声優・石見舞菜香インタビュー#3「自分の人生を変えたアニメの世界で今度は自分が誰かの感動になれたら」
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2026.03.20
「フルーツバスケット」の本田透をはじめ、「【推しの子】」の黒川あかね、映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」のマキアなど、数々の話題作でヒロインや重要人物を演じ、その透き通る声と繊細な表現力で、キャラクターの言葉に命を吹き込む石見舞菜香さん。穏やかな印象を与える彼女ですが、一方で親の反対を押し切って声優の道へと進むという、自分を通す"芯の強さ"も持っています。このインタビューでは全3回にわたって、石見さんが声優を志した原点となる幼少期のエピソードから、声優という仕事に込める思いまで、出演作品の裏話とともに語っていただきました。
■形をきれいにするではなく心のままに声を出す

――共演される方々から刺激を受ける機会も多いと思いますが、なかでも「この方はすごい」と感じる役者さんはいらっしゃいますか?
「そうですね。初回のインタビューでもお話しましたが、やっぱり茅野愛衣さんは私にとってずっとずっと憧れの存在です。でも、単なる憧れにとどまらず、いまだに現場でお会いするたびに新たな衝撃を受けるというか...。お会いするたびに『なんて素晴らしい役者さんなんだろう』と、そのすごさを肌で感じています」
――石見さんから見て、つねに新しい発見があるんですね。
「あとは上田麗奈さん。声優業界のだれもが上田さんのお芝居を愛していると思うんですけど、本当に上田さんにしか思いつかないような、独特で確固たる世界観を持ってる。そのオリジナリティに触れると、やはり強く惹かれますし、憧れますね」
――強い「個」を持ってるお二方だと思いますが、石見さんご自身も"オリジナリティ"を大事にされているのでしょうか?
「できているかどうかは別として、そうありたいとは強く思ってます。お芝居って、一見似ているようでいて、じつは一人ひとりまったく方法論や考え方が違っていたりするんですよ。だからこそ、『石見舞菜香に頼んでよかった』と感じていただける理由や、意味を、しっかり出せる役者になっていきたいなと、切実に思ってます」
――そのために、普段お芝居で意識していることはありますか?
「一言でいえば、『形にこだわらないこと』かな。もちろん作品によっては細かく考えてのぞむものもありますけど、基本的には自分とキャラクターの気持ちが重なってさえいれば、テクニックを超えてかならず伝わるものがあると信じているんです」
――「形」にこだわるのではなく「心」が通じているかどうか...?
「たとえ出てきた表現が、いわゆる『きれいなもの』じゃなかったとしても。感情が昂って声が裏返ってしまったりしても、自分がそのキャラクターの心になりきって発した言葉であれば、届くはずだと思うんです。だから、表面的な形を整えることよりも、心のままに声を出すことのほうが、ずっと大切なのかなと思います」
■お芝居に必要なのは「人生を思いっきり生きること」

――「キャラクターと気持ちを重ねる」ために、どんなことを大事にしているんでしょうか?
「長く演じている役であれば、何もしなくても、自然と心が動いて涙が出てくることもあったりします。でも、出番が限られているキャラクターの場合は、自分の人生経験から似た感情を呼び起こしたり、脚本を読み込んで寄り添ったりと、いろいろなアプローチが必要になってくる。そこで一番大事なのは、やはり自分自身が『いかに多様な感情を経験しているか』だと思うんです」
――もう少し詳しくお聞きできますか?
「以前、ある作品でご一緒した先輩に言われた言葉がすごく印象に残っていて。『役者だからこの経験をしておこう、と思ってやる経験は薄いよ』と。なぜなら、台本を読んで反射的に沸き上がってくる感情というのは、意図的に取りに行ったものではなく、生身の自分が心から感じたものだから、って」
――なるほど...!役者でなくとも、ハっとする人が多そうな言葉ですね...!
「役者としてではなく、まずは自分の人生をありのまま楽しんで、自然体で飛び込んで感じてみる。そこで生まれる感情を大切にしてね、って。私も、昔は『仕事に生かそう』と思っていろいろなことに挑戦した経験があるんですが、たしかに、どこか『これを楽しむ自分』を俯瞰的に見てしまって、心に残るものが薄かった気がするんです。だからこそ、自分の人生を思いっきり生きることが、結果的にお芝居には絶対必要なんですよね」
――先ほどの「形ばかりにとらわれない」というお話にも通じますし、そこが石見さんの声優として一貫して大事にしていることなんだなと感じました...!今後、どんな声優を目指していきたいですか?
「ずっと目標に掲げているのは、『人の心を動かせる役者』であること。私自身、人のお芝居によって人生が大きく変わった経験があるので。だれかの感動の一つになれたら嬉しいな、と思います。『人の人生を変えたい』とまでは思わないんですけど(笑)」
――素晴らしい...!恥ずかしながら自分はメディアを志望した理由が「人の人生に影響したいから」でした...!(笑)
「もちろんそういう動機もいいと思いますよ(笑)!そういう理由で役者になる人もたくさんいらっしゃると思います。私が『責任は持てないし』って思っちゃうタイプってだけで。自分自身もアニメに感動してから人生が幸せな方向に向かっていった感覚があるので、今度は自分がだれかの心に温かななにかを残せたらいいなと強く思っています」
■収録前から関係者の作品愛がすさまじかった|「フルーツバスケット」本田透

