マッシュとご自身を比べてみて、共通点って感じますか?

「マッシュの根底にある『家族思い』な部分に対して、すごく共感できる、というのはありますね。彼は育ての親であるじいちゃんのために、魔法学校へ入るという選択をした。僕自身も、親や兄弟をとても大切に思っているので、大切な誰かのために戦うという彼の行動原理は、すごく気持ちがわかるなと思っていました」

――逆に、演じるなかで気づいた「自分との違い」についてはどうですか?

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「なんだろうな...でも、物語が進むなかでライバルや友達など大切な人が増えてきたときに、その人たちを守るために、戦う姿は純粋にかっこいいなと思います。自分より権力のある相手や、不利な立場だから、みたいなことを考えずに戦うのは、やっぱり"ヒーロー"なんだなと思いましたね。どうしても自分には打算的な部分もあったりはするので」

――でも、現代の社会人として生きていれば、少なからずだれにでもありますよね。

「そう言っていただけると救われますけどね(笑)。もちろん、友達や恩人のために頑張りたいという気持ちもありますけど、どうしても自分の社会的立場を天秤にかけてしまったり。でもマッシュは、そうした計算を一切せずにスッと行動できる。そこは僕とは決定的に違う点ですし、常人にはない『ヒーロー』の資質を感じますね」

■相手の高い熱量を"いなす"ような感覚|「マッシュル-MASHLE-」マッシュ・バーンデッド

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――アフレコ現場の雰囲気はいかがでしたか?シリアスとコメディーの落差も大きい作品ですが。

「この表現で合ってるのかはわからないんですけど、本当に、心地の良い現場でした。とにかくやさしくて面倒見のいい先輩方と、僕や川島零士くんのような若手も、のびのびとマイクの前に立たせてもらえて。『シリアスだから』『ギャグだから』といった垣根もなくて、フラットにみんなが笑い合える空気感の中で、しっかりと意見交換もできる。そんな温かい座組に、収録中は何度も助けられましたね」

――いい空気感の現場だったんですね...!バトルシーンに関しては、小林さんの中で「魔法が使えないマッシュ」をどんなふうに噛み砕いて演じられていたんですか?

「魔法うんぬんというよりも、僕の中では、シンプルに『死に物狂いで戦っている』という感覚でした。魔法を使う人たちは、杖を通してエネルギーを放出しますが、マッシュの場合はそれが自分の肉体であるというだけ。戦い方のスタイルこそ違えど、目の前の相手に『勝ちたい』『この魔法に負けないぞ』という奥底に宿るエネルギーの強さは、魔法使いの皆さんと何も変わらない。そう思いながら、ただ必死に戦っていました」

――あえて「物理だから」と、周囲の魔法使い側と表現を切り分けたりはしなかったのですね。

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「そうですね、そこは基本は同じ目線で戦っていました。ただ、マッシュ自身がどちらかといえば、『うおぉぉぉぉぉ!』とかって熱く叫ぶタイプではなくて、淡々としたキャラクターじゃないですか。だから、戦う相手の方がものすごく高い熱量でぶつかってきてくださったとしても、逆に僕はその勢いに乗らないように、というディレクションは現場でいただいていました」

――敵が高いテンションで襲ってくるなか、冷静さを保つのは難しそうですが(笑)。

「そうですね、『お前を倒す』という想いで来る相手に対して、同じく『倒す』で応じちゃうとダメなんですよね。そうじゃなくて、うまく『いなす』ような感覚というか。そういう意味では、マッシュはジャンプ作品の主人公としても、バトル漫画の主役としても、かなりめずらしいタイプかもしれません(笑)。でも、その独特な温度感こそがマッシュならではのおもしろさですよね」

■役者もスタッフも垣根なく一丸となれる作品|「マッシュル-MASHLE-」マッシュ・バーンデッド

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――第2期のオープニングが世界中ですさまじいバズりを見せましたよね。

「とくに第2期に関しては、反響が本当にすごかったです...!ふだんはあまりアニメをご覧にならないような層、たとえば小さなお子さんだったり、逆にかなりご年配の方だったり。ありがたいことに、そういった方々からお手紙をいただいたり、街中で声をかけていただく機会が、あの時期は一気に増えたんですよ」

――言ったら、アニメファン以外の層にも一気に「マッシュル-MASHLE」の名前が広がりましたもんね。

「Creepy NutsさんのMVの中でも、アニメの映像オープニング映像を使っていただいたりして、Creepy Nutsさんのファンだったところから『マッシュル-MASHLE』に興味を持っていただいたり、逆にアニメファンの方が『Creepy Nutsさんってこういう曲も作るんだ』と興味を持たれた方がいたり。相乗効果で、世界中の方々に愛していただいたなっていうのはすごく感じていました」

――あの「BBBBダンス」、現場でキャストのみなさんも踊ったりされていたのでしょうか。

「アフレコ現場でみんなで踊るようなことはありませんでした(笑)...が、じつは公式SNSなどの企画でダンス動画を撮ろうという提案は、まだ世界でバズる前から、宣伝プロデューサーの方がしていたんです...!『このダンスは絶対に世界に浸透するはずだから、いまのうちに撮れる人から撮っておきましょう』と」

――すごい、先見の明!バズるべくしてバズったわけですね...!

「ラジオやイベント、アフレコ現場でお会いできる方々を片っ端から巻き込んで撮影していって。『マッシュル-MASHLE』という作品を、この瞬間に盛り上げようというスタッフさんの強い心意気を感じたのもすごく嬉しかったですし、役者もスタッフも関係なく『みんなで一つの作品を作り上げているんだ』という一体感を、強く味わえました」

――めちゃくちゃいい一体感。

「この現場は、本当に仲良い座組でやらせていただいていましたね。メインキャストの5人はもちろん、宣伝プロデューサーや音響監督、監督も含めて、職種の垣根がまったくなくて。コロナ禍が落ち着いてからは、かなりの頻度で飲み会も開催してましたし(笑)」

――なんかそんなにいいチームで作っているんだと聞くと、観る側としてもがぜん2027年に予定されている第3期が楽しみになってきます(笑)。

「ありがとうございます...!第3期のアフレコが始まるのはまだ先ですけど、チームでは1年に一度はかならず集まって飲みにはいってるので、ぜひ期待していてください(笑)。ここまで役者もスタッフもぎゅっと一丸になれる現場って、じつはそんなに多くはなくて。だからこそ、この作品ならではの空気感やチームワークがいい方向で作品に作用させられたらいいな、と思います」

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取材/山口真央 文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉

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