(c)高屋奈月・白泉社/フルーツバスケット製作委員会
――石見さんの代表作として欠かせないのが、長く愛され続ける名作「フルーツバスケット」(以下、「フルバ」)です。まずは、2019年に再アニメ化が決まったときのことを聞かせてください!
「当時、『再アニメ化オーディションがあるらしい』という話が出たとたんに業界内で一気に噂が駆け巡るほど、役者同士でも注目度の高い作品でした。そして、じつは私が生まれた98年は、『フルバ』の連載開始年でもあって、作品と同い年なんです。当時から、そんな運命的な縁も感じてはいたんですが、そんなことよりもとにかく関係者の方々の熱量がすさまじかった...!」
――どのくらいすごかったんでしょうか?
「それこそ連載当初からずっと好きでい続けているスタッフさんとか、『フルバ』を人生の教科書だと思っている方ばかりなんです。当時、読みたての私が感じた熱量と、ほとんど同じくらいの熱を込めて語るから、すごくて。だから、スタッフ・キャスト含めて作品の話をめちゃくちゃする現場だったんですよ...!」
――作品愛があふれてる(笑)。
「本当にそう(笑)。アフレコだろうと、飲み会だろうと、スタッフさんと集まるたびに『フルバ』の話ばっかりしてて。飲み会にしたって、ふつうに誘うんじゃなくてわざわざ作品内の言葉を使って『宴を開きましょう』って言ったり(笑)。これだけ愛される作品に関われる幸せを、何度も噛みしめられるような座組だった気がします(笑)」
――当時のオーディションや、役が決まったときのエピソードもお聞きできますか?
「そういえば、そもそも当時の担当マネージャーさんが一番好きなマンガだったこともあって、オーディションの段階から『絶対に原作を全巻読んできてね!』と、すごい熱量で送り出されたんですよ(笑)。だから、役をいただけたときはマネージャーさんがだれよりも喜んでくれましたし、私自身も原作を読んでたくさんの感動があったので、精一杯頑張らなくてはと身が引き締まる思いでした」
――石見さんは、かつて堀江由衣さんが演じた主人公・本田透役を演じられました。そのなかでの難しさや葛藤はありましたか?
「キャストもスタッフも一新して新しい『フルバ』の世界をゼロから作っていく、という試みの企画だったこともあって、あえて『前作は見ない』ということは決めていました。それに、もし堀江さんのお芝居を見てしまったら、きっと私はそのお芝居をたどっちゃう。いってみれば、すでに『正解』があるわけだから、自分がそこに逃げちゃうんじゃないか......という気がしたんです」
――過去に演じられた方がいるって、「すでに正解がある」とも捉えられるんですね。
「そうなんです。でも、せっかく選んでいただいたなら、受け入れていただけるかはわからないけど自分だからこそ出せる『透くん』を届けたい。そんなふうに思って、原作は徹底的に読み込みましたし、それ以外の情報は入れずにいまのキャストやスタッフのみなさんとイチから作り上げていく気で臨みました」
■こんなにキャラクターと心が重なるなんて|「フルーツバスケット」本田透

――とくに印象に残っているシーンなどはありますか?
「そうだなぁ...1st seasonの後半、夾(きょう)くんが本来の姿になってっちゃうシーンかな。透が体を張って彼を止めに行く、感情的にかなり高ぶる場面でした。じつは昔、養成所時代のエチュード(即興劇)で、泣き喚くような芝居をした際に『泣く表現じゃなくて、癇癪に見える』と言われてしまったことがあって...そのシーンでも、当時の気持ちが少しフラッシュバックしたんです」
――そんなことがあったんですか。
「感情剥き出しで演じていたので、収録が終わっても、自分の表現がただの癇癪になっていないか、自己満足になっていないかがものすごく不安で。無事、OKも出たのですが、自分の中ではずっと『大丈夫だったかな』と心配でした。そしたら先輩声優方がすごく親身に、『気持ちが正しかったからOKが出ているんだし、全然大丈夫だと思うよ』と声をかけてくださって...」
――その一言で、救われますね。
「そうなんです。実際、本当に頼もしい先輩方ばかりで、私がどんなお芝居をしても、周りでどっしりとして支えてくれるので、安心して身をまかせることができた。透くんの役を、気負いすぎずに自由にお芝居できたのは、そういう温かいチームがあったから。だから、一人で抱え込まずに最後まで走り抜けることができたんだと、本当に思います」
――そのシーン以外にも結構、感情が昂るシーンも多いですもんね。
「泣くシーンはとくに...本当に、何度か泣きすぎて収録を止めてしまった記憶があります。アフレコというのは基本的にタイムが決まっていて、映像の尺に合わせて演じるものなのですが、どうしても絵に合わせることを考えられなくて...」
――そういうときは、どうしてたんですか?
「それも、ありがたいことに、スタッフさんから『タイムは無視していいから、自分の気持ちのままにやってほしい』と言っていただけて。尺から、とんでもないこぼれ方をしたりもしていたんですが、気持ち優先でお芝居にのぞんでいました」
――そのくらい、言葉に体重が乗っていたんですね。

(c)高屋奈月・白泉社/フルーツバスケット製作委員会
「そうですね。夾くんを想って泣くシーンなどは、共感して泣くというより、もう私自身が透くんとして泣いている感覚でした。先ほど、『自分の人生経験から似た感情を探す』というお話もしましたけど、透くんに関してはそんなことをしなくても、自然とその感情になる感覚が一番強かったです」
――もはや「フルバ」の世界の中に石見さんがいるみたいですね。
「それに近かったかもしれません。周りのキャストの方々の声を聞くだけで、一瞬で透くんの気持ちになれちゃうから、いまでも作品を観るときは、純粋な視聴者としては観られないですし」
――そうなんですか...!
「どうしても透くんの視点で物語を追ってしまうんです。実際にオンエアを観ていたときも、透くんと同じタイミングで涙が出てきてしまうので、客観視が全然できないんですよ。ほかの作品だと、放送時にはアフレコ時と一線を引いて観られることも多いのですが、これほど長く関わって心が重なったキャラクターは本当にめずらしくて...。もはや自分の一部、というとおかしいかもしれませんが、そのくらい自分の中に染み込んだキャラクターでした」
■いなくてもみんなの声が聞こえた最終話|「フルーツバスケット」本田透

――「1st season」「2nd season」「The Final」と、2019~2021年にかけて放送されましたが、途中にはコロナ禍もありましたね。
「そう、じつは「The Final」だけはコロナ禍という事情もあって、全員揃っての収録が叶わなかったシーズンでした。いま思い出しても悲しいですけど。ただ、それまでのシーズンをずっとみなさんと一緒に作り上げてきた貯金があったので、現場にいなくても、自然と脳内にみなさんの声が聞こえてきた。そのくらいには作品が染み込んでいました」

(c)高屋奈月・白泉社/フルーツバスケット製作委員会
――すごい境地だ...!
「じつは第1話の収録が始まる前に、一度原作の最終話を声に出して読んでみたことがあったんです。アニメで最後まで描き切ることは決まっていたので、数年経って実際に最終回を迎えたとき、自分の声がどう変わっているのか知りたくて...!」
――へぇ~!おもしろい!実際、どんなふうに変わってたんですか?
「最初の声を録音していたわけではないから正確ではないけど、いざ最終話で声を出してみると、感覚的には自分の声がまったくの別物になっていて。それって、多分私が透くんとして、キャスト一人ひとりのキャラクターへの思いが満ちた現場にいたからなんですよね。最終話は、たとえ全員が揃わなくても、特別な感情が自然と声に乗っていくのを感じてました」
――なるほど...!石見さんが出す透の声一つとっても、けっして一人で出してるわけではないんですね。
「それをすごく感じました。キャラクターと同じだけの時間が思い出として積み重なっていたからこそ、すべての単語に『実感』を込めて言える。無理に想像を膨らませなくても、自然と気持ちが動く最終回でした。収録後には、音響監督さんや先輩方から連絡をいただいて、お互いに感謝を伝え合ったりして...最終シーズンはバラバラの収録でしたが、終わったあともしばらく涙が止まらなかった。それくらい、私にとってはアフレコがかけがえのない時間だったんだと感じたのを覚えています」
■透くんならこれを選ぶだろうな|「フルーツバスケット」本田透

(c)高屋奈月・白泉社/フルーツバスケット製作委員会
――あらためて、石見さんから見た本田透の魅力について教えてください。
「透くんは、『こんな風に生きられたらいいな』と心から思わせてくれる、やさしくて強い女性です。存在そのものが尊いというか...どんな人に対しても、どこまでもまっすぐに接するんです。彼女自身にも複雑な背景はありますが、大好きなお母さんからもらった言葉を大切に抱きしめて、たくましく生きている。その姿が、関わる人たちの心を動かしていくんだと思います」
――たしかに。透の言葉って、なんか不思議と記憶に残るんですよね。
「本当にそう思います。演じてから何年も経ちますが、心に残っている言葉がたくさんあるんです。例えば1st seasonで、人の素敵なところを梅干しに例えて『背中についているのかもしれません...』と話すシーン。自分では見えなくても、周りからは背中に張り付いた梅干しがちゃんと見えているんだよ、という言葉。あと、『人はやさしさを持って生まれて来ないんだよ。(中略)自分の中で育てていく心なんだ』という言葉...。そういうひとつひとつが、私自身の心にも深く響いてました」
――あらためて聞いてもいい言葉ですもんね。石見さんご自身と透には、共通する部分はありますか?
「彼女のように生きられたら素敵だなという憧れはありますが、実際にそう在り続けるのは、なかなか難しそうな気はします。ただ透くんを演じていると、私の母を思い出すことがよくありました。だれに対してもやさしく、温かく接する母の姿が、どこか透くんと重なる部分があって...。私自身ではないんですけど」
――お母さんと!どんなところが重なるんでしょうか?
「単なる『やさしさ』という言葉を使うのはちょっと違う気がしていて、それよりも人間的な温かさや愛の深さに近いのかな、と思います。それは私が、母からの愛を受けて育ったから、っていうのもあるんだと思いますが、透の言葉もそういう"愛"に近いのかなと思うんです」
――なるほど...!作品を通じて、石見さんの中で透の存在はどんなふうに変わっていきましたか?
「あらためて振り返ると、『透くんを演じるためにこの仕事に就いたのだとしたら、それでもいい』と思えるほど、私にとっては大きな存在になっていたんだと思います。ある意味、自分の人生よりも豊かに感じられる世界を、彼女に見せてもらった。こんなにも心を動かされ、愛おしさや苦しさを分かち合えたことは、何物にも代えがたい人生経験でした」
――「一緒に成長してきた」という感覚でしょうか?
「どちらかといえば、透くんに大切なことを『教えてもらった』というほうが近いかな。普段は、演じた役の感情が私生活まで影響することってあんまりないんですけど、透くんを演じていた時期は、心の中にずっと彼女がいました。何かを選択するときも『透くんならこれを選ぶだろうな』と自然に考えてしまう。そこは、何年もともに歩んだキャラクターだからこそ、たどり着いた場所なのかなと思います」
――それだけ特別な思い入れがあるキャラクターだったんですね。
「どの作品のどの役も大切に思ってますが、『フルバ』は出会えた時期やタイミングが本当に奇跡的でした。作品の中だけでなく、イベントで海外のファンの方々にお会いしたり、原作者の先生に温かく接していただいたり。作品に関するすべての出来事が、私の人生にとっては大きな糧になっていると思います。それがなかったら、いまの私はいないな、というくらい...」
――本当に素敵で、石見さんと透の絆の強さがうかがえるお話でした。最後に、もし石見さんに十二支の呪いを解く力があったら、だれの呪いを解いてあげたいですか?
「うーん...それは、みんなの背景が濃すぎて選べないなぁ(笑)。でも、物語では呪いは少しずつ解けていきましたよね!あの繋がりは、彼らにとって『呪い』であると同時に、ある種の『絆』でもあった。呪いが解ける瞬間に涙を流す描写があるように、単なる負の意味だけではなかったのが、この作品の深さであり難しさ。だからこそ、無理に解くのではなく、自然に解けていくあの形が一番だったんじゃないかな、と思います」

取材・文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉




